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「データ【活用×流通】フォーラム2022」レポート データがつながる、協創する!データ流通による活用高度化・その最新動向と事例を探る

 データは超情報化社会における石油とも言われ、高い価値を生み出すとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも欠かすことができない要素だ。

 データ【活用×流通】フォーラム実行委員会、一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)、株式会社インプレス クラウドWatchは2022年10月20日、「データ【活用×流通】フォーラム2022」をオンライン配信方式で開催した。注目の講演を中心にレポートする。

オープニングリマークス

 Society5.0に代表される情報化社会、さらにその先の超情報化社会においてデータは重要かつ高い価値を生み出すものと考えられている。

 「データ【活用×流通】フォーラム2022」の開会にあたりオープニングリマークスに登壇したのは、本フォーラムの実行委員長で、東京大学大学院 情報学環 教授、また一般社団法人データ社会推進協議会 会長も務める越塚登氏だ。

 「データ活用はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも欠かせない要素です」と越塚氏。その際、データ取引市場や情報銀行、オープンデータなどを活用して、産官学民で連携して得られたデータを自社データと組み合わせることによって、新たな価値の創出や企業の競争力の強化が期待されているという。

 「データの利活用とそれを支えるプラットフォームとしてのデータ流通基盤の重要性、ビジネスメリットをお伝えし、皆さまがデータ活用を自分ごととしてとらえ、まず何から始めるべきなのか、そのために必要な各種ソリューションなどもこの後のセッションで皆さまにご紹介します」とオープニングリマークスを締めくくった。

東京大学大学院 情報学環 教授で、一般社団法人データ社会推進協議会 会長の越塚登氏

DX推進のためのデータ流通と活用のあり方

 続いてのオープニング基調講演では、「DX推進のためのデータ流通と活用のあり方」と題し、本フォーラム実行委員長 の越塚登氏と、東洋大学 情報連携学部 (INIAD) 学部長の坂村健氏によるスペシャル対談が実施された。

現在のデータ流通と活用の状況、取り組み

 対談に先駆け、坂村氏が現在のデータ流通と活用の状況、取り組みを紹介した。

 坂村氏が最初に挙げたのが、「VLED(Organization for Vitalization of Local Economy By Digital transformation:一般社団法人 デジタル地方創生推進機構)」だ。

 国や地方公共団体、公共機関などの組織内で利用されていた情報のオープン化と、企業や市場で活用される情報を含めたビッグデータによる新たなサービスやビジネスに対しては、欧米を含めて世界中で期待が高まり、さまざまな取り組みが活発化している。

 こうしたいわゆるオープンデータ化を推し進め、多くの人がそれを利用して連携することによって、社会を前に進めていこうという、いわゆる住民参加型行政をわが国で推進するために2014年に設立されたのがVLEDだ。

 2022年7月には改組を行い、新生VLEDとして坂村氏が理事長に就任している。坂村氏はオープンデータの利活用もDXの一部だとして、「DXに関すること、できることは全部やろうということで、活動を活発化させています」と坂村氏。

VLEDの主な活動

 次に、「ODPT(Association for Open Data of Public transformation:公共交通オープンデータ協議会)」だ。ODPTは、日本における公共交通事業者とデータ利用者を結ぶデータ連携プラットフォームの確立を目指し、公共交通事業者の協力を得ながら提供データの拡充に継続的に取り組みんでおり、2019年5月31日から運用を開始している。こちらも坂村氏が会長を務めている。

 坂村氏は、ODPTが主催したコンテスト「東京公共交通オープンデータチャレンジ」を例に挙げ、活動を紹介した。同チャレンジは、多数の公共交通機関のデータを公開することで、外国人や障碍者を含む多様な人々が、公共交通機関を使ってスムーズに移動し、東京に快適に滞在するためのアプリケーションを、広く募集。2017年より継続的に開催してきた。坂村氏は優勝した作品を紹介しながら「世界中から応募がありました。データの活用について多くの方にわかっていただけたと思います」とその意義を語った。

