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NECのグローバル事業、再編以来初の黒字化 海底ケーブルの成長が今後の鍵の1つに

GAFAが主要顧客になってきている――、海底ケーブル事業の現状を見る

 日本電気株式会社(以下、NEC)のグローバル事業が、事業体制を再編以来、2020年度に初めて黒字転換し、今後、さらに成長戦略を加速する。

 中核となるのは、NEC Software Solutions UK(旧Northgate Public Services)、KMD、Avaloqの買収3社によるデジタルガバメント/デジタルファイナンス(DG/DF)の推進と、GoogleやFacebook、Amazonなどからの受注によって好調な海底ケーブルによる海洋システム事業の成長だ。

 NEC 執行役員副社長 グローバルBU担当の熊谷昭彦氏は、「2018年度にスタートした新生グローバルBUは大赤字を抱えてスタートしたが、2020年度に晴れて黒字化できた。2020年度までの中期経営計画ではFix & Buildに取り組み、M&Aやポートフォリオの入れ替えにより、強固な基盤構築を進めてきた。これに対して2025中期経営計画では、Profitable Growth & Globalizationをテーマに、成長分野に集中し高収益を目指す。NECの強みを生かせる環境が整った。真のグローバルカンパニーに踏み出していくことになる」と述べた。

 2020年度のグローバル事業の売上収益は4500億円、調整後営業利益は75億円。営業利益率は2%となった。2021年度の見通しは、売上収益が4600億円、調整後営業利益は220億円、調整後営業利益率は5%となる。

2018~2021年度の業績推移

 ディスプレイ事業およびエネルギー事業を譲渡しながらも、売上収益および調整後営業利益ともに成長戦略を描いており、体質改善とともにも、成長戦略を推進する体制が整っていることを示している。

 「事業ポートフォリオの入れ替えが完了し、Profitable Growthの実現に向けた基盤を構築できた。DG/DF事業は、2018年度以降、年平均成長率が30%以上となり、その他事業は5%成長となっている。海底ケーブル事業は2020年度に受注額が1000億円を突破。生産設備を20%増設した」などと述べ、「DG/DFではシナジーの最大化、海洋システムでは、輻輳(ふくそう)する大型プロジェクトに対応できる事業遂行力の強化を進める」とした。

 一方、収益改善を目指す基盤領域では、OSS/BSS(運用支援システム/ビジネス支援システム)において、Netcrackerのクラウドビジネスへの移行によって収益性が改善。グローバル5G O-RAN事業との連携も行った。ワイヤレスソリューション事業では、高付加価値や有料サービス化の推進による収益重視の事業運営、恒常的黒字化体質の確立に取り組む。また、5Gへの移行に伴い、ミリ波製品のラインアップを強化。伝送容量の拡大に対応する。

 「Netcrackerは250社に導入されており、これ以上、ボリュームの拡大は難しい。ハードウェアによるボリューム依存型の収益確保からの脱却し、クラウドによる安定した利益の創出が課題になる」とした。

 グローバル事業全体で、2025年度までに売上収益は年平均成長率4~5%程度を計画。調整後営業利益は10~11%を目指す。

中期経営計画の実現に向けて

 なお事業特性にあわせて、事業遂行をするCOE(Center Of Excellence)機能を、日本以外の地域に設置。また、ソフトウェア開発と間接業務機能をインドに集約して効率化。グローバル全体で組織力強化、人材力の最大化を図る。「グローバル事業は、全世界に約2万9000人の社員がいるが、そのうち2万8000人強が海外にいる外国人。日本にいるのは500人強。ゼネラルマネージャー以上の外国人比率は28%となっており、これをさらに増やす」としている。

機能のグローバル最適配置
グローバル人事戦略

海洋システム事業とは?

 注目しておきたいのが、海洋システム事業だ。

 NECは、1964年に太平洋横断海底ケーブル(TPC-1)用装置をAT&Tへ納入したことから、海洋システム事業を開始。1985年からは光ファイバーを活用した海底ケーブル敷設工事を開始している。これまでに地球7.5周分となる30万kmの敷設実績を持ち、全世界におけるシェアは第2位。約30%を占めている。

 海底ケーブルの寿命は約25年と長期であり、深海8000メートルの水圧に耐えられる高い信頼が求められている。NECでは、太平洋横断距離に対応した光伝送テストベッドなどを持ち、品質を検証。さらに、国内で開発・生産を行う体制を敷いている。

海底ケーブルシステムの特徴

 光海底ケーブルは福岡県北九州市のOCC海底システム事業所で生産され、海底中継器は、山梨県大月市のNECプラットフォームズ大月事業所で生産。光伝送装置や給電装置といった陸上装置はNECが開発し、セレスティカ・ジャパン(旧NEC宮城)で生産している。

 海底ケーブルは、すでに全世界で400本以上、延べ約120万kmが敷設されており、国際通信の99%を担っているという。

NECの生産拠点
海底ケーブルの製造を行う北九州市のOCC

 最新の光伝送技術を用いた場合、光海底ケーブルシステムで伝送できるデータ容量は400Tbpsに達し、1ケーブルあたり約1万3300枚のDVDを1秒間に送信できたりする伝送容量を持つ。

