イベント

最先端のネットワーク技術を集めた「ShowNet」レポート、今年のテーマは“Over the Premise”

~Interop Tokyo 2022

 最先端ネットワーク技術・製品のイベント「Interop Tokyo 2022」のオフラインの展示と講演が、幕張メッセ(千葉県千葉市)で6月15日から17日まで開催された。

 初日となる6月15日には、Interop Tokyo 2022と会場のネットワーク「ShowNet」について、記者向けのブリーフィングが行われた。

 Interop Tokyoは展示会であると同時に、各社が最新のネットワーク機器を持ち込んで相互接続性や新技術をテストしデモする場でもある。そのネットワークであるShowNetについて、説明と、設備の見学ツアーが実施された。

ShowNetブース(上から)
ShowNetブース(入り口側から)

リアル開催で「実際に動いているところを見られる」

 Interop Tokyo 2022については、Interop Tokyo 2022総合プロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長の大嶋康彰氏が説明した。

Interop Tokyo 2022総合プロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長 大嶋康彰氏

 Interop Tokyoは、2020年はオンラインのみ開催で、2021年からリアル開催が復活した。大嶋氏はInterop Tokyoをリアル開催する意義として、Interop Tokyoの原点である「I know it works because I saw it at Interop(実際に動いているところが見たい。ここに来ればそれがわかる)」という精神を挙げた。

 今回も、Interop Tokyo、デジタルサイネージジャパン、アプリジャパンの3つのイベントが開催される。今年は、フェーズ1として6月15日~6月17日にリアルイベントが、フェーズ2として6月20日~7月1日にオンラインイベントが開催される。リアルイベントとオンラインイベントを分けて開催することについて、大嶋氏はリアルのときはリアルに集中するのが目的だと説明した。

 2022年の出展企業・団体数は394社で、ブース数は1100.5(いずれも3展計)。大嶋氏は「戻りつつあるのかなと思う」とコメントした。

フェーズ1のリアルイベントとフェーズ2のオンラインイベント
出展者数とブース数

 今回のInterop Tokyoは29回目の開催となり、テーマは「Innovation and Trust - for the people, by the internet -(インターネットによる、人々のための革新と信頼)」。

 注力テーマとしては、ネットワークインフラ、セキュリティ、クラウド、エンタープライズDX、5G/ローカル5G、エッジコンピューティング/MEC、AI/IoT、量子テクノロジー、Media over IP、IOWNが挙げられている。

 ネットワークインフラはInteropの中心となるテーマだが、それに続いてセキュリティのコンテンツ量が多いという。また、5Gのコアネットワークはクラウド化が進み、展示やShowNetでも扱われている。

 3展共通で、イベントは、展示会、基調講演、カンファレンスで構成。さらに、Interop Tokyoで外せない構成要素としてShowNetがあると大嶋氏は強調した。

Interop Tokyo 2022のテーマと注力テーマ
展示会、基調講演、カンファレンス、ShowNetから構成

ShowNet 2022のテーマは「前提を超えろ」

 ShowNetについては、ShowNet NOCチームメンバー/国立研究開発法人 情報通信研究機構の遠峰隆史氏が解説した。

ShowNet NOCチームメンバー/国立研究開発法人 情報通信研究機構 遠峰隆史氏

 Interopはもともと、相互接続性の検証をしつつ機器の展示をビジネスイベントとして行うというのが特徴のイベントだ。そのため、大嶋氏も紹介した「I know it works, because I saw it at Interop」という言葉が掲げられている。

 そのネットワークであるShowNetは、産業界、学術界、研究機関から集まるトップエンジニアが実施する世界最大級のライブデモンストレーションプロジェクトだ。2年後、3年後に業界に浸透する技術を先駆けて挑戦し、世界や国内で初披露(実稼働)される新製品も実装する。その一方で、トガったネットワークを作っているだけでなく、ブースや来場者が実際に使えるネットワークとして構築している。

 遠峰氏は、「ShowNetで取り組んだ技術がその後使われるようになっている」として過去にShowNetで取り組んだ後に商用化された技術を紹介。そして、2020年代にShowNetが取り組んでいる技術として、400GbE、SASE、ゼロトラスト、Wi-Fi 6を挙げた。

 今回のShowNet 2022のテーマは「Over the Premise(前提を超えろ)」だ。その意味について遠峰氏は「パンデミックによる生活様式が変わったのにともない、ネットワークの使い方も変わった。前提が変わってきている中で、ShowNetでどういうネットワークを提供するのか」というテーマだと説明した。

