特別企画
ルータ単体からネットワーク全体へ――、着実に進むヤマハ ネットワークの広がりを追う
2018年3月29日 06:00
ヤマハが1995年にネットワーク機器を発売してから、今年で23年目となる。
当初はISDNルータ1機種からスタートし、その後、さまざまな用途へラインアップを拡大しながら展開してきたが、今ではルータ以外にも、ネットワークスイッチや無線LANアクセスポイント、クラウド型管理サービスなどを提供するに至っており、ユーザー層も広がりを見せているという。
本稿では、ヤマハ ネットワーク製品の歴史を追いながら、その広がりについて見ていこう。
20年以上の歴史を持つ国産ルータ
ヤマハルータは、ISDNやデジタル専用線でインターネットと接続するための「RT100i」から始まった。1995年当時、ISDNの登場によってそれまでのアナログ回線よりも高速に通信を行えるようになったものの、ルータやターミナルアダプタ(TA)は高価で、中小規模の企業や事業所がおいそれと導入できるようなものではなかったという。
しかし、標準価格26万円(税別、以下同じ)で登場したRT100iにより、ISDNによる64k/128kの高速通信が身近なものになったのだ。
こうした経緯については弊誌でも何度か取り上げてきたので、詳しくはこちらを参照してほしい。
日本のインターネットを成長させた? ヤマハ初のISDNルーター「RT100i」
当時の“仕掛け人”に発売までの経緯を聞く
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/728150.html
ヤマハでは続いて、1997年1月にRT102iをリリース。以後も、RT103i(1998年10月発売)やRT105i(2001年7月発売)、ブロードバンド回線向けとなったRT105e(2001年12月発売)/RT107e(2005年10月発売)などを継続的に提供している。
さらに、ユーザーニーズをくみ取った高性能化、高機能化を進め、この製品ライン(RTxシリーズ)は、Gigabit Ethernet(GbE)対応のRTX810(2011年11月発売)、そして最新のRTX830(2017年10月発売)へとつながっていく。
RTX810も発売当時としては高性能なモデルであったが、RTX830では最大スループット(双方向)が1Gbps→2Gbpsへ、最大VPNスループット(同)が200Mbps→1Gbpsへとさらなる高速化を果たしている。
またRTX830では、物理的な複数拠点へのVPN接続を、ひとつのVPN設定のみで実現するマルチポイントトンネル機能、あて先のFQDNによって経路制御を行える機能など、ネットワークに求められる要件の変化に対応した機能強化も実施されていく。
ヤマハ、RTX810の後継VPNルータ「RTX830」を10月に発売 “ヤマハ流SD-WAN”も視野に
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1080606.html
高性能な上位モデル「RTX1000シリーズ」
製品ラインとして、RTxシリーズの上位に位置付けられるのが、RTX1000(2002年10月発売)を端緒とするRTX1000シリーズだ。
当時、企業向けのブロードバンドルータとしてはRT105eが提供されていたが、スループットは最大16Mbpsにとどまっており、ブロードバンド回線が高速化する中で、コストパフォーマンスが高く、かつ高速なルータが求められていた。
そうした声に応えて発売されたRTX1000では、スループットが最大100Mbps、VPNスループット(IPsec/3DES)が最大55Mbpsへと高速化されたほか、2系統のルーティング(通常はWAN×1系統、LAN×1系統として使用)だったRT105eとは異なり、独立3系統のルーティングが可能になっている。
また、ヤマハルータの企業向けモデルにおいて、Web GUIを初めて搭載したのもRTX1000から。初期設定はコンソールからの設定が必要であったり、設定できる項目に設定があるなど、今から振り返るとまだ成熟しているとは言えないGUIではあったが、設定のハードルを劇的に下げられるため、当時としては画期的な機能だったといえる。
なお、このシリーズは、2005年1月発売のRTX1100、2008年10月発売のRTX1200、2014年11月発売のRTX1210へと順当に進化。特に、全ポートがGbEに対応したRTX1200は、中小規模拠点向けのベストセラー機として長く市場に君臨していた。
