特別企画

ネットワークをクラウドへ拡大する――、ヤマハの目指す次世代のネットワークは?

 ルータから始まったヤマハのネットワーク機器の管理機能は、機器単体の設定から、ネットワークを管理する方向に進化してきた。さらに、ネットワーク管理をクラウドから行うYNO(Yamaha Network Organizer)が登場し、SD-WAN(Software Defined WAN)機能へと進みつつある。

 本稿では、こうしたヤマハの目指す方向性、そして最近追加された機能やこれから予定している機能などを、ヤマハ株式会社の小島務氏(音響事業本部 事業統括部 SN事業推進部 ネットワークマーケティンググループ 主事)に聞いた。

ヤマハ株式会社の小島務氏(音響事業本部 事業統括部 SN事業推進部 ネットワークマーケティンググループ 主事)

クラウドに拡大するヤマハのルータ

 ヤマハのネットワーク機器のクラウドへの拡大について、小島氏は「リアルネットワークをクラウドへつなぐ」「ネットワークをクラウドで管理する」「クラウドネットワークをつくる」の3つに分けて説明した。

 「リアルネットワークをクラウドへつなぐ」は、これまでの拠点間接続の延長にある。ヤマハは2017年6月に、AWSへのVPN自動設定の機能をファームウェアアップデートで提供開始した。ルータにAWSのアクセスキーを設定するだけで、AWSに情報を問い合わせて自動的にVPN接続を設定してくれる。現在、その他のクラウドサービスにも機能を拡大していく予定だ。

 「ネットワークをクラウドで管理する」には、YNOが相当する。YNOによって、さまざまな拠点のネットワークや機器を統合的に管理できる。最近では、YNOからRTXシリーズのWeb GUIを開いて設定する「GUI Forwarder」機能が利用できるようになった。

 さらに、拠点に新規設置するRTXシリーズの設定をYNOに保存しておく「ゼロタッチコンフィグレーション(ゼロコンフィグ)」機能も近く提供開始する。なお、GUI Forwarderとゼロコンフィグの詳細については後述する。

YNOの説明

 「クラウドネットワークをつくる」には、現在開発中の仮想ルータが相当する。ヤマハのルータの機能をソフトウェアベースで提供するもので、パブリッククラウドやプライベートクラウドなど、どこでもヤマハのルータの機能が動く。

 「たとえば、超高速ハードで超高速ルータを作ったり、たくさんのルータを並べたり、場合によってはアプリケーションを載せたりと、想像もしなかったことができると思います」と小島氏は語った。

Interop Tokyo 2018に参考出展された仮想ルータ
仮想ルータの展開

現場のネットワークをリモートから管理するGUI Forwarder

 小島氏はGUI Forwarderとゼロコンフィグの機能を、実演をまじえて解説した。

 GUI Forwarderは、YNOの機器一覧から1クリックするだけで、RTXシリーズのWeb GUIを開く機能だ。従来はYNOからは、情報表示やコンフィグの適用ぐらいまでしかできなかったが、GUI Forwarderにより実物のルータのWeb GUIがフルに利用でき、機器やネットワークの細かい設定が可能になる。これにより、現地と同じような作業がリモートからできるわけだ。

 YNOから見てルータの背後にあるスイッチや無線LANアクセスポイントなども同様に管理できる。NAT配下の機器でも双方向通信が可能だ。

 RTX1210では2018年4月の、RTX830では同年5月のファームウェアアップデートで対応した。ネットボランチシリーズについても、NVR510とNVR700Wが対応している。今後対応機種を増やし、例えばRTX3500などのWeb GUIを搭載していない機器は、YNO側が用意したUIで表示できるようにする予定。

 「GUI Forwarderによってリモートから見えることで、LANマップの利便性に気づくお客様もいます」と小島氏は語った。LANマップでは、ネットワークが俯瞰的に見えるため、想像以上に気付きを与えてくれる、ということだろう。

 さらに小島氏は、「ヤマハ以外のルータとヤマハの無線LANアクセスポイントを組み合わせた構成で、YNOでアクセスポイントを見たい、という要望もあります」というケースも紹介した。

 YNOをより普及させるためには、ヤマハ以外の製品にも対応を進める必要は、確かにあるのかもしれない。こういった点を、「本当に便利なのかという段階から、お客様と話し合いながら検討しています」と、小島氏は説明している。

GUI Forwarderの説明
YNOで機器を選ぶ
ルータのWeb GUIが開いた
機器の詳細を表示

新規ルータを現場の設定不要で設置できるゼロコンフィグ

 「ゼロコンフィグ」は、ルータのコンフィグをYNOに保存しておく機能だ。これによって、新規ルータを、その名前どおり現場で設定することなく設置できる。

 小島氏によるデモでは、まずYNOに登録されたコンフィグが何種類か画面が表示された。

 ここからコンフィグの新規作成ができる。適用先の「プレースID」や、コンフィグの「タイトル」を指定。管理するグループをコンフィグに指定することもでき、これは顧客のヒヤリングから出てきた要望によって追加された機能だという。そのほか、パスワードや有効期限なども設定できる。

 コンフィグの内容入力では、あらかじめ登録しておいたテンプレートを挿入することもできる。Excelでパラメータを指定するとクラウドでテンプレートにあてはめる機能も考えているという。

 コンフィグとしては、新規設定機器に最低限の設定をするための初期コンフィグと、YNOからインターネット経由で流しこむ本番コンフィグを登録する。

 運用にあたっては、まず、初期コンフィグをYNOからダウンロードしてUSBメモリやSDカードなどに入れておく。これを設置するヤマハルータに挿し、電源を入れるだけでコンフィグが読み込まれ、ネットワークにつなぐための最低限の初期設定がなされるという。

 そしてこの状態で、YNOに登録されている本番コンフィグがインターネット経由でダウンロードされ、適用されることになる。

 このように段階を分けて設定をルータへ流しこむのは、USBメモリやSDカードに本番コンフィグそのものの情報を入れて持ち運ぶよりも安全なためだ。

 なお小島氏は、「ゼロコンフィグについてパートナーのSIerに聞いたところ、意外と『導入時より故障後の保守の場合に便利だ』という声がありました」という話を紹介した。より緊急性があるのは保守の場合であり、その時に技術者を手配する必要がなくなるためだという。

ゼロコンフィグの説明
YNOに登録されたコンフィグ
コンフィグの新規作成
コンフィグの内容の入力。テンプレートから挿入することもできる
初期コンフィグのダウンロード時にパラメータを適用
初期コンフィグでRTX1210を起動

 このように、ヤマハのネットワーク機器の管理機能は、機器単体の設定から、その配下のLANを管理する機能に進化し、さらに複数拠点やクラウドまで統合管理し、VPN接続させるように進化してきている。

 ヤマハが最近言及する「SD-WAN的な機能」も、この流れの上にある。拠点間接続を構成するルータを統合管理や自動設定できるようにして、全体として管理できるようにする。

 さらに、現在開発中のDPI(Deep Packet Inspection)による通信の切り分けができるようになれば、通信内容によって接続経路を変えることができ、よりSD-WANに近づく。

 拠点ルータが本部に接続するだけでなく、クラウドサービスとも接続する時代に向けて、ヤマハのネットワーク機器とネットワーク管理も変化してきているようだ。

(協力:ヤマハ)