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テクノロジーとコンサルの2つの柱で日本企業をサポートする――、米IBM ロブ・トーマスSVP

 米IBM グローバル・マーケッツ担当シニアバイスプレジデント(SVP)のロブ・トーマス氏が来日し、メディア向け説明会を開催。今後10年のテクノロジートレンドが、AIとハイブリッドクラウドになることを示しながら、「新生IBMは、今後のテクノロジートレンドをとらえながら、テクノロジーとコンサルティングの2つの事業の柱をもとに、日本の企業をサポートしていく」と語った。

 また「日本は、IBMの事業戦略において重要なポジションにある。量子コンピュータを日本市場に早期に設置したことも、それを裏づけるものである。日本の企業がイノベーションのリーダーであり続けることを支援したい」などと述べた。

米IBM シニアバイスプレジデント グローバル・マーケッツ担当のロブ・トーマス氏

 IBMは2021年11月に、マネージドインフラストラクチャーサービス事業をKyndryl(キンドリル)として切り出し分社化(独立企業化)。新生IBMは、テクノロジーとコンサルティングを行う企業に位置づけられている。

 米IBMのトーマス シニアバイスプレジデントは、「新生IBMは、テクノロジーとコンサルティングを柱にした企業である。オープンなテクノロジープラットフォームを活用し、ハイブリッドクラウドやAI、自動化、量子コンピュータなどを提供することができる。また、コンサルティングではビジネスの専門知識を活用し、顧客と一緒になってビジネスを変革していく役割を担っている。分社化した結果、IBMもキンドリルも、お互いの得意分野に注力できている。スピンオフによる成果には満足している」と発言した。

 また、「これまでのITの関心事はコスト削減であったが、いまはITはコストではないとの考え方に変わり、競争優位を実現するためにはITは不可欠であるという認識が広がっている。実際、データやAIを積極的に活用する企業が成長を遂げている。だからこそIBMは、いまがテクノロジーに集中して投資をする好機であると考えた。かつては、トランザクション処理の分野で存在感を発揮してきたが、いまは未来の企業にとって必要不可欠となるAI、ハイブリッドクラウド、データドリブン、自動化、セキュリティ、量子コンピューティングといった領域に投資をする」としたほか、「アプリケーションの分野はやらない。ビジネスの中核部分で支援をする企業になる。これにより、IBMを再び成長軌道に乗せることができ、さらなる投資ができるようになる」と、IBMの戦略を説明した。

 その上で、「キンドリルはIBMにとって最大のパートナー企業であり、共同の顧客も多い。共同でサービスを提供できる強みは維持されている。今後も、キンドリルとの関係強化を進めていく」と語った。

 なお、米IBMのアーヴィンド・クリシュナCEOが就任して以降の2年間で、IBMは25社の買収を行ったという。「IBMが打ち出す戦略を全社員が理解し、そこにフォーカスしていること、新たな企業の買収などによってイノベーションに取り組んでいること、初心を忘れずに成長を遂げていくグロースマインドセットを持っていることが、いまのIBMの大きな特徴である」とした。

 さらに、「多彩なエコシステムパートナーとの協業も新生IBMの特徴のひとつになる。IBMはエコシステムに多くのリソースを投入している」とも語る。

 IBMでは、アクセンチュアなどが参加するグローバルシステムインテグレータ、SAPやSalesforceをはじめとする独立系ソフトウェアベンダー、バリューディストリビュータや付加価値リセラー、ハイブリッドクラウドを提供するためのハイパースケーラーなどとのパートナーシップのほか、日本の製造業や金融業などの企業とも連携した戦略的パートナーなどがあり、「新生IBMになったことで、これまで以上に多くのことを提供できるようになっている」とコメント。全世界で数万社のパートナーと提携し、ビジネスを展開していること、50万人のデベロッパーが課題解決に取り組んでいること、多彩なパートナーシップを通じて、ソリューションを従来比で4倍速く提供していることなどを示した。

 「これまで以上に多くのパートナーと協業をしたい。カスタマーサクセスマネジメントチームを編成し、価値を創出するテクノロジーを展開することができ、さらに、クラウドエンジニアリングチームも設置し、パートナーや顧客と共創を進める体制も整えた。パートナー企業には、興味を持った分野があれば、ぜひIBMのテクノロジーを試してほしいと考えている」と語った。

イノベーションを加速するパートナーシップ

 一方、今後10年間で最も重要なテクノロジートレンドが、「AI」と「ハイブリッドクラウド」になると指摘。企業が収集するデータの90%が未活用であったり、十分に活用しきれていなかったりすること、悪意があるセキュリティ侵害が40%増加していること、80%の企業がインテリジェントな自動化が業績向上につながると認識しているといったデータを示しながら、「データの活用や自動化、サイバーセキュリティへの対策では、AIを活用することで価値を生み出すことができ、課題も解決できる。日本の企業もAIを活用することで生産性を高めることができ、変革を推進できる」とした。

 また、76%の企業が2つ以上のクラウドを利用していることを示しながら、「ハイブリッドクラウドに対する需要はこれからも高まっていく。IBMはRed hat OpenShiftを活用することで、ハイブリッドクラウドの世界を実現している。OpenShiftはオープンなテクノロジーであり、誰でもアクセスし、利用できる。相互運用性、柔軟性、俊敏性を持ち、迅速な意思決定にも貢献できる」と述べた。

