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アマゾンウェブサービスジャパン、AWS re:Invent 2022の発表などを解説 新サービスや最新の事例も

 米Amazon Web Services(AWS)は、11月28日~12月2日(米国現地時間)の5日間に渡って開催した年次イベント「AWS re:Invent 2022」の内容について、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社の技術者などが、メディア関係者を対象に説明を行った。

 11回目となる今年のre:Inventでは、米国ラスベガスの会場に、全世界から5万人以上が参加。オンラインでは30万人以上が参加したという。日本からの参加者も多く、会期中には2300以上のセッションが行われた。

 アマゾンウェブサービスジャパン パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏は、「re:Inventは、学びのためのイベントであり、製品を売るためのイベントではない。AWSのサービスを活用した事例を学び、自分たちの組織をどう変えるか、システムをどう変えるのか、変化の激しい時代に対応することを考える時間を提供している。数年前から業種や業界に最適化し、業務に近いサービスを拡充している。今後も顧客の声を聞き、サービスを拡充していくことになる。これによりAWSは、さまざまな顧客に対して変革を支援していく」と述べた。

アマゾンウェブサービスジャパン パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏

最新の事例を発表

 re:Inventでは、最新の事例が相次いで発表された。

 SIEMENSがAWS上でサービス提供を開始したXcelerator Cloudは、ボタンを押すだけで、CAEの実行に必要なコンピュータ環境をクラウドから取り出し、独自のアプリケーションを構築できるもの。Lockheed Martinでは、これを利用して、従来は24~36カ月かかっていた設計環境のソフトウェア更新を、数週間から数日で行えるように短縮できたという。

 また、COACHなどのブランドを展開するTapestryでは、レガシーなビジネスアプリケーションをクラウドに移行してDXを推進。組織間でデータをやり取りするためのデータ流通基盤をAWSで構築し、マイクロサービスによるアーキテクチャにより、モノリシックな構造を回避し、スケールを容易にしたという。

 Modernaでは、Amazon ConnectとAIを活用したコンタクトセンターのイノベーションを推進。Salesforceを統合して、ボットやチャットなどの新たな技術を活用し、患者だけでなく医師や薬局、保険者、規制当局なども対象にした、データに基づくルーティングエンジンを実現したという。

SIEMENSの事例
Modernaの事例

 そのほか、自動車に搭載するECUの開発において、Blackberry QNXをサポート。ArmベースのGravitonインスタンスを利用し、開発フローの自動化や開発の効率化を実現する。

 またD-OrbitおよびUnibapと協力し、人工衛星上で10カ月間に渡ってAWS IoT Greengrassなどのエッジ機能を利用。周回衛星上で、宇宙データを直接収集し、分析を行うための方法をAWS上でテストしたという。

 政府機関におけるAWSの活用については、ウクライナ情勢のように政府が混乱に直面した際に、デジタル資産とサービスの保護を実現するためのソリューションガイドを提供し、政府のITの継続性をAWSが支援したとのこと。英国国防省と部門全体、英国軍を通じて、デジタルスキル向上のための戦略的協定を締結した事例も紹介した。

 「AWSは、各国の法規制に対応できるサービスを用意し、ソブリンクラウドに対応できる環境を実現している。規制されたIT環境を利用するのではなく、信頼されるソブリンクラウドの提供に力を注いでいる」と述べた。

政府機関でのAWS活用

セリプスキーCEOによる基調講演での発表

 現地時間の11月29日に行われたAWSのアダム・セリプスキーCEOによる基調講演では、例年通り、数多くの新製品が発表された。

 クラスタを管理することなく、大規模な検索や分析ワークロードを簡単に実行可能にするサーバーレスオプションの「Amazon OpenSearch Serverless」、Auroraのペタバイト規模のトランザクションデータを、Amazon Redshiftを使用して、ほぼリアルタイムの分析と機械学習が可能になる「Amazon Aurora zero-ETL integration with Amazon Redshift」、Amazon RedshiftとRedshift ServerlessでSparkアプリケーションを簡単に構築、実行が可能になる「Amazon Redshift integration for Apache Spark」、ガバナンスとアクセス制御によって、組織の境界を越えてデータを発見し、大規模に共有できる「Amazon DataZone」などを発表。

 「Amazon DataZoneは、ビジネスデータカタログからデータを探したい、ワークフロープロセスを合理化したい、分析へのアクセスを簡素化したいといったニーズに対応できる」と述べた。

