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富士通、企業・自治体向けにローカル5Gサービスを提供開始 パートナー企業との共創に向けた取り組みも強化

 富士通株式会社は8日、企業や自治体などを対象にしたローカル5Gサービスの提供を開始すると発表した。

 自営無線システムの円滑な導入と業務での活用に向けて、PoCや免許申請、電波測定、設計、構築、運用、保守までをワンストップで提供する「プライベートワイヤレスマネージドサービス」と、自営無線システムの通信機能および管理機能を月額で提供する「プライベートワイヤレスクラウドサービス」を用意した。

 またソリューション共創プログラムとして、「ローカル5Gパートナーシッププログラム」を開始するとともに、神奈川県川崎市に検証施設「FUJITSU コラボレーションラボ」を開設。富士通やパートナーが持つ業種ノウハウやテクノロジーを結集して、ローカル5Gを活用したDXの提案を加速する。

 同社では、2025年度末までに、ローカル5G関連ビジネスで累計売上高1000億円を目指す。

顧客の課題解決に向けた施策

部門の枠を超えて関連サービス強化を行う体制を整えた

 富士通は、国内初となる商用ローカル5Gの免許を2020年3月27日に取得。自社内で高精細映像を活用したセキュリティシステムなどの検証を重ね、ローカル5Gの活用を進めてきた経緯がある。

 2020年5月には「5G Vertical Service室」を新設。ネットワークビジネスの延長線上ではなく、デバイス、ネットワークインフラ、デジタルサービス、複合テクノロジー、業種ナレッジを統合し、あらゆる業種に向けたサービスとして提供するために、5Gに関する垂直統合型の組織として、部門の枠を超えて関連サービスの強化を行う体制を敷いている。

 富士通 執行役員常務 5G Vertical Service室担当の島津めぐみ氏は、「ローカル5Gは、2020年中に利活用範囲を広げるための仕組みや機能の実装が行われるほか、導入促進税制も普及の後押しすると期待されている。2022年以降に需要が本格化し、2025年の国内需要は3000億円に達する見通しである。また、グローバルでは3兆円の市場規模が見込まれている。さらに、ネットワークインフラを活用したソリューションサービスや、IoT機器などの関連デバイスの市場が大きく拡大すると見込まれているのが特徴である」とする。

富士通 執行役員常務 5G Vertical Service室担当の島津めぐみ氏

 2025年のソリューションサービスおよびIoT機器の国内需要は、インフラ需要の33倍に達するとの試算もある。

 すでにローカル5Gに関する問い合わせも増えており、9月末時点での同社への問い合わせ件数は、700件以上に達しているという。

 「あらゆる産業の顧客がローカル5Gに関心を寄せている。先行分野として導入が進んでいる製造業では、スマートファクトリーでの利用が想定されている。また、総務省をはじめとする各省庁、自治体などの実証事業の影響もあり、地域課題の解決や地域活性化への活用に関する問い合わせも増えている。問い合わせ内容は多岐に渡っており、基礎的な問い合わせから具体的な導入検討に向けた相談など幅広い」とする。

 勉強会開催の依頼や、自社の利活用検討の参考となる導入事例に関する問い合わせなどもあるという。

ローカル5Gを切り口とした問い合わせ状況

 だがその一方で、「顧客の声からいくつかの課題が見えてきた」と指摘する。

 「ネットワークの性能面の向上に関する情報だけでは、自社の業務におけるメリットやイメージの具体化が難しいこと。導入検討のフェーズに入っても、エリア調査や免許申請など、無線網やライセンスバンド特有の要件が複雑であり、そのノウハウがないこと。さらに、コストとのギャップがあり、スモールスタートが難しいことなどが挙げられる。ローカル5Gの利活用を加速させるためには、ローカル5Gの価値の訴求だけでなく、不安の払拭や利活用に向けたアプローチが重要である。今回の取り組みは、こうした課題を解決するものになる」とする。

ローカル5G利活用に向けた課題

2つの新サービスを提供

 今回発表したプライベートワイヤレスマネージドサービスは、富士通のワイヤレス環境であらかじめ技術検証を行うPoCから、基地局システムの免許申請や電波測定、設計および構築、運用、保守までのプロセスを、ワイヤレス技術の専門技術者によってワンストップで提供するサービスだ。

 富士通 執行役員常務 5G Vertical Service室の後藤知範室長は、「ローカル5Gなどの自営無線システムを導入するには、ワイヤレス技術に加えて、現場の多様なデバイスからデータを収集、処理するIoT技術など、高度な専門知識と、導入および運用に関するノウハウが求められる。プライベートワイヤレスマネージドサービスによって、ワイヤレス特有の導入や運用の課題を払拭できる」と語る。

 価格は個別見積もりとなっている。

プライベートワイヤレスマネージドサービス

 一方のプライベートワイヤレスクラウドサービスは、基地局やコアネットワーク、SIMによる通信機能と、その稼働状況の遠隔監視、障害発生時の一次対応などのサービス管理機能を月額サービスとして提供するものだ。