RTX1200では、単にルーティング機能を提供するのみならず、ヤマハのスイッチをコントロールするためのスイッチ制御GUI(後述)を搭載し、“ネットワークの司令塔”としての役割も担うようになっている。
RTX1000シリーズの最新モデルであるRTX1210でも、その役割は変わっておらず、さらに進化したLANマップ機能(後述)が搭載された。性能面でも、ネットワークの高速化にあわせてスループットが最大2Gbps(双方向)へ高速化されるなど順当に進化しており、RTX1200からの置き換えも順調に進んでいるようだ。
なお、RTX1210の開発にあたって行われたさまざまな改善について、クラウド Watchでは開発者へのインタビューを実施している。こちらをお読みいただくと、新機種の開発にあたって、どのような改善活動が行われているか、どのような議論がなされているかがよくおわかりいただけると思う。
LAN管理を強力にサポートする「RTX1210」 開発者が語る“ヤマハルータ”の理念とは
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/yamaha/678065.html
センター向けルータも提供
一方でヤマハは、1996年にはRT200iを、1997年にはRT140シリーズの初代となるRT140iをそれぞれリリースした。これらはRT10xシリーズやRTX1000シリーズとは異なり、センター側や中・大規模拠点での利用を意識した中型・大型の機種で、1998年にリリースされたRT140eはLAN環境向けのEthernetインターフェイスを2ポート搭載しており、国産ブロードバンドルータの魁ともいえる機種である。
このラインでは、RTX1500/RTX2000、RT250i/RT300iなどの製品を経て、RTX3500/RTX5000(いずれも2013年7月発売)の2製品が現在も販売されている。ただし、発売から少し時間が経過してしまっているので、製品のリフレッシュに期待したいところだ。
位置付けの変化した「ネットボランチシリーズ」
こうした法人向けルータとは別ラインで、個人やSOHOなどを主な対象とするRT80iが1997年10月にリリースされた。標準価格は6万6800円で、個人にも簡単に設定できるよう、ヤマハルータとしては初めてWeb GUIを搭載している。また、個人宅での利用を意識し、電話やFAXをつなぐためのアナログポートを備えているのも特徴だ。
1998年には後継として、Net Volante(ネットボランチ)ブランドを初めて冠したRTA50iが登場。ピアノをモチーフとして鏡面塗装された黒色で、"ヤマハらしさ"を強烈にアピールしたこの製品により、ヤマハのネットボランチブランドは広く市場に浸透した。
このネットボランチの系譜は、RTA52i、RTA54i、RTA55i、RT56vを経て、ブロードバンドルータのRT57iや58iへと受け継がれていくが、市場の変化に伴って大きな変化を見せる。コンシューマ向けの安価な製品が多数登場する中で、ヤマハは価格面でこれらに追随せず、高機能かつ高信頼という、これまでに培ってきた特徴を捨てなかったのだ。
その結果、当初は個人やSOHO向けとされていたネットボランチブランドも、徐々に法人やプロシューマ向けにシフトしてく。
その転換点として大きく意識されるのがNVR500(2010年10月発売)だろう。引き続きネットボランチのブランドを掲げながら、NVR=ネット・ボランチ・ルーターと製品型番が一新された。この製品ラインは、かつてのRTA50iなどのVoIP機能を受け継ぎつつ、"ブロードバンドVoIPルータ"というカテゴリで提供されるようになっていく。
現在は、2016年5月に発表されたNVR510、NVR700Wの2つが最新機種となる。このうちNVR700Wでは、RTxシリーズのようにIPsec VPN機能を搭載したり、内蔵無線WAN機能などの最新技術にも対応するなどに至っており、価格面でもNVR700Wは11万8000円と、RTX1210(12万5000円)とほぼ同価格帯となった。
ヤマハでは現在、RTXシリーズを“VPNルーター”、NVRシリーズを“VoIPルーター”と表記しており、クラスの上下ではなく、用途が異なる別の製品ラインとして位置付けているようだ。
2011年、満を持してスイッチを発売
ここまで見て来たように、長年にわたって多くの製品を提供しており、ルータの世界では広く知られるようになったヤマハだが、ファイアウォールや電話帳サーバーといった、ルータから派生したような製品を除くと、ヤマハのネットワーク機器はルータに限られていた。
ところが2011年2月、ヤマハは初のネットワークスイッチとしてSWX2200シリーズをリリース。ネットワーク関係者には大きなインパクトを与えた。
