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フェンリルと三菱地所、ミニプログラム配信基盤を用いた「TOKYO TORCH App for 常盤橋タワー」を活用

 東京駅日本橋口前の常盤橋街区の再開発プロジェクト「TOKYO TORCH」において、ビル就業者専用アプリ「TOKYO TORCH App for 常盤橋タワー」が活用されている。

 同プロジェクトを推進する三菱地所が、Webブラウザやスマートフォンアプリなどを開発するフェンリルのミニプログラム配信プラットフォームを採用し、両社で共同開発したアプリを、オフィスフロアに入居する企業に勤務する社員に提供。TOKYO TORCH内のさまざまなシーンで利用可能にしている。

 三菱地所では、今後竣工予定の高層ビルの一棟(Torch Tower)への展開に加え、ほかのオフィスビル施設にも横展開する予定だ。またフェンリルでは、オフィスビルやマンションを展開する大手不動産デベロッパーや、ショッピングモールなどの商業施設管理者などにミニプログラム配信プラットフォームを展開し、今後、事業化を加速することになる。

常盤橋タワー外観

“アプリのなかで利用できるアプリ”がもたらすメリット

 フェンリルが提供するミニプログラム配信プラットフォームは、最近注目を集めているスーパーアプリの仕組みを活用したものだ。中国のWeChat、米国のFacebookのほか、日本ではLINEやPayPayなどが採用していることで知られる。

 “アプリのなかで利用できるアプリ”であり、ユーザーごとに最適なコンテンツやサービスを提供したり、迅速に柔軟な形で新たな機能を提供したり、ひとつのログイン環境のなかでさまざまなサービスを提供する環境を実現したりできるというメリットがある。

 例えばスマホ向けアプリは、iPhoneの場合にはApp Store、Androidの場合にはGoogle Playを通じて提供することが基本だが、これらの公式ストアのスケジュールによって配信されるため、アプリ開発側が提供開始時期をコンロトールできないという課題がある。スーパーアプリの仕組みを活用することで、こうした課題も解決できる。

 また、プラットフォーム内のコンテンツは、複数のアプリに配信が可能なほか、配信コンテンツを組み替えることでアプリの横展開も可能といったように、アプリやサービス資産を、柔軟に有効活用できるメリットもある。カスタマイズにも柔軟に対応できることから、よりパーソナライズしたコミュニケーション環境の構築にも適している。

ユーザーに最適な体験を提供するために

モバイル入館証や食堂での決済、施設の予約などに利用可能

 TOKYO TORCHは、東京駅周辺で最大となる敷地面積3.1haに及ぶ大規模な再開発プロジェクトで、2021年7月に、地上40階、地下5階建ての常盤橋タワーがオープン。9月から同タワーオフィスフロアへの企業の入居が始まっている。

 これらを第1弾として、大規模広場「TOKYO TORCH Park」や商業ゾーンの「TOKYO TORCH Terrace」のほか、2027年には地上約390mの高さを誇るTorch Towerの竣工が計画されており、街区内の下水ポンプ所および変電所といった東京都心の重要インフラの機能を維持しながら、10年間を超える事業期間をかけて、段階的にビル開発を進めている。

 三菱地所とフェンリルが開発した「TOKYO TORCH App for 常盤橋タワー」は、利用者などから、一般的に「常盤橋タワーアプリ」と呼ばれており、入居する企業に勤務する従業員向けに提供される。最終的には約8000人の利用が想定されている。

 アプリを利用した非接触型のモバイル入館証として利用。多くの人がこのアプリを利用して入場ゲートを通過し、オフィス内に入っている。ただし、それだけの用途ではない。常盤橋タワーの食堂の利用時には、予約や注文、決済ができるほか、会議室の予約、コーヒーのデリバリーなどにも利用可能。また、ビル周辺の天気予報の表示なども行える。

常盤橋タワーアプリ

 具体的には、常盤橋タワー3階の食堂においてオーダリングシステムと連携。座席予約、注文、料理のできあがり通知、決済がアプリで行える。8階のコンファレンスルームでは、アプリを使ってスケジュール表から施設が予約可能であるほか、カフェからのデリバリー、利用料の決済も行える。さらに、TOKYO TORCHで開催される各種イベント情報も配信されている。

 基本機能として、ログイン機能、モバイル入館証、プッシュ通知機能を搭載。標準で提供されるミニプログラムとしては、食堂予約機能、会議室予約機能、カフェデリバリー機能、飲食店ガイドや施設情報などが用意されている。

