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ネットアップが年次イベント「NetApp INSIGHT Japan」開催、統合データ管理ツール「NetApp BlueXP」を国内でお披露目
NetApp SVP Cloud StrategyのRonen Schwartz氏へのインタビューも
2023年1月31日 06:15
米NetAppの日本法人であるネットアップ合同会社は、年次イベント「NetApp INSIGHT Japan」を1月25日に都内で開催した。3年ぶりのリアル開催となる。また、今年2023年は日本法人25周年にもあたる。
NetAppはエンタープライズストレージ機器で知られるが、そこからデータ管理に製品ポートフォリオを広げ、近年ではクラウドにも注力。パブリッククラウド上でNetAppのストレージOSのONTAPを使ったファイルサーバーサービスも展開している。
今回のNetApp INSIGHT Japanでも、クラウドソリューションを中心に、オンプレミスのストレージも含めたハイブリッドマルチクラウドを前面に出していた。中でも、11月のグローバルイベント「NetApp INSIGHT」で発表されたハイブリッドマルチクラウド対応の統合データ管理ツール「NetApp BlueXP」は、国内で初の披露となった。
この記事では基調講演から、NetApp Inc. CEOのGeorge Kurian氏の講演と、同社 SVP Cloud StrategyのRonen Schwartz氏の講演、そしてBlueXPのデモを含む、ネットアップ合同会社 代表執行社長の中島シハブ氏の講演の模様をレポートする。
また、Schwartz氏と、ネットアップ合同会社 常務執行役員CTOの近藤正孝氏にインタビューした内容もレポートする。
「クラウド導入の初期段階は終わり、進化したクラウドへ」
Kurian氏は「企業のクラウドジャーニーの初期段階は終わっている」として、次に求められるのは「進化したクラウド(The evolved cloud)」だと語った。
クラウド導入の初期段階の結果、生まれた課題が、「無秩序に広がるクラウド」「データとアプリのサイロ」「セキュリティリスクの増大」の3つだとKurian氏は言う。
それに対して次の段階では、ハイブリッドマルチクラウドのうえで、自社データセンターと相互運用性を確保し、アプリケーションやデータの一貫性が担保され、共通の管理や共通のAPIが使えるものが求められるとKurian氏。さらに、セキュアでコスト効率に優れることも必要となる。
こうした進化したクラウドの要件として、Kurian氏は「データ管理とセキュリティ」「イノベーションとスピード」「簡単な運用」「サステナビリティ」の4つを挙げ、NetAppの優位性を主張した。
まず「データ管理とセキュリティ」としては、現代のデータ管理では、複数のクラウドにデータが置かれたり、1つのクラウドの中で可用性の構成が組まれていたりと、複雑になっていると指摘。これに対してNetAppのONTAPでは、複数のクラウドでのデータを、一貫性を持って管理できるとした。
「イノベーションとスピード」では、「小売業でも官公庁のサービスでも、イノベーションはデータからやってくる」とKurian氏。そして、NetAppはKubernetesなどのクラウドネイティブ技術にも投資して、顧客のビジネスにおけるイノベーションを加速すると語った。
「簡単な運用」では、アプリケーションのライフサイクルは開発だけでなく、本番運用の期間の方が長いと説明。そのうえで、マルチクラウドでのデータ管理を効率化するNetAppプラットフォームにより、アプリケーションとデータを組み合わせることができると語った。
最後の「サステナビリティ」では、NetAppのコスト効率を訴え、それによる環境へのインパクトの軽減をKurian氏は主張した。要素技術としては、使用頻度の低いデータをデータセンターからパブリッククラウドに移すデータ管理や、データ使用を効率化するCloud Insightsを紹介。さらに、SANのフラッシュストレージ製品において競合他社製品と比較して4:1のストレージ効率や、パブリッククラウドとのデータ階層化をNetAppの強みとして挙げ、コスト最適化やCO2削減を実現すると語った。
オンプレミス、クラウド、データ管理の製品戦略を紹介
