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AWSジャパン、「AWS MGN」「AWS SaaS Boost」などマイグレーションサービスの最新アップデートを紹介

 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は10日、オンプレミスからクラウドへの移行を実現するマイグレーションサービスに関して、最新アップデートを報道関係者向けに紹介した。

 2020年12月に行われたグローバルカンファレンス「AWS re:Invent 2020」以降に発表されたアップデートが中心で、同時にこの半年間におけるクラウド移行のニーズの傾向も説明されている。

 以下、その概要を紹介する。なお説明を行ったのはAWSジャパン 技術統括本部 レディネスソリューション本部 本部長 / プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏だ。

個々の顧客にとって最適なマイグレーションのアプローチを提案

 グローバルで数百万ユーザーのクラウド移行を支援してきたAWSだが、瀧澤氏は最近の傾向として「単一のシステムを移行するだけでなく、複数のシステムを数年間に渡って大規模にAWSへ移行する顧客が増えている」という点を挙げている。また、AWSクラウドへの移行を検討する企業の動機はさまざまだが、その中でも特にコスト削減に対するニーズは大きく、「ITのコストを全体的に下げて、企業として新しい事業にチャレンジする機会を増やしたい」(瀧澤氏)という声が強いという。

クラウド移行の動機はさまざまだが、コスト削減は常にもっとも強いニーズとなっている

 こうした顧客のニーズを踏まえ、AWSではマイグレーションというプロセスを「コスト削減と、システムを時代の変化に合わせること」と定義し、個々の顧客にとって最適なマイグレーションのアプローチを提案する。

AWSが定義する「マイグレーション」のテーマはコストと時代の変化。単なるリフト&シフトではない点に留意する必要がある

 例えば、4月に国内企業向けにリリースされた「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ(ITXパッケージ)」は、クラウド移行のフェーズにおける計画立案にフォーカスしたプログラムで、人材育成やCCoE(Cloud Center of Excellence)の立ち上げ、パイロット移行実施支援など、大規模なマイグレーションに入る前の準備段階を支援するメニューが充実している点が特徴だ。

 過去の経験をもとに移行方法を具体的に確立し、組織として移行に取り組むことの重要性を理解できるパッケージとして、4月の提供開始以来、多くの国内企業が活用しているという。

国内企業向けに4月にリリースしたITXパッケージは、移行フェーズの中でも計画立案の支援にフォーカスしたプログラム

 またAWSでは移行戦略を「7R」と呼ばれる7つの移行メソドロジー(移行パス)に分類しており、顧客は自社のステージにあわせてメソドロジーを選択する。

・Relocate:「VMware Cloud on AWS」を用いて既存のオンプレミス環境をそのままAWSに移行
・Rehosting:オンプレミスのアーキテクチャを変えずにそのままAWSに移行(いわゆるリフト&シフト)
・Replatforming:OSやミドルウェア、データベースエンジンなど技術的負債を抱えたプラットフォームをクラウドベースに変更(メインフレーム/商用UNIXからの移行、RDSの採用など)
・Repurchasing:SaaSの適用やオンプレミスのライセンスからの切り替え
・Refactoring:マルチAZや各種マネージドサービス、サーバーレス、コンテナサービスなどクラウドネイティブなアーキテクチャによる最適化
・Retire:システムの統廃合による廃止
・Retain:クラウド移行せずにオンプレミスを維持

 この中で顧客企業がもっとも望む移行パスがRehosting、いわゆるリフト&シフトである。瀧澤氏は「既存のオンプレミス環境をEC2に移行するリホスト(リフト&シフト)を希望する企業は多いが、移行するシステムの数が多ければ自動化やマイグレーションツールが必要になるなど、作業が増えることも多い。移行にはさまざまな方法があり、全体のメソドロジーを理解して、現在のステージに適した、できるだけ良いサービスを選択してほしい」と話す。

AWSが移行メソドロジーとして定義する7R。もっとも要望が多いのはリフト&シフトにあたるRehosting

半年間でアップデートされた5つの移行関連サービス

 クラウド移行のトレンドに続き、瀧澤氏はこの半年間でアップデートされた5つの移行関連サービスにフォーカスして説明している。以下、その概要を示す。

AWS Application Migration Service(AWS MGN)

 オンプレミスの環境をAWSに移行する“Rehosting”、リフト&シフトのサービス。コストを削減しつつ、移行を簡素化/迅速化することにフォーカスしている。数百台、数千台規模のサーバーを移行するには、ドライバやOSのバージョン、またはレガシーアプリの存在などさまざまな課題が出てくるが、それらのインフラストラクチャをAWSでネイティブに実行できるよう、エージェントが自動的に変換する。ユーザーサイドでアプリケーションやアーキテクチャに変更を加える必要はない。

 2019年にAWSが買収したCloudEndureのライブマイグレーションサービスをもとにアップデートされており、さまざまなアプリケーション/プラットフォームに対応、「AWSに単純に移行したい」という課題を効率的に解決する。

AWS MGNではソースサーバーにエージェントをインストールし、クラウド側のレプリケーションサーバーとデータを送受信しながら継続的なデータレプリケーションを行い、段階的な移行を実現する
AWS+MGNがサポートするインフラリソース。主だったプラットフォームはほぼカバーされている

