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最先端・次世代ネットワーク技術が集結――、Interop Tokyo 2023の「ShowNet」レポート
2023年6月19日 06:45
最先端ネットワーク技術・製品のイベント「Interop Tokyo 2023」の展示と講演が、幕張メッセ(千葉県千葉市)で6月14日から16日まで開催された。
Interop Tokyoは展示会であると同時に、各社が最新のネットワーク機器を持ち込んで相互接続性や新技術をテストしデモする場でもある。そうした実験とともに会場に提供する実運用でもある会場ネットワークが「ShowNet」だ。
初日となる6月14日には、Interop Tokyo 2023と、会場のネットワーク「ShowNet」について、記者向けのブリーフィングが開催。設備の見学ツアーも実施された。
開催30回を迎えたInterop Tokyo
Interop Tokyo 2023の今年のポイントについては、Interop Tokyo 2023総合プロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長の大嶋康彰氏が説明した。
大嶋氏はまず、今年の開催の特徴としてリアルイベントへの回帰を挙げた。来場や出展の規模がコロナ禍以前の8割以上に戻り、出展が2021年から100社以上増えた475社に、ブース数が1344小間になり、会場も4ホールに広がった(併催も含む)。海外の出展者が多く参加しているのも特徴だという。
その今年はInterop Tokyoの30回記念開催でもある。今年のキャッチフレーズは「To the next 30 years」であり、節目として、今とともに次の30年先を考える場であると大嶋氏は語った。
なお、30回年記念企画として、公式YouTubeチャンネルで動画を公開してもいる。
今年はInterop Tokyoとデジタルサイネージジャパン、アプリジャパンに加えて、画像認識AI Expoが加わり、4展同時開催となった。
さらに30回年特別企画として、宇宙に広がるインターネットについて講演する「Internet x Space Summit」を、Interop Tokyo 2023内で開催した。
そのほかInterop Tokyo内の企画としては、Linux Foundationによる組み込み分野の「ONE Summit」も行われた。
最新の機器や技術が実運用で実験されるShowNet
今年のShowNetについては、ShowNet NOCチームメンバー ジェネラリスト/国立天文台 情報セキュリティ室 先任研究技師の遠峰隆史氏が解説した。
コントリビュート機器も人員も増加
遠峰氏はあらためて、Interopの原点である「I know it works because I saw it at Interop」という言葉を紹介。新しい機器を実際に動かして、動いている様子を見てもらうのが役割だと語った。
ShowNetは、産業界、学術、研究機関からトップエンジニアが集まって構築している。2年後~3年後に業界に浸透する技術を使って、5年後~10年後のネットワークを考えるものだという。
今年のShowNetの規模としては、コントリビューションされた機器やサービスが約1600。動員数が675名で、その内訳は、中心のNOCチームが28名、ボランティアのSTMが37名、メーカーからのコントリビューターが610名。機器などや人員については、コロナ禍で一時期減っていたのが活動が復活してきたという。特に、ベンダーの製品が多様化してベンダーから多くの人が参加していると遠峰氏は説明した。
会場では6月1日からネットワークを構築。4つのホールにまたがり、UTPケーブルの総延長が約20km、光ファイバーの総延長が約7.2kmにわたる。NOCラックおよびPodの総電気容量が約128kWにのぼる。
ShowNetでは毎年、世界初展示のものも投入される。今回はまず、シスコシステムズのCisco 8608が、バックボーンのコアルーターとして使われている。またNTTの次世代光回線であるIOWNのOpen APNが、対外回線の一つとして引き込まれた。ファーウェイからは、分散化仮想ルーターのAR6700vと、Super C+Super Lバンド超大容量光伝送が採用された。
また日本初のものとしては、液冷サーバーのFusionPodや、パケットブローカーのキーサイト Vision 400、出展社のデフォルトゲートウェイとなるジュニパーのMX10004などがある。
バックボーンのSRv6とEVPN/VXLANをつないで収容
続いて遠峰氏は、キーワードごとに今年のShowNetを解説した。
まずファシリティ。会場はデータセンターではなく、ネットワークやサーバーには厳しい環境にあるため、温度や湿度をセンシングデバイスで監視している。
またファシリティの進化として、より高密度な小さなコネクタを使った接続などによる効率改善が図られている。
光伝送網については、外部との間で合計1Tbpsを超える大容量回線を引いている。NTTコミュニケーションズの400Gbps回線と、KDDIとソフトバンク/BBIXのそれぞれの100Gbpsが、あわせて600Gbps。それに加えてIOWNのOpen APNの回線が、400Gbs×1+100Gbps×6+10Gbps×1の計1.01Tbpsで、総計1.61Tbpsとなった。
ShowNet内も光の多重化技術で多くの回線を収容した。そのほか、出展者の接続のために、4つのホールそれぞれ2拠点ごとPodを配置した。
バックボーンについては、コアの部分をIPv6のセグメントルーティングであるSRv6で構成した。リンクローカルアドレスを使ってバックボーンを構成するため、IPアドレスを消費しないようになっており、その上をSRv6で接続している。
また、EVPN/VXLANのオーバーレイネットワーク技術で出展社を収容している。今年の特徴は、SRv6とEVPN/VXLANをつないで収容し、それを元にセキュリティ機能も適用している。
Wi-Fiでは、Wi-Fi 6Eによる接続を6~7ホールで提供した。また、長距離をつなぎ省電力なWi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)を使い、ShowNetブースと6ホールのPod 6-2の間を接続する実験も行った。
セキュリティ機器も400G時代に
