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弥生、業務ソフト新版「弥生22シリーズ」を発表 業務の“デジタル化”を支援する事業戦略も表明

 弥生株式会社は14日、業務ソフトウェア製品群の新版「弥生22」の概要と事業戦略を発表した。

 毎年、この時期に新製品を発表しているが、代表取締役社長の岡本浩一郎氏は、「今回は弥生22の発表も行うものの、業務デジタル化への取り組みに今日は弥生22に関する話は少なめ」と冒頭に説明。その言葉通り、発表会は弥生の現況の説明、インボイスへの対応や電子帳簿保存法への対応など新制度への対応姿勢について、「単なる電子化ではなく業務のデジタル化が必要」とアピールした。

 なお、それを実現するための新サービスとして、2022年春に「証憑管理サービス(仮称)」をリリースするほか、新たに事業を支援するサービスとして「資金調達ナビ」など3つを提供する用意をしていることを明らかにした。

弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏

弥生22シリーズの強化ポイント

 10月22日に発売する「弥生22シリーズ」は、令和3年分の所得税確定申告に対応した、「やよいの青色申告 22」、「弥生会計 22」は、青色申告特別控除(65万円)を受けるための要件、e-Taxによる電子申告、電子帳簿保存などに対応している。また、国税庁が提供する「年末調整控除申告書作成用ソフトウエア」より出力された申告書データを弥生製品へ転記するための、「年調ソフト連携ツール」も提供される。

 「やよいの見積・納品・請求書 22」「弥生販売 22」は、2023年10月施行の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」に対応した証憑の作成と印刷が可能となる。弥生会計からの自動取込・自動仕訳機能「スマート取引取込」においては、従来からの金融機関との口座連携機能のAPI連携に加え、AI推論方式の切り替えを行い、推論精度の向上を図った。

 クラウドアプリケーションである「弥生オンライン」も含めた弥生シリーズ全体の強化点としては、自動取込自動仕訳機能である「SMART」の推論を強化した。勘定科目の推論ロジックを、ベイズ推定によるものからニューラルネットワークによるものに変更した。利用している技術としては、Facebookが開発した自然言語処理ライブラリfastTextをベースに、独自技術による改良を行っている。ニューラルネットワークの精度向上は、データ量の多さがカギとなることから、「弥生のユーザー数の大きさが推論精度につながる」と説明した。

 自動仕訳の勘定科目特定のロジックとしては、仕訳ルール、弥生ルール、個人別推論、全体推論と多段階のルールと推論を組み合わせ、勘定科目を特定する。

SMART(自動取込自動仕訳)の推論強化

 国税庁が提供する年末調整の控除申告書を作成するためのソフト「年末調整控除申告書作成用ソフト」との連携については、利用する事業者の作業負担を軽減するために、弥生給与へデータ転記するための「年長ソフト連携ツール」を提供。従業員から提出されたデータの中身を表示し、転記可能なデータを弥生給与に転記する。

国税庁提供 年調ソフトとの連携

弥生の現況

 弥生自身の現況としては、2021年度(2021年9月期)の売上は、速報値で前年比4%増となる212.1億円。弥生シリーズ登録ユーザー数は同14%増の253.5万人。

 製品のシェアについては、デスクトップ会計ソフトでは65.5%、クラウド会計では57.0%と算出し、「クラウド会計はデスクトップに比べもう少しシェアを拡大したいところだったが、どちらでもトップシェアを獲得することができた」(岡本氏)と説明した。

 会計事務所の会員組織「弥生PAP」は会員数が1万1000事務所を突破。年々参加する会計事務所が増加傾向にあるとした。

 弥生が2020年9月にスタートした「記帳代行支援サービス」は、紙の請求書や領収書などを弥生会計に記帳することを代行するサービスで、会計事務所の業務を付加価値の高い顧問先支援にフォーカスしてもらうことを目的としている。2021年9月時点で、552の会計事務所が有償契約を行っているという。

