特別企画

富士通、AIや5Gなど最新の研究開発成果を公開 DXを支えるテクノロジーに経営リソースを集中

 富士通株式会社は25日、2019年度の研究開発戦略を説明するイベントを開催。富士通研究所の研究開発方針を発表するとともに、同研究所などが取り組む研究成果の一端や、最新テクノロジーを活用した富士通の取り組みなどを公開した。

富士通研究所

DXを支えるテクノロジーに経営リソースを集中する

 富士通 代表取締役副社長 CTO 兼 富士通研究所 取締役会長の古田英範氏は、「富士通は自らがDX企業となることを宣言し、DXを通じて環境、社会、ビジネスへの好循環のインパクトを生み出していくことになる。当社はテクノロジーをベースとするDX企業であり、DXを支えるテクノロジーを開発する最先端基地となるのが富士通研究所。コンピューティング、AI、データ、クラウド、5G/ネットワーク、IoT、サイバーセキュリティの7つの重点領域にリソースを集中していくことになる」と語る。

富士通 代表取締役副社長 CTO 兼 富士通研究所 取締役会長の古田英範氏

 このうちコンピューティングについては、「社会課題の解決には性能向上と省電力化が必要である。富士通は、いまだに解けていない複雑な課題を最適リソースで解くコンピューティングを3年以内で実現していく」とコメント。

 AIでは、「説明責任や倫理が重視されており、2019年3月にAIコミットメントを発表した。説明可能で透明性、精度、品質を備え、社会から信頼され、成長するAIを提供する」と説明した。

 さらに、「データでは、データ駆動型社会におけるデジタルネイティブな高信頼性データマネジメントを実現。クラウドでは、DXを加速するマネージドサービスの自動化と、クラウドネイティブ開発を加速し、クラウドベンダーとの連携を視野に入れながら進めていく。そして5G/ネットワークでは、多様化するデータやアプリを意識せずにつなぎ、一人ひとりに価値を提供するネットワークを実現する」と、3つの分野についてコメントした。特にネットワーク分野では、エリクソンとの戦略的パートナーシップを推進していると説明している。

 このほかIoTとセキュリティについては、「IoTでは、2020年には全世界で800億個のデバイスがネットワークにつながる。これを最大限に利用するために、大規模データやアプリを処理し、UXおよびCXを向上するリアルタイムデジタルツインに取り組む。そしてサイバーセキュリティでは、技術革新によって生じる多様なデジタルリスクから、セキュリティライフサイクル全体を防護することができる」とする。

 そして、これらの総括として、「富士通は、既存IT領域での強みをさらに磨き、新たなDX領域への成長を加速させるとともに、スピード感があるテクノロジーの育成に取り組む。ビジネス成長が見込める領域を見極めて投資をしていく。富士通研究所の役割も、デジタルビジネスにどう貢献するかという形に変わっていくなかで、DXを支えるテクノロジーに経営リソースを集中する」と述べた。

 現在、富士通研究所の陣容は国内が900人、海外は200人となっており、古田氏は、「ほとんどがソフトウェア開発者であり、富士通研究所の90%以上がDX人材である」とした。
 2018年度の研究開発投資は1800億円強、2019年度は1300億円。「2019年度はユビキタスプロダクトなどが対象外となっているため減少しているが、売り上げに対する研究開発投資比率には変化がない」とした。

3つの観点から富士通研究所の取り組みを説明

 一方、富士通研究所 代表取締役社長の原裕貴氏は、デジタル時代のトラストを実現する先端テクノロジーを研究開発し、提供していく「Make.Trust」、世界トップのデジタルテクノロジーを生み出す「Lead.Digital」、グローバルで屈指の研究所を目指す「Act.Global」の3点から、富士通研究所の取り組みを説明した。

富士通研究所 代表取締役社長の原裕貴氏

 「Make.Trust」では、ユーザー自身がID情報の流通をコントロールできるプラットフォームとして「IDYX」を提供していることや、ブロックチェーンを用いた安心、安全なデータ流通を行う「Virtuora DX」の開発事例を挙げたほか、データ来歴管理の「Chain Data Lineage」、デジタルツインIoT基盤「Dracena」などの最先端データ管理技術を紹介した。

 さらに、AI4Peopleと連携するとともに、欧州委員会のAI倫理ガイドラインをベースに、富士通グループAIコミットメントを制定したこと、富士通グループAI倫理外部委員会を設置し、すでに第1回会合を開催したことなどを報告。「AIコミットメントで示したのはシンプルな内容だが、AIに取り組む上では意識しなくてはならないことばかりである。企業の社会的責任として、AIの透明性と説明責任を重視する」などと述べた。

 「Lead.Digital」では、DXを支える重点7領域にリソースを集中することをあらためて強調。「富士通は世界最先端のコンピューティング技術を有していると自負している。ディープラーニングでは独自の高速化技術によって世界最高速を実現しているほか、デジタルアニーラは『組合せ最適化問題』を高速に解くことができ、PeptiDreamと創薬分野で共同研究を開始して、新薬の有望候補を従来の10倍速で発見することが実証された。また、新たに発表するコンテンツ・アウェア・コンピューティングは、10倍の高速性と使いやすさを両立する、世界初の技術となる」とする。

 加えて、富士通が国内におけるAI特許出願数が2位であること、Wide Learningをはじめとする「XAI(Explainable AI)」と呼ぶ、説明可能なAIをいち早く実用化した技術群を有していること、AI品質における品質問題に着目した世界初の技術群を開発していることに言及。「AI品質においては、データの選別から性能監視や再学習まで幅広く課題を把握して研究開発を推進している」と語った。

 「Act.Global」では、富士通の研究開発拠点が、日本のほか、欧州、中国、米国の4拠点体制としていることを紹介。「いまはそれぞれに規模も違うが、将来は対等な立場になることを目指す」とした。

 このほか、「オープンイノベーションを加速しており、挑戦する領域において世界で最も優れたパートナーと組んでいる。さらに高度専門職人材の拡充に向けては、独自のインセンティブの設定などにより、世界トップの研究者を獲得するなど、研究所ならではの人材戦略を実行していく。すでに暗号技術、暗号符号化技術、AIシミュレーション技術、文字認識技術では世界トップの研究者が在籍しているが、近く新たな人材を発表できるだろう」とした。

 なお、日本を代表する独創的な若手研究者育成のためのプログラムとして知られる「JST ACT-X」において、民間企業から唯一、富士通研究所の若手研究者3人が採択されたことを例に挙げながら、「優秀な若手研究者の育成にも力を注いでいる」とした。

 Googleが発表した新たな量子コンピュータの技術については、「量子コンピュータのノイズが減らすことができ、それによって性能を高める技術であり、その点は評価しているが、従来の延長線上の革新であるととらえている。また、利用領域が特化したものであり、汎用的な問題が解けるわけではない」などとした。