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デジタルインボイス推進協議会、法令対応だけでない業務効率化の必要性訴える

 デジタルインボイス推進協議会(EIPA)は10月28日、デジタルインボイス普及に向けたEIPAの取り組みに関する説明会を開催した。発表会のキャッチフレーズは、「請求から『作業』をなくそう」。これを実現するために必要な変化と、それを実現するために、協議会でどんな取り組みが行われているのかが説明された。

 EIPAは約200社が参加し、弥生株式会社の岡本浩一郎社長を代表幹事として、デジタルインボイスの普及活動を進めている。同団体は、受発注、請求といった業務で利用する電子文書の国際規格「Peppol(ペポル)」を利用し、デジタルインボイスの日本での定着を目指しているが、岡本氏は、「実は、スタート時は電子インボイス推進協議会の名称だった。われわれが目指すのは、紙を電子化していくことではなく、デジタルデータをやり取りし、そのデータをその後の業務に反映させることによる業務効率化だ。そのためにはデータを電子化するだけでなく、再活用を想定したデジタル化こそ目指すもの。そこで組織名も、デジタルインボイス推進協議会に名称変更した」と説明する。

デジタルインボイス推進協議会 代表幹事の岡本浩一郎氏(弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員)

 参加企業としては、岡本氏が社長を務める弥生をはじめ、競合企業であるOBC、PCA、マネーフォワード、freeeをはじめ、エンタープライズ業務システムを提供するSAPジャパン、ワークスアプリケーションズ、ペイメント事業などを行うROBOT PAYMENT、企業間取引のプラットフォームを提供するインフォマート、会計士/税理士の利用が多いシステムを提供するTKC、ミロク情報システム、税理士法人など多岐に渡る。

 多くの企業が参加し、「2023年10月にスタートするインボイス制度、これに紙で対応すると業務が複雑になる。これこそデジタルを前提として取り組むべきと、2020年4月、デジタルインボイス推進協議会を立ち上げた」(岡本氏)とのことで、インボイス制度への対応から企業の業務デジタル化を推進していく。

 岡本氏は、「電子化とデジタル化は異なる」と強くアピールした。業務のデジタル化を、紙のみを利用していた時代をステージ0とし、おおむね紙だが一部で電子データを扱う状況をステージ1とした場合、現状はこのステージ1にあたるとした。また、電子化を徹底したステージ2を経て、業務のあり方を再設計してすべて電子データとしたステージ3がゴールになるとしている。

社会的システムの電子化ではなく、デジタル化が必要

 「電子化とデジタル化はどこが違う?一緒じゃないのか?といわれることも多いが、紙ではなく電子化してPDFで請求書を受け取ったとしても、それを印刷、もしくは画面で見ながら手で会計ソフトに入力するのではメリットは薄い。最初からデジタルデータをやり取りし、デジタルの請求書データをそのまま会計ソフトに取り込むことができて業務効率化が実現する。電子化だけでは不十分」(岡本氏)。

 請求書の作成から、送付、そして受け取る側が業務処理するまでの行程を一貫してデジタル化することで業務効率化を実現できるが、利用しているソフトごとに独自の仕様となっていては、社会全体にデジタル化を浸透させることは難しい。そんな現状をかんがみ、2020年6月、「社会的システム・デジタル化研究会」を発足。「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」の発表などを行った。

 その後、日本国内で活動する事業者が共通的に利用できるデジタルインボイス・システムの構築を目指し、デジタルインボイスの標準仕様を策定・実証し、普及促進させることを目的として、「デジタルインボイス推進協議会」を発足した。

 発足後は海外の取り組みの研究も行い、すでにシンガポール、オーストラリアのように国を挙げてデジタル化に取り組んでいる国の取り組みを研究している。そうした研究の中で、欧州発祥で文書仕様、運用ルール、ネットワークのグローバルの標準仕様「Peppol」を日本の標準仕様とするべきではないかと決定した。

 「国際的に使われている仕様は複数あるが、海外の仕様を研究した結果、日本ではPeppolを標準仕様とするべきと研究結果でまとまった。2020年12月には、当時の平井デジタル改革担当大臣にPeppolを日本の標準仕様としてデジタルインボイスを推進することの提言をEIPAとして行っている」(岡本氏)。

 Peppolの利用者は、アクセスポイントを経てPeppolのネットワークに接続し、参加するすべての利用者とデジタルインボイスをやり取りできる「4コーナーモデル」と呼ばれるアーキテクチャを採用しているが、利用者は深い仕組みを理解しなくても、デジタルインボイスのやり取りが行える。

「Peppol」とは?
「Peppol」の仕組み

 「日本におけるPeppolは、いよいよ、実用化の段階に来た。デジタル庁が官の立場でPeppolをベースとした日本のデジタルインボイスの標準指標の策定を進め、EIPAは民間の立場から支援を行ってきた。本日付で、『Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0』(https://www.digital.go.jp/policies/electronic_invoice/)が公表された。これと並行し、アクセスポイントとして活動するPeppol Access Point Providerの認定等手続きも進み、本日段階で15社が認定されている。こうして準備が整ったことで、ベンダー各社が正式サービスを提供することが可能になった。いよいよ、デジタル庁に渡したバトンが、民間のわれわれの手に戻り、作業を進めていくフェーズとなった」(岡本氏)。