記帳代行支援サービスの全体像

 弥生では2021年3月に、起業家を支援する「起業・開業ナビ」をスタートしているが、さらに11月から「資金調達ナビ」、12月から「税理士紹介ナビ」、2022年に「事業承継ナビ」を新たに始める。

 11月開始の資金調達ナビは、資金調達手段を検索・資金調達を学ぶ・専門家に相談という3つのサービスコンテンツをそろえ、事業者の資金調達をサポートする。資金調達手段を検索では、さまざまな資金調達手段を一括で検索可能とする。補助金などの行政からの支援策や、会計データを利用したオンラインレンディングを含めた銀行融資などを支援していく。

 「従来の弥生は、事業者向けの業務ソフトの提供にフォーカスが当たっていたが、事業者だけでなく、会計事務所のお手伝い、さらに事業支援にも取り組んでいることを理解していただきたい」(岡本氏)。

新たに3つの事業支援サービスを展開予定

デジタルを前提として業務のあり方を見直す「デジタル化」の必要性

 こうして製品、現況の説明を行ったあと、岡本氏が最も時間を割いて訴えたのは、「スモールビジネスの業務デジタル化に向けた取り組み」だ。岡本氏は、「これまでは紙で進めてきた業務の一部を電子化する取り組みが進められてきた。それだけでは業務効率化にはならない。今後はデジタルを前提として、業務のあり方を見直すデジタル化を目指すべきだ」と目指す方向性を示した。

社会的システムの電子化ではなく、デジタル化が必要

 弥生では海外で進んでいる電子インボイスの取り組みの動向調査、国内で業務ソフトメーカー同士が連携して進めている社会的システム・デジタル化研究会を立ち上げ、さらにそこから提言の発信などを行ってきた。2021年6月3日には、BD研究会として、当時のデジタル改革担当大臣だった平井卓也氏へ年末調整に関する提言を行った。

 さらに2020年7月、電子インボイス推進協議会(EIPA)を設立。単なる法令改正対応ではなく、業務効率化を実現する電子インボイス制度とすることを提言している。利用する規格としては、比較と評価を行い「Peppol」を採用すべきという結論を出した。

 「Peppolでは、電子メールでやりとりする際と同様、相手がどこのプロバイダーを使っているのかを確認する、といった作業は一切必要とせず、やりとりができる。事業者が利用するようになれば利便性が高い」(岡本氏)と述べ、メリットが大きいと説明している。

社会的システムの電子化ではなく、デジタル化が必要
日本の電子インボイスのベースとしてPeppolを採用する

 2021年6月には当時デジタル庁の大臣だった平井氏に、日本で実現すべき要件として法令上、業務上それぞれの提言を行っている。

 岡本氏は、デジタルを前提として業務を見直すことも重要としながら、「2022年1月からスタートする電子帳簿保存法の改正はデジタル化ではなく、電子化にすぎない。弥生は電子化にとどまらず、デジタル化を推進する」と強く訴えた。

 さらに、「2023年10月にスタートするインボイス制度は、事業者の業務プロセスを変更していくことが必須となる。しかし、アンケート調査を行ったところ、多くの事業者が正しく制度を理解していない。全体の45.4%が、インボイス制度について全く知らない・聞いたことがないと回答し、聞いたことはあるが内容はよくわからないを含めると全体の84.2%にのぼる」と明らかにした。

 インボイス制度の理解を深めてもらうために、「インボイス制度あんしんガイド」を7月に公開。さらに、インボイス制度と電子帳簿保存法改正に対応した製品の提供を計画している。各種課題への働きかけを進め、第一段階として電子帳簿保存法の電子取引に対応、第2段階として証憑管理サービスの機能追加・インボイスに対応、第三段階として電子インボイス対応を予定する。

 2022年春には、「証憑管理サービス(仮称)」を提供し、順次機能を強化していく。さらに、事業者内、ステークホルダー間も、すべての業務プロセスをデジタルでつなぐ一気通貫を目指すという方針を打ち出している。

「証憑管理サービス(仮称)」2022年春リリース、順次機能強化