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山口社長が語る、日本IBMの“ニューノーマル”を踏まえたIT戦略とは?

オンラインイベント「Think Digital Japan」基調講演レポート

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は、5月22日午後3時から、オンラインイベント「Think Digital Japan」を開催した。

 5月5日、6日(米国東部時間)の2日間、オンラインで開催された「Think Digital Event Experience」のエッセンスを凝縮した内容として実施。顧客やパートナー企業など約4000人以上が事前登録した。

 Think Digital Japanでは、日本IBMの山口明夫社長が、「先進テクノロジーでけん引するニューノーマル」と題して講演。Think Digital Event Experienceで行われた米IBMのアービンド・クリシュナCEOや、米IBM社長のジム・ホワイトハースト社長の基調講演の内容に触れながら、新型コロナウイルスによって持たされている現在の危機が、ビジネスにとって大きな転換点を迎えていることや、いまこそ新たなソリューションや新しい働き方、新たなパートナーシップを創出する機会であることを示した。

 一方で、企業はデータセンターからネットワーク、端末までの一貫したオープンなITアーキテクチャによって、俊敏性や回復力、柔軟性を備える必要がある時代に入ってきたことなどをあらためて強調した。

 さらに新型コロナウイルス感染症への対策として、IBMでは、研究支援コンソーシアムを設立してスーパーコンピュータの資源を提供したり、特許を無償提供したり、遠隔診療支援の提供支援を行ったりしていることを示す。

新型コロナウイルス対策へのIBMの取り組み

 加えて、日本IBMでは4月1日にデジタル入社式を行ったことに触れ、「800人強の新入社員と、多くの社員や新入社員の家族、友人も参加することができ、タイムリーなコメントを多くもらいながら実施した。臨場感という点では、フェイストゥフェイスで行うのとは異なるものがあったが、入社式の最中も参加者から次々とメッセージが発信され、別の臨場感を持ちながらデジタル入社式を開催できた。これも新しい時代の新しい取り組みだと感じた」と述べた。

デジタル入社式

物事の優先順位や価値提供の方法が変わってくる――

 続けて山口社長は、講演のタイトルにも盛り込んだ「ニューノーマル」について話を進めた。

 「5年後、10年後、あるいはその先を実現するために、数年間かけて取り組んだり、それに向けて開発や仕組みを考えたりしていたものが、前倒しされ、突然、いま、数カ月で実現しなければならない状況になっている」と前置き。

 「前提が大きく変わったと考えたほうがいい。いままでのデジタル変革は、既存のプロセスやシステムのどれをデジタル化しようかと考えていたが、いまはすべてがデジタル化されることが前提となり、どうしても物理的に残さなくてはならないものはなにかということを逆に考えなくては、変革のスピードについていけない。これからの変化は、ひとつの企業や個人だけが行うものではなく、社会全体で一斉に取り組む必要がある」とする。

 また、「人の移動が減る一方、モノの移動が増え、データの移動が劇的に増えている。これによって、場所の壁や時間の壁がなくなることをしっかりと理解した上で、さまざまなものが変わることを予測し、先手、先手で手を打つ必要がある」と述べた。

「ニューノーマル」の世界と必要な対応

 ここでは、いつでもどこでも働ける環境が生まれ、育児や介護を行っている人にも、より多くの働く環境が提供されるようになってきたことを示し、「IBMの社員を対象に調査を行ったところ、8割近くの社員がリモート勤務でも生産性が変わらない、もしくはいままで以上に生産性が上がったと回答している。システム開発でも、オンサイト、ニアショア、オンショアという形でチームを組んでいたが、そうした概念もなくなるのではないか。日本IBMは、すべての開発をリモートにシフトし、オープンソースのツールを使って、効率をいままで以上に上げながら、お客さまととともに、新たなものを生み出せる仕組みに挑戦したい」と述べた。

 さらに、コミュニケーションの仕方がオンライン化した結果、会議中でチャットなどを利用した活発な意見交換が増えたことで生産性が向上したり、リーダーと社員と話をする機会が増えて距離が縮まったりしたという声もあるほか、学び方も個別受講が増加するといった変化が見られているとした。

 そして、「これまでのビジネスでは、現地、現物を大切にしてきたが、それも見直す時期に来ているのかもしれない」としながら、物事の優先順位が変わってくることや、製品やサービスの提供方法や、リモートを前提にしたビジネスモデルに変わって価値提供の方法が変わること、バーチャルの新たな環境のなかで成果を出すための新しいスキルが求められることを指摘した。

