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KDDI研究所やNECなど6者、マルチコアファイバーによる大容量光海底ケーブル技術を開発・実証

現行の約7倍までの容量拡大可能性を確認

 KDDI総合研究所と日本電気(NEC)、東北大学、住友電気工業、古河電気工業、オプトクエストの6者は28日、マルチコアファイバーによる光海底ケーブルの大容量化を実現する基盤技術を開発したと発表した。

 アジア域などをカバーする3000km級の光海底ケーブルシステムにおいて、従来システムのDunantケーブルの250テラビット/秒に比べて7倍の容量となる1.74ペタビット/秒にまで容量を拡大できる可能性を確認。今後は2025年以降の実用化に向けて、参加各社が個別に量産化技術や運用保守技術など、実用化に関する研究開発を推進していくことになる。

主要成果

 KDDI総合研究所 主席研究員の森田逸郎氏は、「光海底ケーブルは、国際通信の重要なインフラとなっており、すでに地球30周分となる100万km以上が敷設されている。しかも、超高精細映像の流通やIoT、ビッグデータ、AIなどの普及により、10年後には現在の15~30倍に回線需要が増加すると予想されている。だが、これまでは光ファイバーの心線数の拡大によってカバーしてきたものの、海底ケーブルや中継器のスペースの制限などにより、現在の構造のままでは、これ以上の大幅な心線数の拡大は困難になる。さらなる大容量化、長距離化に向けた開発も必要であると考えているが、今回、マルチコアファイバーを用いた大容量光中継伝送システムの基盤技術を確立したことで、継続的な拡大が予想されているデータ流通量に対応するため、いまから備えておくことができる」などとした。

 今回の開発成果は、4コアファイバーを32心(16対)収容した光海底ケーブル、複合機能デバイス、光増幅中継器などで構成される。NECでは、48心を収容した光海底ケーブルを実用化しているが、「光ファイバーの構造が同じであるため、海底ケーブル化はできるが、課題になるのは中継器が4コアファイバー48心に対応できるかどうかである。現状、そこは見えていない」(KDDI総合研究所の森田氏)とした。

マルチコアファイバーによる、さらなる大容量化
32心海底ケーブル(NEC)

 なお今回の共同研究は、総務省委託研究 研究開発課題である「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」技術課題Ⅱ「マルチコア大容量光伝送システム技術」によって行われている。幹事会社は、KDDI総合研究所。共同研究プロジェクト名は「OCEANS」と呼称される。

共同研究プロジェクト“OCEANS”

5つの基盤技術を開発・実証

 今回の共同開発では、光が伝搬するコアを光ファイバー中に複数設けられるマルチコアファイバーに着目。従来の光ファイバーの限界を打破する技術として、5つの基盤技術の開発、実証を行い、これらにより、光海底ケーブルシステムの持続的な大容量化を実現することができるようになるという。

 KDDI総合研究所 主席研究員の森田逸郎氏は、「マルチコアを収容したケーブルを開発しただけでなく、中継器を含めてトータルに開発し、構成することができる点で世界初の技術になる」と位置づける。

プロジェクトの成果

 ひとつめは、「マルチコアファイバーを用いた長距離伝送方式の開発、実証」である。

 新たに開発したマルチコアファイバーは、4つのコアを設けており、通常の光ファイバーの4倍の伝送容量を実現。109テラビット/秒の超大容量光信号を3120km以上伝送することができるほか、56テラビット/秒の光信号を、1万2000km以上の距離で伝送が可能であることを実証したという。

 また、光ファイバー構造と製法の最適化により、コア間の信号干渉(コア間クロストーク)を抑圧したマルチコアファイバーとしては、世界最小級損失の0.155dB/kmを実現しつつ、60dB/100km以下の低クロストーク性も確保したとのこと。

 古河電気工業 研究開発本部 情報通信・エネルギー研究所 主幹研究員の杉崎隆一氏は、「4つのコアをひとつのファイバーを収容しただけでなく、マルチコアファイバーとして最小の伝送損失を実現したことがポイントである。1550mでの損失は0.155dB/kmであり、1km伝送後の光強度は96.5%となる。通常の光海底ファイバーと同等レベルであり、実用可能だといえる。また開発した光ファイバーでは、1万2000kmの伝送が可能になり、これにより太洋横断級システムに適用できる。信号品質を劣化させるクロストークを抑圧し、信号漏えいは100kmあたり100万分の1に低減できている」とした。

 従来の光海底ファイバーと同じ径サイズであることから、既存ファイバーとの置き換えも可能だという。

マルチコアファイバーを用いた長距離伝送方式の開発・実証

 2つめは、「マルチコアファイバーを収容した光海底ケーブルの開発」である。

 マルチコアファイバーを収容した光海底ケーブルは世界初であり、OCCの「SC500シリーズ」のLW(Light Weight)ケーブルを利用。光ファイバーのサイズやケーブル外径を維持したまま、4コアファイバーを最大32心まで収容でき、128コアによる大容量伝送が可能になる。これを利用した水中での長距離伝送試験では、光ファイバーそのものの試験結果と比較して、光信号パワーの減衰量、コア間クロストークなどの光学特性に大きな変化はなく、良好な伝送性能を得ることに成功したという。

