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Adobe、「調和のとれた顧客体験」のB2B展開をアピール NVIDIAやServiceNowがすでに導入
Adobe Summit 2025レポート
2025年3月21日 11:45
Adobeは、同社のデジタルマーケティング向けのクラウドツール「Adobe Experience Cloud」に関する年次イベント「Adobe Summit 2025」を、3月18日~3月20日(現地時間)に、米国ネバダ州ラスベガス市にあるThe Venetian Expoにおいて開催した。
初日(3月18日)の開幕基調講演では、Adobe Experience Cloudに目的特化型AIエージェントを実現する「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」というAdobe Experience Platformの拡張を発表したほか、新しいアプリケーションが複数発表された。
2日目となる3月19日の午前には、2日目基調講演が行われ、そのAdobe Experience Platform Agent Orchestratorで実現されるAIエージェントの詳細などが説明された。特に、最近のAdobeのスローガンである「調和のとれた顧客体験」(Customer Experience Orchestration)を、B2CだけでなくB2Bにも適用していくことが強調され、ServiceNowやNVIDIAといったB2Bに特化した顧客事例が紹介された。
AIのような新しいテクノロジーを活用しない企業は死を迎えると、JPモルガン・チェースのディモンCEO
Adobe Summit2日目基調講演は、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏と米国の金融大手JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー (JPMorgan Chase & Co.、以下JPモルガン・チェース) 会長 兼 CEO ジェイミー・ディモン氏の対談から始まった。
JPモルガン・チェースは米国の金融グループで、傘下にJ.P.モルガン、JPモルガン・チェース銀行などの投資銀行や商業銀行を抱えており、総資産は4兆ドル、毎日10兆ドルにもなる金額を動かしている米国最大の大手銀行グループとされている。
そうしたJPモルガン・チェースのディモン氏は「AIは既にインターネットのようなものになりつつあると認識している。インターネットは1969年に9人のユーザーで始まったが、今や世界中の誰もが使っている。それでも蒸気機関や電気などに比べれば迅速に普及した。AIはもっと早くだろう。これから重要なのはスピードで、一般消費者はもっと早く、そしてもっとより良いものを常に求めており、それが提供できない企業は死んでいくしかない。実際、シアーズやKマートなど、この国の消費者向けのビジネスをリードしてきた企業が倒産してきた歴史を、われわれは見てきている。常に新しいテクノロジーを導入して、消費者が求めているものを正しいタイミングで提供していくことが重要だ」と述べ、AIのような新しいテクノロジーを取り入れることができない企業には、倒産という死が待っているだけだと強調した。
その上で、ナラヤン氏にJPモルガン・チェースの金融サービスでAIをどう使っているのかを問われると、「われわれは2012年にマシンラーニングベースのAIの導入を始め、データの解析や、人間では見つけられないパターンなどを発見することをやり始めた。そして、従業員向けにはLLMを導入しており、さまざまな文書などに容易にアクセスできるようにしている。重要なことは、AIだろうがなんだろうが、顧客である消費者が常に中心にて、消費者の利益のために私たちは活動しているということ。そのためには顧客のデータを保護し、顧客の利益になるサービスを提供していくことだ」と述べ、まずはしっかりと顧客のデータを保護し、その上で顧客が必要だと感じる情報を提供していくことが重要だと指摘した。
マリオットはAdobe Experience PlatformとAIエージェントを活用したマーケティングを行っている
Adobeエクスペリエンスクラウドエンジニアリング・デジタルエクスペリエンス担当上級副社長 アンジュル・バンブリー氏は、前日の開幕基調講演で発表されたAdobe Experience Platform Agent Orchestratorと、それが実現する特定用途向けAIエージェントに関しての説明を行った。
Adobe Experience Platform Agent Orchestratorとそれが実現する特定用途向けAIエージェントに関しての概要に関しては、上記の開幕基調講演のレポートをお読みいただきたいが、Adobe Experience Platform Agent Orchestratorは、AIエージェントを動かすために必要になる基盤部分で、それをもとにして構築されるのが特定用途向けAIエージェントになる。
