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アドビ日本法人の製品エヴァンジェリストがAdobe Summitの発表を国内市場視点で解説
2023年3月27日 12:08
Adobeは3月21日~23日(米国時間、日本時間3月22日~24日)に、同社のデジタルマーケティング製品「Adobe Experience Cloud」に関する年次イベント「Adobe Summit」を、米国ネバダ州ラスベガスにおいて開催した。
そのイベント最終日には、Adobe日本法人の製品エヴァンジェリストである、アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング本部 マネージャー 兼 プロダクトエバンジェリスト 安西敬介氏がAdobe Summitを振り返り、その概要などを説明する記者説明会が行われた。
本レポートでは、安西氏による日本市場視点での「Adobe Summit」の振り返りなどに関してお伝えしていきたい。
Experience-Led Growthを推進するAdobe
安西氏は、Adobe Summit全体を振り返った同社のキーメッセージを「Experience-Led Growth」(エクスペリエンス主導の成長)であると説明した。
今回Adobeは基調講演などで、盛んにこの「Experience-Led Growth」を使っており、優れた顧客体験を実現していくことが、企業の成長につながっていくのだと言うことを強調している。
安西氏は近年、AdobeがAdobe Experience Cloud向けに出しているメッセージは、「セールスが製品の価値を伝えビジネスを成長させるSales-Led Growth(SLG)、よい製品がビジネスを成長させるProduct-Led Growth(PLG)、チャンネルを横断した体験がビジネスをより収益的に成長させるExperience-Led Growth(XLG)という3つがある」と説明し、その上で、今回のAdobe SummitではExperience-Led Growth(XLG)にフォーカスが当てられていたと説明した。
今回Adobeが強調した「Experience-Led Growth」について、安西氏は「優れた顧客体験を実現するにはただ体験を提供するだけでなく、収益に結びつけて評価を行っていく必要がある。つまり収益性の高い成長を目指してビジネスのプロセスを最適化していくループを回していく必要がある。そのために、裏側ですべての接点で顧客一人一人に最適化した体験を実現し、さらに効果的なコンテンツサプライチェーンの管理を行っていく必要がある。それを効果的にサポートするのがAIだというのが今回のAdobeのメッセージだ」と述べ、AIを上手に活用したコンテンツ管理やユーザー体験を実現していくツールの導入、そしてそれを正しく評価するAIを活用した分析ツールなどの導入が今回Adobe Summitで発表されたAdobe Experience Cloudの新しいツールだと説明した。
その上で従来はそれぞれ個別に顧客と行っていたようなコミュニケーションを、Adobe Experience Cloudというツールを全社横断的に導入することで、全社的に一貫したユーザー体験を提供できるようになると強調した。
「Adobe Mix Modeler」、「Adobe Product Analytics」などの新製品が投入されたPersonalization at Scale
安西氏によれば、今回のAdobeの発表に関しては製品レベルでは三つのことにフォーカスが当たっているという。1つ目は、Adobeが「Personalization at Scale」(顧客のユーザー体験のどの段階でも個々に最適化されたユーザー体験を提供すること)、2つ目は効果的なコンテンツサプライチェーンの構築、そして3つ目がそれらを裏で支える、AIの新しいサービス(Adobe Sensei GenAI Service)になる。
Personalization at Scale向けには「Adobe Mix Modeler」、「Adobe Product Analytics」などの新製品が発表されたほか、「Adobe Real-Time CDP」や「Adobe Target」などの既存製品における機能拡張などが発表されている。特に、完全に新製品となり、Adobe Real-Time CDPやAdobe Targetなどと同等の製品群のリストに追加されたのがAdobe Mix Modelerになる。
