ニュース

NEC、研究所の技術をシリコンバレーで迅速に展開する新会社「NEC X」設立

 日本電気株式会社(以下、NEC)は20日、社内の研究所で開発した技術をいち早く事業化することを目指し、シリコンバレーに新会社「NEC X」を設立すると発表した。

 日本企業がシリコンバレーに拠点を置くことは珍しくはないが、「NEC Xのビジネスモデルは、通常の日本企業のシリコンバレー拠点とは逆。新しい技術を探すのではなく、NECが研究所で開発した技術を使って事業を展開するアクセラレーター、ベンチャーキャピタルを募る」(NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当の藤川修氏)とのことで、NECで開発した技術を、NEC以外で事業化することを目指す。

NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当の藤川修氏

 これまで研究所などで開発された技術は、NEC内部での事業化が前提だった。このために、「事業化までにかかる時間が5年程度かかり、事業化した時点では競争力がないものとなることが多かった」と、分析。事業化までの時間を短縮するため、製品化される前にシリコンバレーで技術を公開し、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルなどとともに新会社設立を進める。この新規事業を行うのが、新会社のNEC Xだ。

NEC Xでの取り組み

 なおNECのシリコンバレーでの事業展開としては、データ分析プロセスを自動化する新会社dotData設立を2018年4月に発表し、NEC主席研究員である藤巻遼平氏がCEOに就任している。

 NEC Xはそれに続く第2弾で、2022年にはあわせて事業価値1000億円を目指すとした。

シリコンバレーのエコシステムの一角として定着させることを目指す

 NEC Xは、本社をカリフォルニア州サンタクララに置き、7月2日に設立予定。NECの藤川執行役員が代表に就任する。Xを社名につけたのは、新しい事業を加速するアクセラレーターとしての意味と、グローバルでクロスオーバー市場を目指す意味、複数の事業の技術とノウハウを掛け合わせて授業を行うクロスの意味、といった主に3つの意味を持つという。

3つの意味を持つ「X」

 シリコンバレーに拠点を置くことで、新規ビジネスを立ち上げるアイデアや資金を持ったアントレプレナー、ベンチャーキャピタリストなどと連携し、有力なベンチャー企業・ユニコーンを生み出す、シリコンバレーのエコシステムの一角として定着させることを目指す。

 内部で事業化する際に、事業化まで5年程度かかっていたのに対し、NEC Xではタイミングを逃さないために、1年でビジネスモデル仮説検証から、ビジネスプラン検証、事業化までを行うことを想定している。従来とは異なるスピードで技術を事業にすることにより、これまではビジネスのタイミングを逃していた技術を迅速に事業化する。

NEC Xが目指すこと
NECアクセラレータープログラム

 さらに、Google、Amazon、Microsoftといった北米の企業は、日本を大きく上回る研究開発費を投入し、新事業開発に取り組んでいる。NECではNEC Xの事業モデルによって、資金調達がしやすい環境を作るとのこと。

 また、dotDataのCEOとなった藤巻氏が30歳代で役員と同等の待遇になったように、IPOが実現した際のキャピタルゲインなど、技術者にとって魅力ある組織とすることで、人材確保につなげていくことも狙いとなっている。

 提供するNECの技術については、「すでに事業で活用している技術を公開することは難しいが、それ以外の技術についてはすべて公開していきたい。果たして、NECの技術に需要があるのか?という声があるかもしれないが、海外で評価されている新技術と、NEC自身の技術とを細かくチェックした結果、実はかぶっていたものも多かった」(NEC中央研究所担当の執行役員 西原基夫氏)とのことで、海外にひけをとらない技術を持つことをアピールしていた。

 なお研究所は、日本の中央研究所に加え、欧州研究所、中国研究院、シンガポール研究所、北米研究所、そして6月18日に設立したインド研究所と、全世界6か所の研究拠点を持っている。

 「900人の人員が活動し、AI、セキュリティ、ICTプラットフォームなど需要の高い領域に取り組んでいる。オープンイノベーションの拡大も進めており、世界で先進的なパートナーと先進技術の開発、オープンイノベーション実現を進めている」(西原氏)。

NEC中央研究所担当の執行役員 西原基夫氏
グローバルの研究開発体制
研究所が生み出すエマージングな技術領域の例
オープンイノベーションを推進

 今回、シリコンバレーで事業を進めるために、大学で教鞭(きょうべん)をとった経験やスタートアップ企業での経営者としての経験、GE、Microsoftといった大企業での勤務経験を持つPG・マドハヴァン氏をメンバーとして迎えた。マドハヴァン氏は、「今回のオファーは、大学で教えた経験、スタートアップでの経験、大企業での経験という、3つのキャリアでの経験・ノウハウを生かせるものだった。自分のキャリアが生かせる素晴らしい経験だと考え、今回のオファーを承諾した」と話す。

NEC ビジネスイノベーションユニット エグゼクティブ・データ・エバンジェリストのPG・マドハヴァン氏

 また、すでにシリコンバレーのアクセラレーターであるシンギュラリティ大学と連携することが決定している。シンギュラリティ大学は、シリコンバレーのNASAリサーチパーク内に本部を持つベネフィット・コーポレーション(米国の企業形態の1つ)で、技術を使って食料、水資源といった社会課題を解決することに取り組んでいる。

 こうした有名なアクセラレーターとの連携などを行うことは、シリコンバレーでビジネスを行っていく上での宣伝効果があるとして、今後のシリコンバレーの事業を加速させていく。