海底ケーブル通信と衛星通信との比較

今後の伸びが期待できる海底ケーブル、太平洋に加えて大西洋地域にも進出

 これだけ多くの敷設が完了している海底ケーブルだが、2026年度にかけては、年平均成長率は30%以上と高い伸びが想定されている。なかには、2035年まではその成長が続くとの予測も出ているという。

 背景には、通信サービスの急速なグローバル化や5Gの普及などがある。同時に、これまでの主要通信キャリアによる敷設だけでなく、GAFAが主要顧客になってきている変化も見逃せない。実際、わずか10年前には10%以下だったコンテンツプロバイダーによるデータ流通構成比は、70%近くにまで拡大。自ら海底ケーブルを敷設するケースが増加している。

海洋システム事業の顧客

 これまで、NECでは太平洋地域を得意としてきたが、今後は大西洋地域にも積極的に乗り出す姿勢をみせる。既存のケーブル本数は多くとも、新たなケーブル建設需要が見込まれるためだ。北大西洋地域では、18本のケーブルが敷設されているものの、そのうち建設後20年を経過したケーブルが11本あり、伝送容量が小さいのだという。

 太平洋横断ケーブルのFaster Cable Systemは、Googleから受注。インド洋で初めて敷設したCANI(Chennai Andaman & Nicobal Islands)はインド政府によるプロジェクトだ。また、世界初となるブラジルとアンゴラの南大西洋横断ルートであるSACS(South Atlantic Cable System)もNECが受注した。受注した案件は1年後からプロジェクトが開始し、完了まで約3年を要するのが普通だ。

 「NECがこれまで獲得してきた案件は、ほとんどがアジア太平洋であったが、米州や大西洋での案件獲得にも乗り出している。さらに、その主要顧客はGoogleやFacebook、Amazonなどであり、関係がより緊密になっている。ここ数年はGAFAが独自で回線を引きたいという需要が高まってきており、今後もこの傾向は続くだろう。これらの企業のプロジェクトに参画したい」と、NECの熊谷副社長は語る。

NECの最近の海底ケーブルプロジェクト
CANI(Chennai Andaman & Nicobal Islands)
SACS(South Atlantic Cable System)

48心(24ファイバペア)の製品化など、技術開発にも取り組む

 一方、伝送容量を拡大するために、NECでは他社に先行して、いくつかの取り組みを行っている

 ひとつは、2021年3月に発表した世界初の48心(24ファイバペア)の製品化である。これまでは最大だった32心(16ファイバペア)のケーブルと比較して1.5 倍の伝送容量を実現し、毎秒0.5ペタビット(0.5Pbps)の設計容量を可能にしている。中継器とケーブルの設計にわずかな変更を加えるだけで実現しており、高密度での超大容量、高速通信環境を可能にする。

 この海底ケーブルを利用した第1号案件として、米Facebookと、米国と欧州を結ぶ北大西洋地域におけるシステム供給契約を締結。NECにとっては、初の北大西洋横断ケーブルの敷設になる。

世界初の48心(24ファイバペア)を製品化

 もうひとつは、NEC、OCC、住友電気工業の3社により、世界初となるマルチコアファイバを収容した海底ケーブルの開発である。

 1本のファイバケーブルに複数の光伝送路を設けるもので、4倍のコアを有する非結合型4コアファイバを適用しており、ファイバのサイズを維持したまま伝送容量を大幅に拡大できる。OCC-SC500シリーズのLW(Light Weight)ケーブルを使用しており、17mmの細径ながら、水深8000mの海底でも耐えうる強度を有している。

 マルチコアファイバを適用することで空間が小さい細径ケーブルを用いて伝送容量を拡大できるため、広径ケーブルに比べて材料費を安く抑えたり、敷設船に効率的に積載できたりする。今後、マルチコアファイバの量産化技術の開発、長期利用における信頼性の検証、マルチコアファイバに対応した海底光中継器の開発を進め、マルチコアファイバケーブルを活用した国際データ通信網の拡充に貢献するという。

シングルコアファイバとマルチコアファイバ

 「技術的に差別化を図るための投資を進めており、多心化では業界をリードしている。今後の5Gの普及によって、大容量化ニーズが高まる。今後は、多心化がキーになると考えており、多心化での技術的差別化による付加価値向上や、工事や生産性の向上に向けた投資を行っていく」とした。2020年度には、生産体制を前年比で20%高めたという。

 海底ケーブルプロジェクトにおけるNECの強みは、超高信頼のケーブルや中継器の設計、製造技術や、高度な海底ケーブル敷設および埋設技術などに加えて、各国で異なる法令、許認可、慣習などの状況を知り尽くしたプロジェクト実行力にあるという。

 「最適なルートの決定とケーブル障害を防ぐケーブル埋設技術のほか、海域が入り組んだアジアでの実績は、さまざまな海域で生かすことができる。太平洋やアジアに加えて、大西洋、インド洋も重要な市場と考えており、アジアからグローバルへ事業を拡大し、トップシェアを目指す」とした。

NEC 執行役員副社長 グローバルBU担当の熊谷昭彦氏