ニュース
日本IBM、Red Hatとの提携などWatsonとIBM Cloudの最新状況を紹介
データ処理を含め、ビジネス向けとして順当に進化
2018年5月16日 11:34
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は14日、IBM WatsonとIBM Cloudプラットフォームの最新状況に関する説明会を開催した。米国で開催された米IBMのイベント「Think」での発表、さらにその後のIBM CloudやWatson関連の発表内容をまとめて紹介している。
日本IBM 取締役専務執行役員 IBM Cloud事業本部長の三澤智光氏は、従来のITシステムが財務、販売、生産管理といった業務システムを支えるITだったのに対し、現在進行しているデジタル時代のITについて、「これまでとは大きく考え方が異なる。デジタル時代はテクノロジーありき。顧客との接点となるアプリケーションの存在が重要となり、迅速な開発と提供のスピードの速さが必要となる。そしてアプリケーションから得られたデータをもとにした分析と学習を行うサイクルが求められる」と述べ、前提が大きく変わったと強調。
それを実現するための仕組みとして、マイクロサービスに基づいたアプリケーション、そしてクラウドネイティブなアプリケーション開発に最適なコンテナが必要となると指摘する。
IBMでは、コンテナオーケストレーションプラットフォームとしてKubernetesを選択。さらに、クラウドネイティブアプリケーションの標準化に向けてCloud Native Computing Foundation(CNCF)のコアメンバーとして活動し、Kubernetesのコンテナ管理とdockerのコンテナ技術にコミットしている。その上で2017年3月から、IBM Cloud Container ServiceとしてKubernetesベースのコンテナサービスを提供開始した。
さらに、IBMミドルウェアがオープンソースソフトウェア(OSS)と同じようにコンテナ化されたことで、2つのメリットを提供するという。
「ひとつは、旧来のアプリケーションを利用している場合に、それをモダナイゼーションさせることに役立つということ。もうひとつは、コンテナ、マイクロサービス時代のアプリケーション開発にオープンソース同様、IBMミドルウェアを利用できること。オープンソースですべての開発を進められるユーザーもいるが、IBM製ミドルウェアが利用できることで、新時代のアプリケーション開発に取り組むハードルが低くなるユーザーもいる」と、三澤氏はアピールする。
Javaに対しても引き続コミットし、テクノロジーの進化に対応していくとともに、「Javaを利用するお客さまを、サポートを含めて保護する」(三澤氏)とし、Oracle JDKを利用した場合に比べ、サポートを含めたコストが6割から5割程度コスト削減できることを示して、実利でもメリットがあることを強調した。
さらにIBM Cloudの特性として「利用者のデータ」に配慮している点を挙げる。「お客さまのデータはあらゆる環境に動かすことができる。オンプレミス、IBM以外のパブリッククラウド、そしてIBMクラウドとアプリケーション、データともに移動が可能なケーパビリティを実現している」(三澤氏)。
また、コンテナ、ミドルウェア、マルチクラウド管理、開発ツールチェーン、運用管理、セキュリティなど、オープンテクノロジーをベースとした企業の次世代システム基盤となる技術を統合し、「IBM Cloud Private(ICP)」として包括的に提供していく。
なおThinkが開催された後の5月11日には、Red Hatとの提携を発表。Red Hat OpenShift Container Platformを通して、Red Hat Enterprise Linux上でIBMの主要ソフトウェアであるIBM Cloud Private、WebSphere、MQシリーズ、Db2などが動作することを保証した。
IBM Cloud PrivateとRed Hat OpenShiftを共通基盤とすることで、投資を無駄にすることなく、速やかにハイブリッドクラウドに展開することが可能となった。IBM Cloud Private on Red Hat OpenShiftで、AI、IoT、ブロックチェーンなど、IBMクラウドが提供するServiceを利用することも可能になった。
「この発表は大きな影響がある。IBM Cloud PrivateとRed Hat OpenShiftは、オープンテクノロジーベースで企業の次世代システム基盤に必要となる技術を統合、包括的に提供することとなったが、お客さまが望んでいるのはコンテナを動かすことではない。その上でどういうアプリケーションを安全に動かすかを考えて利用している。今回の提携はそれにつながるもの」(三澤氏)。
“データとAI”に関する取り組み
今回のThinkでは、「データとAI」も重要なテーマとなった。調査データでは、AIを活用する先進企業は、平均よりも8倍のデータをAIに理解させ、さらに10倍の時間をデータ収集と準備に費やしていることが明らかになっている。
