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IBMが初の大規模バーチャルイベント「Think Digital Event Experience」開催、クリシュナ新CEOが基調講演に登壇

 米IBMは5月5日・6日(米国東部時間)の2日間、オンラインによるバーチャルイベント「Think Digital Event Experience」を開催している。

 同社では例年、年次イベント「Think」を開催しており、2020年も米国サンフランシスコのモスコーニセンターにて、5月4日~7日の開催が予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、3月上旬にバーチャルイベントで開催することを発表。同社初の大規模バーチャルイベントとして開催された。

 事前登録者数は9万人以上に達し、日本からは1400人以上が登録。会期中には117のセッションが用意され、「Featured Sessions 1」「Featured Sessions 2」「Resilient Industry Leadership」「IBM Business Partners」の4つのチャンネルから、希望のプログラムに参加が可能となっていた。

 なお、配信にはWatson Mediaライブ配信サービスを使用。主要セッションはビデオ収録とすることで、時間帯にあわせて欧米地域向けとアジア地域向けの2回開催としたり、機械翻訳による日本語字幕の表示を行ったりしたほか、会期中のライブ配信以外に、オンデマンドでの視聴も可能にしている。

アービンド・クリシュナ新CEOが基調講演に登壇

 会期初日には、2020年4月に米IBMのCEOに就任したアービンド・クリシュナ氏が、「The New Essential Technologies for Business(新しい時代のビジネスに求められるテクノロジー)」をテーマに基調講演を行った。

IBMのアービンド・クリシュナCEO。基調講演では日本語字幕も用意された
基調講演のテーマは「The New Essential Technologies for Business(新しい時代のビジネスに求められるテクノロジー)」

 講演の冒頭、クリシュナCEOは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響について言及。「私たちにとっての挑戦であり、多くの人がこの機会に立ち上がったことには勇気づけられた。産官学の強力で新たなパートナーシップが一夜にして形成され、企業の能力が活用されている。IBMも、顧客のミッションクリティカルシステムを稼働させるために24時間体制を敷いている」とする。

 一方、「このパンデミックは前例のない悲劇であるが、重要な転換点でもある。今後何年にも渡って、企業と顧客に利益をもたらす新しいソリューション、新しい働き方、新しいパートナーシップを開発する機会だ。将来、いまを振り返ると、ビジネスと社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)が突然加速した瞬間と位置づけられるだろう。ポストコロナの世界の基礎を築くこの時期に、会社を率いることは光栄である」と述べた。

 さらに、「新たな技術が採用されるペースが変わり、数年で終わるはずのトランスフォーメーションへの旅路が、いまでは数カ月に短縮されている。新型コロナウイルスの大流行が私たちに教えてくれたことがあるとすれば、それは、スピード、柔軟性、洞察力、革新を可能にするテクノロジーソリューションの重要性だ。新しい市場機会にどれだけ迅速に対応できるか、どれだけ顧客にサービスを提供できるか、どれだけ規模を拡大できるか、そして、今日私たちが直面しているような危機にどれだけ迅速に対応できるかということが重要である」と語った。

 またクリシュナCEOは、「DXを推進しているのはハイブリッドクラウドとAIである」と前置きし、まずは、ハイブリッドクラウドを採用する4つの必然性についても触れた。

 これは、米VMwareのパット・ゲルシンガーCEOが示したとするもの。具体的には、

・複雑なワークロードにおいて、パブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスのなかから最適なものを選択し、さまざまな場所でコンピューティングを行うことが大切である

・1つのパブリッククラウドや1つのインフラストラクチャだけに依存していると、自らを閉じ込めてしまうが、ハイブリッドクラウドによって選択肢が広がる

・工場に設置された50ミリ秒以内に応答しなければならないようなロボットアームはクラウド環境を利用できないため、オンプレミスが必要である

・GDPRや米カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、その他の規制などに準拠するためには、データやワークロードをパブリッククラウドではなく、オンプレミス環境で実行および保存する必要がある

といった4点で、「これらの要素を見れば、ハイブリッドクラウドが企業の大きな力となることがわかる」と語った。

 そして、「IBMは、ここに向けて大きな賭けをした。特に注目すべきは、Red Hatとの連携により、ミッションクリティカルなアプリケーションを一度構築すれば、どの環境でも実行できるユニークな機能を提供できるようになったことだ。IBMは、ハイブリッドクラウドのチャンスを最大限に活用するための支援を行っていくことになる」とした。

 一方のAIについては、「私はAIを強く信じている。重要な役割を果たすことができる。・そして、すべての企業がAI企業になると予測している。それは、できるからではなく、しなければならないからである」とし、「この危機を受けて、ハイブリッドクラウドの重要性とともに、AIの重要性が加速している」と述べた。

保険会社の事例を紹介

 さらに基調講演では、ハイブリッドクラウドとAIを活用して成功している企業のひとつとして、約4000万人の会員を持つ保険会社のAnthem, Inc.を紹介した。

 Anthemのラジーヴ・ロナンキシニア バイスプレジデント兼チーフデジタルオフィサー(CDO)は、「現在の危機は、多くの点で米国の医療制度の課題を浮き彫りにした。そして、私たちは医療の未来に向けて動き出している。それは、より予測的で、より積極的で、よりパーソナライズ化された、健康とウェルビーイングに対応する全体的なソリューションを提供することである。Sydneyと呼ぶアプリを使うことで、健康状態について質問があれば、データの活用とAI、パーソナライゼーション技術により、得られた洞察を提供することができる」とした。

