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デジタルガバメント領域の強化を図る――、NECがデンマークの大手IT企業KMDを買収

記者会見で新野隆社長などが事業方針を説明

 日本電気株式会社(以下、NEC)は27日、デンマーク最大手のIT企業であるKMD A/Sの持ち株会社であるKMD Holdings ApSの全株式を取得すると発表した。買収額は、80億デンマーククローネ(日本円で約1360億円)。NECは、デンマークに設立する特別目的会社を通じて、米投資ファンドのAdvent Internationalが所有していた同社の株式を取得し、2019年2月末までに買収を完了させる。

 NECの新野隆社長は、「NECは、2020年度を最終年度とする中期経営計画において、セーフティ事業をグローバルの成長エンジンに位置づけ、2020年度までに、2000億円の売り上げを計画し、グローバルでのカテゴリーリーダーを目指している。今回の買収は、2018年1月の英国Northgate Public Services(NPS)の買収に続く、第2弾に位置づけているもの。NECが目指す“NEC Safer Cities”の実現に向けて、デジタルガバメント領域の強化を図ることができる。売り上げ成長とともに利益率の高いビジネスモデルに転換し、営業利益率5%以上、EBITDA率20%以上を実現するためのプラットフォーム型事業として展開していく」などと述べた。

NECの新野隆社長
KMD買収の意義

 NECでは、2018年度までに、2000億円規模のM&Aを実行する姿勢を示しており、約713億円でのNPSの買収と約1360億円をかけた今回のKMDの買収で、予定通りのM&Aを実行。「キャッシュフローを見ながら、今後も第3弾、第4弾の買収を行っていく」と語った。

成長エンジンとしてセーフティ事業に注力
プラットフォーム型事業への転換を図る

政府向けビジネスで大きな実績、欧州でのビジネス拡大を図る

 KMDは、デンマークに本社を置き、約3200人の従業員を擁するデンマーク最大手のIT企業。パブリック分野向けのソフトウェア開発、ITサービスで多くの実績を持つ。SaaSを中心としたソフトウェア、および保守・運用のリカーリング型ビジネスが売上高の72%を占めるという。また事業部門別売上高では、地方政府向けが53%、中央政府向けが19%を占めている。

 「中央政府および地方政府向けソリューション事業では、40年以上の実績を持ち、さらにリカーリング率が高い。年間50万社のなかから選定し、こちらから買収しにいった」と、NECの山品正勝執行役員常務は明かす。

NECの山品正勝執行役員常務

 デンマークは、国連が発表した政府デジタル化ランキングで首位になるなど、デジタルガバメントでは先進国だ。2001年にデジタル署名をスタート。2004年には公用口座の開設、2007年にはデジタル手続きのID化や、統合市民ポータルの開設、2011年には電子私書箱によるデジタル手続きを開始したほか、2016年にはパブリックデータの相互利用を開始し、省庁間の垣根を越えたデータ利用も開始している。

 NECの山品執行役員常務は、「世界最先端のデジタルガバメントを実現しているデンマークにおいて、KMDは中央政府向けには17%のシェアを持ち、地方政府向けには43%のシェアを持つ。NECは、政府のデジタル化が最も進むデンマークで、政府向けプラットフォームと、継続的に収益を生み出すことができるビジネスモデルを獲得でき、欧州でのトップの地位を確立できる」とする。

KMD買収の意義
KMDの強み

 また、「KMDは過去3年間で7社を買収。金融・保険向けソリューション事業でも強みを発揮しており、ノルウェーやスウェーデンを中心にソリューション提供国を拡大しはじめている。さらに、洗練されたUIの提供と、購買行動分析などのデータ&アナリティクス事業も強みのひとつになる」と述べた。

金融・保険向けソリューション事業やUX、データ&アナリティクス事業も展開しているという

 中央政府向けには、コンテンツ統合管理プラットフォームを各省庁向けにカスタマイズして提供。税務庁の基幹システムや国立中央銀行共通基盤のシステム開発実績を持つ。また、地方政府向けには、ヘルスケア・社会保障ソリューションとして、介護/在宅医療向けプラットフォームを提供したり、生徒と教師、保護者を結んだ学習管理ソリューションを提供したりといった実績がある。

 そのほか、自動車ローンの担保アセットや管理プラットフォーム、保険・年金向け業務ソリューション、電力会社向けエネルギー需要予測や最適化ソリューションなどでも実績を持つ。

 「NECが持つ生体認証技術のBio-Idiomや、最先端AI技術群であるNEC the WISEと、KMDのソフトウェアを組み合わせることで、行政および金融向けプラットフォームにおける、強固な認証精度の実現とユーザビリティの向上が可能になり、安全・安心という新たな顧客価値を付加したソリューションの提供できるようになる。また、KMDが持つ行政、ヘルスケア、教育、金融などのビッグデータに、NECのアナリティクスとの組み合わせることで、不正検知や予測医療などにも活用できる」とする。

 一方では、「NPSとKMDのソフトウェアの相互販売、NECグループの販路を活用したKMDのソフトウェアのグローバル展開も推進する。まずは文化や制度が類似している北欧諸国をはじめ、東欧などの近隣欧州に展開していく」と語った。

NECが持つバイオメトリクス、アナリティクスといった技術とのシナジーを見込む

 なおKMDは、2016年12月期には2億3860万デンマーククローネ(約41億円)の最終赤字、2017年12月期には、2億9110万デンマーククローネ(約50億円)の最終赤字を計上。2018年12月も最終赤字の見通しだ。2017年12月の売上高は前年比5.8%増の56億3810万デンマーククローネ(約958億円)、営業損失は5450万デンマーククローネ(約9億2700万円)の赤字となっている。

 山品執行役員常務は、「2016年度と2017年度は、構造改革費用や、2件の大型訴訟にかかわる一時的費用が影響して赤字になっている。だが、2019年度には1億デンマーククローネ(約17億円)の黒字を計上できると考えている。現在、約700億円の借入金があるが、これを買収金額のなかから返済し、その負担もなくなる。今後も継続的に小さな構造改革は行っていくが、大きな構造改革は完了し、その効果が見えてくるタイミングである。5~10%の営業利益率が見込める」と説明。

 NECの新野社長も、「買収金額は妥当なものであり、EBITDAの約8倍というのはむしろ安いと思っている」とコメントした。

 NECは今回のKMDの買収によって、2020年度のセーフティ分野の海外売上高2000億円の目標達成に向け、大きな弾みをつけることができたのは確かだ。NECの認証技術やAIを活用することで、より付加価値の高いソリューションを欧州市場に展開できるメリットは大きい。

 だが、構造改革成果が道半ばのNECが、構造改革中であるKMDを立ち直らせることができるのかといった課題や、日本におけるデジタルガバメントの推進にどれだけのメリットを提供できるのかは未知数だ。買収によるシナジー成果を最大限に発揮する一手が求められる。