「賢いAIを育てるためには、“キレイなデータ”が必要となる。データ活用の取り組みの変遷を振り返ると、1990年にデータウェアハウス(DWH)が、2010年にビッグデータを活用するためのData Lakeが誕生している。2010年当時からデータ活用を考えていた企業は成功している。IBMでは現在データ活用に取り組み始めた企業でも成功を勝ち取るために、キレイなデータを実現するためにData Catalogを推進している。さらに2018年には、『Beyond Data Lake』として、One ArchitectureでAI Leader、事前定義済み学習モデルによるData+AIで活用できるようにする」(三澤氏)。
現在、AIとマシンラーニングを利用し、取引履歴と顧客情報から有力顧客を分析することに長けた企業は、8割の時間をデータ整備、2割の時間をモデル開発、モデル適用によって有力顧客を見つけ出し、その顧客にアプローチする作業に使っているという。
IBMではこの現状に対し、AIにかかわる作業の8割を占めるデータ整備作業を極小化し、どれだけ優れたAI/マシンラーニングの仕組みを提供できるか、生成したモデルをビジネスプロセスに適用できるか、といったことの実現に取り組んでいる。
「IBMがほかのAIベンダーと大きく異なるのは、データの蓄積、探索・加工、分析、活用という一連の流れすべてを、オンプレミス、クラウドの両方でサポートしている点にある。ほかのAIベンダーは一部をカバーしているところばかりで、トータルでカバーできている企業はほかにない」(三澤氏)。
なお、オンプレミス資産をモダナイズする「IBM Cloud Private for Data」は、5月末に正式な発表を行う予定となっている。
こうした“データ”については、Think 2018であらためてアピールが行われており、「データを活用することでビジネス、社会に指数関数的な変化を起こす。その変革によって、企業は変革者側になることができることがあらためて訴えられた。そのために顧客自身が持つデータの価値を、AIを活用して最大化する。あらゆるプロセスにAIを埋め込み、学習したナレッジを活用する。データ、AI学習は安全な複数のデジタル化プラットフォームを活用する」といったことがメッセージとして発信された。
One Architectureは、データとAIを容易に統合する。
オールインワンタイプの進化したAI分析基盤「Watson Studio」
新たに発表になったものとしては、オールインワンタイプの進化したAI分析基盤「Watson Studio」がある。現在、日本向けの調整を行っている最中だという。
「Watson Studioはオールインワン型で、分析、収集の基盤をひとつにして提供する。データ準備・分析とWatsonサービスの連携をさらに強化し、多様なAI/分析とチームの協業を促進する」(日本IBM 執行役員 ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部 吉崎敏文氏)。
本田技研研究所では、複数部門のデータ利用者が全社データを自由に分析し、その結果を共有して互いに教える環境をWatson Studioで構築している。データ分析を、「デジタル・サンドボックス」として既存システムとは別な分析環境を整えているという。
金沢工業大学では、Watson Studioを活用したAI講座を開催している。Watson Studioをハンズオン環境として利用し、Jupyter Notebookの機能を活用した動く教科書のようなコンテンツを作成して、インタラクティブな授業を実践している。
その成果として、事前準備をほとんどせずに、均一なプログラム用授業環境構築が可能となったという。また授業後の宿題は、勤務先や家庭から実施することが可能になったなどの成果も出ている。
なお、Watson StudioとIBM Cloud Private for Dataは相互に連携し、プライベートクラウド環境でもWatson Studioを利用することができる。IBM Cloud Private for Dataでは、全社データの整備・加工・分析が可能。一方Watson StudioはAIモデルの開発・学習データの準備を行えるが、モデルや学習データを相互連携し、ナレッジカタログも相互連携が可能で、セキュアなデータ通信を確立し、迅速でセキュアなデータアクセス、共有、移動を実現するとした。
また、新たに発表になった「Watson Assistant」は、最初からトレーニング済みのWatsonを提供。その結果、よりクイックな開発、運用負荷の軽減、スケーラブルな拡張が実現可能。マイグレーションが不要で、8つの機能拡張、事前学習済みのバーチャルエージェントをソリューションとして提供といった環境が整っているとのこと。ユースケースに特化した学習済みのインシデントを活用することで、より迅速なチャットボット開発も可能となる。
日本IBMでは、こうした説明を通じて「WatsonはビジネスのためのAI」であることを何度も強調しており、ビジネスの一部として利用していけると強くアピールしていた。