大河原克行のキーマンウォッチ

日本マイクロソフト・吉田仁志社長に聞く、「MSがこれから変わること、変わらないこと――」

「DXといえば、マイクロソフト」

――2020年の年頭所感の中では、「DXといえば、マイクロソフト」というメッセージも盛り込みました。これも吉田社長が就任以降に打ち出した新たな言葉ですね。

 経営にはさまざまな指標があり、それを達成することは大切なことです。しかし、お客さまから認知をしてもらう、信頼をしてもらうということこそが、さらに大切なことだと思っています。

 ビジネスを変革したいと思ったときに、まずは日本マイクロソフトに声をかけてみよう、DXに取り組むのならば、まず日本マイクロソフトに声をかけるのがいいだろう、と記憶に残り、認知してもらえる状況にしたい。それをきっかけにしてお客さまを成功に導くことが、私たちの喜びであり、私たちにとって達成感を感じることができるものだといえます。これは、「喜びの指標」という言い方をしてもいいのではないでしょうか。

 DXは、あらゆる企業にとって避けては通れないものです。そこにおいて、「DXといえばマイクロソフト」と言ってもらうことこそが、お客さまの成功を支援する役割を果たすことができ、私たちの喜びが増えることになると考えています。

 「お客さまの成功が、マイクロソフトの成功である」ということを常に念頭に置き、日本の社会変革に貢献していきたいですね。

日本マイクロソフトのミッション

――「お客さまに寄り添うマイクロソフト」、「DXといえば、マイクロソフト」という言葉を発信した背景には、むしろ、そこが日本マイクロソフトの弱点だったと感じていたのですか。

 これらが、日本マイクロソフトに足りないことだとは思っていません。むしろ、答えは逆だったといえます。DXは、多くの日本企業が取り組まなくてはならないと感じています。

 私自身も前職の立場から、日本企業に対してなにができるのだろうか、ということを自問自答し続けてきました。そうした中、名だたる企業がDXに成功できていないという状況がありながらも、マイクロソフトはこれだけ大きな規模の企業であるにも関わらず、DXを実践して、成果を挙げている。そこは、経営者の立場から見ても、とても強い関心がありました。

 実際、日本マイクロソフトの中に入ってみると、想像以上に変化していたことを実感しました。特に感じたのは、「ここまでの覚悟を持ってやっていたんだ」という「覚悟の深さ」です。そして、日本の企業がDXをするには、それだけの「覚悟」が必要だと思ったわけです。マイクロソフトのDXの取り組み方や成果を、もっと日本の企業に伝えていかなくてはいけない。それをお客さまの目線において提案をしなくてはいけない。それがこれらのメッセージを打ち出した背景だといえます。

――マイクロソフトがDXを実現できた理由はなんですか。

 マイクロソフトはテックカンパニーです。しかしDXを推進する際に、最後の話になったのがテクノロジーでした。DXにおいては、全体のビジョン、ミッションを定義し、自分たちの在り方、目指す姿はなにかを描くことから始めなくてはなりません。

 それをかみ砕いていったときに、人事部門や財務部門、営業部門、マーケティング部門はどうするのか、サプライチェーン全体はどうするのかといったことを議論し、そこにテクノロジーを当てはめていくことになります。

 マイクロソフトは、プロダクトアウト型の会社から、お客さまに寄り添ったクラウド時代の会社に変えていかなくてはなりませんでした。言い換えれば、自分たちが不得意なことに取り組んでいかなくてはならないということでもあったわけです。

 マイクロソフトが目指す姿を実現するには、お客さまを知らなくてはいけませんから、まずはお客さまとの時間をたくさんつくる。そのためには、なにが必要なのか、なにをやるべきか、ということを明確にしたわけです。

 それを実現する上で、最後にあるのがテクノロジー。ようやくここで、マイクロソフトはテックカンパニーであるという強みを生かして、自分たちでテクノロジーを改良し、それを活用するフェーズに入るわけです。

 例えば、AIを活用して、お客さまと一緒にいることにどれだけの時間を費やしているか、どんな会話をしているのかということを常にチェックし、活動を改善するといった取り組みなどに落とし込むわけです。

 日本マイクロソフトでは、自らを「働き方改革推進会社」と言っていますが、これも働き方を改革することが目的ではありませんでした。働き方を改革するのは、目的ではなく、ビジネストランスフォーメーションをするための手段だったわけで、そこにテクノロジーを活用したのです。

 いま、マイクロソフトにおいては、こうした経験をもとにして、絵(ビジョン)を描くためにはどうするのか、チェンジマネジメントをするにはどうするのか、そこにテクノロジーは何を活用すればいいのかということを、グローバルで標準化していこうという動きがあります。

 もちろん、日本マイクロソフトも日本の市場におけるDXの経験があり、それを反映することができます。日本ではまだクラウドの立ち上がりが遅いという課題もあります。他国での成功例を学びながら、そこにいまの日本の企業が置かれた立場や環境を考慮して、日本のお客さまが求めるような形にして提案することを考えています。