イベント

Adobe、Adobe Experience Platform Agent OrchestratorとAIエージェントで「調和のとれた顧客体験」を加速

 デジタルマーケティングのクラウドツール「Adobe Experience Cloud」を提供するAdobeは、3月18日~3月20日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市のThe Venetian Expoにおいて、同社の年次イベント「Adobe Summit」を開催している。

Adobe Summit

 Adobe Experience Cloudは、Webや電子メール、さらにはスマートフォンアプリなどのさまざまなデジタルツールを利用して、企業が一般消費者にマーケティング活動(デジタルマーケティング)を行うことを助けるツールで、年々新しい機能や新しいアプリケーションなどが追加され、企業が一般消費者のプライバシーなどに配慮しながら、個人個人に特化したマーケティング活動を可能にする。

 今回のAdobe Summit 25では、3月18日の午前からAdobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏や、Adobe Experience Cloud事業の責任者となるAdobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏などの同社幹部が登壇。Adobe Experience Cloudの基盤となるAdobe Experience Platform(AEP)に生成AIの機能を付与する「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」や、そうした生成AIの基盤を活用したデジタルマーケティングに特化したAIエージェントなどを発表した。

 AdobeはこのようなAdobe Experience Cloudの強化により、ここ近年訴求している「Customer Experience Orchestration」(調和のとれた顧客体験)の実現に向けて、大企業などにさらなる採用を呼びかけていく。

Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏

デジタルマーケティングを効果的に行うために行うAdobe Experience CloudをテーマにしたAdobe Summit

 Adobeがクラウド経由で提供しているAdobe Experience Cloudは、主に大企業などの企業が大きな企業が、Webサイト、電子メール、スマートフォンアプリなどのさまざまなタッチポイントを利用して顧客となる、あるいは将来の顧客となる可能性がある一般消費者にアクセスする際に利用するツールとなっている。

 例えば、消費者が何かを購入しようと考える場合、今で言えばGoogleやBingといった検索ツールを利用して検索し、その商品や企業などのWebサイトにたどりつくのが一般的だろう。企業にとっては、その最初のタッチポイントから、いかにして実際の購買につなげるかがポイントになる。そのために企業がキャンペーンを行って、自社のWebサイトのアカウントを作ってもらい、連絡先などを入手するなどの取り組みは、一般消費者にとってもおなじみの光景だろう。

 企業は、そうして得たアカウントや電子メールなどの連絡先などに対し、欧州のGDPRのようなプライバシーに関する各国の法律に違反しないようにしながら、効果的なマーケティング活動を行う必要がある。

 例えば、電子メールのようなマーケティングも、ただ乱れ打ちのように送信すると、消費者の側はそれを迷惑メールフォルダに送ったりして対策をするので、結局意味のないやり方になってしまう。しかし、アカウントを登録している消費者がWebサイトで特定の製品ページに何度もアクセスしていることがわかれば、その消費者に対して製品のデジタルクーポンをメールで送ることで、消費者の購買行動の背中を押すことができる。データを活用してこのようなことを行うものが、Adobe Experience Cloudというデジタルマーケティングのツールとなる。

 Adobe Experience Cloudは、さまざまなデータ処理基盤となるAdobe Experience Platform(AEP)が最下層にあり、その上に各種のアプリケーション(顧客体験管理、商取引管理、データ分析など)が走る形になっており、近年のAdobe SummitではそうしたAEPとアプリケーションの双方が徐々にアップデートされてきた。

Adobe Experience Cloud、データ処理やAIなどの基盤を提供する「Adobe Experience Platform」(AEP)の上に実際のサービスやアプリケーションなどがあり、Adobe Experience Platformを利用しながらサービスなどを提供している。

 今回のAdobe Summitでは、数年に一度と言える大きなアップデートが加えられたことが明らかにされた。まず、Adobe Experience Cloudが活用される基盤となるAEPに大きな強化が行われ、Adobe Experience Platform Agent Orchestratorと呼ばれる生成AIを活用して、さまざまな処理を行う機能拡張が発表された。

