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SAPジャパン、SAP S/4HANA Cloudの最新版を発表 事業推進体制の拡充なども説明

 SAPジャパン株式会社は4日、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの最新版を発表。また、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの事業推進体制の拡充や、パートナーエコシステムの強化に取り組む考えも示した。

 SAP S/4HANAでは、オンプレミス型、プライベートクラウド型、パブリッククラウド型の3種類の製品を用意しているが、SAPジャパン バイスプレジデント RISEソリューション事業本部の稲垣利明本部長は、「今後、新規にERPを検討する企業に対しては、パブリッククラウド型を第一の選択肢として提案することになる」とした。

SAPジャパン バイスプレジデント RISEソリューション事業本部の稲垣利明本部長

 今後、SAPジャパンでは、販売や製造など会計以外の領域においても、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの利用を積極的に推進していくという。

クラウドの利用形態とSAP S/4HANA、SAPの販売戦略

製造業向け機能の拡充など3つの機能強化を実施したSAP S/4HANA Cloud最新版

 パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの最新版では、「製造業向け機能の拡充」、「機能拡張手段の追加」、「システム運用保守性の向上」の3点が特徴になる。

最新版では、「製造業向け機能の拡充」「機能拡張手段の追加」「システム運用保守性の向上」の3点が特徴

 「製造業向け機能の拡充」では、自動車サプライヤーやハイテク、産業機械向けの機能を強化。設計やJIT、配送計画、需要主導型生産計画、納期回答、予測型MRP、コンフィグレーション、プロジェクト管理、品質管理領域での機能拡張を行う。「日本では製造業の顧客が多い。製造業において使われる機能を大幅に拡充することで、日本で求められるニーズに対応できる」という。

 「機能拡張手段の追加」では、開発言語であるABAPを用いたプログラミングによって、拡張の柔軟性を大幅に高めることができるようにした。

 パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudは、業種によってシステム構築に大きな違いが生じない会計中心の領域では、標準機能を可能な限り活用する「Fit to Standard」の考え方を前提とした提案を行ってきた経緯がある。その際に、標準機能ではカバーできない業種や、顧客固有の要件に対応するためには、In-App拡張とSide-by-Side拡張と呼ばれる2つの拡張方法を提供してきた。

 In-App拡張では、顧客独自の項目やビジネスロジックの追加、カスタム分析の追加作成といったカスタマイズをローコード/ノーコードで行うことができる。また、Side-by-Side拡張では、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)を用いて、アプリケーションとSAP S/4HANA CloudをAPI接続することで拡張性を確保してきた。

 会計中心の領域では、2つの拡張方法で十分に拡張性要件に対応できていたが、新たに機能拡張手段を追加することで、販売業務や製造業務などへの対応や、顧客固有の要件が見られる領域でも十分に対応が可能になるという。

 SAPジャパンの稲垣本部長は、「クラウドは常に新機能を追加し、将来の変化に対応できる点が特徴であり、それをタイムリーに実現するためには標準機能を活用することがコンセプトになっている。だが、新たな機能拡張手段の追加によって、年2回の標準機能のアップデートを受けながら、顧客固有の機能の拡張ができる」とした。

 SAP SE S/4HANA担当COOのスベン・デネケン(Sven Denecken)氏は、「ラストワンマイルを拡張できるものであり、さまざまな業界をサポート可能であり、ニーズに応えることができる」と述べた。

SAP S/4HANA Cloudの拡張性
SAP SE S/4HANA担当COOのスベン・デネケン(Sven Denecken)氏

 「システム運用保守性の向上」では、開発システム、品質保証システム、本稼働システムで構成する3システムランドスケープでの運用や、プロジェクトライン、メインライン、開発ラインといった用途別の論理インスタンスを運用できるようになる。「同時並行で進むプロジェクトやロールアウトのプロジェクトにも、パブリッククラウドでの対応できるようになる」(SAPジャパンの稲垣本部長)という。

