特集

富士通、ローカル5G実証環境「FUJITSUコラボレーションラボ」を公開
映像伝送、バーチャルストアなどさまざまなソリューションのデモを実施

 富士通株式会社は9日、ローカル5Gビジネスへの取り組みについて、富士通新川崎テクノロジースクエアのローカル5G実証環境「FUJITSUコラボレーションラボ」にて、報道関係者向けに説明とデモを行った。

 パートナー企業との共創活動によるローカル5Gを使った産業ソリューションが、すでに商用化されているものも含めて紹介された。特に、映像技術や画像認識技術と5Gを組み合わせた例が多く取り上げられた。

富士通新川崎テクノロジースクエア
FUJITSUコラボレーションラボ

リアルとデジタルを5Gでつなぐ産業向けサービスを提供

 富士通の取り組み全体については、富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 事業部長 森大樹氏が説明した。

 森氏は、未来のビジョンとして時間や場所にとらわれない「ボーダレス・ワールド」を掲げ、それを実現するためには、xR・メタバースやデジタルツインによる「リアルとデジタルの融合」と、それをつなげるネットワークである「ヒューマンセントリック・ネットワーク」が必要であると語った。

 後者のネットワークの1つが5Gであり、「人間であれば神経網や血管に相当する」と森氏。そして、この2つのテクノロジーを基盤にVertical Service(業種別サービス)を提供していくとした。

富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 事業部長 森大樹氏
「ボーダレス・ワールド」を実現するための「リアルとデジタルの融合」と「ヒューマンセントリック・ネットワーク」

 その中で森氏は、富士通の“現在地”を紹介。「人のエンパワーメント」として、「未来の働き方」「尊厳ある生きかた」「つながりあう体験」の3つを挙げた。

 「未来の働き方」の例としては、オフィスより現場のデジタル化として、住友商事・東急電鉄との「線路点検・ドアの閉扉」、西松建設との「建設機械の遠隔操作」、富士通社内工場の「遠隔コミュニケーション」、先端技術研究の「映像による高精度位置測位」を森氏は紹介した。

 このうち最後の「映像による高精度位置測位」は、映像と5Gのエッジコンピューティング経由で、屋内でも高精度の位置測位を実現するものだ。この技術については、デモの模様をまじえて後述する。

「未来の働き方」のソリューション
未来の働き方:映像による高精度位置測位

 「尊厳ある生きかた」の例としては、関西学院大学との「院内学級での遠隔教育」や、福岡県田川市との「パラスポーツのリモートコーチング」を森氏は紹介した。

「尊厳ある生きかた」のソリューション

 「つながりあう体験」の例としては、ミクシイとの「臨場感ある映像配信」や、KDDIとの「新しいコミュニケーション体験」を森氏は紹介した。

 このうち後者のKDDIとの取り組みは、xR技術のメタバースでリアル世界を融合するものだ。この技術についても、デモの模様をまじえて後述する。

「つながりあう体験」のソリューション
つながりあう体験:KDDIとのメタバースへの取り組み

コラボレーションによる産業向けローカル5Gソリューションを紹介

 FUJITSUコラボレーションラボでのパートナー企業との共創活動の事例は、富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野知行氏が紹介した。

 ここでは、上野氏の説明に、FUJITSUコラボレーションラボでの説明やデモの模様もまじえて紹介する。

富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野知行氏

 富士通は2020年10月より、「ローカル5Gパートナーシッププログラム」の正式活動を開始した。これには「接続検証プログラム」と「ソリューション共創プログラム」の2種類があり、後者では現在30社のパートナーと共創中だ。

 その場がFUJITSUコラボレーションラボで、2020年3月に商用ローカル5G無線局免許を取得した際に開設した。2021年12月には、従来のエリアを「ラボ1」として、新たに「ラボ2」を増設した。ここに5G/ローカル5G、映像AI、エッジ&クラウドの技術者などが常時在籍している。

ローカル5Gパートナーシッププログラム
ソリューション共創プログラムに参加するパートナー30社
FUJITSUコラボレーションラボ。ラボ1とラボ2の2エリアからなる

ミリ波NSA、Sub6 SA、キャリア5G、エッジコンピューティングを完備

 ラボ内では、ローカル5Gが3システム動いている。ミリ波によるNSA(Non Stand Alone)と、Sub6波によるSA(Stand Alone)、そしてローカル5Gの設備をパッケージ化したスターターキットだ。

 これに加えて、ドコモのキャリア5Gのアンテナも設置されている。

 ラックには、5G SAのソフトウェア基地局や5G NSAのシステムに加えて、5G基地局の直近でアプリケーションを動かすエッジサーバーが動いている。

ラボ内の5G設備の紹介
ローカル5Gの屋外アンテナ(ラボ1内)。下の箱状のものがSub6のSA、上の箱状のものがミリ波のNSA、その上がLTEアンカーバンド
ローカル5Gの屋内アンテナ(ラボ2内)
キャリア5Gのアンテナ(ラボ1内)
左が5G基地局のラック、右がエッジコンピューティングのラック
5G基地局のラック。上のほうがSAのソフトウェア基地局、下のほうがNSAシステム
エッジコンピューティングのラック

 接続検証プログラムで確認済みの接続デバイスとして、モバイルルータや、ノートPC、AIカメラ、スマートフォン、USBドングルが挙げられており、ラボにも置かれている。このほかに検証中のものもあるという。