 「ローカル5Gや自営BWA(Broadband Wireless Access)などの自営無線システムの導入においては、必要な機能の選択や柔軟なリソースの配備、システムの拡張性が重要になる。プライベートワイヤレスクラウドサービスによって、初期導入コストを抑えたスモールスタートを実現することができ、ローカル5Gを活用したDXのチャレンジを拡張できる」とする。

 価格(税別)は、初期費用が100万円から、月額利用料が40万円から。

 なお、2020年度第4四半期に提供する予定の「4.7GHz帯スタンドアローン型5G基地局」も同サービスに対応させ、導入コストの最適化と柔軟な通信環境づくりを実現するとしている。

プライベートワイヤレスクラウドサービス
新制度対応ローカル5Gシステム

先端技術を持つパートナー企業との取り組みも強化

 一方、ローカル5Gパートナーシッププログラムは、幅広い業種の先端技術を持つパートナー企業とともに、ローカル5Gを活用した多種多様なユースケースの創出と、ソリューション開発を実施する取り組みと位置づける。

 具体的には、ローカル5Gネットワークとの接続性検証を行う「接続検証プログラム」と、パートナー企業と富士通の製品、サービス、先端技術を組み合わせて、ソリューションを共創する「ソリューション共創プログラム」を用意する。

 富士通 執行役員常務 5G Vertical Service室の後藤知範室長は、「ローカル5Gの普及は1社ではできない。利活用メリットを具体化し、体感するソリューションを、パートナー企業と共創するためのプログラムを用意した。センサー系デバイス、通信系デバイスを開発する企業、プラットフォームやアプリケーションを保有する企業とともに、バーチカルな価値創出に向けた挑戦を行うものになる。参加企業は、富士通が持つ業種ナレッジや顧客チャネルが活用でき、Win-Winとなる循環型の価値創出につなげたい」とした。

富士通 執行役員常務 5G Vertical Service室の後藤知範室長
ローカル5Gパートナーシッププログラム

 同プログラムには、アキュイティー、アットマークテクノ、アムニモ、キヤノンマーケティングジャパン、サイレックス・テクノロジー、シャープ、太陽誘電、トレンドマイクロ、日本マイクロソフト、富士通コネクテッドテクノロジーズ、マクニカ、村田機械、メタウォーター、YE DIGITALが参加。

 さらに、インテル、エリクソン・ジャパン、キーサイト・テクノロジー、クアルコムジャパンが、ローカル5Gテクノロジーパートナーとして、ローカル5Gを構成するコアネットワークや半導体などにおいて技術的支援を行う。

ローカル5Gパートナーシッププログラムパートナー

 「プログラムに参加している日本マイクロソフトとの共創では、製造業におけるリアルタイム可視化ソリューションに取り組んでいる。モノづくり現場の高精細映像と複数センサーから取得したデータを、富士通のローカル5Gネットワークと、マイクロソフトのAzure IoT EdgeおよびMicrosoft Azureを通じて、富士通のモノづくりデジタルプレイスであるCOLMINAと連携。リアルタイム可視化サービスとして、共同検証を実施している。2020年度中には、富士通小山工場での実践導入を予定している」という。

 また「ローカル5Gだけでなく、デバイスからアプリケーションまでを含めた垂直型の価値として提供する」とも述べた。

日本マイクロソフトとの取り組み

 なお同プログラムにおいて、パートナー企業の各種デバイスの接続や、ソリューション共創を実施するための検証施設として「FUJITSU コラボレーションラボ」を開設。ローカル5Gのネットワーク環境下で、顧客が抱える課題に対して、富士通のネットワーク技術や幅広い業種ノウハウの知見をもとに、パートナー企業の製品、サービス、先端技術を統合し、ローカル5Gを活用した顧客の業務革新や課題解決のための高度なソリューションを共創する場にするという。

 FUJITSU コラボレーションラボは、神奈川県川崎市の富士通新川崎テクノロジースクエア1階に開設。ローカル5G基地局、ローカル5G通信端末、インターネット接続環境、エッジコンピューティング用サーバー、各種計測器などの設備を利用できる。

 「ここに来れば、5Gに関する最新の設備が利用できるようになっている。ローカル5Gを活用したエッジクラウドソリューションをパートナーとともに共創する場になる」とする。

FUJITSU コラボレーションラボ

 すでに、大容量通信による高精細映像の安定伝送で、これまでのセンサーでは取得できなかった人の行動やモノの状態を、映像分析によるセンシングで認識できるソリューションや、ローカル5Gで伝送したカメラ映像をエッジコンピューティングで位置認識し、リモート制御で無人搬送車を走行させることも可能なソリューションの実証を行っている。

 「ニューノーマル時代に必要とされるデジタルツインによるリモート監視や自動制御などを検証でき、DXに貢献するソリューション開発を加速できる。パートナー企業にとってのメリットは大きい」としている。