Amazon DataZone

 さらに、データをもとにして、将来予測や原因などを可視化する「Amazon QuickSight」、Open Cybersecurity Schema Framework (OCSF)を採用し、複数年分のセキュリティデータを迅速に分析したり、ペタバイト級データのオンデマンド解析に対応する「Amazon Security Lake」、複雑で大規模なシミュレーションを、リソースを気にせずに実施できるマネージドサービスの「AWS SimSpace Weaver」、基礎となる生データを保護し、新しい洞察を生み出すことができる「AWS Clean Rooms」を発表している。

 また、最も要求の厳しい深層学習推論アプリケーションに対して、Amazon EC2で最小のコストで、高いパフォーマンスを提供するように設計した「Inf2 Instances for EC2」、HPCワークロード専用に構築された新たなインスタンスである「EC2 Instances for HPC workloads」を発表。「Amazon Connect」では、MLを活用した新機能の一般提供を開始。ゲノミクスやその他のマルチオミックデータの保存、照会、分析、洞察の生成を支援し、人々の健康増進に貢献する「Amazon Omics」、流通現場の課題を解決する「AWS Supply Chain」も発表した。

 「AWS Supply Chainは、サプライチェーンデータの一元化や、リスクの顕在化が可能になり、インサイトをもとに、正しい行動を素早くとることが可能になる。正確な需要予測を作成し、在庫切れを減少。需要計画の精度を向上させることもできる。また、Amazon Omicsでは、人のゲノムデータと病歴を安全に結合することが可能であり、データを効率的に保存。臨床ゲノミクスの簡素化、臨床試験の迅速化が可能になり、研究やイノベーションを加速できる」と述べた。

AWS Supply Chain

AWS、Amazon.comの物流ネットワークの経験を基に作られた「AWS Supply Chain」など、多数の新サービスを発表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/1459886.html

デサンティス上席副社長はGraviton 3E、AWS Nitro v5などを発表

 開催初日の基調講演に登壇した、AWS ユーティリティー・コンピューティング担当上席副社長 ペーター・デサンティス氏(Peter DeSantis)氏は、ハードウェアの新製品などについて発表した。

 具体的な発表は以下の通り。

・2倍の計算能力と50%高速なメモリアクセス、2倍の帯域幅を提供する「AWS Nitro v5」
・30%高いコストパフォーマンスを実現する「Graviton 3E」
・ネットワーク仮想アプライアンスやデータ分析、密結合クラスタコンピューティングジョブなど、最も要求の厳しいネットワーク集約型ワークロード向けに設計した「AWS C7gn」
・AWS Graviton3Eプロセッサを搭載し、Graviton3に比べて、最大35%向上したベクトル命令処理パフォーマンスを実現する「AWS HPC7g」
・Scalable Reliable Datagram (SRD)プロトコルに基づいて構築され、EC2でのネットワーク遅延とフローごとのパフォーマンスの向上を図る「ENA Express」
・AWS Trainium チップを搭載し、高性能な深層学習トレーニング用に構築した「Trn1n インスタンス」
・特定のLambdaFunctionに対して、最大90%の性能向上が可能な「AWS Lambda SnapStart」

AWS Nitro v5, Graviton 3E
AWS C7gnインスタンス

AWS、データセンターの軽量化を実現する「Nitro v5」、HPC特化版の「Graviton3E」などの新チップをre:Inventで発表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/1459689.html

シヴァスブラマニアン副社長は、データベースや分析、機械学習などを中心とした発表を担当

 また、11月30日に行われたAWS データベース・アナリティクス・ML担当副社長 スワミナサン・シヴァスブラマニアン(Swami Sivasubramanian)氏による基調講演では、データベースや分析、機械学習に関する内容が中心となり、ここでも数多くの新製品が発表されている。

 こちらの発表は以下の通り。

・必要なリソースを自動的に構成し、大規模でインタラクティブな分析を迅速、簡単に実行でき、東京リージョンでも利用が可能な「Amazon Athena for Apache Spark」
・ペタバイト級のデータ格納と、秒間数100万の読み書きが可能な規模に自動でスケールし、3つのアベイラビリティゾーンにまたがる可用性を提供する「Amazon DocumentDB Elastic Cluster」
・衛星データをはじめとした地理空間データを利用した機械学習モデルの構築、学習、デプロイを容易にする「Amazon SageMaker Geospatial ML support」のプレビュー版
・複数のアベイラビリティゾーンにDWHを配置して、障害時も運用を継続できるマルチAZ配置をサポートし、ミッションクリティカルな分析ワークロードに向けて高い可用性と信頼性を提供する「Amazon Redshift Multi-AZ」の、東京リージョンなどでのプレビュー版提供
・ミッションクリティカルな分析ワークロードに向けて、高い可用性と信頼性を提供する「Trusted Language Extensions for PostgreSQL」
・インテリジェントな脅威検出によって、Amazon Auroraのデータを保護する「Amazon GuardDuty RDS Protection」。東京リージョンを含む5つのリージョンでプレビューを提供
・データレイクのデータ品質を、設定したルールに基づいて、自動的に測定、モニタリング、管理する「AWS Glue Data Quality」
・AWS Lake Formationを使用し、Redshift Data Sharing機能のガバナンスを強化することができる「Centralized Access Controls for Redshift Data Sharing」
・エンドトゥエンドな機械学習ワークロードのガバナンスと、監査可能性を強化するために3つのツール群で構成する「Amazon SageMaker ML Governance」
・Amazon S3からRedshiftへのデータの取り込みを自動的に実行する「Amazon Redshift auto-copy from S3」