SWX2200シリーズは、制御機能をヤマハのルータに持たせることで、マネージドスイッチであるかのようにポートや帯域の制御、VLANの設定などを行える。いわば、ルータがネットワーク上の各接続を直接制御しているかのようになる、新しいコンセプトの製品だ。
ヤマハが満を持して提供するスイッチ「SWX2200」試用レポート
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/424605.html
使えば納得! ヤマハの新コンセプトスイッチ「SWX2200」モニターの声を聞いた
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/488213.html
RTX1200などとの組み合わせにより、当初からGUIによる設定に対応していたが、ラインアップは8ポートと24ポートのみに限られている上、ヤマハルータとの組み合わせが必須となってしまう。このため、導入はヤマハルータのユーザーが中心となり、広くネットワークスイッチ市場へ展開する、とまではいかなかった。
そこでヤマハでは、スイッチ自体に管理機能を持たせた上位機のインテリジェントスイッチ「SWX2300シリーズ」と、低価格なノンインテリジェントタイプの「SWX2100シリーズ」を2015年中盤に投入。また、ニーズの高まっているPoE給電機能付きの製品も順次発売することにより、ラインアップを継続的に拡大し、ユーザーの細かいニーズに対応できる体制を整えている。
そして2018年3月、最後のピースとして発売したのが、レイヤ3スイッチ「SWX3200シリーズ」と、レイヤ2だがPoE給電に対応したインテリジェントスイッチ「SWX2310シリーズ」だ。これによって欠けていたピースが埋まり、ヤマハのスイッチだけでネットワークを構成できるようになった。
無線LAN環境の見える化を提供するアクセスポイント
もう1つ、ヤマハが注力しているネットワーク製品が無線LANアクセスポイントである。もともと、ネットボランチでは無線LAN機能を搭載したRT60wなどを提供していたが、2013年3月に発売されたIEEE 802.11a/b/g/n対応のWLX302が、法人向けのアクセスポイントとしては初の製品となる。
こちらもスイッチのSWX2200シリーズなどと同様、ヤマハルータを中心にして集中管理を行うことが可能。また、「コントローラー」と呼ばれる役割を設定した1台のWLX302から、ネットワーク上にあるWLX302をまとめて設定したり、それぞれの動作状況をまとめて確認したりする、自律型のコントローラー機能も標準機能として搭載している。
最大の特徴は、無線LANの電波状態を"見える化"する機能をアクセスポイント本体に内蔵している点だ。スループットや周辺のアクセスポイント、チャンネル使用率、CRCエラー率、接続端末の情報などを可視化できる。さらに、ヤマハ独自の基準と検出した値を照らし合わせて状況を色別に表示することで、無線LAN環境の状態を視覚的に把握できるようにしている。
またアクセスポイントの中には、1対1の通信は高速でも同時接続する端末数が増えると不安定になる、といった製品も多いそうだが、WLX302では、2.4GHz帯、5GHz帯それぞれ50台(計100台)の端末を接続してもきちんと利用できるそうで、こうした、ヤマハならではの“安定性”を重視した設計になっているのも特徴といえるだろう。
現行製品としては、IEEE 802.11acに対応した代わりに電波状態の“見える化”機能が省かれたエントリーモデルWLX202(2016年4月発売)、802.11ac wave2に準拠し、管理機能なども強化されている最上位モデルWLX402(2016年11月発売)が提供されている。
なお、WLX302はすでに販売終了となっているが、ヤマハが無線LAN環境についてどう考えているかは、これらの記事をご覧いただければわかりやすい。同様の管理機能は、WLX402、そして今後の製品にも受け継がれていくことを期待したい。
ヤマハならアクセスポイントもスイッチもルーターからまとめて管理
「LANマップ」ではかどるオフィスの無線LAN環境とは
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/693131.html
ヤマハなら別フロアや会議室の無線LAN APも一括で設定
「無線LANコントローラー」ではかどるこれからの無線LAN構築術
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/693142.html