 最後に坂村氏は、学部長を務めている東洋大学 情報連携学部(INIAD:Information Networking for Innovation And Design)とUR都市開発機構が取り組みんでいる「Open Smart URプロジェクト」について語った。「データを活用して何ができるのかという活動をしております」と坂村氏。

坂村氏と越塚氏のスペシャル対談

左から、東洋大学 情報連携学部 (INIAD) 学部長の坂村健氏、東京大学大学院 情報学環 教授で、一般社団法人データ社会推進協議会 会長の越塚登氏

 続いて坂村氏と越塚氏の対談が行われた。最初に越塚氏が質問したのは、DXやデータ利活用の成功事例やヒントについてだ。坂村氏は、DXやデータの利活用をうまく進めていくためには「やり方を変えていかないとなかなかうまくいかない。新しい環境にあった新しいやり方を模索していかなければならない」と語り、「トップの方が旗を振って進められているところはうまくいきやすい」と指摘した。

 越塚氏はこれに同意した上で、「まさにそうだと思う一方、今度は逆に、全く正反対に、ボトム側にもいろいろなアイディアがあって、それをまた生かしていくチャレンジ的な取り組みもありますよね」と尋ねた。坂村氏は、「改善を超えるような、新しいアイディアが生まれている。マインドチェンジができるかが大事だと思います」と語った。

 次に越塚氏は、中小企業のデータ利活用についてそのコツやヒントを聞いた。坂村氏は、「大会社より逆に中小企業の方が、本当にトップが旗を振れば組織が動くのですが、残念なことに中小では人材や資金の問題が出てきてしまいます」と語る。また、「情報通信の世界は目まぐるしく変化しているので、勉強も続けなければなりません」と教育の重要性も説いた。坂村氏は人材育成の取り組み例をいくつか挙げ、企業に勤めている方の「リカレント教育(再教育)」には、自社のデータを使った例題の作成などが重要になると語った。

 最後のディスカッションテーマとして、越塚氏は「プラットフォームの重要性」を挙げた。データの流通・活用の基盤となるプラットフォームについて坂村氏は、「プラットフォームは非常に重要ですが、すべてを1つのプラットフォームに集約する必要はありません。大事なのは、オープンアーキテクチャに基づいたプラットフォームであることです」と語った。オープンアーキテクチャに基づいて、データがほかのプラットフォームにもつながるという考えで作られていることが重要だと強調した。

 最後に坂村氏はメッセージとして、「データをうまく利用してDXを進めることは、コスト削減にもつながりますのでぜひ進めてほしいです。DX成功の秘訣(ひけつ)は、多くの人を巻き込んで、データを連携していくことによって、初めて大きな動きになりますので、ぜひデータ連携に対して興味を持っていただけたらと思います」と語った。

データ活用・流通の最新動向と事例を紹介するさまざまな講演

 データ【活用×流通】フォーラム2022では、データ活用と流通における最新動向と、さまざまな視点での取り組み事例、その重要性とビジネスメリットを紹介する講演が実施された。注目を集めた講演をいくつか紹介する。

データドリブン経営を加速させるデータマネジメント組織構築から得た学びと知見(ヤマト運輸株式会社 執行役員 DX推進担当 中林紀彦氏)

 ヤマトグループは2020年1月、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定し、「再編」「転換」「進化」の3つのキーワードのもと、改革を進めている。

 宅急便のDXやECエコシステムの構築、法人向けの物流事業の強化といった事業構造改革を進める上では、基盤の構造改革が重要になる。その一つがデータ・ドリブン経営への転換だ。

 中林氏はデータドリブン経営を成功させるために重要なポイントを3つ挙げた。1つは「経営戦略の中でDXもしくはデータドリブンが議論されているか」、次に「アーキテクチャを描いて実現できているか」、最後に「必要な組織や人材配置ができているか」だ。

 「データドリブン経営に一番重要なのはデータマネジメントと考えています。データがなければ分析できませんので、しっかりとガバナンスを効かせる形で管理する、セールス・サービスで活用しやすいようにデータを準備するといったことを目指し、組織を作っています」と中林氏は語った。