ShowNet上のサービスを提供するデータセンターでは、コンテナを多用。DNSやDHCPといったサービスもコンテナで動いている。そのほか、WebからShowNetのネットワーク状況が見える外向けサービスもコンテナで提供している。
セキュリティ分野では、400Gに対応した次世代ファイアウォールの時代となった。以前は光タップでトラフィックを集めていたが、それに加えて、400Gパケットブローカーにより、インラインで広帯域に対応したファイアウォールを実現する。また、アラートを集める基盤、インテリジェントなオペレーションも導入された。
モニタリング分野では、パフォーマンス計測と詳細分析を組み合わせた監視基盤を実現。インテリジェンスやAIをくみあわせた監視も実施した。
テスター分野では、イベントネットワークの性質上、本番になるまで本番のトラフィックが保証できない特徴がある。それに対し、広帯域のトラフィックを生成するテスターのほか、SRv6などさまざまなプロトコルエミュレーションを導入し、アプリケーションの動作やセキュリティの挙動などを模擬して試した。
5Gの分野では、前年の2022年からモバイルネットワークのローカル5Gを実験している。2022年は電波暗室内での実験だったが、今回は3つのSub 6で免許を取得して実験を行っている。ただし、登録した端末しか利用できないので、あくまでエンタープライズアプリケーションのデモの形だ。
Media over IPの分野では、共用であるShowNetバックボーンをまたいだ映像制作環境にトライアルした。通常は映像制作で共用バックボーンは使わないが、共用で実用的な環境ができると応用が利くという。映像としては、ShowNetブースのステージで行われるセミナーの様子を、非圧縮でバックボーンを流して編集する。
最後にSTM。学生や若手のボランティアメンバーが、ネットワークを構築して最終日に壊すところまで体験することで、ネットワークエンジニアの裾野を広げる狙いだ。
ShowNetブースにはラックが18個
ShowNetブースでは、18のラックが設置された。今回は、ネットワーク本体のN1~N11ラックと、サービスを提供するデータセンターのD1~D5ラック、そしてローカル5Gを構成するS1~S2のラックに分かれていた。
ブースの入り口にはネットワークトポロジー図が貼られ、分野ごとに説明が付けられていた。中央を上下方向にバックボーンが通り、上がインターネット側を表す。今回はだいぶ400Gの線が増えたとのことだった。
ネットワーク本体の11個のラック
ラックN-1とN-2は、対外接続回線と対外接続ルーターだ。今回は外部の光信号をここで終端するとは限らず、ShowNet内部まで光で伝送している部分もある。なお今回は、日本で初めて400G-DR4光トランシーバーでネットワークを実運用したという。
ラックN-3はMDF(主配線盤)/光トランスポートだ。IOWNのOpen APNのNEC WX-Dもあり、ラックN-1から光信号でつながる。小さいコネクタを使うことでこのラックで完結させているという。
ラックN-4はコアネットワーク/伝送だ。ここには前述したように世界初展示となるシスコシステムズのCisco 8608も収められており、Open APNも直収している。そのほか、400G対応コアルーターのJuniper PTX10001-36MRなども設置されていた。
ラックN-5は、脅威検出/ネットワークフォレンジックだ。ShowNetのいろいろなところからトラフィックを集め、重複排除などのうえで、いろいろなセキュリティ機器に分配しているという。ここには、前述した日本初展示となるキーサイトの400G対応パケットブローカーVision 400も設置されている。
ラックN-6は、出展社ブース向けセキュリティサービスだ。ここで400G対応次世代ファイアウォールなどのセキュリティ機器を適用する。
ラックN-7は、統合監視/フロー監視といったモニタリングだ。トラフィックアグリゲーターからのトラフィックを利用して、フローや、SNMP Trap、アラートなどを統合監視する。
ラックN-8は、ネットワーク品質検査(プロトコル疑似/パフォーマンス監視)、つまりテスター関連だ。主配線盤を使ってネットワークにテスターをはさみこんでトラフィックを流す。アプリやセキュリティのトラフィックも確認する。
ラックN-9はホール向けネットワーク、つまり出展社を収容する部分だ。このうち、JuniperのMX10004とファーウェイのNE8000の2台が、出展社のデフォルトゲートウェイとなっている。
ラックN-10はWi-Fi/オペレーター用ネットワークだ。Wi-Fiコントローラなどが設置されている。なお、Wi-Fiコントローラの一部はクラウド上のものも使っている。ここからオーバレイでWi-Fiアクセスポイントを集約している。
ラックN-11は、Media over IPマスター拠点だ。ここからバックボーンをはさんで、ラックD-1のスタジオ拠点とつながる。
ローカル5Gのラック2つ
今回はローカル5Gの実験で、ラックS1~S2の2つが用意された。5GではコアネットワークやRANを汎用サーバーで作ることが想定されており、その機材が並べられている。一部はクラウドとも連携している。
変わった機材としては、AWSから統合管理できるAWS Outposts Serverも設置されていた。
データセンターのラック5つ
データセンターとしては5つのラックが並ぶ。
ラックD-1はMedia over IPスタジオ拠点だ。ここがスタジオ側となって、ラックN-11との間を非圧縮の映像を流す。
ラックD-2が光ネットワーク、D-3がリモートアクセス/コンテナサービス、D-4がコンテナルーター/サービスメッシュだ。前述のように、データセンターから提供されるサービスは、多くがコンテナで動いている。これらのサービスはEVPN/VXLANでいろいろなところにつながる。
また、D-3には、リモートからネットワークをオペレーションするために外部からアクセスするときのゼロトラストネットワークの設備も入っていた。2021年以降はコロナ禍によりリモートオペレーションを積極的に取り入れていたが、今回もリモートオペレーションを併用したという。なお、リモートアクセスの設備がデータセンターにあるのはネットワークの都合とのことだった。
ラックD-5は、液冷サーバーのFusionPodだ。背面にラック一体となって水の流れるラインが設けられていた。なお、ここだけはOCP規格の21インチラックとなっていた。