Amazon Athena for Apache Spark
Amazon DocumentDB Elastic Cluster

 なお同講演では、Amazon AppFlowにおいて新たに22種類のデータコネクタを発表したほか、合計で40以上のコネクタを利用して、AWSのサービスと統合し、データを安全に転送可能にでき、機械学習向けのデータプレパレーションを実行可能にするAmazon SageMaker Data Wranglerを、Amazon AppFlowと統合し、40以上のサードパーティアプリケーションをデータソースとして利用可能にすること、また米国のコミュニティカレッジや、マイノリティサービスを提供する機関などを対象に、無料の教育者支援プログラムを提供し、多様な学生たちにデータ管理などの仕事に就くチャンスを支援することも発表した。

Amazon AppFlowで50以上のコネクタを提供
Amazon SageMaker Data Wrangler 40+ new data sources
AWS Machine Learning Universityでeducator trainingを提供

「AWS re:Invent 2022」3日目の基調講演レポート、リソースも含めたRedshiftの冗長化を実現する「Multi-AZ」などを発表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/1460245.html

Amazon.com ワーナー・ヴォゲルスCTOは、レジリエントなアーキテクチャ構築に関する基調講演を実施

 また、Amazon.com 副社長 兼 CTO ワーナー・ヴォゲルス(Werner Vogels)氏は、レジリエントなアーキテクチャ構築に関する基調講演を行い、Step Functionの大規模な並列ワークロードサポートを強化する「AWS Step Function Distribution Map」、サーバーレスアプリケーションのアーキテクチャや設定、構築の効率化、高速化を支援する「AWS Application Composer」、イベント発行側と受取側を統合し、シンプルで信頼性が高い方法を提供する「Amazon EventBridge Pipes」、統合したソフトウェア開発サービスを提供する「Amazon CodeCatalyst」を発表した。

AWS Step Function Distribution Map
AWS Application Composer

Amazon.comのヴォゲルスCTOが基調講演に登場、「システムは時間とともに複雑になるのが宿命、だから開発の初期段階の取り組みが重要」と指摘
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/1460896.html

 なお、量子コンピューティングである「Amazon Braket」については、re:Invent の開催中にAmazon Braket Algorithm Libraryが発表され、「研究者の多くは最先端のユースケースに対応した形でPoCを実施している。Amazon Braket Algorithm LibraryはGitHub上に公開し、より複雑なアルゴリズムも素早く検証したいとニーズに対応するものになる」(アマゾンウェブサービスジャパン 機械学習・量子プリンシパルソリューションアーキテクトの宇都宮聖子氏)とした。

アマゾンウェブサービスジャパン機械学習・量子プリンシパルソリューションアーキテクトの宇都宮聖子氏

 一方、会期中には、AWS Partner of the Year 2022も発表された。

 1200以上のノミネートのなかから、IDCが選出した80社のパートナーを表彰。日本からは、「SI Partner of the Year - GLOBAL」にクラスメソッドが、「SI Partner of the Year - APJ」にはアイレットがそれぞれ選ばれ、「Training Partner of the Year - GLOBAL」にはトレノケートが選出された。

 また、AWSでは、サステナビリティにおいても世界最大規模の計画を打ち出しているが、re:Invent では、2025年に再生可能エネルギーだけで運用する目標達成に向けて順調に進んでいることや、ウォーターポジティブの目標も2030年に達成する見込みであることも示された。「GravitonプロセッサやTrainiumプロセッサは、1Wあたりの処理効率が高い。これもサステナビリティの貢献につながっている」(アマゾンウェブサービスジャパン技術統括本部技術推進本部長の小林正人氏)とした。

アマゾンウェブサービスジャパン技術統括本部技術推進本部長の小林正人氏