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よりよい顧客体験の実現もコンテンツ作成もアセット管理も、すべて生成AIが助けてくれる――、Adobe Summit基調講演レポート
2024年3月28日 00:00
米Adobeは、3月26日~3月28日(現地時間、日本時間3月27日~3月29日)に、同社のクラウドベースのデジタルマーケティングツール「Adobe Experience Cloud」の年次イベント「Adobe Summit」を開催している。
初日となる3月26日には全体の基調講演が行われ、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏をはじめとする同社幹部が登壇して、同社のAdobe Experience Cloudや、その一部として提供されている製品の戦略や新製品などの説明を行った。
この中でAdobeは、リアルタイムCDPやAdobe Journey OptimizerといったExperience Cloudツール群の拡張を発表したほか、大企業のコンテンツ作成から展開、その効果測定まで一括して行える「GenStudio」、そして昨年のAdobe Summitで発表した画像生成AIアプリ「Firefly」の拡張などを明らかにした。そうした機能のほとんどは生成AIベースになっており、デジタルマーケティングの世界でも生成AIが実用になってきたことを印象づけた。
生成AIはクリエイターが使うだけでなく、デジタルマーケティングも助けてくれるとAdobe CEO
Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏は、3月26日の午前中に行われたAdobe Summitの冒頭に登場し、「本年はテクノロジーが大きく進化した年になっている。Apple Vision Proのような魅力的な新しいデバイスが登場している、先週NVIDIAはAI推論向けマイクロサービスとしてNIMを発表し、企業がカスタムアプリケーションを実行するのを容易にした。また、Qualcommが本年投入するSnapdragon X EliteはPCの電力効率を大きく変えることになるだろう」と前置き。
そうした進化の裏側では生成AIの着実な進展が挙げられる。昨年のSummitでわれわれは生成AI“Firefly”を発表した。Fireflyは第三者の知的所有権を損なわない形で商用利用できることを発表し、大きな話題を呼んだ。既にFireflyはCreative Cloud、Document Cloudの一部として活用されており、もちろんExperience Cloudも同様で、これから顧客の始まりから終わりまでのユーザー体験を大きく変えていくことになる」と述べ、同社がFireflyの提供から始めた生成AIの取り組みが、コンテンツクリエーションのためのCreative CloudやDocument Cloudだけでなく、デジタルマーケティングツールのExperience Cloudの位置づけも大きく変えていくと強調した。
ナラヤン氏は、現在のExperience Cloudの原型となるサービスを2009年から取り組んでいることを紹介し、生成AIの登場で、その意味づけも大きく変わっていると強調した。「生成AIの登場は、これまでわれわれが構築してきた仕組みを大きく変えていく可能性を持っている。生成AIは、データ、モデル、アプリケーションとユーザーインターフェイスの3つのレイヤーでイノベーションを起こす可能性を秘めており、生成AIがアイデアを出したり、分析を行ったり、生産性を向上させることが可能になる。また、将来的には消費者の好みを予測し、顧客のニーズをつかんだソリューションを提供することを可能にする」と述べ、生成AIをExperience Cloudに実装していくことには大きな可能性があると強調した。
なお、今回の基調講演には顧客ゲストとして自動車メーカーGM(General Motors) 会長 兼 CEOのメアリー・バーラ氏、製薬会社ファイザー CDO(最高デジタル責任者)のリディア・フォンセカ氏が呼ばれ、それぞれの企業がデジタルマーケティングツールをどのように活用しているかを説明した。
新しいGenStudioは、コンテンツの作成から展開、配信、効果測定まで、コンテンツ配信を効率的に管理できるツール
Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント アニール・チャクラヴァーシー氏はナラヤン氏の後に登壇し、今回のAdobe Summitで発表された新製品などを発表した。なお、今回Adobeが発表した概要に関しては以下の記事にまとまっているので、そちらもご参照いただきたい。