 また、そのAdobe Experience Platform Agent Orchestratorを利用したAIエージェントが多数発表され、それを利用したデジタルマーケティング用アプリケーションの機能拡張が多数発表されている。

Adobe Experience Platformに新しくAIエージェントを調整して動作させる仕組みになる「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」が提供されることになる。

調和ある顧客体験を実現していくことが重要だと、AdobeのナラヤンCEO

 Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏は「2009年にわれわれはAdobe Experience Cloudのビジネスを開始し、デジタルマーケティングを重視する企業にその手段を提供してきた。そして2019年にはAdobe Experience Platformを発表し、その導入を開始した。それにより、データに基づいたマーケティングを行う手段をわれわれの顧客に提供してきた。それによりAdobeはテクノロジーマーケティングの手段を提供する企業としては最大のプロバイダーの1つとなった」と述べ、Adobeが2009年にAdobe Experience Cloudの提供を開始してから、26年にわたって着々とその拡張を行ってくることで、大企業などが効率よくマーケティング活動を行うことが実現してきたと強調した。

Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏

 その上で近年はFireflyのような生成AIのモデルを提供していることなどに振れ、今後AdobeはCustomer Experience Orchestration(調和ある顧客体験)の実現を目指してさまざまな製品やサービスなどを導入していくと強調した。

今回の基調講演で何度も繰り返されたCustomer Experience Orchestration(調和ある顧客体験)

 また、ナラヤン氏は基調講演の中で、コカ・コーラブランドの飲料メーカーであるザ・コカ・コーラ・カンパニー(The Coca-Cola Company) 会長兼CEO、ジェームス・クインシー氏をゲストとして呼び、同社がデジタルマーケティングをどのように活用しているのかを説明した。

顧客事例としてザ・コカ・コーラ・カンパニーが紹介された

 クインシー氏は「ブランドの管理とは本当に難しいものだ。われわれも5年前まで実に400を超えるブランドをもっていたが、実際にはあまり役に立っていないような、ゾンビのようなブランドがたくさんあり、それをようやく200に整理したところだ。そうしたブランドを一般消費者にコミュニケーションするのも簡単なことではない。われわれは米国だけでも60を超えるボトラー(筆者注:ライセンス生産を行う生産事業者のこと)があり、毎日多くの飲料を出荷しており、それぞれが異なるマーケティング活動をしているような状況だった。そこで、Adobeのシステムを導入したところ、さまざまなレベルで着実なマーケティング活動が可能になった」と述べ、Adobe Experience Cloudで、グローバルのコカ・コーラのマーケティング活動が大きく改善されたと強調した。

Adobe CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏(左)と、ザ・コカ・コーラ・カンパニー 会長兼CEOのジェームス・クインシー氏

Adobe Experience Platform Agent Orchestratorと特定用途AIエージェントを導入することを発表

 Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏はAdobe Experience Platform Agent Orchestratorやそれを利用したAIエージェントに関する説明を行った。

Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏

 チャクラヴァーシー氏によれば、Adobe Experience Platform Agent Orchestratorは、Adobeが近年キーワードとして使っている「調和ある顧客体験」を実現するための自律的な管理システムになる。Adobeは、Adobe Experience Cloudを実現する基盤としてAdobe Experience Platform(AEP)を2019年に導入し、それを拡張してきたが、今回その背後にあって複数のAIエージェントを管理したり、推論エンジンとして動作したり、顧客体験言語モデル(CX Language Model)などの生成AIが自律的に行う機能を、新たにAEPに提供する。

Adobe Experience Platform Agent OrchestratorとAIエージェント

 そして、そのAdobe Experience Platform Agent Orchestratorにより実現されるのが、特定用途向けのAIエージェントになる。AIエージェントとは、1つないしは複数のファウンデーションモデルにより実現される、自律的に何らかの処理を行うAIのこと。

 今回Adobeが発表したAIエージェントは「Site Optimization Agent」、「Content Production Agent」、「Audience Agent」、「Data Insights Agent」、「Data Engineering Agent」、「Products Advisor Agent」、「Account Qualification Agent」、「Journey Agent」、「Workflow Optimization Agent」、「Experimentation Agent」の10個で、今回の基調講演ではこのうちSite Optimization AgentとAudience Agentの2つが取り上げられた。