バンブリー氏は「AIエージェントは知性的、自動的、会話的、目標達成的、積極的という特徴を備えている。また、リーズニング、ファウンデーションモデル、ガードレールといくつかのモジュールから構成されており、それらを組み合わせてサービスが提供されている」と述べ、AIエージェントを活用することで、Adobe Experience Cloudがよりよく活用できるのだと強調した。
その上で、AIエージェントを活用した、調和のとれた顧客体験を実現したB2Cの事例として、グローバルにホテルチェーンを展開しているマリオット・インターナショナルの事例を紹介した。マリオット・インターナショナルは傘下に多数のホテルブランドを抱えているホテルチェーンで、そのグループの共通アプリケーションとしてスマートフォンのアプリ「Marriott Bonvoy」を提供している。そのMarriott Bonvoyの裏側では、Adobe Experience Platform Agent Orchestratoryと特定用途向けのAIエージェントが使われており、さまざまなサービスに利用されているという。
また、マリオット・インターナショナル 副社長 兼 マーケティングオーケストレーション責任者 ヒラリー・クック氏も登壇し、マリオット・インターナショナルがAdobe Experience Cloudを利用することで、コンテンツの更新が92.5%高速化され、それにひもづく売上が6倍になり、個人特化型のコンテンツが4200倍になるなど、デジタルマーケティングの高効率化が実現されたと説明した。
これからのB2BマーケティングはB2B 3.0に進化する――、Adobe、ServiceNowやNVIDIAが既に活用
Adobe エクスペリエンスクラウド・プラットフォーム・製品・デジタルエクスペリエンス担当上級副社長 アミット・アフジャ氏は、B2B GTM(Go-To-Market) Orchestrationというスローガンを掲げて、“調和のとれた顧客体験”を、B2C(Business to Consumer、企業対一般消費者取引)だけでなくB2B(Business to Business、企業対企業取引)の市場にも適用する取り組みに関して説明した。
B2Cのデジタルマーケティングは、企業から大多数の一般消費者に対して行われるため、データを活用して消費者それぞれに最適化してマーケティングを行う手法が有効と考えられ、早くからAdobe Experience Cloudのようなデジタルマーケティングツールが使われてきた。それに対してB2Bの方は、企業と企業が一対一での取引になるため、担当者同士によるやりとりが効果的で、一般消費者向けに行われているようなデジタルマーケティングは効果が低いと考えられてきた。
しかし、近年はそうした考え方も変わってきており、B2Bでもデジタルマーケティングの手法を取り入れた方が良いと考える企業が増えている。アフジャ氏はそうしたB2Bのデジタルマーケティングを、導入した段階を「B2B 1.0」、そして自動化を導入した段階を「B2B 2.0」、ししてAIエージェントを活用していくフルデジタルな取引になっていく段階を「B2B 3.0」と呼び、B2Bのデジタルマーケティングを、AIエージェントを利用して進化させていく必要があると強調した。
その上で、その具体的な事例として企業のタスク自動化などを実現するSaaSアプリケーションを提供しているServiceNow社の事例を紹介した。
また、ServiceNow CMO(最高マーケティング責任者) コリン・フレミング氏が登壇し、同社がAdobe Experience CloudをB2Bの取引にどのように使っているのかなどを説明した。フレミング氏は、若いころはF1チームであるRedbull Racingのジュニアチーム(F1より下のカテゴリーで若手ドライバーを育成するチーム、野球で言えば2軍、3軍のようなもの)に所属して欧州で戦ったが、残念ながらF1に上がることはできなかったというユニークな経歴を持つ(ちなみに、彼がRedbullのジュニアチームを辞めた後にRedbullジュニアチームに入ったのが、後に4度F1チャンピオンになるセバスチャン・ベッテル氏)。
フレミング氏は「われわれはAdobe Experience PlatformとAIとを活用することで、製品主導の組織から、ブランド主導の組織へと形を変えつつある。ビジネスのやり方が変わっていっているので、売り込み方も考え方をデータ主導などに変えていく必要があるが、Adobeはそのことに大きく貢献してくれている」と述べ、ServiceNowのB2B取引が大きく変わっていっていることをアピールした。
さらに、2日目基調講演後に行われた戦略基調講演セッションでは、NVIDIA グローバルデジタルマーケティング担当副社長 ラサンドラ・ブリル氏が登壇し、NVIDIAがAdobe Experience PlatformとAIエージェントを利用して、世界中のNVIDIAの顧客(代理店など)に対してデジタルを利用したマーケティング活動を行っていることを説明した。それによれば、Adobe Experience Cloudがベースになっている「Mia(Marketing Intelligence Assistant)」というAIエージェントを構築して、デジタルを活用したマーケティング活動に利用しているとのことだ。