AWS SaaS Boost

 AWS re:Invent 2020で発表された独立系ソフトウェアベンダー(ISV)向けの移行サービスで、既存のソフトウェアサービスのSaaS移行を加速させるオープンソースのリファレンス環境。既存のサービスをまずはAWS上のシングルテナント環境にリフト&シフトで移行し、徐々に共通機能(デプロイ自動化、ダッシュボード、ログイン、請求、メータリングなど)を切り出して段階的なマルチテナントの移行を実現する。「ISV事業者からSaaS事業者への転換も可能に」(瀧澤氏)。

AWS SaaS BoostはGitHubで公開されているオープンソースのリファレンス環境。ISVはAWSからプロビジョニングされるSaaS運営に必要なコンポーネントを使って、自社サービスを段階的にSaaS化できる

Amazon Graviton2

 AWSが独自開発するArmベースのカスタムプロセッサ「AWS Graviton」の第2世代プロセッサ。Graviton2搭載インスタンスは同一インスタンスファミリの中でも最大のコストパフォーマンスを提供するため、コスト削減がキーとなるマイグレーションにおいて有力な選択肢となる。国内外でもGraviton2を活用する企業は増えており、Netflix、Domo、Treasure Data、ナビタイムジャパンなど。

 また、メジャーなOSやミドルウェア、開発ツールの多くがGraviton2をサポートしており、AWSでも「Amazon ElasticCache」「Amazon RDS」「Amazon Aurora」「Amazon Elasticsearch」「Amazon ECS/EKS」「Amazon EMR」など主要なサービスでのGraviton2サポートが進んでいる。

HPCの集約型ワークロードなどで使われる「C5.4xl」インスタンスをGraviton化し、段階的なインスタンス集約によってコストパフォーマンスを約半減させた例
Graviton2搭載インスタンスのラインアップ。汎用インスタンスのT4gは無料でのトライアルが可能、3月にリリースされたX2gdは、同じメモリ最適化インスタンスのR6gに比べて2倍のメモリ容量をもつ

Amazon DevOps Guru

 re:Invent 2020でプレビュー版として公開、6月から一般提供が開始された、運用担当者向けのフルマネージドサービス。機械学習にもとづいてアプリケーション運用時に発生したインシデントを自動で検出/通知し、根本となる原因を特定、運用担当者に改善内容を推奨する。開発者や運用担当者に機械学習の知見がなくても問題の特定が容易で、リソースやワークロードが追加されても自動でスケールするため、アプリケーションの可用性向上やダウンタイムの回避に効果的。移行パスとしてクラウドネイティブな環境を実現する“Refactoring”を選択した場合に有効なサービス。

Amazon DevOps GuruではAWSリソースのデータを分析し異常値をインサイトとして検出、これをもとにインシデントが発生したときだけだけでなく、インシデントが発生する前にも予防的にアラートを通知する
複数のイベントを関連付けてグループ化し、重大性の高いインシデントの修復推奨事項を機械学習にもとづいてGuru(達人)のごとく提案する

AWS Fault Injection Service(AWS FIS)

 3月から一般提供が開始されたカオスエンジニアリングのマネージドサービス。AWSワークロードにおいて意図的にシステムを破壊するイベントを生成し、アプリケーションの反応を確認する実験を、停止条件などを定義したセーフガード付きのテンプレートにもとづいて安全に行う。

 クラウドネイティブな環境下ではさまざまなシステムやサービスが複雑に連携しているため、「現在判明している状況を確認する」だけの従来のテスト方式では不十分なことが多い。故意に負荷の高い実験を行うことで、アプリケーションにひそむ未知の問題をあぶり出し、アプリケーションのパフォーマンスと回復性を向上させる。

AWS reInvent 2020でヴァーナー・ボーガスCTOが発表したAWS FISは、Netflix由来のカオスエンジニアリングをベースにしたマネージドサービス。わざと破壊的な負荷をかけてアプリケーションの振る舞いを観察し、そのデータをもとによりセキュアで高パフォーマンスなシステムを作り上げることを目的にしている

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 こうしてみると、ひとくちに「クラウド移行」といっても、企業のステータスや移行規模、移行後のあるべき姿などを考えれば、さまざまなアプローチがあることがわかる。特に忘れられがちなのが、リフト&シフトなどを終えたあとにアプリケーションの開発/運用をどう変化させていくかである。

 クラウド移行とは単にリソースの移行だけでなく、開発/運用のスタイルもクラウドネイティブに変えていくことが求められ、そこからさらに組織文化の変化にもつながっていく。今回の瀧澤氏の説明で挙げられたサービスに、リフト&シフトだけではなく、CCoEのローンチを促すITXパッケージや、DevOps、カオスエンジニアリングなどクラウドネイティブなアプローチをともなうサービスが含まれているのも、AWSが長期的な視点での“マイグレーション“をサポートしていることを示している。

 リフト&シフトが終わっても、クラウド移行が終わったことにはならない。だからこそ、クラウド移行を検討する担当者は、自社のステータスとニーズ、さらに最新のITトレンドを正確に把握している必要がある。

 数ある移行の選択肢から自社にとって最適なアプローチを選び取る、これもまたクラウドネイティブな時代に求められるケイパビリティなのかもしれない。