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1台から拠点内、そしてネットワーク全体をより便利に―― ヤマハの管理機能の進化を見る

 現在、主に「RTXシリーズ」の名称で提供されているヤマハの企業向けルータ製品は、自らの設定を簡単に、やりやすくしていくのはもちろん、スイッチの制御やLANの可視化(LANマップ)といったLAN内の管理、そして拠点を越えたネットワーク全体の管理へと、その管理機能を強化している。

 本稿では、こうしたヤマハルータの管理機能の進化を、順を追って見ていく。

ヤマハルータでのWeb GUI採用

 ヤマハの企業向けルータ製品はもともと、ルータとPCをシリアルまたはネットワーク(TELNETやSSH)で接続し、コマンドラインから設定するようになっていた。コマンドや操作の体系は、ほかの企業向けネットワーク機器ベンダーとも比較的近いもので、ネットワーク技術者にとっては、設定した内容(コンフィグ)をコマンドライン形式のテキストで取得したり、そのテキストを元に別の機器を設定したりといったことも容易に行える。

 またヤマハは初期のころから、設定例を積極的にWebで公開しており、ともすれば複雑になりがちな、拠点間VPN接続やVPNクライアント接続、冗長化、特定の通信サービス向けといった設定を、サンプルを基に比較的簡単に適用できた。

 一方、主に個人やSOHO向けに提供されていたネットボランチシリーズでは、Web GUIによる設定を早くから取り入れていたが、企業向け製品についても、2002年に発売されたRTX1000からWeb GUIによる設定に対応。2008年に発売されたRTX1200からは、初期状態からWeb GUIを使えるようになった。

機器設定からネットワーク設定へ

 このように、GUIによる設定が当たり前になっていく中、ヤマハルータのインターフェイスで次の転機となったのは、2011年にヤマハ初のレイヤ2(L2)スイッチとしてリリースされたSWX2200の登場だといえる。

 SWX2200は、VLANやQoSなどをはじめ、さまざまなネットワーク機能を利用可能な「スマートスイッチ」に位置付けられているが、設定にはRTX1200などのヤマハルータが必須で、スイッチ単体での設定機能は持っていなかった(後に簡易的なツールが提供されている)。

 このとき、ヤマハルータに「スイッチ制御GUI」機能が登場した。これは、RTX1200のWeb GUI上で、ヤマハルータとSWX2200からなるネットワークをツリー状に表示する機能。タグVLANなどのネットワーク機能を簡単に設定できるのみならず、スイッチの各ポートの状況なども見ることができる。

 つまり、このスイッチ制御GUIの登場により、ヤマハルータのWeb GUIは単なる機器の設定用から、ネットワーク全体の司令塔へと役割を拡大したといえるだろう。

スイッチ制御GUI

 またヤマハルータのWeb GUIは、2014年のRTX1210でさらに一新された。Web GUIのトップ画面が「ダッシュボード」となり、リソースやポート、通信状態などのステータス、あるいはログなどを常に表示できるようになった。

 ヤマハではこの際、開発チームにインターフェイスデザインの専門家を参加させるほどGUIの改善にも力を入れている。この詳細は、弊誌でも以下の記事で詳細に取材している。

LAN管理を強力にサポートする「RTX1210」 開発者が語る“ヤマハルータ”の理念とは

https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/yamaha/678065.html

 ネットワークの司令塔としてのWeb GUIも、新たに「LANマップ」としてデザインや使い勝手、機能が改善され、新ファームウェアや新機種の発表ごとに機能を追加。新たにリリースされた無線LANアクセスポイントや、ネットワーク機器に接続されたクライアント端末の管理機能が提供されるなど、ネットワークの管理機能が拡充されていく。

 なお、こうしたLAN関連の管理機能を総称する名称として「L2MS」が設定され、現在も機能拡張が継続されている。

LANマップ

「見える化」だけど、見えるだけじゃない! ヤマハが提供する「LANマップ」とは

http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/734476.html

クラウドへ、そしてSD-WANに

 こうした、スイッチ制御GUIに始まる“ネットワークの管理”のための機能は、拠点での利用を越え、現在は、複数拠点をまたがってヤマハネットワーク機器を一元管理できるクラウドサービスへと拡張されている。

 それが、2016年に発表されたクラウド型ネットワーク管理サービス「YNO(Yamaha Network Organizer)」だ。YNOでは、ヤマハルータをエージェントとして情報を収集し、クラウドサービスから各拠点のネットワークの状況をモニタできる。

 従来、ネットワーク機器を監視・管理するうえで必要となる設定情報や動作情報は、機器ごとにTelnetやSSHでアクセスして取得する必要があったが、YNOであれば、複数の機器情報をクラウド上にて一元的に管理できるし、管理対象機器に異常が生じている場合、それも一元的に把握することが可能だ。

 また、管理しているネットワーク機器のファームウェアバージョンアップ、コマンド設定などをYNOから実行することも可能で、いわば「ヤマハネットワーク機器の司令塔」としての役割を果たすサービスとなる。ヤマハルータは、もともと企業の拠点間接続で評価が高く、特に中小規模の拠点の接続でよく使われている。こうした複数の拠点を、YNOを使うことで統合して管理できるわけだ。

YNOの概念図
YNOの画面イメージ

ヤマハ、ルータを統合管理するクラウドサービス「Yamaha Network Organizer」

https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/759081.html

 現在でも、ネットワークを統合管理するうえでは便利な機能がそろっているが、YNOとヤマハネットワーク機器の組み合わせは、さらに進化を続けている。現在、ヤマハが目指しているのは「SD-WAN(Software Defined WAN)的な機能」の拡充だ。

 SD-WANとは、ソフトウェア制御によって管理・運用される広域ネットワーク、とでもいうべきもの。特に、大きなネットワークの管理・運用を省力化することが可能になるため、ヤマハではこの分野に対して非常に力を入れている。

 具体的には、まず、YNOからRTXシリーズのWeb GUIを開いて設定する「GUI Forwarder」機能が挙げられる。これにより、VPNなどの手段でルータへ接続しなくとも、YNOから機器やネットワークの細かい設定が可能になり、利便性が向上するという。2018年7月時点の最新機種であるRTX830では、同年5月のファームウェアアップデートで同機能に対応した。

 2つめは、拠点に新規設置するRTXシリーズの設定をYNOに保存しておく「ゼロタッチコンフィグ」だ。初期設定を作成してSDカードに入れて新規設定ルータを起動すると、初期設定から正式設定をYNOからダウンロードして設定が終了する。

ゼロタッチコンフィグ機能

 そして3つめは、DPI(Deep Packet Inspection)による通信の切り分けだ。最近では、例えばOffice 365などのクラウドサービスを業務で使うようになっているが、企業がインターネットへ接続するにあたっては、拠点から直接ではなく、本社など中央拠点を経由して、一括でインターネットへ出ていく、といった携帯を採っているところは多い。

 しかしこの場合、Office 365への通信も中央拠点を経由してインターネットへ出ていくことになるため、大量のトラフィックが中央拠点へ向かうことになり、ネットワークに大きな負担がかかってしまう。

 そこで通信内容を判別して、Office 365などのクラウドサービスに対しては、中央拠点を経由せず直接通信するようにして、地方拠点と中央拠点間の回線が輻輳するのを避ける、といったことに利用しようとしている。

 なお、この機能は近日中の提供を目指して開発が進められている。

ディープパケットインスペクション(DPI)機能によるアプリケーション制御

(協力:ヤマハ)