Adobe Mix Modelerに関して安西氏は「現代のデジタル・マーケティングではオムニチャネル(筆者注:種類の異なる複数のチャンネル、例えばテレビ、新聞、Web――といった、種類の異なるチャンネルという意味)でコミュニケーションするのが当たり前になっている。テレビやWebサイトで広告を打ったが、チャンネルが違うと評価するのは難しいのが現状だ。それらを統合的に扱い、広告の投資をどこにどれくらいしていくのかを見つけ出していく必要がある。それらをAdobe SenseiのAIが効率よく分析して、最適なマーケティングミックスを知ることが可能になる」と述べ、広がり続けるさまざまな種類のメディアで、どれを活用することが効果的であるのかをAIが解析して、最適な割合などをAIが示唆してくれるツールであると説明した。
今回のAdobe SummitでAdobeは何度か「オムニチャネル」という言葉を利用しており、そうしたオムニチャネルを活用するのに必要なツールを紹介している。同じようにオムニチャネルを分析するツールとして、「Adobe Customer Journey Analytics」、そして顧客がそうしたオムニチャネルでどのようなユーザー体験をしているかを調整するツールとして「Adobe Journey Optimizer」、そしてそうしたオムニチャネル化している顧客に対してより最適なユーザー体験を提供するためにAdobe Real-Time CDPの拡張などを提供している。
安西氏によればAdobe Real-Time CDPの拡張に関しては、Adobe Experience Cloudの提供しているID管理機能を拡張として、パートナーIDと連携できるようにする機能が提供される。具体的にはEpsilon、Experian、Merkleなどとの連携が発表され、Adobe Experience Cloudに格納されている、ファーストパーティデータだけでなく、そうしたパートナー企業が持つセカンドパーティ、サードパーティデータを連係させることができるようになる。それにより、よりシームレスなユーザー体験をAdobe Experience Cloudをベースにして提供することが可能になる。
また、広告システムとの連携という観点では「Amazon Advertising」、「TikTok」、「LiveRamp」などの広告システムとAdobe Real-Time CDPの連携が発表された。それにより、より顧客に特化した顧客体験を提供することが可能になると安西氏は説明した。
それと同時に、欧州のGDPRに代表されるような、各国政府のプライバシーに関する法律に対応するような顧客のプライバシーに配慮した機能強化も順次導入されており、Adobeが特許を取得したDULE機能によりデータ項目ごとに目的に応じた利用制限を可能に、直近には「Privacy Shield Add-On」と呼ばれる機能が導入され、さらに強力なデータ管理の実現が可能になっていると説明した。
コンテンツサプライチェーンの効率を改善するWorkfrontやAEMの機能拡張
コンテンツサプライチェーン(コンテンツ流通網)の整備という視点では、Plan(計画段階)、Production(制作段階)、Delivery(配信・展開)、Analysis(分析)という4つのプロセスを回していく必要があるが、それぞれの段階で注意していくポイントがあり、各段階でAdobe Experience Cloudを利用すると効率よくプロセスを回していけると、安西氏は説明した。
この4つの段階というのは、筆者のような記者や、Webサイトの編集者であれば日々意識せずにやっている作業になる、Planで言えば、例えばどんなイベントに参加しどんな記事を作るかの計画を行い編集者と打ち合わせを行うこと。Productionは筆者のメイン業務である取材とそれを元にした記事の執筆だ。そしてDeliveryは編集者の仕事で編集した筆者の記事を、自社のWebサイトに掲載する。そして最後のAnalysisはその掲載した記事が、ビュー数と呼ばれる記事が読まれた数、そして最近では外部サイトに再配信されることが多いのでそうした再配信サイトでの反応、さらにはSNSでどれだけシェアされているかなどを調べて、自分たちの作った記事がどれだけの反響があったのかを分析して、もう一度Planに戻って次にどんな記事を作ったらいいかを考える――。そうしたPlan/Production/Delivery/Analysisをグルグル回していくことを日々行っている。
デジタル・マーケティングの現場でも行っていることは同じだろう。記事を広告に置きかえれば、上記のPlan/Production/Delivery/Analysisを何度も回しながら日々マーケティング活動を行っている。