 そのほか、SAP SE S/4HANAがグローバルにカバーできる体制を敷いていること、国や地域ごとに求められる特有の機能を提供する深いローカライゼーションを実現していること、高い製品品質の実現や99.7%の高可用性を実現していること、高い回復力を持っていること、継続的な機能提供を実現していることなどを特徴に挙げた。

ローカライゼーションサポート
回復力と安定性を提供

 一方、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの事業推進体制を拡充するため、新たに専任営業部隊を組織化。主に中堅企業を対象に導入提案を加速する。

 また、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudにおけるパートナーエコシステムの強化を目指し、中堅企業を中心にクラウド再販を前提としたエコシステムを確立。ERPの新規導入プロジェクトに対応できるパートナーの拡大を図る。さらに、ABAPを用いた業種別の機能開発については、パートナー企業による開発を中心に進める考えも示した。
 SAPジャパンでは、SAP S/4HANA Cloudに特化した新たなパートナープログラムを立ち上げ、12月2日には、パートナーを募集するためのイベントを開催する予定だ。

 なおSAP S/4HANAは、全世界で2万社以上が導入しており、1万4500社以上で本番稼働している。SAPでは、過去10数年に渡って、クラウド化を進めており、2025年には、全世界のクラウド事業の売上高で220億ユーロ(約3兆円)を目指している。

 2021年に発表したRISE with SAPでは、SAP S/4HANA Cloudへの移行を支援するツールやサービス、ビジネステクノロジープラットフォームを提供することで、「インテリジェントサステナブルエンタープライズ」の実現を支援。「SAPが持つエコシステムのすべてを使って、どの時点から初めても、求めるROIや結果を手に入れるすることができるコンシェルジュサービスが、RISE with SAPである」(SAP SE デネケンS/4HANA担当COO)とした。

RISE with SAP

 日本でのSAP S/4HANA Cloudの採用については、「グローバル同様に成長している。RISE with SAPを発表した2021年以降、オンプレミスよりもクラウドを選択する新規採用企業が圧倒的に多い。オンプレミスからクラウドへ移行する企業も増加している。クラウドを選択する企業をさらに増やしたい」としている。

 また会見では、SAP S/4HANA Cloudを活用してDXに取り組んでいるエイト日本技術開発の事例を紹介した。

 同社は、東証プライムに上場しているE・Jホールディングスの中核企業で、建設コンサルタント事業を行っている。売上高は259億円、社員数は1037人。2030年度には売上高350億円、社員数1640人を目指す。

 同社では、オンプレミス環境で9システムを稼働させていたが、手作業や多重入力、紙の使用、人づての情報共有など、再生産や展開が困難で標準化されていない状況にあった。無駄を排したバリューチェーンを軸に、企業経営のリスクに対応した一気通貫の新システムの導入が不可欠と考え、パブリッククラウドを導入。現在、26システム領域で稼働。その中核となるリアルタイムERPとして、パブリッククラウド版SAP S/4HANA Cloudを採用している。

バリューベースの新システムの全体像

 エイト日本技術開発 取締役 常務執行役員の永田裕司氏は、「新システムの導入により、リアルタイム経営や全体システムと統合した人財管理、標準工程に基づく人材育成、スキルの在庫管理に基づく応札判断が可能になる」としたほか、「パブリッククラウド版SAP S/4HANA Cloudを選定した理由は、機能面でデジタル変革を推進するための基本システムの要件を満たしていたこと、管理会計や財務会計システムとの連携がしっかりとできていること、セキュアで堅牢なシステム構造であること、クラウド時代に沿ったビジネスモデルを持ち、ユーザーと対話する姿勢を持っていることがあげられる。今後の継続的な改善や、持続的なビジネスモデルの革新などに期待している」と述べた。

エイト日本技術開発 取締役 常務執行役員の永田裕司氏