ShowNetとは
ShowNetで取り組んだ技術がその後商用化されている
ShowNet 2022のテーマ「Over the Premise(前提を超えろ)」

3ホールの開催なので規模はやや減少

 続いて今回のShowNet 2022の規模が紹介された。総コントリビューション機器/製品/サービス数は約1600台。動員数がのべ533名で、内訳としては、NOCが29名、STMが39名、コントリビュータが465名。UTP総延長が約15.0km、光ファイバー総延長が約4.2kmに及ぶ。「今回は3ホールでの開催なので例年より少なくなっているが、それなりのリソースが必要」と遠峰氏は説明した。

 世界初展示の製品も集まっている。NTTエレクトロニクスのMediaRouteXは、1Uで製品化された映像転送技術の製品だ。ジュニパーネットワークスのMX304は、2Uサイズのコンパクトなマルチサービスエッジルータで、SRv6など新しい技術をサポートしている。ジュニパーネットワークスのQDD-400G-ZR-Mは、多波長で400GbEを提供するモジュールだ。

 またファーウェイは、10G Flex Ethernet(FlexE)対応インテリジェントルータのNetEngine 8000 M4&AE821や、キャンパスネットワークソリューションのMini FTTOソリューション、屋外型再エネ電源とナローバンドIoTシステムからなるサイトファシリティのiSitePowerが初となる。

 日本初展示としても、ジュニパーネットワークスやシスコシステムズ、ファーウェイがある。国内メーカーとしては、古河電気工業と古河ネットワークソリューションにるルータ「FX2」が初登場した。

ShowNet 2022の規模
世界初登場の製品
日本初登場の製品

バックボーンのコアはリンクローカルアドレスのみで構成

 続いて、分野別に設けられた各分科会の取り組みを遠峰氏は紹介した。

 ファシリティにおいては、ShowNetはデータセンターではないので機器には過酷なところを、温湿度などの環境情報をセンサーで集めるDCIMを活用して対策している。

 また、ここ数年続けている取り組みとして、ラック間の配線の工夫がある。他芯のファイバーがまとめられたケーブルとMPOコネクタを使ってラック間の配線を集約。ラック間接続をまとめるパッチでは、従来より小さいCSコネクタで高密度化している。

 伝送部分においては、400Gが多く使われている。しかも多波長で重ねているという。

ファシリティ分野の取り組み
伝送分野の取り組み

 L2/L3においては、SRv6によるSingle-Stack Multi-Serviceバックボーンがテーマとなっている。これは、バックボーンのコアはIPv6のリンクローカルアドレスのみで構成し、バックボーン自体には直接IPアドレスをふらないというものだ。SRv6対応機器が増えてきたため、今年やっとできたと遠峰氏は説明した。

 Wi-Fiにおいては、Wi-Fi 6がここ2年で家庭まで普及しはじめている状況だ。そこで、2.5Gや5GでWi-Fiを収容。さらに、端末から出た情報をアクセスポイントで集めて展開に活用するような、計測・可視化・適応のサイクルをテーマとしている。

L2/L3分野の取り組み
Wi-Fi分野の取り組み

 データセンターにおいては、ネットワークトポロジーとして2つに分かれたデータセンターを、分散ファブリックによって1つとして扱ったり、他拠点のデータセンターとのBCP・DRを実現したり、クラウドと連携したりといった構成となった。

 クラウドにおいては、データセンターで説明したようにクラウドとデータセンターとを連携。さらに、あらゆる障害を想定した冗長設計により、マルチクラウドにも対応した。

データセンター分野の取り組み
クラウド分野の取り組み

 セキュリティにおいては、現場だけでなくリモートからも運用できるようにするために、SASEとゼロトラストのモデルを採用した。

 モニタリングにおいては、機器から出てくるSyslogやフロー情報を使った予兆検知を愛用。また、ハイブリッドクラウドによる高可用な監視監視システムを構築した。

セキュリティ分野の取り組み
モニタリング分野の取り組み

 テスターにおいては、来場者が集まったときを想定したトラフィックをテスターで発生させてテスト。SRv6のエミュレーションで相互接続したバックボーンの健全性確認などをした。

 5Gにおいては、複数の出展社のローカル5GをShowNetで相互接続した。これは、電波シールドテントの中でフィールドテストを行っている。

テスター分野の取り組み
5G分野の取り組み

 Media over IPは、今年の新しいテーマの1つだ。放送と通信の融合のことではあるが、IPネットワークを使った放送だけでなく、制作段階においても非圧縮の映像などをIPネットワークで流すところまで進んでいる。

 最後にSTMには、学生や企業の若いエンジニアを中心に、一般公募で参加メンバーが集まった。これにより、大規模なネットワークの構築・運用・撤収を経験できる。

Media over IP分野の取り組み
STMの取り組み

全16ラックをネットワークとデータセンターに分けて展示

 ShowNetブースでは、16個のブースを設置。今回は、ネットワーク自身のN1~N12ラックと、サービスを提供するデータセンターのD1~D4ラックに、ナンバリングが分かれていた。

