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Oracle本社敷地内に公立高校が? デザインシンキングを教育に取り入れた「d.tech」訪問記

 米国カリフォルニア州レッドウッドシティにあるOracle本社の敷地の一角に、2018年1月、Design Tech School(以下、d.tech)が開校した。

 高校1年生~4年生が入学できる公立高校であり、一般的な高校との違いは、シリコンバレーの共通言語と言われる“デザインシンキング”の手法を教育に取り入れるとともに、プロジェクト指向のチームワークによる実習を行っている点だ。

 今回弊誌では、d.techを訪れ、シリコンバレー流の新たな教育現場を見ることができたので、この様子をお届けしよう。

米Oracle本社の敷地内にあるDesign Tech School

d.techとは?

 d.techはもともと、2014年8月、サンマテオ連邦高等学校地区で特別認可学校としてスタートした。その後、Oracleのサフラ・キャッツ(Safra Catz)CEOが、翌2015年10月に開催されたOracle Open World 2015において、本社敷地内にd.techを設置することを発表。2018年1月に開校した。

 6万4000平方フィート(約6000平方メートル)の敷地を利用した2階建ての校舎は、4300万ドル(約47億円)を投じて建設されており、550人の生徒と、40人の教師およびスタッフによって運営され、新たな教育環境で学ぶことができる場となっている。

 同校の入学資格は、カリフォルニア州に在住していること。また2018年には、同校初の卒業生が誕生することになる。

校舎内の様子
入り口スペースには卓球台が置かれ、自由に遊ぶことができる

 米Oracle Oracle Education Foundationのコーリーン・キャシティ(Colleen Cassity) エグゼクティブディレクターは、「当社は、Oracle Education FoundationおよびOracle Corporate Citizenshipを通じて、約20年間にわたり、教育や環境保全などの取り組みを行ってきた。これらの活動はOracleにとって重要なものである」と前置き。

 「Oracle Education Foundationは、2000年に設立され、技術面からの教育支援を行うとともに、社会的な一体性を実現することを目指した活動に取り組んできた。Oracleは、ユーザー視点での課題解決に取り組むデザインシンキングを採用した企業であり、それを教育にも反映したいと考え、さまざまな高校に対してアプローチをした。そうした取り組みのなかで、2014年にDesign Tech Schoolを設立している。これはまさに、教育を作り直すほどのインパクトがあるものだった。そして、その後、d.techの校舎をOracleの本社内の敷地で開校することを提案した」と、これまでの経緯を振り返る。

 一方、d.techの共同創業者であるケン・モンゴメリー氏は、「私たちのミッションは、学生の隠れたポテンシャルを解き放ち、世界を変えることができる生徒を育てることにある。また生徒には、デザインシンキングの考え方を採用し、楽観的な思考を持ちながら、問題は必ず解決すること、自律的に取り組むことを課している。デザインシンキングによって、新たな時代に求められるスキルをはぐくむことになる。学生はさまざまな課題に直面するが、そこに挑戦することができる環境を作っており、それらの活動のすべてが、ユーザー視点によって解決するものになっている」とする。

d.techの共同創業者であるケン・モンゴメリー氏

 学生はChrome OSを搭載したノートPCを1台ずつ持ち、紙による重たい教科書は持っていないという。

 また施設内の備品や内装などは、生徒の活動に合わせて変更が可能な設計となっており、完全な静寂が確保されたスペースや自由に発言しやすいスペース、コミュニケーションが取りやすいエリアなど、個々の学習に最適な空間が用意されている。

 なお、d.techでは、デザインシンキングの最高峰であるスタンフォード大学のd.schoolの考え方を踏襲。「デザインをベースにした方法論から課題を解決することを目指している」(米Oracleのキャシティ エグゼクティブディレクター)という。d.techのdを小文字にしたのも、d.schoolにちなんだものだとした。

d.techのロゴマーク

d.techの特色である2週間の「インターセッション」

 d.techの特徴は、カリフォルニア州の公立高校と同じカリキュラム基準を採用しながらも、年間4回にわたり、2週間の「インターセッション」と呼ぶ仕組みを採用している点だ。

