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SAPジャパン、イノベーションを継続できる「S/4HANA Cloud」の強みをアピール
日立ハイテクノロジーズの導入事例も紹介
2019年12月12日 06:00
SAPジャパン株式会社は10日、クラウドERP「SAP S/4HANA Cloud」の最新動向を紹介するプレスセミナーを開催。クラウド版とオンプレミス版の特性の違い、クラウド版を導入した日立ハイテクノロジーズの取り組みなどを紹介した。
SAPジャパン バイスプレジデント デジタルコアクラウド事業本部長の神沢正氏は、「2000年代初頭、ERPが必要とされた主な理由はBPRで、一過性で終わってしまうところが大きかった。それに対してクラウドERPは、導入後も継続的に業務改革ができる。進化を続けるERPとなっている」と述べ、クラウド版の特性をアピールした。
なおSAPでは、クラウドネイティブなSAP S/4HANA CloudをクラウドERPと分類。Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーのクラウド上に搭載されているものでも、クラウドネイティブではないものはオンプレミスと分類しているので、注意が必要だ。
SAPの提供するクラウドERP
SAP S/4HANAは、2015年にローンチされた最新のSAP ERPで、グローバルで1万2000社が導入開始し、3700社を超える企業で稼働済み。事例化も470社以上となっている。SAP S/4HANA Cloudはそのクラウド版で、具体的なサービスとしては次の2種類があり、それぞれが特徴を持っている。
マルチテナント型SAP S/4HANA Cloud
SaaS型アプリケーションで、徹底的に標準化を実現したことで短期導入が可能
シングルテナント型SAP S/4HANA Cloud
基幹システムの高度な要望とクラウドのメリットを両立する
またSAPでは、クラウド環境に展開されるERPシステムとして、「SAP HANA Enterprise Cloud」も提供している。柔軟性、自由度が最も高く、ライセンスはBYOL(Bring Your Own License:クラウドへの持ち込み型)。イノベーションサイクルは顧客判断でSAPが実施するなど、上記2種類のS/4HANA Cloudとは一部の特徴が異なっている。
SAPでは、S/4HANAをクラウドで提供する理由を4つ挙げている。それは、継続的なイノベーションが可能で新たな機能の利用が可能である点、運用をSAP側が行うためIT人材を別用途に配置できる点、コストの最適化が実現できる点、安心・安全に利用が継続できる点だ。
従来のERPは、システム老朽化が進み、システムのバージョンアップが必要で、リプレース作業には時間がかかる。それに対してクラウドERPは使いながら新機能が搭載されていくので、システムのバージョンアップを意識する必要がない。これが大きなメリットといえる。
なおSAPジャパンでは、2020年以降もS/4HANA Cloud導入企業を増やしていく意向だが、「2019年はハイパースケーラーのクラウド事業者との協業体制が整ったことから、パートナーシップによる導入が進んでいくことになるだろう」(神沢氏)と、クラウド事業者との連携が鍵となるとの見方を示した。
日立ハイテクノロジーズの導入事例
12月10日開催された記者説明会には、実際にS/4HANA Cloudを導入したユーザーとして日立ハイテクノロジーズが登場した。
日立ハイテクノロジーズは早期にSAPを導入したものの、「多数のアドオンを追加した結果、システムが複雑化し、BPR目的で導入したものの思うように成果が出なかった。アドオンに関しても、声が大きい人間が要望して導入したものの、ほとんど利用されていないケースもあった。逆に本当に必要なものでも、声が小さい人間がリクエストしたものは後回しになるため、そのためのコストがないという悪循環もあった」と、同社 デジタル推進本部 理事 本部長の酒井卓哉氏は述べ、解決すべき課題があったと振り返る。
また、グローバルに連携する企業が多かった同社は、「同じアドオンを海外の社員数十人の会社にも、数千人の会社にも同じように配布していたが、大規模企業向けのものは当然ながら小規模企業には合致せず、配布したものの、まったく使われないといった事態も起こっていた」(酒井氏)とのこと。つまり、利用する業務システムが現場と合致しない状況になっていたのだ。
酒井氏は2017年に現職に就いたが、ほぼ同じタイミングで部署名を「情報システム部門」から「デジタル推進本部」へと変更。「部門名にデジタルがついて、従来の情報システム事業とは違うアプローチを進めることとなった。そこで取り組むべきことを見直し、社員にパワーを、お客さまとつながる、業務を加速の3点にフォーカスすることとなった」という。
このうち業務システムの見直しについては、変化が激しい部分については、ERPではないシステムで取り入れる方針にあらため、ERPは10年、20年と使い続けることを前提に見直しを図った。
ただし、企業規模によって要件が異なることから、大規模企業向けにはフルスコープのERPを、小規模なグループ企業向けにはシンプルなERPを導入することにしている。
さらに、「導入計画段階で、S/4HANA Cloudの導入にとどまらず、デジタルトランスフォーメーション(DX)も一緒に進めるべしとの声が経営層から上がったことから、ERP導入とDXを進めていくこととなった。業務プロセスのシンプル化と経営のデジタル化を同時に進行し、ビジネスのスピードアップ、業容拡大、働き方改革推進などを図っている」(酒井氏)とのこと。
旧ERP利用時には、業務データの分析についてもシステムをEDIで結び、メール、Excelなどを使って業務分析を行うことも多かったが、酒井氏はこうした体制を新システムとともに大きく刷新していく方針を明らかにした。
「Excelで利用するデータについては、恣意(しい)的にデータを用意することも可能だったため、『逆に経営判断を誤らせることになるのでは?』という声も上がっていた。これをS/4HANAの活用によって、リアルタイムのデータドリブン経営に転換していく」という。
さらに「業務をシンプル化して、業績予想、見通しなど経営指標となるデータ活用がしやすい体制を作っていく。コモディティ化した業務に対しては、使い勝手が悪くてもスタンダードに合わせる。アドオン作りではなく、自分たちが手を出せていなかった予測、分析に注力していくべき。DXについては、トライをして失敗しながらやっていこうとしている。デジタル経営は一朝一夕にできるものではなく、今から積極的に取り組まねば競合には勝てない」(酒井氏)。