データマネジメントの目指す先

オープンデータをビジネスに活用するメリットとは? 国内外のオープンデータ活用事例と推進に向けた取り組み(一般社団法人リンクデータ 代表理事 インフォ・ラウンジ株式会社 取締役 デジタル庁データスペシャリスト 下山紗代子氏)

 政府や自治体が保有していたデータを広く民間に開放する「オープンデータ」の取り組みが国内においても進められいる。

 下山氏は企業においてオープンデータを使うメリットを挙げ、それぞれの活用事例を紹介した。情報の公平性の確保や検証可能性の確保、業務効率化(申請不要に伴う)、技術コミュニティでの情報共有といったメリットを実現した事例だ。

 その上で、さらにオープンデータを活用したビジネスの成功パターンを紹介した。「分散していた情報を統合して提供」「わかりやすく指標化」「高度な分析や予測」「コンテンツとして活用」で、これについてもそれぞれのパターンでの成功事例を紹介した。
 最後に下山氏は、「これから地域を持続的に発展させるためには、公と民の役割分担を見直さなければいけない時代に来ています。そうした中で民間企業の方々も地域に目を向けて、公的機関が共有するデータや、さまざまな公共分野のデータを共有して使いながら、データもサービスも一緒に改善をしていきましょう」と語った。

オープンデータ活用ビジネス4つの成功パターン

研究のデジタルトランスフォーメーション(研究DX)の推進(文部科学省 大臣官房審議官 研究振興局及び高等教育政策連携担当 木村直人氏)

 新型コロナウイルス感染症を契機として、社会全体のデジタル化が進む中、研究活動においてもAI・データドリブンによる生産性の飛躍的な向上や革新的成果の創出に向けた取り組みが進んでいる。この変革を発展させ、研究開発の生産性の飛躍的な向上を目指すとともに、新たなサイエンスやイノベーションの創出、社会課題の解決などさまざまな新たな価値を創出することが、研究のデジタルトランスフォーメーション(研究DX)である。

 しかし研究DXの取り組みを進めるにあたっては、具体的に何をすればよいのかわからない、メリットが不明確、研究データの性質に応じた公開・非公開のバランス、データ形式の共通化にかかるコストなどさまざまな課題が存在する。これらを解決し研究DXを全国的な動きにするために木村氏は、「ユースケースの形成、普及やデータ共有・利活用の促進とサポート、研究デジタルインフラなどの効果的活用を一体的に進めることが必要です」と語った。

 木村氏はマテリアル分野をユースケースとした研究DXプラットフォームの将来像や、データ統合・解析システム「DIAS」の活用事例など、実例を交えつつ研究機関における取組を紹介した。

研究DX実現に向けた取り組み(研究DXプラットフォーム概念図)

 このほかにも、データ流通における外部データの役割とは(ヤフー株式会社 データソリューション事業本部 プラットフォームソリューション サービスマネージャー 小沼剛氏)や、データ活用x流通の最前線 「個人情報保護」と「AI学習データモデルの信頼性向上」(株式会社マクニカ マクニカネットワークスカンパニー第3技術統括部第1技術部第3課 セールスエンジニア 柳井省吾氏)、データ流通における外部データ活用の実態と課題(一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム会員 PwCコンサルティング合同会社 データ&アナリティクス シニアマネージャー 辻岡謙一氏)、データの活かし方を事例を通じて考える ~流通業の販売予測とシミュレーションの事例から~(株式会社ノーチラス・テクノロジーズ 代表取締役社長 目黒雄一氏)、といったデータの利活用・流通に関する多様な講演が行われた。

パネルディスカッション

 フォーラムの最後となるクロージング基調講演では、「データがつながる、協創する! データ流通による活用高度化・その最新動向と事例を探る」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

 パネリストは、ヤマト運輸株式会社 執行役員 DX推進担当の中林紀彦氏、一般社団法人リンクデータ 代表理事 インフォ・ラウンジ株式会社 取締役でデジタル庁データスペシャリストの下山紗代子氏、文部科学省 大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)の木村直人氏。モデレーターは、データ【活用×流通】フォーラム実行委員長の越塚登氏が務めた。

