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NEC、スイスの大手金融ソフト企業を買収 デジタルファイナンス領域に本格進出

 日本電気株式会社(以下、NEC)は5日、スイスの大手金融ソフトウェア企業であるAvaloq Group AG(以下、Avaloq)を買収すると発表した。

 同社の株式を100%所有する持株会社のWP/AV CH Holdings I B.V.の全株式を、20億5000万スイスフラン(約2360億円)で取得。2021年4月までに買収を完了する予定だ。

Avaloqの会社概要と買収金額

 NECの新野隆社長兼CEOは、「Avaloqの買収は、NECが打ち出すパーパスの実現に向け、社会や幅広い産業に大きな影響を与える金融のデジタル化に着目したものだ。金融業界は、低金利政策の長期化による従来型サービスの成長鈍化、オープンバンク化の進展などに伴う規制改革の進展、eKYCやAI、ブロックチェーンなどのデジタル技術の発展などにより、新たなサービスの創出による新たな収益源の獲得が求められており、その結果、SaaSの活用やデータ活用、外部連携、資産のトークン化などによって、スピーディに新たなサービスを実現するニーズが高まっている」と説明。

 さらに、「今回の買収によって、これまでのデジタルガバメント領域に加えて、デジタルファイナンス領域に、グローバルに本格進出することになり、行政と金融という社会インフラを担う領域のデジタル化に、グローバルで取り組むことができる。NECが目指す、安全、安心、公平、効率な社会を実現と、事業成長を目指すことができる」と述べた。

(左から)NEC 執行役員常務の山品正勝氏、NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏、NEC代表取締役執行役員副社長兼CFOの森田隆之氏

Avaloq買収の意義

 Avaloqは、金融資産管理ソフトウェア市場において、欧州ではシェア1位、アジア太平洋地域ではシェア2位の実績を持つ。

 社員数は約2300人で、売上高は約6億1000万スイスフラン(約700億円)。地域別売上高では欧州が70%を占め、SaaSやオンプレミス向けメンテナンスなどのリカーリングビジネスが70%強を占めている。

 NECの山品正勝執行役員常務は、「世界30カ国、150以上の金融機関でAvaloqの勘定系システムが導入されている。金融資産管理機能に圧倒的な強みを持ち、安定稼働、高品質、クラウド対応、多国展開、拡張性といった点で高い評価を得ている。オンプレミスからSaaSへの移行提案も進んでいる段階にある」との現状を説明。

 また、「ユーザーごとに最適化された資産運用アドバイスや、外部機関と連携したデータ分析によるレコメンデーション、自主運用の支援といったパーソナライズアドバイザリー機能を提供したり、専門家とのモバイルチャットやメッセージングアプリとの連携によるリアルタイムでの情報通知、金融業務に必要な監査にも対応するなど、顧客ニーズに対応したきめ細かいサービスが評価されている」と、強みについて触れた。

Avaloqの強み

 その上で、「これらの領域ではNECの技術を生かすことができる。そして、金融のデジタル化が進む欧州において、ソフトウェアプラットフォームや強固な顧客基盤、データ分析ソリューションを獲得するとともに、NECの傘下にある英Northgate、デンマークのKMDとのシナジーで、欧州、日本、米国など、グローバル市場において、デジタルファイナンスとデジタルガバメント領域を強化できる。パブリックセクター向けソフトウェア事業のトップポジションを目指す」との狙いを示した。

Avaloq買収の意義

 NECの森田隆之副社長兼CFOは、「AvaloqのEBITDAの伸長率は年間15%が期待されており、その背景にはリカーリング率の高さがある。長期に渡ってビジネスの確実性があるということだ。過去の買収に比べると買収金額は大きいが、EBITDAや市場成長性などから見ても適正だと見ている」とした。今後の売上高成長も8~10%増を見込んでいるという。

 また新野社長兼CEOは、「金融資産管理は、現金から運用へと流れるなかで収益力強化分野になること、AIを活用したアドバイザリーサービスや、ブロックチェーンを活用したトークン化など、NECが得意とするデジタル技術との親和性が高い分野である。これが進展すると、高度な資産運用アドバイスや資産取引のすそ野が広がり、NECにとって長期的な成長が見込める」とする。