インターセッション。Oracleのコンファレンスセンターでプログラムを行う

 インターセッションでは通常の学習を休止し、“生徒が選択科目を取得して、自らが好奇心や情熱を注ぐ題材を探究できる”プログラムを実施する期間としている。

 この学習では、Oracleの社員がボランティアで参加。校舎を離れて、道の反対側にあるOracleのコンファレンスセンターでプログラムを行うことになる。

 「Oracle社員が参加することによって、生徒に対して、刺激がある教育環境を提供することができる。研究テーマをビジネスにつなげたいということであれば、ビジネスプランはどうするかということも学べ、それをOracleの社員が指導してくれる。こうしたすばらしい仕組みを用意できる学校はほかにはない」とした。

 インターセッションでは、Oracleの社員以外にも、金融、小売り、製造など、さまざまな業種の企業が支援を行っている。

さまざまなものをデザインする場所「DRG」

 d.techの象徴的な施設のひとつが、「Design Realization Garage(DRG)」である。

 校舎の1階および2階にあるDRGは、その名の通り、デザインを実現するためのガレージであり、デザインを具現化するための作業を行うテーブルを配置。電動ノコギリやミシン、レーザーカッター、3Dプリンタなどの工具を常設している。1階は従来型の工具が多く、2階はデジタル機器の設備が多い。

Design Realization Garage(DRG)
DRGはデザインを実現するためのガレージだ
電動ノコギリなどが用意されている
電源はどんな場所でも取ることができるように天井から供給している

 「ここはデザインシンキングの考え方を用いて、さまざまなものをデザインする場所である」と、モンゴメリー氏は語る。

 DRGでは、生徒たちが自分の目標を立て、それを提案書や企画書としてまとめ、承認されるとチームで作業に取り組むことになる。最終的には、学期内に成果物と論文を出す。

 現在、DRGでは、子どもに安全な遊具を開発や、セーリングの制御装置、ガムの自動販売機、荷物を運ぶロボット、色素タンパク質であるミオグロビンのモデリングなどが、生徒たちの意思によって行われている。

 例えばミオグロビンの研究では、分子構造を画面上に表示するのではなく、3Dプリンタやレーザーカッターなどを活用して、現物としてモデリングし、可視化するといったことを行っているのが特徴だ。

 「生徒たちは企画、制作に責任を持ち、それに対して、学校側は必要なツールを与えることになる。同時にエンジニアリングの知識を教えることになる。企画を実行するには、少なくても一人の生徒をリクルートすることが条件となっている。誰も参加してくれない企画は認められず、チームとして機能することが大切である。なかには、ビジネスにつなげるということを目指している生徒もいる。それを支援していく仕組みも用意している」という。

開発しているセーリングの制御装置と生徒たち
荷物を運ぶロボット
色素タンパク質であるミオグロビンのモデリング
d.techのロゴマークを採用した子ども向け遊具を制作しているチーム。この2倍の大きさを目指すという

一般的な高校に比べ多くの挑戦の機会を得られる

 今回の取材では、d.techの生徒に直接、話を聞く機会を得た。

 高校3年生の男子生徒は、「一般的な高校に比べて、多くの挑戦の機会を得られる。熱意を持ってやりたいと思ったことに挑戦できるし、作業を先に進める方法についても自由に選べ、試行錯誤しながら学ぶことができる」と、長所を説明した。

 ただし、「デザインシンキングという新たな学習方法に対しては、新たなマインドセットを理解し、習得するのに少し時間がかかった。それを学び、そのプロセスをしっかりと身につけるまで苦労したが、一度これを学んでしまったら、あとはスムーズに考えることができるようになった」という。

 また、「Oracleの社員と直接話をすることで刺激を得たり、コミュニケーションの仕方を学ぶといったこともできる。なかには、Oracleに入社したいという友人もいる。学校にいながら、大人と触れあう場があることはいい」も語った。

 高校4年生の女子生徒は、「ほかの高校に比べて学ぶための選択肢が多い。時間の使い方にも自由度があり、宿題が少なく、そこにストレスを抱えることがない」と笑いながら、「宿題がないので、自分が興味を持ったことに時間を割ける。新たなことに挑戦したり、プロフェッショナルな体験をしたりといったことも可能だ」などとした。

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 高校生のときから、実際の体験や試行錯誤を通じて、デザインシンキングの手法を自らの思考方法として学べるのは、恵まれた環境だといえる。

 この新たな教育方法が、新たなビジネスが続々と創出されるシリコンバレーの強さにつながっていくことを感じざるをえなかった。日本にもこうした教育システムがあるべきだろう。