SoowNetブース入り口に貼られたネットワークトポロジー図

ShowNetのネットワークのラック

 ラックN1は対外接続回線、N2は対外接続ルータ/伝送のラックだ。今回は対外接続が合計1TBを超えている。今回は伝送の機器が以前より小さいものに変化しているという。

ラックN1:対外接続回線
ラックN2:対外接続ルータ/伝送
床に貼られた対外接続マップ
床から見える対外接続回線

 ラックN3はネットワーク品質調査で、パフォーマンスやセキュリティのテスター機器が並んでいる。ラックN8のパッチで接続を切り替えるところで、さまざまな場所にテスターのトラフィックを出すようになっている。

 ラックN4は、コアネットワーク/伝送だ。前述のとおり、今回のバックボーンのコアはIPv6のリンクローカルアドレスのみで構成し、SRv6でトラフィックを流す。

ラックN3:ネットワーク品質調査
ラックN4:コアネットワーク/伝送

 ラックN5とN6は、サイバー脅威検出だ。パケットブローカーを使って広帯域の途中にトラフィック監視を挟みこむ。またクラウドのサンドボックスとの連携や、クラスタ構成で大トラフィックをさばく機構、パケットキャプチャなどもここで行われる。

ラックN5~N6:サイバー脅威検出

 ラックN7は統合監視/フロー監視のネットワーク監視だ。ZabbixやSystem Answer G3などの監視ツールが入っている。ここでSyslogやフロー、SNMPなどの情報を集め、落ちたなどを検出する。

ラックN7:統合監視/フロー監視

 ラックN8はオプティカル・クロスコネクト/伝送で、ラック間配線をパッチパネルで接続している。ここでは前述のとおり、従来より小さいCSコネクタを使うことで高密度化している。

 また、NTT-ATの光配線切替ロボット「ROME mini」も収められている。ロボットが物理的に光配線を切り替える装置で、遠隔から接続を変更できる。

ラックN8:オプティカル・クロスコネクト/伝送
光配線切替ロボット「ROME mini」

 ラックN9はホール向けネットワークで、出展者を収容している。いわばブースのISPだ。ここでは、日本初登場の古河電気工業/古河ネットワークソリューションのルータ「FX2」も動いていた。

 ラックN10はWi-Fi/オペレータ用ネットワークで、Wi-Fiはここから接続している。今回のShowNet Wi-FiはIPv6オンリーで提供された。このラックで各社のWi-Fiコントローラなどが動作。クラウドのWi-Fiコントローラとも連携する。

 スイッチからは少し太い黒ケーブルが伸びている。これはネットワークと電源ラインをいっしょにしたハイブリッドケーブルで、1本でアクセスポイントやリモートスイッチに接続するとともに電源を提供する。

ラックN9:ホール向けネットワーク
ラックN10:Wi-Fi/オペレータ用ネットワーク
ShowNetブースの上に設置されたWi-Fiアクセスポイント

ローカル5Gの実験

 ラックN11~N12は、ローカル5Gだ。ここで各社による合計7つの独立した5Gシステムが、それぞれおよび相互の接続を試験していた。また、テスターなどの機材も置かれていた。

 ブース内には実験用の電波シールドテントが設置され、その中でローカル5Gの電波が発信された。またブースでは、NECによる動画のリアルタイムと5G越しの配信の比較や、NTTコミュニケーションズによる5G越しのラジコンカーの遠隔操作デモなどもなされていた。

ラックN11~N12:ローカル5G
5G越しのラジコンカーの遠隔操作デモ

データセンターではMedia over IPなども

 ラックD1~D4はデータセンターに相当するラックだ。ここではHCIなどの仮想化基盤や、クラウド連携、遠隔のリーフスイッチをネットワーク越しに1つのファブリックとする分散ファブリック、高速ストレージのNVMe-oF(NVMe over Fabric)などを使い、ShowNetのサービスが提供された。

 特に今年は、D4ラックでMedia over IPファブリックの実験が行われた。4K/8Kの非圧縮映像を、帯域を管理しながら伝送。さらに、会場のスタジオからIPマルチキャストで流された映像を、いちどユニキャストにしてSRv6に乗せ、インターネット経由で堂島と往復して流すことも行われていた。

ラックD1:分散ファブリック
ラックD2:ハイブリッドクラウド
ラックD3:コンテナマルチクラスタ/高速ストレージサービス
ラックD4:Media Over IPファブリック

 見学ツアーを案内した遠峰氏は、最後に「例年同様、あるいは例年以上に、いろいろな要素をかきあつめている」と語った。

 ShowNet 2022については、公式サイトでの説明や、そこからアクセスできるYouTubeチャンネルでも解説されているので、気になる方は参照するとよいだろう。

ラックの裏側。配線がシンプルにまとめられている
NOCの様子