 また、AnthemではOpenShiftを含むIBMの技術や機能を多く活用しており、プラットフォームをオープン化することで、多くの開発者に参加してもらうことに成功。柔軟でアジャイルなエコシステムを構築していることを示す。

 その上で、「IBMのアーキテクチャでは、OpenShiftやKubernetesにより、効率的で高品質なサプライチェーンを管理できる。多くのサードパーティ製品との統合にも適している。標準的な技術、相互運用性、簡単に開発できるツール、スケーラブルなプラットフォームといった要件をIBMは提供してくれる。信頼とセキュリティ、品質を重視するわれわれには、IBMの基盤が必要である」とした。

Think Digitalで話すIBM CEOのアービンド・クリシュナ氏(左)と、Anthemのラジーヴ・ロナンキシニアバイスプレジデント兼チーフデジタルオフィサー(CDO)

新たな製品やサービスを発表

 今回の基調講演では、いくつかの新たな製品、サービスについても発表した。

 ひとつめは「Watson AI ops」だ。Red Hat OpenShiftの最新リリースをベースに構築された同製品は、ミッションクリティカルなワークロード全体を対象に、インシデントの評価、診断、解決を図ることができるものだ。「ITの異常をリアルタイムで診断し、対応することができる」とする。

 また「AI for IT」は、CIOにITインフラを自動化する機能を提供するものであり、コストを削減し、ネットワークをより強固なものにできるとした。

 クラウドについても、2つの新たな内容を発表した。

 ひとつめは、ISVとSaaSプロバイダーとのための新しいプログラムであり、これにより、IBMが2019年末に発表した、業界初の金融サービス対応のパブリッククラウド上で運用するためのコンプライアンスやセキュリティ、技術要件を満たしていることを証明できるという。

 クリシュナCEOは、「金融サービスにおいては、20以上の規制機関と、数千ものコンプライアンスチェックを実行したり、データ保護においてもさまざまな規制が敷かれたりしている。さらにFinTechにより、金融サービスにおける顧客の習慣や、顧客の期待を大きく変えるといった外からの力も加わっている。銀行はそれらに対処しなければならない大きなプレッシャーのなかにある。新たなプログラムは、厳しいセキュリティと回復力、コンプライアンス要件を満たしていることを実証するために設計されている」と説明した。

 2つめは、IBM Cloud Satelliteのテクノロジープレビューの公開だ。IBM Cloudサービスを、オンプレミスやエッジなどの顧客が必要とする場所に拡張するもので、「最も理にかなっている場所で、ワークロードを実行でき、開発と運用の両方のすべてのコンピューティング環境にわたって、クラウドネイティブサービスのデプロイと管理を自動化することで、ビジネスの俊敏性を高められる。これは、Kubernetesの基盤を活用した移植性の高さによって実現するものだ」とした。

 さらにクリシュナCEOは、企業や通信事業者が、5Gとエッジによってもたらされる機会を最大限に活用することを支援する、新しいネットワーククラウドソリューションも発表した。

 Red Hat OpenStackとRed Hat OpenShiftをベースに構築されたこのサービスでは、データセンターから複数のクラウド、エッジまで、どこでもワークロードを実行できるようになり、5Gとエッジコンピューティングをビジネスに生かすのに役立つものになるとしている。

 「企業は、コンピューティングとデータストレージを、データが生成される場所に近づけることができ、データによって生まれた洞察に基づいて行動することを容易にする」とし、「5Gとエッジコンピューティングの世代は急速に到来しており、携帯電話が消費者にもたらした影響と同様に、5Gは、エンタープライズコンピューティングにも大きな影響を与えることになる。このチャンスをつかむためには、いますぐ正しいITアーキテクチャの選択が必要である。5Gとエッジの時代の勝者は、オープンな技術と標準に基づいたハイブリッドクラウドのアプローチを採用する企業になると信じている」などと述べた。

この困難な時代をこれまで以上に強く乗り越えていきたい

 最後の話題として、クリシュナCEOは、テクノロジーを活用して自然災害などへの対応を図る世界規模のハッカソンである「Call for Code」に触れ、「今年は気候変動への取り組みと、新型コロナウイルスへの対応に貢献することがテーマになっている。課題の緊急性を考えれば、開発を加速させ、現場での実装も加速させる必要がある。7月31日まで続く今年のコンペティションに参加を希望する開発者は、Callforcode.orgにアクセスしてほしい」と呼びかけた。

 締めくくりに、「IBMは、この困難を傍観するのではなく、重要なプレーヤーとして挑んでいく。今回のバーチャルイベントは、企業の競争優位性の維持と、今後のより良い日のための成長の基礎を強化するために、DXへのパスを加速させるために設計している。この期間に、ともに学び、ともに恩恵を受け、この困難な時代をこれまで以上に強く乗り越えていきたい」とした。

 なお日本IBMでは、5月22日午後3時~5時まで、バーチャルイベント「Think Digital Japan」を開催する。今回の「Think Digital Event Experience」の主要セッションから重要なポイントを、日本の企業やパートナーなどを対象に解説。日本IBMの山口明夫社長の講演も行われるほか、ライブチャットへの投稿に対して、同社のエキスパートが直接回答するQ&Aセッションも用意する。参加費は無料で、事前登録制となっている。