NetAppのSchwartz氏(SVP Cloud Strategy)も、「進化したクラウド」の言葉を使い、アプリケーションやデータがクラウドに移る中で、マルチクラウド化やサイロ化による課題を解決する包括的なハイブリッドマルチクラウド環境が求められる時代になっていると説明。「NetAppは進化したクラウドでデータを活用できるようにする」と語った。
そのうえでNetAppの製品ポートフォリオと製品戦略を、「エンタープライズストレージ製品」「パブリッククラウドのネイティブサービス」「データサービスのスタック拡大」「統合プラットフォーム」の4つに分けて紹介した。
まず「エンタープライズストレージ」の分野では、同社のコアビジネスといえるストレージOSのONTAPをSchwartz氏は取り上げた。
その中でも、2022年10月にリリースされたONTAP v9.12.1が持つ機能のうち、特徴的な2点が紹介された。1つは、改ざん防止スナップショットのSnapLockで、鍵を持った攻撃者が来てもデータを変更・削除できない保存領域を作る機能だ。
もう1つは「統一されたストレージOS」で、同じデータにNASとS3の両方のプロトコルでアクセスできるようにするものである。AI/MLなどの用途を想定しており、例えば膨大なデータを学習してモデルを作るにはNASのプロトコルで、データを利用するにはS3のプロトコルで、と使い分けつつ、1カ所で提供することにより、それぞれの間でコピーする必要をなくしているという。
またエンタープライズストレージ分野における、大手金融機関の事例をSchwartz氏は紹介した。膨大なデータをAI/MLなどで活用するためにNetAppを選び、オンプレミスとパブリッククラウドにわたるハイブリッド環境を構築したという。
「クラウド」の分野では、現在、ほぼすべての組織がパブリッククラウドを利用し、さらにオンプレミスとのハイブリッドクラウドがデファクトになっているとSchwartz氏は言及し、「そこでデータを活用するにはNetApp」と語った。
NetAppソリューションとしては、ハイブリッドマルチラウドに対応した管理プラットフォームや、コンテナプラットフォーム用ストレージのAstra Data Management for K8s、クラウドでもオンプレミスでも従量課金制でストレージを提供するSTaaS(Storage as a Service)のKeystoneが挙げられた。
さらに、大手パブリッククラウド上で共通してファイルサーバーのネイティブサービスを提供していることも強調した。
クラウド分野では、アストラゼネカの事例をSchwartz氏は紹介した。複数のクラウドにまたがるデータ資産を統合的に扱えるようにし、Lift&Shiftもサポートしているという。
「データサービスのスタック拡大」の分野では、データ保護、データ機密、データガバナンスの3つにおいてNetAppが強みを持つとSchwartz氏は主張した。
事例としては、ある世界大手のソフトウェア企業が、オンプレミスのデータのバックアップや、データの理解、本番環境のデータリスクの排除のためにNetApp製品を採用したとSchwartz氏は紹介した。
最後の「統合プラットフォーム」の分野では、11月に発表されたハイブリッドマルチクラウド対応統合データ管理ツール「NetApp BlueXP」をSchwartz氏は紹介した。NetAppのさまざまなデータ管理ツールを、ハイブリッドマルチクラウド対応で一元的にまとめて管理できる、クラウド上の管理ツールだ。11月のリリースから2か月で、すでに3100社以上が利用しているという。
そのほかの製品としては、クラウドのコスト最適化や自動化の「Spot by NetApp」サービス群もSchwartz氏は紹介した。
日本でのNetAppクラウドサービス採用は2022年に40%増加
日本法人のネットアップ合同会社 代表執行社長である中島シハブ氏は、最新ソリューションや日本の状況を説明し、「BlueXP」のデモも行った。
まず、サステナビリティについて。世界のデータセンターで使われている電力は世界の2%にあたり、2030年には8%になると言われているが、その中で68%のデータが使われておらず電力の浪費になっていると中島氏は言い、「NetAppが果たせる役割は大きい」と語った。
次に「NetApp BlueXP」について、ハイブリッドマルチクラウド環境を1つのデータサービスプラットフォームに一元化することで、データのガバナンス(個人情報保護)や、可視化、保護などを実現すると説明した。
もちろんハイブリッドクラウドの一部でもあるオンプレミス製品も大事だ。中島氏は2022年に発売されたオールフラッシュストレージ製品として、最上位機種の「NetApp AFF A900」と、コストを抑えた大容量フラッシュの「NetApp FAS500f」を紹介した。