デジタルビジネスの新たな時代

 さらに、「テクノロジーが企業の競争力の源泉になっている。90%の企業が全社的なデジタル変革を推進しており、日本でも、多くの企業において、DXという言葉を使い、テクノロジーを活用して、革新的な企業になり、俊敏性や柔軟性を持つことが大切であると考えている」とし、「IBMは、ビジネスプロセスにおいても、意思決定においても、データに基づき結果を予測するデータ駆動型の提案を行い、それによって、企業を支援することに取り組んでいる」と発言。

 「自動化によって生産性を新たなレベルに移行すること、モダナイゼーションによる俊敏性とスピードの向上を実現すること、デジタルファーストの考え方を持ち込むことで、IBMは日本の企業を支援できる」などと述べた。

テクノロジーの活用が競争力の源泉に

 そのほか、サステナビリティへの取り組みについては、「IBMは、IBM Sustainability Softwareを発表しているほか、2022年1月にはデータ分析ソフトウェアのEnviziを買収し、関連するデータを収集、統合化するという点で、サステナビリティに貢献できるようになった。効率的なアセット管理と、ITのフットプリントを削減するテクノロジー、洞察を活用した持続的な運用が可能なサプライチェーンの実現を提案することができる。サステナビリティは大きな市場であり、そこに対して継続的な投資を行っていく」と語った。

 量子コンピュータに関しては、「収益を生み出すのは2025年以降になる。テクノロジーの進歩とともに、デベロッパーにアプリケーションを開発してもらう必要がある。IBMでは、ソフトウェア開発キットであるQiskitを提供しており、多くのデベロッパーが活用していることに自信を得ている。量子コンピュータを使いやすい環境として構築することが大切である。進捗には満足しているが、今後も学んでいくことは多い」と述べた。

 今回の説明会では、テクノロジーを活用したいくつかのユーザー事例を紹介した。

 ひとつめは独Lufthansa(ルフトハンザ)である。社内にデータサイエンスチームを編成し、各種データを組み合わせてAIで解析することで、年間10万人の旅行者に、モバイルアプリやウェブを利用した特別なデジタル体験を提供したという。「Watson Studioを活用し、データ駆動型のビジネスを実現しているのが特徴である。データに基づいた予測を行い、トラベルの体験を高度化している。データから価値を創造することはどんな企業でも行えることである。世界中の組織でデータサイエンティストの役割が重要になっている」と述べた。

 2つめは米T-Mobile。サイバーセキュリティの問題は多くの企業に共通した課題であるが、T-Mobileでは、障害が発生した際のアラートが頻繁に発せられる事象が起きており、そこにAIOpsと自動化技術を活用することで異常を検出して、問題が発生する前に対応。検出した300万件の潜在的な障害に対して、検知から処理までにかかっていた時間を5分から19秒に短縮したという。「人の作業だけでは実現できなかったものを、AIOpsと自動化によって解決した。これはマネージャーの仕事をAIが置き換えるものではない。AIはより多くの能力を与えることができ、人間に力添えすることができる。AIを使えないマネージャーが置き換わることになる」と指摘した。

ルフトハンザの事例
T-Mobileの事例

 3つめは米ロサンゼルス港での事例だ。サイバー攻撃に対して早期発見と対応が可能な最先端システムを導入。年間2760億ドルの貿易取引を円滑に推進することができているという。「サイバーインシデントを回避でき、港の効率化を図ることができ、サプライチェーン全体の改善にもつながった」とした。

 4つめが独Audiの事例である。オンプレミスのデータセンター環境から、ハイブリッドクラウド環境へと移行。「Red Hat OpenShiftの技術を利用することで、アプリケーションをモダン化し、分析ワークロードは100倍の高速化を実現した。また、サーバーの台数も66%削減できた。これはAIOpsによる成果である。インフラ環境を精査し、どこに改善の余地があるのかを浮き彫りにした結果、サーバーを減らすことができ、コスト削減も実現することができた。これはグリーンに対しても効果をもたらすことになった」と述べた。

ロサンゼルス港の事例
Audiの事例

 5つめが、フランス大手銀行であるCredit Mutuelの事例だ。AIを活用した自動化によって、顧客に対するサービスレベルを高めることができたという。5000支店で働く2万人のカスタマーアドバイザーが顧客からの質問に60%速く回答し、アドバイザーに届くメール件数は50%削減。「カスタマーアドバイザーの削減につなげるのではなく、顧客に対するサービスの向上に専念し、より複雑な課題にも対処できるようになった。AIが人間を補完する形で、より生産性を高め、より顧客満足度を高めることができた事例である」と説明している。

Credit Mutuelの事例

 なお、IBMでは、「Let's create」と呼ぶマーケティングキャンペーンを全世界で展開している。

 米IBMのトーマスシニアバイスプレジデントは、「多くの企業は、ITの導入において、テクノロジーを購入したり、システムインテグレータやコンサルティングファームを活用するといったことが多かったが、今後は、イノベーションを起こすためには自らが持つビジネス上の強みや専門性を生かしながら、パートナーと一緒にクリエイションをしたり、ソリューションを開発したりすることが大切になる。新たな共同作業がこれからは重要である。それを示すために、Let's createという言葉を使っている」と述べ、「日本のすべての企業、エコシステムに参加するパートナーとともに、共創しながら新たなイノベーションを生み出していきたい」と語った。