スイッチ制御GUIからLANマップへ進化したネットワーク管理機能
さて、本稿ではネットワークの管理機能として触れてきたが、実はこの管理機能も大きくバージョンアップしてきた。
2011年時点のRTX1200とSWX2200シリーズなどで提供された「スイッチ制御GUI」では、“ネットワークの見える化”を実現していた。ヤマハのルータとスイッチを組み合わせることにより、どのポートになんの機器がつながっているかが見えるようになったため、遠隔からでもネットワークの状況が把握しやすくなり、管理者によるトラブルシュートや障害対応がかなりやりやすくなっている。
ただしスイッチ制御GUIはWebブラウザを立ち上げてないと利用できない、過去の状況がわからない、といった点が課題だった。
そこで2014年のRTX1210からは、ネットワーク機器をレイヤ2レベルで管理する機能をL2MS(Layer2 Management Service)と総称し、さらなる強化を図っている。
この一環としてRTX1210ではGUIを一新し、新たに「LANマップ」機能の提供を開始した。こちらはスイッチ制御GUIとは異なり、バックグラウンドで常に動作しているため、障害時のメール通知などに対応。さらに、見た目も階層構造でわかりやすくなっているほか、スイッチやアクセスポイントに接続されている端末も表示することができる。
特に大きな改善は、過去のある時点の構成を保存できるようにするスナップショット機能だろう。ネットワークの状態を記録しておけば、変更された点を管理者が的確に把握できるようになるため、非常に重宝される機能だ。
「見える化」だけど、見えるだけじゃない! ヤマハが提供する「LANマップ」とは
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/734476.html
なお2018年3月現在、管理機能(マスター機能、以前はコントローラー機能と呼ばれていた)を持つ製品は以下の通りだ。
L2MSマスターWeb GUI | マスター |
LANマップ(ルーター) | RTX830 |
NVR510 | |
NVR700W | |
RTX1210 | |
LANマップ(スイッチ) | SWX2300-24G |
SWX2300-16G | |
SWX2300-8G | |
スイッチ制御GUI | RTX810 |
NVR500 | |
RTX1200 |
LANもWANもクラウドで統合管理
そして、新世代のサービスとして提供されているのが、自社のネットワーク機器をクラウドから監視・管理できる統合管理サービス「Yamaha Network Organizer(YNO)」である。
ヤマハネットワーク機器に搭載されるエージェント機能と、クラウド上で動作するマネージャーが連携することにより、ネットワーク管理者はWebブラウザとインターネットへの接続環境さえあれば、各拠点に設置されている機器へ個別にアクセスすることなく、管理対象機器を統合的にコントロールすることができる。
ダッシュボード画面では、管理対象の機器に関するWAN回線やトンネルの接続状態の異常を、ステータス一覧として把握可能。発生した異常の詳細を一覧表示するアラーム機能や、管理するネットワーク機器のファームウェアバージョンアップ機能、LANマップのうち「一覧マップ」の表示機能なども備えている。
中・大規模のネットワークを管理する場合、これだけでも便利なサービスではあるが、ヤマハではRTX830の発表時に、ルータと連携しSD-WAN(Software Defined WAN)を実現していくことも明らかにした。
例えば、個々の拠点の端末にログインせずに、YNOの画面上ですべてのネットワーク機器のGUI画面操作を行える「GUI Forwarder」、拠点に設置する端末への設定を事前にYNOへ保存しておき、簡単に設定をクラウドから流し込めるようにする「ゼロタッチコンフィグレーション機能」などの提供を予定。
また、今後RTX830に追加される予定の、アプリケーションを識別してコントロールするディープパケットインスペクション(DPI)機能を利用し、個々のアプリケーションの通信をYNOから一元管理する機能なども計画されている。
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このように、個々の製品を地道に強化し、実績を積み上げてきたヤマハだが、L2MSによるLANの統合管理、そしてSD-WANへと、着々とその守備範囲を広げている。
クラウド Watchでは、その進化をこれからも継続して取り上げていく予定だ。