さらに、ランサムウェア攻撃からの防御について、「NetApp Is the Last Line of Defense.(NetAppのストレージはランサムウェアから守る最後の砦)」という言葉を中島氏は掲げた。
NetAppのクラウドサービスの日本での状況については、すでに数百社が採用し、しかも2022年には40%増加したと、成長性をアピール。また、クラウドのデータサービスは、これまでバックアップや災害対策で使われていたが、ソフトウェア開発など用途が広がっていると報告した。
BlueXPによるハイブリッドマルチクラウド管理をデモ
ここから、ネットアップ合同会社 ソリューション技術本部 SE第2部 Account Technology Specialistの溝上宏和氏が、中島氏とのかけあい形式で、BlueXPとそこから使えるツール群をデモした。
まずは、オンプレミスのVMware環境から、クラウドのVMware Cloud on AWSへの引っ越しだ。BlueXPからの操作でAWS上のNetAppストレージサービス「FSx for NetApp ONTAP」をデプロイし、「NetApp SnapMirror」を使ってGUI上でデータレプリケーションを実行した。そのうえでVMwareのSDDCにレプリケーションしたデータストアを接続してみせ、簡単に移行できるところを見せた。
次に、コンテナアプリのクラウド移行だ。オンプレミスのKubernetesクラスターをAstra Control配下に置くことで、GCPのGKEに容易に移行するところを見せた。
次は、BlueXPからのMySQLの性能監視だ。Webサーバーの背後に3台のMySQLが動いている構成で、1台が重くなっていることを、Cloud Insightsで検出。CPU使用率やメモリ使用率、ディスクI/Oなどの可視化から、インスタンスのサイズを変更することにより問題が解決するところを見せた。
ここで、ランサムウェア検出の通知が、Cloud InsightsのCloud Secureからスマートフォンに届いたというシチュエーションとなる。そしてCloud Secureの画面を確認し、自動的にブロックされたことや、Active Directory連携により感染ユーザーを特定できること、被害がそこで抑えられていることなどを確認。さらに、ログからランサムウェアの一般的な挙動が見てとれることや、事故の調査とリストアもCloud Secureでできることなどが紹介された。
最後は情報漏えい対策だ。Cloud Data Senseにより、どんなデータがあるか把握できること、アクセス傾向がわかることによりデータをクラウドへ持っていくときに事前に把握できること、個人情報や秘密情報にも対応して日本のマイナンバーも判別できること、カスタムポリシーで社内ポリシーをチェックできること、スキャンする対象の場所としてOneDrive・Google Drive・SharePointなども選べることなどを見せた。
BlueXPでは今後インテリジェンスやワークフローを強化
基調講演にも登壇したRonen Schwartz氏と、ネットアップ合同会社の近藤正孝氏に、BlueXPやクラウド事業を中心に話を聞いた。
――BlueXPについて、あらためてご紹介ください。
Schwartz氏:BlueXPはユーザーエクスペリエンスのためのものです。データがどこにあっても、NetAppのストレージやサービスをシングルエクスペリエンスで使うことができます。バックアップやオブザーバビリティもできます。
BlueXPによって、ユーザーは簡単にデータファブリックを作成でき、単一のビューで見ることができます。また、データ全体にデータポリシーを適用できますし、UIやポータルだけでなく一貫性のあるAPIも提供します。
ただし、BlueXPはまだ第一歩です。今後、インテリジェンスやワークフローなどを強化して、よりシンプルで効果の高いものにしていきます。
BlueXPの開発体制についてもご紹介しましょう。BlueXPでは、共通のサービスを開発する中央のチームがあり、NetAppのさまざまなグループが横断的に参加しています。
近藤氏:補足すると、各製品やサービスでは、それぞれごとに認証が必要でしたし、ライセンスもそれぞれで管理する必要がありました。BlueXPではそれも一貫して管理します。
――基調講演では、2か月ですでに3100社以上が利用しているという話がありました。そのように急速に使われている理由はどのようなことがあるのでしょうか。
