大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

ムーア、メトカーフに続くのはWatsonの法則? IBMが示した新時代の戦略

Watsonに関する新発表

 Watsonに関してもいくつかの発表が行われた。

 まず、Watson API連携や機械学習、深層学習機能を強化した「Watson Studio」を発表。ここでは、Deep Learning as a Serviceを提供することで深層学習の能力を強化するとともに、Watson MLによる機械学習も強化している。

 一方で、IBM CloudにTensorFlowやCaffe、PyTorchといったオープンソースフレームワークを組み込んだクラウドネイティブサービスとして提供することで、ユーザー企業が、機械学習を利用するためのハードルを下げることができるという。

 Watson Studioとの連携では、機械学習とデータ収集、管理機能を統合したプラットフォームである「IBM Cloud Private for Data」の発表が注目された。Kubernetes上に導入されるアプリケーション層として導入するもので、機械学習のアセットやカタログ、データセットをWatson Studioと相互に共有。データサイエンスおよびアプリケーション開発用に統合された環境を提供することができるという。

 また、日本語による学習済みインテントの提供などを含む「Watson Assistant」を発表。Conversation Assistantの統合により、迅速な開発や運用負荷の軽減、柔軟な拡張性を実現するとアピールしている。

 日本IBM ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長の吉崎敏文執行役員は、「ユースケースに特化した、日本語による学習済みインテントを活用することで、迅速にチャットボットを開発できるほか、レコメンド機能の強化により、エンティティに対する同義語候補の提示や、類似性の高いインテントの指摘による改善サイクル負荷の軽減が可能。また、外部サービスとの連携強化により、Discovery、Speech to Textなどの複数サービスと連携し、対応可能なドメインを拡張できる」とした。

日本IBM ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長の吉崎敏文執行役員

 さらに、AIとデータ活用を支援するコンサルティングチーム「Data Science Elite Team」を30人体制で設置することを発表している。将来的には、これを200人体制に拡大することで、上流工程からAIの導入を促進する体制を構築するとのこと。

 ユニークなのは、iOSでWatson Servicesを利用できる機能を提供する「Watson Services for Core ML」を発表したことだ。企業内データを利用したWatsonの機械学習モデルを、Apple Core MLに取り込めるようにするもので、基調講演で紹介されたコカ・コーラの事例では、フィールドサポートにおいて、ネットワークにつながらない環境でも、iOS環境で画像判定アプリを利用できる様子を示した。IBMでは、Core ML用SDKやスターターキツト、サンプルコードを提供して、iOSの開発者を支援することになる。

 実は、この提携は、新たなIBMを象徴するものととらえることができる。

 というのも、この提携を主導したのは、米IBM Watson & Cloud PlatformのDavid Kenny(デイビット・ケニー)シニアバイスプレジデントであるといわれているが、「Appleのデベロッパーに、いかにWatsonを広く利用してもらうかという発想をもとに行われた提携」(日本IBMの吉崎氏)なのだという。

 また吉崎氏は、「まずは使ってもらい、そこからマネタイズへとつなげていく手法。従来のIBMでは、まずはAppleに何を売ってもらうかという発想にとどまりがちだったことを考えると、これまでのIBMにはない発想だといえる」と指摘する。

 2016年1月のWeather Company買収に伴い、IBM入りしてから2年を経過したKennyシニアバイスプレジデントは、次期CEO候補の一角と言われているが、こうした取り組みを見ても、これまでのIBMにはない発想で変革を進めていることが浮き彫りになる。

米IBM Watson & Cloud PlatformのDavid Kennyシニアバイスプレジデント