接続検証プログラムで確認済みのローカル5G接続デバイス

QRコードも読める4K高精細映像の伝送

 活動事例の1つめは、まず富士通による映像伝送技術×ローカル5Gだ。初期からの取り組みで、高精細な4K映像を現場からローカル5Gで超低遅延で伝送するというもの。

 デモでは、十数メートル離れたところに置かれた段ボール箱を4Kカメラで撮影し、高精細映像を5Gモバイルルータで送り、QRコードも処理可能な精細さで見えるところが示された。

富士通による映像伝送技術×ローカル5G
4Kカメラと5Gモバイルルータ
十数メートル離れたところに置かれた段ボール箱
ローカル5G回線経由で表示。QRコードも読める

4K高精細映像から人を検出して密を検知

 2つめの活動事例は、この4K高精細映像にAIを組み合わせた、Acuity社との映像AI技術×ローカル5Gだ。

 デモでは、広角カメラの映像をリアルタイムで分析し、人物を検出して、密になっているかどうかを色を示した。

Acuity社との映像AI技術×ローカル5Gの事例
頭上の広角カメラで撮影
人物をリアルタイムで検出して色枠をつけ、密になっていれば紫枠で表示

分析結果をAzure IoT EdgeとCOLMINAでリアルタイム可視化

 3つめの活動事例は、こうしたデータをクラウドに送って可視化する、日本マイクロソフトとのエッジ&クラウド×ローカル5Gだ。これはすでに商用サービス化しているという。

 デモでは、上で紹介した画像分析のデータをAzure IoT Edgeに送り、富士通のCOLMINAのダッシュボードで分析や可視化するところを見せた。

日本マイクロソフトとのエッジ&クラウド×ローカル5G
3種類のモデルで商用サービス化
クラウドで可視化や分析

SIMでプログラムを動かして不正な端末への付けかえを防止

 4つめの活動事例は、企業で用意したローカル5G SIMが不正な端末に付け替えられないようにする、トレンドマイクロとのセキュリティ×ローカル5G。

 これは、特別なSIMカードの中でJavaアプレットが動作するようになっている。これにより、端末のIDであるIMEIと、SIMのIDであるIMSIを照合し、不正な組み合わせであればアラートや遮断などを行う。

トレンドマイクロとのセキュリティ×ローカル5G
SIMカードの中でJavaアプレットが動作
端末のID(IMEI)とSIMのID(IMSI)の組み合わせを照合し、不正な組み合わせを検出して対処

映像測位によりミリ単位の位置を把握、フォークリフトの自動制御にも応用

 5つめの活用事例は、映像技術によりミリ単位の位置測定を実現するAcuity社のAIセンシング×富士通の映像測位技術×ローカル5Gだ。

 デモは2種類行われた。1つめは、机上に置かれたARマーカーを頭上の高精細カメラで写して、ミリ単位の位置を表示するもの。もう1つのデモはその応用例で、AGV(無人搬送車、ここではフォークリフト)の上にARマーカーを付けて頭上のカメラから認識し、映像測位技術により制御するものだ。通常のAGFでは床に張った磁気テープに沿って動くだけだが、この技術により任意の場所に動けるという。

 デモでは、AGVが机のところまで進んで、積んだ箱をほぼ同じ幅の机の上に置くところをデモした。さらに、同じカメラで人間の位置も認識し、人が近づくと止まるところも見せた。

Acuity社のAIセンシング×富士通の映像測位技術×ローカル5G
2つのデモの説明
机上に置かれたARマーカーを頭上の高精細カメラで写して、ミリ単位の位置を表示
AGVが机のところまで進んで、積んでいた箱をほぼ同じ幅の机の上に置くデモ
AGVと人の位置を認識し、人が近づくと止まる

リアル店舗での動きが同期するバーチャルストア、スマートフォンやVRでのリモート入店も

 6つめの活用事例は、KDDIとの、リアルとバーチャルを融合したB2B2Xサービスだ。

 デモでは、5Gを活用したメタバース空間でのバーチャルストアが紹介された。

 実店舗にいる人が、映像分析の技術により、実店舗に一対一対応するバーチャルな店舗にも、そのままアバターがリアルタイムで表示される。また、リモートからアクセスする人は、バーチャルな店舗にアバターのみで入門できる。

 リモートからアクセスする人も、スマートフォンアプリから店内を散策したり、商品の情報を表示したり、購入したりできる。また、リアル店舗にいる人とリモートにいる人がスマートフォンアプリで会話できるため、例えばリモートではわからない香りなどを聞いたりできるという。

 スマートフォンアプリのほか、VRゴーグルにも対応しており、商品を手にとって見ることなども可能だ。

KDDIとの、リアルとバーチャルを融合したB2B2Xサービス
リアルとバーチャルを結んだバーチャルストア
実店舗にいる人のアバターがバーチャルストアにリアルタイムに表示される
実店舗にいる人を映像で検知するためのカメラ
リモートで参加した人は、名前の前に電波アイコンが付く
スマートフォンアプリからリモートでアクセスしているところ
スマートフォンアプリから商品情報を見たり購入したりできる
VRゴーグルでバーチャルストアに入る
VRでバーチャルストアの商品を手にとる