 さらに、「行政と金融のデジタル連携は先行して加速する。デンマークでは行政と金融の連携によってデジタルIDの活用が浸透。英国ではブロックチェーンを活用した不動産取引や登記管理の実証実験が開始されている。デジタルファイナンスの事業強化は、デジタルガバメント領域での新規事業獲得にもつながる」と発言した。

グローバル本格進出にあたり金融資産管理分野から参入
デジタル化による行政と金融の連携の加速

 このほか、「デジタルファイナンス領域のソフトウェアとドメイン知識を獲得したことで、この分野に対してNECが持つ生体認証、AI、ブロックチェーンなどのデジタル技術を水平展開できるというメリットもある」とも述べた。

 NECが持つ世界一の認証精度を持つバイオメトリクスによって、強固なセキュリティを求められる金融機関に、さらなる安全、安心の価値を付加したソリューションを提案。ビッグデータとアナリティクスの活用では、Avaloqの高度なアドバイザリー機能とAI技術群のNEC the WISEを組み合わせ、顧客に新たな付加価値を提供するという。

 さらに、評価が高いNECのブロックチェーン技術の活用により、行政と金融のデータを、デジタルアセット化し、安全、安心で、便利なサービスをリアルタイムに提供できるとアピールしている。

ソフトウェアプラットフォームを活用した事業展開

 新野社長兼CEOは、「日本では金融のデジタル化が遅れているが、今後、日本のなかでも大きなトレンドになるだろう。欧州発のノウハウを活用して、日本におけるデジタルファイナンス、デジタルガバナンスに取り組みたい。日本ではSI型ビジネスが中心であるが、グローバルではSIの展開では収益性があわない。SaaS型、リカーリング型の成長を目指す」との狙いを示している。

 なお、グローバル展開においてはSaaS型モデルをコア事業とし、顧客価値が高くスケーラビリティがある事業に集中させ、収益性の改善を目指すという。また、Avaloqが提供するデジタルバンキングシステムは、日本の金融機関向けにも提供できるとしている。

SaaS型モデルによるグローバル展開

NorthgateやKMDの事業進ちょく状況にも言及

 会見では、これまで買収した英Northgate、デンマークのKMDの進ちょく状況についても説明した。

 2018年1月に買収したNorthgateは、デジタルガバメント、パブリックセーフティ市場で事業を展開。調整後営業利益率は13%に達しているという。ロンドン警察などで犯罪事案管理システムを導入し、英国では60%のシェアを獲得。ヘルスケア分野をはじめとした4社の買収も行っていると説明した。

 デンマークのKMDは、デジタルガバメントおよびデジタルファイナンス市場で事業を展開。調整後営業利益率は7%となっている。金融分野で2社をM&Aして事業領域を拡大。北欧市場ではトップシェアになっているとのことだ。

 「PMIは順調に進ちょくし、NEC全社の利益に貢献している。ボルトオンM&Aによる事業領域の拡大でも実績が出ている。NorthgateとKMDが、インドの開発拠点のリソースを共同利用するといった動きも出ている」(NECの山品執行役員常務)。

これまでの海外M&Aの進ちょく

 また、M&Aに関する姿勢についても説明。「パブリックセクター向けソフトウェア事業でトップになることを目指し、デジタルガバメント、デジタルファイナンスといった特定した領域ごとに事業戦略を組み立て、そのなかから必要となる技術や製品を持つ企業、シナジーを発揮できる企業を選定し、仮説を立てて、検証を行い、確認するといった作業を行っている。ロングリストには50万社が登録されており、技術、シナジー、成長性、リージョンへの取り組みなどから見極めている」としたほか、「アジアでは、NECが強いビジネスを展開しており、この地域における大規模買収は必要ないと考えている」(NECの山品執行役員常務)とした。

 このほか、M&Aは自己資金の範囲で実施する考えを強調。今回のAvaloqの買収も、約2000億円のフリーキャッシュフローと、遊休資産の売却などの範囲内での買収になると説明している。

 一方では、ドコモ口座問題など国内の金融サービスにおける昨今のセキュリティ対策についても言及した。新野社長兼CEOは、「デジタル化が推進される上では、セキュリティが担保されなくてはならない。すべての機関がしっかりと対策を採らないと、どこかを突かれてしまう。その責任はNEC自身も同じであり、NECのセキュリティ技術を生かしたい」と述べた。