いま取り組まなくてはならない、7つの重要な項目

 また、「IBMが、世界中のお客さまの声を聞き、IBMの経験をもとに考えた結果、いま取り組まなくてはならない重要な項目がある」とし、7つの項目を示してみせた。

 これは、ハイブリッドクラウドやAIを最大限活用して迅速に取り組む、7つの重要な項目と位置づけるもので、「リモートワークの促進」、「顧客のバーチャルな接点の構築」、「事業継続性の強化」、「機敏性と効率化の促進」、「サイバーセキュリティリスクへの対処」、「コスト削減とサプライチェーン継続性の確保」、「医療や行政サービス現場への支援」の7つを挙げた。

 「新型コロナウイルスの感染拡大が終息したあとも、新たなやり方を継続し、より新たなワークライフスタイルを導き出す必要がある。そのためには、人事制度の見直し、環境の見直しが必要になる。例えば、これまでは『お客さまのところに訪問せずに営業ができるか』という考え方がベースにあったが、いまでは、お客さまもリモート環境で応対し、そこに経営幹部が出席し、こちらから提案を行うといったことが行われている。社員からも『問題なく提案ができた』という報告があった。これからは営業のやり方も変わっていくだろう」とする。

 また、「社内のすべてのシステムをリモートからアクセス可能にしたり、ハンコの問題を含めて、業務フローをバーチャルに対応したりといったことも考えなくてはいけない。自動化やAIを徹底的に活用して、効率、品質、セキュリティ、協業を加速できる運用モデルに見直す必要も出てくる。バーチャルを前提とした人材配置やオファリングの見直しをしていかなくてはならない。そして、サプライチェーンの見直す必要もある。このほか、今後のパンデミック発生への対応を想定し、行政や医療との連携が各企業にとって、これまで以上に大切なことになっている」とし、「経営者は、新たな課題を抱えて、新たな経営戦略の建て直しに迫られている。いまこそ、変化を起こすまたとない機会であり、新しい経営戦略の策定が必要である」と述べた。

 続けて、日本IBMの新たな取り組みについても説明した。

 5月19日に発表したデジタル変革パートナーシップ包括サービスは、「お客さまの戦略刷新に一緒に取り組むものになる」と位置づけるもので、ニューノーマルを見据えた戦略の実施、デジタル人材の育成、先端技術の目利き、既存システムと新規システムのさらなる進化、新たなワークスタイル確立、といった5つの重点強化領域を設定。

 「これだけ変化が激しく、テクノロジーの進化も著しく、スキル変化が重視されるなかで、なにが正しいのか、なにを優先すべきかを考えなくてはならない。これまでは、ユーザー企業がメーカーなどにシステム構築を依頼することも多かったが、劇的な変化のなかでは、各社のなかで人材を育て自らデジタル変革をリードしていくことが大切である。経営者や現場の人たちと一緒になって、これらを実現していくことになる」と語った。

新たなIBMの取り組み

 さらに日本IBMは、システムの構築、保守、運用の高度化に向けて、Watson AIOpsを年内に日本市場向けに提供すること、生産性を高めた次世代のリモート開発へのシフトを進めること、日本IBMデジタルサービスを発足し、業務を理解した体制での支援を行うこと、業種ごとのクラウドソリューションの提供を、2020年6月以降、順次行うことなどを示し、「中でも、Watson AIOpsは非常に期待しているソリューションであり、日本に早く展開することでお役に立ちたい。また、ニューノーマルの時代を見据えたコミュニティ活動の刷新やパートナープログラムの強化も行う」などと語っている。

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 今回のオンラインイベント「Think Digital Japan」は、さまざまな登壇者による講演が行われ、約2時間の内容となった。山口社長以外の講演については、別記事にて取り上げていく。

 なお、イベントの冒頭には、Think Digital Event Experienceで行われた米IBMのアービンド・クリシュナCEOの「The New Essential Technologies for Business /新しい時代のビジネスに求められるテクノロジー」と題した基調講演が、日本語字幕付で上映された。

米IBMのアービンド・クリシュナCEO
日本IBMでは、米IBMのクリシュナCEOの基調講演の内容をグラフィックレコーディングでまとめた