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NTT西日本の森林新社長が会見、「伝新人輪」で経営方針を説明

西日本発の新分野ビジネス拡大、社内DXの推進、地域創生の実現などに注力

 西日本電信電話株式会社(以下、NTT西日本)の社長に就任した森林正彰氏が、6月29日、会見を行った。

 森林新社長は、2022年度業績において、3年連続の増収増益の達成を目指す考えを示したほか、2025年度には非回線収入を50%以上にすることや、西日本発の新分野ビジネスの積極的な拡大、社内DXの推進による効率化、地域およびパートナーとの連携による地域創生の実現を目指す方針を打ち出した。

NTT西日本 代表取締役社長 社長執行役員の森林正彰氏

電信電話にかけた「伝新人輪」で経営方針を説明

 会見の冒頭、森林新社長は、「伝新人輪(でんしんじんわ)」の文字が書かれた掛け軸を披露。「電信電話(でんしんでんわ)にかけた言葉であり、NTTの伝統を守りながら、人と輪を広げ、新たな挑戦をすることを4つの漢字に込めた」と語り、この4つの漢字から、NTT西日本の今後の経営方針を説明した。

伝新人輪

 「伝」では、「伝統を守ること」、「技術を伝承すること」とし、「高品質のサービスを提供する姿勢は変わらない。情報通信インフラを安定的に、高品質に提供するとともに、災害時にも通信を守り、つなぎ続ける」と述べた。ここでは、DXによる社内の効率化を推進することで、顧客の利便性向上にもつなげる考えも示した。

「伝」:NTTが持つ伝統と技術を守り、磨き続ける

 「新」では、「新たな挑戦をする」という姿勢を示す。また、森林社長自らがNTTコミュニケーションズやNTT Ltd.において海外事業経験が長いことを生かし、グローバルな視点を経営に持ち込む考えも強調した。

 具体的には、月間利用者数3500万人を誇る国内最大級の電子書籍配信サービス「コミックシーモア」を展開するソルマーレを、「グローバル化が可能なビジネス」ととらえ、「すでに米国ではゲームを活用したビジネスを開始しているが、まだ規模が小さい。欧州では日本のコミック人気が高く、アジアにも展開できる。日本だけでやっているのはもったいない。広い範囲で可能性がある。行動はすぐに起こす。2022年度中には新たなビジネスを始めたい」などとし、積極的なグローバル展開に意欲もみせた。

 また、パラマウントベッドと合弁で設立したNTT PARAVITAでは、睡眠に焦点を当てることで、病気の発見や健康増進につなげることができる取り組みについても紹介した。

 「新たな分野で大きな成長を遂げることがNTT西日本の重要なテーマであり、第2、第3のソルマーレを立ち上げていくことが、私の使命である」としたほか、「NTT西日本が増収増益を維持するには、グローバル展開を含めて新規分野を成長させないといけない」とも語った。

 さらに2022年3月には、大阪・京橋に「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」をグランドオープン。西日本発のビジネス共創拠点として、約300社の企業と数千人の個人が会員として登録しており、参加者同士の共創を進めるとともに、社会実装に向けた取り組みを行っていくという。

 「新」という点では、革新的技術の「新」として、NTTグループが取り組んでいるIOWNを挙げ、2025年に開催される大阪・関西万博において、IOWNが大きなテーマになると指摘。「大阪・関西万博は、IOWNのインパクトを訴求するには最適な場になる。この技術をビジネス化することにも取り組んでいく」とした。また、NTT西日本が提供するソリューションのなかに、積極的にローカル5Gを取り込んでいく考えも示した。

「新」:新たな挑戦をする

 「人」については、「人を大切にする経営をしていきたい」と述べ、社員、顧客、地域コミュニティとの連携を強化。さらに、高度なスキルを持った人材の育成やリスキリングの推進、ダイバーシティを重視したタイムリーな人材の採用、地域の人や社会との連携しながら、ウェルビーイングの社会の実現に貢献する方針を打ち出した。「人知を結集し、社会課題を解決する」と述べた。

 NTT西日本の担当エリアとなる30府県において、各支店と自治体が連携した「地域のビタミン活動」を展開。現在、36プロジェクトを推進中だという。「地域に密着した取り組みはNTT西日本の強みであり、ミッションである。西日本エリアのポテンシャルは高い。DXに取り組む強い意欲があることを感じている。地域から、さらに多くのプロジェクトが生まれ、水平展開できるようにしていきたい」と語った。