 Site Optimization Agentは、Webサイトの最適化プロセスの過程で利用できるAIエージェント。例えば、特定のWebページでユーザーが製品を購買することの成功率が下がっている場合や、SEOがうまくいっていないなどの状態にある場合に、このAIエージェントが問題を自動的に特定してくれる。マーケティング担当者は解決するボタンなどを押すだけとワンクリックで問題を解消できる。

Site Optimization Agent
Audience Agent

 また、チャクラヴァーシー氏はExperience Cloudの新しいアプリケーションとして「Adobe Brand Concierge」を発表した。これは、一般消費者がWebサイトなどを訪れてから、購入に至るまでの過程をホテルのコンシェルジュのように導くことができる製品。具体的には、会話型のチャットボットを実現できるAIエージェントなどが提供され、サイト訪問から購入までの顧客体験を向上させる仕組みが提供される。

Adobe Brand Concierge

コンテンツの作成プロセス効率化を実現するGenStudioの機能を拡張するツールが発表される

デジタルマーケティングでの成功には優れたコンテンツが必要

 講演の後半ではAdobe デジタルメディア事業部門代表 デイビッド・ワドワーニ氏が、デジタルマーケティング時に活用するデジタルコンテンツ(例えば広告のバナーや、Webサイトのロゴやコンテンツなど)作成、管理などをより効率的に行う仕組みに関して説明を行った。

Adobe デジタルメディア事業部門代表 デイビッド・ワドワーニ氏

 大企業のデジタルマーケティング活動でいえば、以前は外部のクリエイターなどに外注して画像や動画などのコンテンツを作ってもらい、それを活用してWebサイトや広告バナーなどのマーケティング活動を行うのが一般的だった。

 しかし今では、3つの理由から内製が増えてきている。1つ目はデジタルマーケティングが一般的になってきたため、以前のようにコストをかけて全社的にだけやるという活動から、もう少し部門単位で小さく局所的に行う例が増えていること。2つ目は、そうした小さい部門単位で行う場合には、コンテンツの投入までの時間が短く、外注している時間がないなどの理由だ。

 そして最後に、そうしたコンテンツ作成ツールの大衆化が進んでいることを挙げた。Adobeで言えば、プロが利用するAdobe Creative Cloudでなければ作れないという状況から、生成AIによるコンテンツ生成や、Adobe Expressのような、プロではないマーケターでもある程度のレベルのコンテンツが作れるというツールが充実してきているのだという。

016.jpg
Expressの生成AI機能を利用して、動画のアスペクト比や音声の言語を変更したものを自動生成

 そこでAdobeは昨年、GenStudioという、コンテンツ作成の過程を管理するツールを発表しており、それらとCreative CloudやExpressなどのコンテンツ作成ツール、Fireflyのようなコンテンツ生成ツールを効果的に組み合わせて利用することで、より効率よくコンテンツを作成する仕組みと、上長のレビューや承認プロセスを自動化する仕組みの実現を行ってきた。

 ワドワーニ氏は今回のAdobe Summit 25の基調講演で、そのGenStudioやAdobe Expressを利用し、効率よくデジタルマーケティング用のコンテンツを作成する様子をデモして見せた。

 また、そうしたGenStudio向けの新製品として、「Adobe GenStudio Foundation」、「Adobe GenStudio for Performance Marketing」、「Adobe Content Analytics」などを発表した。

 Adobe GenStudio Foundationは、Adobe Experience CloudとAdobe Creative Cloudを行ったり来たりする必要がなく、キャンペーンの企画やデジタルアセットの作成、さらにはキャンペーンの効果計測などに関して、1つのサービス上で行うことができる。また、Adobe GenStudio for Performance Marketingは、より大規模なコンテンツ作成に特化したGenStudioになる。

日本の電通がGenStudio for Performance Marketingを利用してコンテンツの配信が70%速くできるようになった

 Adobe Content Analyticsは、コンテンツの効果を測定するためのツール。リアルタイムに効果を測定可能で、それをWebサイト上のコンテンツに反映させて、さらに集客をアップするなどの使い方ができる。