安西氏はこうしたPlan/Production/Delivery/Analysisを回していく中で「それぞれの段階で課題が見つかっているのではないか。例えば、Productionでは、システムがサイロ化(蛸壺化)され、それに対応するためにクリエイターに無駄な作業が増え、コストも増大する」などの課題があり、それらを解決する手段が求められていると強調した。
そうしたコンテンツサプライチェーンを効率よくしていくために、今回Adobeは「Adobe Workfront」や「Adobe Experience Manager」(AEM)などの機能拡張、そしてCreative Cloudにも提供されている、手軽に静止画、動画を編集できるツールAdobe ExpressのExperience Cloud版「Adobe Express for Enterprise」を発表している。
安西氏は「Adobe Workfrontのアップデートにより、プロジェクトの管理やAEMと連携してアセットの管理などができるようになっている。また、Creative Cloudとのより高度な連携が可能になり、PhotoshopのデスクトップアプリからWorkfrontに直接アクセスしてコンテンツを編集できる。また、Microsoft Word/PowerPointやGoogle Docsといったビジネスパーソンが使い慣れているツールを利用してWebコンテンツを編集することも可能にした。さらにコンテンツのページビューだけでなく、さまざまな目標とひもづけて、どのコンテンツが効果的かを評価できるようになっている」と述べ、Adobe Workfront、AEMなどが強化されることで、コンテンツのPlan/Production/Delivery/Analysisをより効率よく回していけるようになったと説明した。
イメージ生成AIのFireflyだけでなく、ChatGPTの技術をベースに自然言語処理に対応したチャットボットなども投入
最後に安西氏は、今回のAdobe Summitで発表された生成AIのモデル「Firefly」やそれを利用したAIサービスとなる「Adobe Sensei GenAI Services」に関しての説明を行った。
安西氏によれば「Fireflyは、生成AIの中でもイメージ生成を中心に対応するAIモデルで、今後ベータ提供などを通じて、Creative CloudやExperience Cloud内で利用できるようにする。それに対してAdobe Sensei GenAIは、イメージ生成の生成AIであるFireflyだけでなく、Microsoft Azure OpenAI Service(ChatGPT)やFlan-T5などの自然言語処理系のAIも含んだ生成AIのサービスとなる」と述べ、イメージ生成のFireflyだけでなく、自然言語処理を利用したチャットボットなどを実現できる言語処理系の生成AIも合わせて提供していくことがAdobeの方針だと強調した。
安西氏によれば、Fireflyで注目なのは「Fireflyでは企業が自前で持つデータを利活用して学習できることにある。それにより、企業が独自で特別なハードウエアやプラットフォームを構築しなくても、独自の学習データを利用した生成AIのモデルを構築し、マーケティングに活用できる」という。
通常、こうした生成AIを構築するには、自社でNVIDIAのDGX-H100のようなAI学習専用のスーパーコンピューターを用意し、その上で動くソフトウエア環境を構築し、さらにデータサイエンティストと呼ばれるデータを解析して効率よく学習するようにデータを整理したりするエンジニアを用意する必要がある。そこまでのハードルが高いので挫折する企業が少なくないのだが、AdobeのFireflyの場合には、既にそれらはAdobeが用意してくれており、学習済みのAIモデルもSaaSとして提供されている。企業が用意するのはその学習済みのFireflyに学習させる自社データのみで、自前で用意するのとは比較にならないぐらい容易に始められる。
安西氏によれば今回のAdobe Summitの各種発表は、Adobe Sensei GenAI Serviceを活用しており、例えばイメージ作成をFireflyで行ったり、「Adobe Marketo Engage」で提供しているチャット機能が自然言語による対応を実現したりといった機能拡張の裏側を支えていると説明した。
なお、安西氏によれば今回のAdobe Summitでの発表はあくまでグローバルの発表であり、発表された製品は23年中に順次Adobe Experience Cloudの各製品に展開されていくことになるが、日本市場向けにどの製品が投入されるのかは、現時点では未定とのことだった。
それらの詳細は、4月にAdobeの日本法人が行う予定のAdobe Summitに関連する日本向けイベントで公開される予定だと説明された。