チャクラヴァーシー氏は「われわれはコンテンツ/コマース/ワークフロント、データインサイト/オーディエンス、カスタマージャーニーという3つの主要カテゴリーに投資をしており、さまざまなツールを提供している。2018年にはデータを統合的に扱うAdobe Experience Platformを立ち上げて、データがサイロ化するのを防ぎながらツール全体で顧客データを有効に活用できるように努めてきた。ここ数年はあらゆるスケールにおいて、パーソナライズ化を推進しており、生成AIの活用などを進めている。90%の組織がコンテンツの管理に悩んでいるという現状があり、それをより有益なコンテンツサプライチェーンを提供していくことで解決したい」と述べ、多くの組織にとっては、デジタルマーケティングを行う上で、悩みの種になっているのがコンテンツの作成、展開の計画、展開と配信、そしてその効果の測定といったコンテンツ配信管理(アセットマネジメント)をどう効率よくやるかを企業に提案することが重要になると強調した。
コンテンツの作成に関しては、Adobe デジタルメディア事業部門代表 デイビッド・ワドワーニ氏が登壇し、Fireflyを利用した生成AIを利用したコンテンツ作成の方法を説明し(後述)、続いてチャクラヴァーシー氏がステージに戻りコンテンツ配信管理(アセットマネジメント)に関しての説明を行った。
既にAdobeはAdobe Experience Manager、Adobe Experience SiteそしてAdobe Contents Analyticsというアセットマネジメントのためのツールを展開しているが、それらのツールを統合してコンテンツの作成から展開までを一括して管理できるツールとして「Adobe GenStudio」を発表している。
Adobeは今回GenStudioのデモとして、世界的な飲料メーカー、コカ・コーラ社のコンテンツアセットを利用して、GenStudioで統合的にコンテンツの管理を行いながら、生成AIを利用したコンテンツの生成が活用できる様子を紹介した。
Adobe Workfront経由で提供されるコカ・コーラのアセットを活用しながら、マウスでクリックしていくだけでFacebookの広告を作成し、それをInstagramやほかの広告プラットフォームにも容易に展開できる様子を公開した。そうした作成には生成AIを利用することも可能で、Fireflyの機能を利用して画像を生成し、それをGenStudioに取り込んで利用できる。
また、承認権者の承認を得る仕組みもデジタル的に用意されており、日本式に書類を回して、承認権者のはんこを得るのをデジタルに行う様子などが公開された。これにより、コンテンツを作成する人、それを修正する人、そしてそれを承認して実際に展開する人などが、すべてフルデジタルで作業を行え、組織全体で高い生産性を実現することが可能になる。
従来のコンテンツ作成の現場では、クリエイターがコンテンツを作ると、メールなどで納品し、それを現場の担当者がチェックして、最終的に承認権者のところにいってPCの画面を見せて承認をもらう――といった、デジタルとアナログが混在したようなプロセスになっていたことを考えると、GenStudioでそれがフルデジタルになるのは大きな効果がありそうだ。
デジタルマーケティング版ChatGPTとなるAdobe Experience Platform AI Assistant
このほかにも、Adobe デジタルエクスペリエンスビジネス担当シニアバイスプレジデント アミット・アフジャ氏は「Adobe Experience Platform AI Assistant」を、Adobe デジタルエクスペリエンスビジネスエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント アンジュル・ブハムブリ氏は、リアルタイムCDPの拡張機能としてのリアルタイムCDPコラボレーションやAdobe Journey Optimizerの拡張に関して説明した。
Adobe Experience Platform AI Assistantは、Adobe Experience Cloudの基盤部分となる「Adobe Experience Platform」に生成AI由来のアシスタント機能を追加するものだ。それにより、Adobe Experience Platform上で動いている各種のアプリケーションが、生成AIを活用したAIアシスタントの機能を利用できる。
アフジャ氏は「Adobe Experience Platform AI Assistantには、質問に答える、自動的にタスクを処理する、結果をシミュレーションする、オーディエンスとジャーニーを生成するという4つの機能が用意されている。既にリアルタイムCDPやAdobe Journey Optimizerなどでは、一部の顧客にベータ版として提供を開始しており、よいフィードバックを持っている」と述べ、Adobe Experience Platform AI Assistantの機能が、リアルタイムCDP、Journey Optimizerなどの顧客管理や顧客体験管理アプリケーションの一部としてベータ提供を行っており、顧客から前向きなフィードバックを持っていることを明らかにしている。