Schwartz氏:BlueXPはユーザーエクスペリエンスの部分で、既存の資産や機能を管理するものなので、採用しやすいというのはあります。マルチクラウドの資産を持っている方にとっては非常に価値があります。
もう1つの、BlueXPの中でActiveIQの機能が使えるのも理由だと思います。ActiveIQはNetAppのテレメトリーのシステムで、中央に集積してAIで診断して返すというものです。これによって、自社のシステムのパフォーマンスが悪くなっていたり、容量が逼迫(ひっぱく)していたりすることがわかります。かつてお客さまは独立した場所でActiveIQを見なくてはなりませんでしたが、いまはBlueXPの一部として使えます。
――今回の基調講演ではクラウドが取り上げられる割合が大きかったように感じました。NetAppにおいて、クラウドのビジネスの割合が大きくなっているのでしょうか。
Schwartz氏:エンタープライズストレージも健全に成長しています。そして、それ以上にクラウドが大きく成長していて、前年比50%台後半の成長を見せています。
――先ほど、BlueXPにおいてインテリジェンスやワークフローを強化していくという話がありました。具体的にはどのような機能や予定があるでしょうか。
Schwartz氏:BlueXPにはいくつかのインテリジェンスがあります。例えば、AI/MLによるストレージ容量の予測モデルにより、システムがいつフルになるかを高い精度でお知らせできます。また、また、データに対する攻撃の検出のモデルにより、通常の挙動とランサムウェアの挙動が判別できます。データの種類を識別するのにも、AIの支援があります。
今後のイノベーションとしては、検知から検出、解決というフローの中で、自動的・自律的な解決に進んでいます。また、データへの攻撃のパターンを学習してデータのセキュリティを高めています。もう1つ、もう1つ、データ容量の消費を予測してコストを最適化するアクションを発動させる分野もあります。
――2023年のロードマップで、今言えるものはあるでしょうか。
Schwartz氏:たくさん予定しています。ほとんどのことはまだ言えませんが、パートナーシップで非常にエキサイティングな発表をすることをお約束します。
――日本でのNetAppのビジネスの状況はいかがでしょうか。
近藤氏:クラウドビジネスは、日本は米国に比べて遅れていましたが、最近いい感じで増えてきています。
Schwartz氏:日本のお客さまの採用は、この6か月で急速に伸びています。それまではゆっくりとしたペースでしたが。
――日本の導入企業の関心の高い分野は、どのあたりでしょうか。
近藤:ランサムウェアは非常に関心が高い分野です。
――NetAppのランサムウェア対策の機能とは、どのようなものでしょうか。
近藤:ONTAPにアンチランサムウェア機能を備えていて、データのスナップショットや、Cloud InsightのAIにより脅威アラートなどがあります。
アンチランサムウェアはいくつもの企業が取り組んでいる中で、われわれはデータを守ることにフォーカスしています。基調講演で中島が「NetApp Is the Last Line of Defense.(NetAppのストレージはランサムウェアから守る最後の砦)」と言ったとおりです。
Schwartz氏:NetAppの技術は、独自のファイルシステムであるWAFLが、他社の差別化要因になっていて、データの効率性や、変更の追跡などの特徴があります。ランサムウェアの攻撃もWAFLから対応していて、基調講演で紹介した改ざん防止スナップショットのSnapLockもその1つです。この機能は、大手パブリッククラウド上のストレージサービスにおいても高い評価を受けています。
――そのほか、読者に伝えたいことがあったらお願いします。
Schwartz氏:NetAppのクラウド顧客の50%が新規顧客です。オンプレミスでは別のストレージを使っていたお客さまも、クラウド上でエンタープライズストレージが必要になって、NetAppのクラウドサービスを利用しています。
近藤:とはいえ、エンタープライズストレージ製品も強化していきます。オンプレミスの製品もクラウドのサービスも、同じようにONTAPやWAFLを搭載しているので、同じようにアップデートしていきます。
Schwartz氏:NetAppは、オンプレミスのストレージのエンジニアも、クラウド上のストレージのエンジニアも、どの企業よりも多いと自負しています。これからもさまざまな発表があるので、ご期待ください。