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NEC X、捜索・救助支援ソリューションを提供するスタートアップ企業を米国で設立

 日本電気株式会社(以下、NEC)の子会社で、新事業の創出を推進する米NEC X,Inc.(以下、NEC X)は19日、ドローンを使った捜索・救助支援ソリューションを提供するスタートアップ企業「Flyhound Corporation」(以下、Flyhound)を設立したと発表した。

 NEC Xは、2018年7月に米国シリコンバレーで立ち上げた企業。NEC X プレジデント 兼 CEOの井原成人氏によると、同社は「シリコンバレーのエコシステムを活用し、NECの最先端テクノロジーを核とした事業化を推進している」という。

NEC X プレジデント 兼 CEO 井原成人氏

 NEC Xでは新事業創出プログラムとして、ビジネスとテクノロジーに精通した客員起業家(EIR:Entrepreneur In Residence)に技術や研究者を紹介し、EIRがビジネスアイデアを提案する手法を採っている。

 今回設立したFlyhoundは、NEC欧州研究所が開発した技術と事業仮説がNEC Xに持ち込まれ、EIRを探索するところから始まった。EIRの決定後、Flyhoundチームは公的機関を含むさまざまな組織にアプローチして顧客インタビューを実施。ニーズを明確にした上でプロダクトの開発に取り組み、複数の公的機関と実証実験を行った。その結果、有効性が評価され、事業化に至ったという。

 Flyhoundのソリューションは、NEC欧州研究所が開発した「SARDO」というAI対応ドローン技術を活用し、ドローンで携帯電話の電波を検出、山や被災地などでの行方不明者の位置をすばやく特定するもの。また、捜索エリアのデジタル地図上で不明者をリアルタイムに表示し、捜索にかかる時間を短縮するとした。

Flyhoundのソリューション

 米FlyhoundのCEO 兼 共同創業者、マニー・セルニリア(Manny Cerniglia)氏は、「行方不明者の捜索は時間との戦いとなる。当社のミッションは、人命救助という重要な任務で公的機関を支援し、行方不明者を迅速に見つけることだ」と語る。

Flyhound CEO 兼 共同創業者 マニー・セルニリア(Manny Cerniglia)氏

 「行方不明者を救助するには、多大な時間と人的リソースが必要だが、Flyhoundのテクノロジーを活用すれば、1台のドローンのオペレーターだけで、数分以内にカメラよりも素早く人を識別し、位置情報を得ることができる。例えば、自然災害の被害を受けた家屋でも、モバイルデバイスを持った被災者がいれば、高度な精度でその場所を特定し救助が可能だ」とセルニリア氏は言う。

 同ソリューションは、アクティブな携帯電話ネットワークの信号を必要としないため、携帯電話ネットワークインフラが利用できない遠隔地や災害地域での使用も可能。また、赤外線カメラを搭載した既存の捜索救助用ドローンとは異なり、樹木や葉、建物などで視界が遮られた場合でも位置を特定できるため、地震や洪水による瓦礫が散在するような環境下でも被災者や行方不明者の居場所を予測できるという。

 Flyhoundではまず、公共安全および公共捜査機関向けに、レスキュー・アズ・ア・サービスのサブスクリプションとしてソリューションを提供する。その後、適用範囲の拡大を目指す。

 想定されるユースケースについてセルニリア氏は、「自然災害などの行方不明者だけでなく、高齢者や子どもの捜索に役立つことも考えられる。また、犯罪者の捜索にも協力できるだろう。現在警察当局は、通信事業者と連携することで、半径1500メートルの範囲で犯罪者を捜索できているが、Flyhoundを活用すれば半径50メートルの精度での捜索が可能だ。しかも情報はリアルタイムに更新される」と語る。

 このほか、エンタープライズ分野でも、「建設現場や鉱山における位置情報の活用や、センサーデータの追跡などが有用なユースケースとして考えられる」としている。

Flyhoundソリューションのユースケース

 日本への進出も視野に入れており、「法規制などが米国と異なることから、NECと協力した上で日本でのサービス展開を実現したい」とした。

 NEC Xの井原氏によると、FlyhoundはNEC Xのプログラムを通じて立ち上げた9件目の新事業。さらにもう1件、今年度中に事業化を見込んでいるという。今後の目標について井原氏は、「2025年度に向け、最低でもあと10件、累計で20件以上の事業化を目指し、当社のモデルを通じて社会価値の創造につなげたい」と述べた。

NEC Xで取り扱ったプロジェクト件数と事業化件数
2025年度に向けたNEC Xの目標