基調講演で行われたAdobe Experience Platform AI Assistantのデモでは、上司から急にマーケティングキャンペーンを行えと言われたマーケティング担当者が、AIアシスタントの助けを得て、対象となるオーディエンス(マーケティングキャンペーンを行うべき顧客のこと)を選定し、その顧客をターゲットにしたマーケティングプランを作っていくというストーリーで行われた。Adobe Experience Platform AI Assistantは、デジタルマーケティングに特化したChatGPTやMicrosoft Copilotのようなものだと理解しておくとわかりやすいだろう。
なお、Adobe Experience Platform AI Assistantはベータテスター募集中ということなので、Adobe Experience Platformを活用している大企業などがテストに参加したい場合には、AdobeのWebサイト(https://adobe.com/go/aiassistant)から申し込んでほしいいとのことだった。
ブランド同士のファーストパーティーデータを相互に接続して共同マーケティングを行うコラボレーション機能
ブハムブリ氏は、「AdobeはリアルタイムCDPに多大な投資を行ってきた。それにより、現在の論点はファーストパーティーデータをどのように使いこなすかという点に集中している。しかし、われわれはそこに立ち止まっている訳にはいかない。今日は2つの拡張をお話しする。1つはデータ分析の拡充であり、もう1つが他社とデータウェアハウスを接続して相互に利活用を行うコラボレーション機能だ」と述べ、リアルタイムCDPのデータを分析する機能やコラボレーション機能を紹介した。
Adobeの「リアルタイムCDPコラボレーション」は、例えばエアラインとクレジットカード会社の顧客データを相互に接続し、エアラインのFFPの上級会員に対して、クレジットカード会社がエアラインブランドを冠したクレジットカードを発行する場合などに活用できる機能だ。要するに、異なる企業が顧客データベースを相互に接続して、ファーストパーティーデータを相互に活用することで、より効果的なマーケティングを実行することが可能になる。
また、Adobe Journey Optimizerの機能拡張ではB2B Editionが紹介された。Adobeのデジタルマーケティングツールとしては、B2B向けにMarketo(マルケト)という別のツールが用意されているが、Adobe Journey OptimizerをB2Bにも活用したいという声に答えた製品が、このB2B Editionとなる。現状一般消費者向けに利用しているAdobe Journey Optimizerを活用して、B2Bにも発展させることができる点がメリットとなる。
また最後に、Adobeのチャクラヴァーシー氏は、AdobeとMicrosoftの提携について言及した。この提携は、MicrosoftがMicrosoft 365やCopilot for Microsoft 365の一部として提供しているデータ解析プラットフォームのDynamics 365や、Microsoft 365のアプリケーションと、Adobe Experience Cloudの各種ツールを相互に接続できるようにする取り組みで、Microsoft 365とAdobe Experience Cloudの両方を活用しているエンタープライズにとっては、生産性が向上するという意味で歓迎する取り組みだろう。現在この取り組みは進められており、年内には何らかの成果が出てくるとAdobeは説明している。
FireflyにはAPI実装、カスタムモデル導入、新しい構造参照機能も紹介、年内にはオーディオ・ビデオ・3Dの生成に対応予定
Adobeのワドワーニ氏は、同社が昨年のSummitで発表した生成AI「Firefly」に関するアップデートを行った。今回Adobeは、Fireflyに関して3つのアップデートを行っている。それが、サービス(API)の導入、カスタムモデルの導入、そして新しい構造参照機能の導入という3つだ。
サービスとは、簡単に言えばAPIとしてFireflyを利用できるようにすることで、企業が独自のアプリなどにFireflyの機能を組み込んで利用する形だ。ローコード/ノーコードで、FireflyのAPIを指定すると独自の機能を実装することが可能になる。同時にカスタムモデルを導入すると、企業が自社のデータセットでモデルを学習させ、より自社のサービスなどに最適化したFireflyの機能を利用することが可能になる。
また、新しい構造参照機能は、Fireflyで既に既に導入済みだったスタイル参照(画風などを参照すること、例えばピカソの絵を読みこんでピカソ風の絵を生成してもらうといったことに使う機能)に次ぐ参照機能で、画像の構図など、画像の構造を参照して、それを元にした画像の生成が可能になる。従来は、そうした画像を生成してもらうには、プロンプトに言葉で指示する必要があったが、スタイル参照に加えて、構造参照が可能になったことで、より簡単に画像生成が可能になる。
ワドワーニ氏は「Fireflyではこの1年で既に65億イメージを生成している。今後もこうした勢いが維持できるようにさまざまな拡張を加えていきたい」と述べ、今年中にはオーディオ、動画、そして3Dモデルの生成ができるFireflyの導入を行うと明らかにした。