上段左から、一般社団法人リンクデータ 代表理事 インフォ・ラウンジ株式会社 取締役でデジタル庁データスペシャリストの下山紗代子氏、文部科学省 大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)の木村直人氏。下段左から、ヤマト運輸株式会社 執行役員 DX推進担当の中林紀彦氏、データ【活用×流通】フォーラム実行委員長の越塚登氏

データ活用・流通の最新動向

 最初のテーマはデータ流通、利活用の最新動向や事例といったところで、それぞれの視点から話した。

 「きれいなデータをそろえて分析できるところを作っていくことが重要です。データの提供サイクルをどんどん早くしていくと活用が進みます。まずはデータを整備して可視化から進めていくことが重要と思います」(中林氏)。

 「(事例を挙げながら)本当に経営者の方が意識を持って、統計データを使って計画を立てるとか、先を読んで意思決定に使っていくとか、そうした意思さえあれば、今使えるリソースはたくさんあるということなんです」(下山氏)。

 「(研究現場でのデータ利活用について)やはりグッドプラクティスを1つでも見つけて、そのまねをしてみるところから始めてみるのが良いかと思っています。そうして研究者自身の働き方が変わってくるのを目の当たりにすると、自分もやってみようと思うのではないかと思います」(木村氏)。

データ人材の不足について

 次のテーマは人材だ。特に中小企業や地方企業を中心に日本全国で課題となっている人材について越塚氏は、日本の大学生が約60万人いて、情報系を学んでいる学生がその内で約1万人しかいないことを重要な課題として意見を求めた。

 「外部人材に入社していただき活動してもらうことも大事ですが、専門チームだけでなく、ビジネスサイドをどう育成していくかというところも重要と思っています。(人材教育については)教育プログラムを提供してくださるベンダーもいるので、それを活用することで、早期に育成を行っていきたいと考えています」(中林氏)。

 「(愛媛県でのDX人材シェア事例を挙げて)こうして組織を超えて人をシェアすることもできます。これは自治体の例ですが、民間企業やその部署でも横断的なDX人材など、応用が利くんじゃないかなと思います」(下山氏)。

 「例えば今、データサイエンティストをこれだけ育てるみたいなことを言ってますが、それが面白いと思ってやってくれないと、無理やり学ばされたところでどうなんだろうという気はしますし、実際その人が本当に活躍する場があるのかという問題もあります。だから社会全体としてデータの利活用について考えなければいけない時代に来てるんじゃないかと思います」(木村氏)。

それぞれの視点からこれからのデータ活用

 越塚氏はディスカッションのまとめとしてそれぞれのパネリストに質問した。中林氏には自社のことだけでなく、少し広い観点で見て、日本企業のデータ利活用に関してどうしていくべきなのかを聞いた。「データはITの仕組みから生み出されますので、ITやデジタルの仕組みを一から見直さなくてはいけないのではないか、そうした本当に本質的なところに対してしっかりと取り組みんでいくことがすごく重要と思います」(中林氏)。

 次に下山氏にはデジタル庁に関わる立場からデータ流通について聞いた。「これまでのデータ設計は連携を前提に作られていなかったところが課題だと思います。さまざまな分野と連携して使う可能性をあらかじめ組み込んだ上で作っておく必要があります。(デジタル庁では)今試行錯誤しながらチームで作っているところです」(下山氏)。

 最後に木村氏には文科省としてアカデミアに求める役割について聞いた。「前面に出てくるのではなくて、社会生活を支える上で、ある意味バックヤード的な基盤であるべきだと思います。そこから次々と新しい価値が生み出されていく、そのために何が必要かといえばやはりデータの役割が大事だと思います。それを示していく上でも、アカデミアはデータの大切さを一番知っているはずの人たちです。そのために文部科学省も後押ししていきます」(木村氏)。

 越塚氏はパネルディスカッションをまとめ、「本日のテーマは、企業でデータ利活用やデータ連携することですが、実はこの本質は、人と人がつながること、つまり人と人とのつながりが重要で、そうしたコミュニティをしっかり作ることが大切なのかもしれません」と締めくくった。