 NEC 海洋システム事業部 事業部長代理の稲田喜久氏は、「直径17mmのケーブルを使用しつつ、海底8000mに耐えうる強度を有している。また、ケーブルサイズ、ファイバーサイズを維持しつつ、マルチコアによる容量拡大を実現した。非結合型4コアファイバーを32心実装した15kmのプロトタイプを開発したところ、海底ケーブル化する製造工程の前後でマルチコアファイバーの光学特性には有意な変化がないことも確認できた」とした。

 また、「今回の技術を、日本の技術として実用化することで、光海底ファイバー市場におけるシェア拡大につなげたい」とも述べている。

マルチコアファイバーを収容した光海底ケーブルの開発

 3つめの「マルチコアファイバーの特性評価技術の開発」では、コア数が4つ以上のマルチコアファイバーと、それを収容した海底ケーブルの光学特性を評価する2つの技術を開発した。

 ひとつめの波長掃引法は、住友電工が開発。マルチコアファイバーのモード依存損失、クロストークを評価できる。もうひとつのOTDR法では、東北大学が開発を行い、マルチコアファイバーの損失、クロストークの長手分布を評価できるという。

 両方式を活用し、60kmの4コアファイバーケーブルを評価し、ファイバー特性から予測されるクロストーク性能が、ケーブルから得られていることが検証できたとともに、両方式の測定値が誤差1dB以内で一致することも実証したという。

 住友電気工業 光通信研究所 光伝送媒体研究部グループ長の長谷川健美氏は、「マルチコアファイバーでは、ファイバーとケーブルの伝送性能を評価する必要がある。コアが複数あることから、いままでとは異なる評価技術が必要になる。結合型、非結合型の2つのマルチコアファイバーを評価する技術を開発した」と述べた。

マルチコアファイバーの特性評価技術の開発
可搬型光ファイバー評価装置(住友電工)

 4つめは、「空間多重型高密度光デバイスの開発」である。

 ここでは、4コアファイバー用アイソレータ内蔵 Fan in/Fan out(ファンイン/ファンアウト)デバイス、4コアファイバー用Fan out付きTAPモニタデバイス、4コアファイバー用O/E変換器付きTAPモニタデバイスの3種類のマルチコアファイバー光アンプ用複合機能デバイスを開発。複数機能をひとつのデバイスに集約するとともに、世界最高水準の低損失となるtyp0.4dBを実現し、同時に小型化も達成したという。

 オプトクエスト 技術開発第一部 部長の小林哲也氏は、「光機能デバイスを複合化することで、複数機能を有した光機能デバイスでも、損失1.0dB以下、デバイスサイズを1.5倍以下にすることができた。長距離海底ケーブル伝送実現のためには、低損失、小型化、高信頼性が必要であり、そのために、機能複合化技術、エポキシフリーYAGレーザー溶接技術を用いた」などとした。

空間多重型高密度光デバイスの開発

 5つめは、「マルチコア光増幅中継方式の開発、実証」である。

 シングルコア光増幅器とFan in/Fan outデバイスで構成するマルチコア光増幅器よりも小型なマルチコア光増幅器を開発。基本的な光増幅動作を実証したという。

 現在のシングルコアベースのマルチコア用光増幅器では、コア数に応じたゲインブロックが必要となり、コア数が増加するのに比例してゲインブロックも増加する。そのため、トラフィックの需要増に応じて光海底ケーブルシステムを大容量化し続けると、将来的に現行サイズの海底ケーブル中継器内には収容しきれなくなるという課題がある。開発したマルチコア光増幅器では、ひとつのゲインブロックで複数コアを一括して増幅するクラッド励起方式を採用するとともに、そのゲインブロックを構成する部品やその配置を工夫することで、体積を従来の半分程度にすることができたという。

 NEC システムプラットフォーム研究所 研究マネージャの細川晃平氏は、「中継器は、伝送して弱くなった光信号を増幅する装置であり、コア数に比例して大型化する課題を解決する必要があった。19コア一括アイソレータなどのマルチコア用小型部品を開発し、最適な部品配置により、現行サイズの半分程度となる125×125×41mmのマルチコア光増幅器の試作機を実現することができた」という。

マルチコア光増幅中継方式の開発、実証
(右から)KDDI総合研究所 主席研究員の森田逸郎氏、古河電気工業 研究開発本部 情報通信・エネルギー研究所 主幹研究員の杉崎隆一氏、NEC 海洋システム事業部 事業部長代理の稲田喜久氏、住友電気工業 光通信研究所 光伝送媒体研究部グループ長の長谷川健美氏、オプトクエスト 技術開発第一部 部長の小林哲也氏、NEC システムプラットフォーム研究所 研究マネージャの細川晃平氏