 EIPAでは標準仕様策定など利用環境を整える活動とともに、2023年10月にスタートするインボイス制度への対応をはじめとした法令改正への対応と、デジタル化によって事業者の業務効率をあげることを支援していく。

 「EIPAが目指すことは法令改正への対応と、業務のデジタル化を進めることで実現する業務効率化の2つ。法令改正対応はもちろん重要。ただし、法令改正に対応するだけでは十分ではないというのが、本日の説明会でアピールしたいメッセージでもある。これは法令改正に対応することが大切ではないということではなく、法令改正には対応したものの、業務効率を向上させるようなデジタル化は実現していないという状況では不十分だということだ。デジタルインボイスで受け取ったデジタルデータを基に、後続業務が効率化される世界を実現していかなければならない。例えば、デジタルインボイスで受け取ったデータが会計ソフトに登録されると、支払い処理、入金消し込み業務といった作業が自動化されていくようになれば、業務のデジタル化を進めた意味がある」(岡本氏)。

EIPAが目指すこと
デジタルインボイスの活用による業務効率化

 また、こうしたデジタル化による業務効率化は、大企業だけでなく、「人材不足で悩む中小企業にとっても、対応は必須となる」と岡本氏は指摘する。「デジタル化による業務効率化は、大企業だけが取り組むものではなく、中小企業も課題として認識してほしい」(岡本氏)。

 kのほか、EIPAに多くの企業が参加している背景としては、法令対応製品などを販売することだけでなく、デジタルインボイスを起点とした新しいビジネスをスタートできる可能性があることが要因となっているという。

 例えば、新たな金融サービスが誕生する可能性があるという。例えば、売り手が発行したデジタルインボイスの金融機関への共有を許可することで、金融機関はデジタルインボイスに基づき、リアルタイムで与信判断や融資実行を行えるようになる。こうした変化によって、資金回収期間の大幅な短縮化、次のビジネスへの資金投下などへとつながる可能性があるのだ。

 「これは、売り手がデジタルインボイスを発行した瞬間に、それに対して融資を受けることができるといった金融サービスが実現する可能性があるということ。入金回収までに時間がかかると、その間にオポチュニティがあるビジネスがあっても見送らざるを得ないことがあった。高度な金融サービスが実現すれば、次のビジネスための資金を早期に得るといった新しい付加価値が生まれるのではないか」(岡本氏)。

デジタルデータを活用し、さらなる付加価値の創出も

 ただし、企業がデジタルインボイスを活用するためには、段階的で計画的な準備が必要であると岡本氏は指摘する。「インボイス制度が2023年10月に開始と聞いて、そこから準備したのでは遅すぎる。現段階から準備を始め、来年前半には本格的に着手することが望ましい」(岡本氏)と、早期の準備を呼びかける。

 準備の内容としても、法令改正への対応にとどまらず、デジタル化によって業務効率につながる見直しを検討することも必要になるという。

 「日本独自の慣例である月末締請求書の発行への対応は、各ベンダー製品は行っているが、将来的には都度請求書を発行する方式に変更することが望ましいのではないか。月末に請求書を送る習慣は、まとめて請求書を送ることで郵送料を効率化することが狙いとなっていた。デジタル化することで、郵送料を必要とせずデータを送付できるので、都度請求書方式となる方が望ましい」(岡本氏)。

準備は段階的に&計画的に
デジタルを前提とした業務の見直しも必要

 発表会では、デジタル庁の河野太郎デジタル大臣からビデオメッセージが寄せられた。河野大臣は、「新型コロナウイルスが広がり始めた当時、経理部門では請求書を処理するためだけにテレワークができない実態が明らかになった。このことからもわかるように、日本の事業者のバックオフィスは、まさにアナログがデジタル化を阻み、業務を非効率にしている。インボイス制度開始まで1年を切った。インボイス制度開始で企業は変化が必要となることから、その変化を懸念する声もある。これは、現状、多くの事業者が行っている紙を前提とした請求処理を前提に、新たな事務負担が生じることの懸念が要因と考えられる。しかし、実際にはこのイベントで皆さまが掲げられている、請求から作業をなくそうというキャッチフレーズに現れているように、デジタルツールの活用、デジタルトランスフォーメーションを進めることで、そういった新たな事務負担も吸収できるのではないかと考えている」と、デジタルツールの活用の必要性を強調した。

 また、イベントではデジタル庁 国民向けサービスグループ 企画調整官の加藤博之氏をモデレーターに、インフォマート、マネーフォワード、TKC、ROBOT PAYMENTという全く異なる立場でインボイスに取り組む企業によるパネルディスカッション、14社がデジタルインボイス対応製品を紹介するプレゼンテーションも行われた。

左から順に、株式会社インフォマートの中島健社長、株式会社ROBOT PAYMENTの藤田豪人執行役員、弥生株式会社の岡本浩一郎社長、株式会社マネーフォワードの山田一也執行役員、デジタル庁の加藤博之企画調整官、株式会社TKCの富永倫教執行役員