大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
ムーア、メトカーフに続くのはWatsonの法則? IBMが示した新時代の戦略
2018年5月8日 06:00
“One Cloud”のメッセージ
一方でクラウドに関しては、Think 2018で、あらためて「One Cloud」という言葉を強調して見せた。
Kennyシニアバイスプレジデントは、「私が2年前にIBMにきたときには、IBM Cloudの定義が明確ではなかった。だが現在のIBM Cloudは、One Cloudアーキテクチャによって、コンテナを取り入れ、パブリックを取り入れ、アプリのすべてに対応でき、どのプラットフォームでも利用でき、ベアメタルにも対応し、しかもセキュアな環境を整えた。DevOpsやマネジメントプラットフォームも活用できる」と語る。
さらに、「IBM Cloudのキーポイントは、アーキテクチャがひとつであるという点。これだけをリファレンスすれば、パブリック、プライベート、ハイブリッド、マルチクラウド環境のすべてで使うことができる」と、アピールした。
Kennyシニアバイスプレジデントは、IBM Cloudをこう定義した上で、IBM Cloud Privateでは、提供開始から90日間で150社以上が採用していることや、ベストプラクティスを提供するIBM Architecture、移行支援を行うTransformation Advisor、DevOpsのMicroclimateなどをThink 2018で発表。コンテナ基盤および開発から、運用までをフルサポートするツールを相次いで発表して見せた。
またすでに提供しているVMware on IBM Cloudでは、1400以上の顧客がVMwareのワークロードをIBM Cloud上で実現していることに言及。IBM Cloud for VMware Solutionsポートフォリオの拡充により、HCX(Hybrid Cloud Extension)の提供を開始することで、疎結合なハイブリッドクラウドを実現することを示した。また、Spectrum Protect Plusの提供を開始することも発表した。
「特にHCXは、ハイブリッドクラウドを容易に実現するための革新的なサービスであり、バージョンが異なるVMware間であっても、vMotionおよびレプリケーションによるワークロードの移行が可能になる」(日本IBMの吉崎氏)という。
さらにコンテナへの対応を強化。IBM Cloud Container Service(ICCS)として、Kubernetes on ベアメタルサービスのマネージドサービスを、東京データセンターを含む世界19のデータセンターから提供することも発表した。
「他社から完全に隔離した高いセキュリティを実現。シングルテナントのベアメタル環境によって、競合他社と比べて圧倒的に優位なサービスを提供できる」とした。
そのほか、Kubernetes(k8s)ベースの機械学習とデータサイエンスを統合した製品の投入や、IBM Z/Linux ONEとx86環境において、Docker EEをサポートすることも発表している。
「IBM Z/Linux ONEとx86環境において、Docker EEをサポートすることで、zアプリと86アプリのコンテナが動作可能であり、KubernetesとDocker Swarmが利用できる。IBM Z/Linux ONE によって、200万コンテナを同時稼働できる性能も提供できる」とする。
またIBM Cloudに関する発表として見逃せないのが、マルチゾーンリージョン(MZR)と呼ぶ仕組みを新たに打ち出したことだ。
これはAWSのアベイラビリティゾーン(AZ)と同様の考え方を採用したものともいえ、3つのゾーンと呼ぶデータセンターを、ポップと呼ぶ2つのネットワークアクセスポイントに接続。ハイアベイラビリティな環境を実現することができる。東京データセンターもMZRとして構築されることになる。
ちなみに、データセンターがひとつのリージョンはシングルゾーンリージョンと呼ぶことになる。
こうした一連の発表を行ったKennyシニアバイスプレジデントは、「パブリッククラウドに対しては、ベストクラスの可用性とスケーラビリティ、利便性、コストメリットが求められている。一方で、セキュリティ、コンプライアンスの課題を解決するために、従来型のITの仕組みを維持したプライベートクラウドに対する要求も高い。このように、クラウドに対しては、さまざまな要求があり、オーダーメードで活用したいといったニーズもある。自由度と柔軟性に対する要望がますます高まっている。これらのあらゆる要求にOne Cloud Architectureで対応できるのが、IBM Cloudの特徴になる」と訴えた。
ちなみに、クラウドに関する基調講演では、日本IBMの社長を2014年まで務めた、現・米IBM Global Technology Services担当シニアバイスプレジデントのMartin Jetter(マーティン・イェッター)氏も登壇し、会場の参加者にウエーブを要求するなど、会場を盛り上げて見せた。
いつもスーツを着ているJetter氏だが、Kennyシニアバイスプレジデントの要請により、ジャケットにジーンズ姿といういでたちで基調講演に登場したのは、日本からの参加者にとってもあまり見ることがなかった、珍しい光景だったといえよう。
Think 2018では、Rometty CEOをはじめとする同社幹部から数々のメッセージが発信されるとともに、数多くの製品発表が行われたが、それらを総合すると、IBMが、クラウドとコグニティブ(AI)の企業へと変革を遂げた成果が強調されるとともに、データを重視する企業であることが、クラウド時代やAIの進化において重要な差別化になることを示すものになったといえよう。
その点では、今後のIBMの進む道が明確に示された内容だったといえる。