 「常盤橋タワーのオフィスで働く就業者にとって、オフィスワークをより便利に楽しくする機能を充実させた。8階のカフェから執務フロアへのデリバリーが使いやすい、といった声が出ている。緊急事態宣言下では、出社する人数が限定され、食堂や会議室も予約をせずに利用できるということもあり、まだアプリの利用者数は少ないが、今後、出社する人が増加することで、さまざまなシーンで利用してもらえるだろう」(フェンリル)。

 常盤橋タワーのオフィスフロアへの入居が本格化するのは12月以降で、クライム、クラレ、東京海上ホールディングス、東京海上日動火災保険、東京海上日動あんしん生命保険、古河機械金、古河電気工業、古河林業、医療法人財団医親会 海上ビル診療所など、約9割のオフィス入居テナントが決定。最終的には8000人が利用することになる。現時点では、約400人がダウンロードして利用しているという。

 将来的には、ミニプログラムを増やし、そのなかから利用者が選択するといったことも想定。個々のユーザーが最適なサービスを組み合わせて利用できるようになる。

 三菱地所とフェンリルでは、2019年12月から、ミニプログラム配信プラットフォームの導入について検討を開始。三菱地所の要望を聞きながら、プラットフォームの開発を推進してきた。常盤橋タワー内の入退出管理システムや、カフェのオーダリングシステム、施設の予約システムとの連携を進めながら開発を行っていったという。「各種システムの開発が進行するなか、それぞれを担当する開発会社やシステムインテグレータと要件や仕様を詰めながら開発を行ってきた。結果、竣工のタイミングに、すべてを稼働させることができた」とする。

 フェンリルは、WebブラウザのSleipnirの開発で知られるほか、これまでに約400社600種類のアプリを開発。デザインと操作性にこだわったUI/UXには定評がある。

 常盤橋タワーアプリの開発においても、同社が培ってきたデザインのノウハウを活用。見た目の派手さは抑え、日々利用するアプリとして使いやすいものを開発した。また、長期間に渡って使用できるアプリとして、飽きがこないデザインにしただけでなく、ほかのオフィスビル施設にも横展開することを前提としてデザインを行ったという。

 なお三菱地所では、常盤橋タワーのほか、丸の内ビルディング、大手町パークビルディング、丸の内二重橋ビルで展開している「ザ・プレミアフロア」の予約サービスなどにも、このプラットフォームを利用していくことになるとした。

 フェンリルのミニプログラム配信プラットフォームは、クラウド基盤にAWSを採用し、SPAとコンテナを活用することで、拡張性と可用性を確保している。

 システムは、ミニプログラムを配信するための配信プラットフォーム、配信プラットフォームを運営する事業者向けの配信管理CMSと、アプリを運営する事業者向け配信管理CMSで構成。ユーザーは、標準コンテンツとなるアプリを一度ダウンロードすれば、あとは、必要に応じて提供されるミニプログラムを選択し、利用する形になる。

サービス基本構成のイメージ

ミニプログラム配信プラットフォームの事業化を検討

 フェンリルでは、今後、ミニプログラム配信プラットフォームを事業化していく考えを示す。

 まずは、オフィスビルやマンションを展開する大手不動産デベロッパーのほか、ショッピングモールやアウトレットモールなどの商業施設を管理、運営する企業などに、ミニプログラム配信プラットフォームを提案していくという。

 「ミニプログラム配信プラットフォームは、オフィスビルでは数千人規模の入居者数があったり、複数のマンションを展開したりしている企業などが対象になる。ひとつのプラットフォームで、マンションごとに提供する機能を変えていくといった提案も可能だ。
 また、自治体での住民サービスなどにも利用できると考えている」とする。

 常盤橋タワーアプリでは、配信基盤やコンテンツ基盤を三菱地所が運営しているが、これをフェンリルが管理するといった提案が可能であるほか、プラットフォーム全体をPaaSとして提供したり、アプリ開発までを担ったりするなど、さまざまなビジネスモデルを検討している。また、SDKを提供することで、第三者がミニプログラムを開発できる環境づくりも想定している。

 「ミニプログラム配信プラットフォームの活用により、スーパーアプリの環境を短期間で構築、運用できるようになる。常盤橋タワーでの実績をもとに、提案を積極化させたい。いまはニーズの掘り起こしに力を注いでいる」としている。