 宮崎県では、森林・林業DXによる自然資本循環型地域活性化に着手。熊本県では地域共創型まちづくりの「わくわく未来都市」に取り組み、愛媛県では自助・共助を育む、協働と共創のまちづくり、滋賀県では地域資源循環による持続可能な食と農の実現、福井県では地域の魅力と歴史的観光資源を起点としたまちの再生に取り組んでいる例を示した。

 「ひとつのプラットフォームの上で、地域ごとの活動を展開し、どうしてもカスタマイズが必要なものは加えていく仕組みになる。NTT西日本は、おいしいご飯を作るので、その上にふりかけや梅干し、納豆を乗せることを地域で考えていきたい」と比喩した。
 またNTT西日本では、3000人規模でのテレワークを実施する考えも示したほか、スペシャリストを評価する制度の強化も進めるという。

「人」:人を大切にする

 「輪」では、「パートナーとの共創の輪」を挙げ、企業や自治体、大学、地域とのオープンな連携を推進。「新たな事業の創出につなげることで、大輪を咲かせたい」とした。

 同社では、西日本エリアに5カ所のLINKSPARK(リンクスパーク)を設置し、パートナーとともにDXを推進する場所を提供している。さらに、新たなビジネスの連鎖に向けて、エルID(仮称)による教育DX推進サポートを展開することで、将来的には3000万IDにまで拡大していく考えを示した。

 さらに、NTT西日本が提供する教育ICTプラットフォームを活用。すでに、大学生や大学の卒業生などを対象に550万IDを発行し、パートナーを通じた各種サービスを提供していることや、大日本印刷などとともに設立したNTT EDXでは、大学生に向けて電子教材を提供していることを説明。「今後、全国の大学に広げて、より便利な大学を実現することを支援する」と述べている。

「輪」:輪を広げる

2025年度には非回線収入を50%以上に

 現在、NTT西日本では、回線収入が1兆円弱、非回線収入が5000億円強だが、2025年度には非回線収入を50%以上に高めるという。

 データセンターやクラウド、セキュリティ、ローカル5Gを含めたソリューションなど、ITに関わる提案を進め、ビジネス化していくことで、非回線収入を拡大する考えだ。また、ドローンを活用したインフラ点検会社であるジャパン・インフラ・ウェイマークなど、新たなテクノロジーを活用した子会社のビジネスも強化していくとのこと。

 森林社長は、「『伝新人輪』によって目指すのは、屋台骨となる情報通信インフラを、安定的かつ高品質につなぎ続けるとともに、DXの推進による効率化を通じて、世界一といえる日本の通信インフラを磨き続ける」としたほか、「社会課題解決の先駆者として、地域やパートナーとのつながりにより、地域創生を実現する。また、西日本発の新分野ビジネスを積極的に拡大し、2022年度には3年連続の増収増益を目指す。森林のように、さまざまな苗を植えて、木が育ち、ビジネス成長や社会貢献につなげ、長期に渡って成長する企業にしたい」と述べた。

 なお、森林社長の趣味はゴルフと旅行。土日は必ず外出しているという。実践しているポリシーは、「ポジティブシンキング」とし、「どんな境地にあっても、いまが一番底であれば、次は良くなると考えるだけで、気持ちが変わる」とした。

 さらに、「NTT西日本の社長職は、想像していなかったポジションであり、驚いた。だが実際に来てみると、私がやってきたことが生かせる会社であるという確信を持った」とし、「海外では、NTTの文化だけでなく、買収したディメンション・データの文化も経験し、日本の会社というよりも、グローバルの会社として経験を積んできた。現地法人の社長として日本から赴任したという経験とは違う。NTT西日本で取り組むべき課題や求められる課題は似ており、そこに海外の経験が生かせる」とも話す。

 そして、「これまでの経験をもとに、グローバルのパートナーとの直接的な連携することができる。QUINTBRIDGEへの参加企業と、西海外のベンチャー企業や大手IT企業との連携を支援したり、西日本発の新たなビジネスをグローバルに発信したりといったこともできる。NTT西日本が窓口となり、海外のNTTグループ会社と組んで、パートナーのビジネスをグローバルに展開するための支援もできる」と語った。

「伝新人輪」の額を示す森林社長