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AIの最前線の取り組みを通じて顧客に貢献――、米IBM・ホワイトハースト社長
ハイブリッドクラウドの重要性もあらためて強調
2021年5月11日 14:14
米IBMのジム・ホワイトハースト社長が、5月12日(日本時間)から開催されるグローバル年次イベント「Think 2021」を前に、日本をはじめとするアジア太平洋地域のメディアを対象に、オンラインラウンドテーブルを行い、AIテクノロジーやハイブリッドクラウドに関するさまざまな製品群を発表した。
その中でホワイトハースト社長は、「コロナ禍において、AIの重要性がより高まってきている。IBMでは、AIの力を活用してビジネス変革を支援するための投資を行ってきた。AIの最前線の取り組みを通じて顧客に貢献することができる」などと語った。
また、「この1年間は、新型コロナウイルスによって世界全体が大きな影響を受けたが、IBMでは医療分野での研究、ワクチンの供給などでも政府や企業と協力を行った。その一方でエキサイティングな1年でもあった。AIやハイブリッドクラウドの進展に向けた取り組みにも成果があった」などと振り返る。
そして、「IBMは、これまでの20年間に渡りソリューションを提供する企業として知られたが、エンタープライズ企業の多くは、ソリューションを共同開発し価値を生み出すことを求めるようになった。これからのIBMはここに注力していくことになる。そのために、ハイブリッドクラウドプラットフォームを中核に置き、専門的なハードウェア機能やソフトウェア機能を追加したポートフォリオとサービスを提供することになる」と話している。
さまざまな新製品・サービスを発表
今回のThink 2021では、AIに関するさまざまな製品やサービスを発表することになる。
Cloud Pak for Dataに追加されるAutoSQLでは、さまざまな場所にあるデータにアクセスでき、それらを一元的に管理する際に、AIを活用して自動化を行えるという。また、ほかのデータウェアハウス(DWH)よりも8倍速く照会を行え、AI向けにデータのキュレーションを行う複雑さを減らし、データ移動にかかるコストを削減できる。
IBM Researchで開発されたWatson Orchestrateは、営業や人事、オペレーション分野のビジネスプロフェッショナルの生産性を高めることを目的にした、新しいインタラクティブなAI機能。最大50%の時間を戦略的な作業に集中させるために再活用できるという。Slackなどのコラボレーションツールや電子メールでの利用に加え、SalesforceやSAP、Workdayなどのビジネスアプリケーションに接続することで、ミーティングのスケジュール設定や承認などの日常業務、提案書や事業計画の作成といった作業を迅速に行える。現在はプレビュー版だが、今年中に販売される予定だ。
Maximo Mobileは、フィールド技術者の作業を変革するモバイルプラットフォームで、道路や橋、生産ライン、発電所、製油所などの保守を担当するフィールド技術者が、直感的なインターフェイスによって、必要なデータを手元で確認できる。ここでは、Watson AIを活用しており、数十年分の業界の知識や経験を、現場の技術者に提供できるという。
さらにIBM Researchでは、Project CodeNetを発表した。AIによるコードの理解と翻訳を可能にするために、1400万個のコードサンプルと5億行のコード、55のプログラミング言語から構成される大規模なオープンソースのデータセットを公開しており、コードを別のコードへと自動的に翻訳する「コードの検索」、異なるコード間の重複と類似性を特定する「コードの類似性」、開発者の固有のニーズとパラメーターに基づく制約をカスタマイズする「コードの制約」といった、コーディングにおける3つの主要なユースケースに対応する。
また、WebSphere Hybrid EditionにはIBM Mono2Microを追加した。IBM Researchが開発したAIを活用することで、企業がハイブリッドクラウド向けにアプリケーションを最適化/モダナイズ化できる。ここでは、エラーが発生しやすいプロセスを簡素化および加速化することでコストを削減し、ROIを最大化するとした。
「Moto 2 Microは、モノリシックなステートフルアプリケーションをマイクロサービスに変換するものであり、IBMのハイブリッドクラウドプラットフォームの中核をなすものになる」と位置付けた。
一方で、EYとの協業によりセンター・オブ・エクセレンスを設立し、IBM Cloud for Financial Services向けに、Red Hat OpenShiftで構築された新たなオープンハイブリッドクラウドソリューション群を提供。金融分野における規制の順守、デジタルトラストやセキュリティに重点を置き、金融機関のDXを支援することを発表した。
量子コンピュータの分野においては、Qiskit Runtimeソフトウェアにより、量子回路の処理速度を120倍に向上させ、開発者の量子ソフトウェア利用の迅速化、簡素化を推進する。
そのほか、指先に乗る世界初の2ナノメートルのチップにより、データセンターからエッジまでのコンピューティングの高速化と効率化を実現。パートナー向けには、新たなコンピテンシーフレームワークを策定し、コンピテンシー認定やスキル育成支援策を発表。ハイブリッドクラウドインフラやオートメーション、セキュリティなどの分野において、専門知識、技術検証、販売実績を認定できるようにするという。
“イノベーションの爆発”という状況が生まれている
ホワイトハースト社長は、現在の世界を取り巻く環境についても言及。「いまは、『イノベーションの爆発』という状況が生まれている。これは、これまで以上に多くの場所でイノベーションが起きていることを指し、それを支えるために、IBMはハイブリッドクラウドアーキテクチャに注力してきた。また、この動きのなかで最も注目しているのがAIである。いまや、AIを活用せずにソフトウェアを開発することは難しく、ビジネスの進め方においても、AIを活用したインテリジェンスの導入がトレンドになっている。今後は、AI技術がどのように開発され、とのように共有されるのか、IPはどうするのかといった課題を、数年をかけて解決していく必要がある」と指摘した。
またセキュリティについて、「ITインフラがミッションクリティカルになるに従い、テクノロジー全体のなかでセキュリティが果たす役割はますます重要になっている。そこにもIBMはAIのテクノロジーや、量子コンピュータのテクノロジーを活用していく。IBMではプラットフォーム全体のセキュリティを確保しており、そこにおいては、主導的役割を果たしている。IBM Cloudでは、データはすべて暗号化されており、計算中においても暗号化されたまま処理され、出力する際も暗号化されているといったように、クラウドサービスの安全性を格段に向上させている。また、顧客のデータは、IBMからは一切見られないようにしている」との取り組みをアピールする。
さらに、「だが、セキュリティに終着点はない。常に旅路のなかにある。今日盗まれた医療情報や金融情報が、いまは解読されなくても5年後に解読される可能性がある。そのときにも、これらの情報は依然として大きな価値を持ったり、多大な損害を与えたりする可能性がある。AIと量子技術によって、脆弱性が発見される可能性があるが、同時に、AIと量子技術はリスクに対処するための巨大な能力を生み出す。セキュリティ上の問題があると思われる領域を積極的に特定し、顧客と協力してセキュリティレベルを高める取り組みを継続的に行っていく」とした。
IBMはハイブリッドクラウドとAIを中心としたポートフォリオによって成長を遂げている
このほか、今後のIBMの業績の回復については、「今年初めの決算発表で、CFOが、2021年下期からは成長が回復し、その成長は2022年に向けて加速することになると発表したが、すでに2021年第1四半期には成長が見られている。IBMは、ハイブリッドクラウドとAIを中心とした新たなポートフォリオによって成長を遂げている。ハイブリッドクラウドプラットフォームと、それに付随するサービスやソフトウェアを拡充することで、成長を取り戻し、2022年度の成長にもつなげることができると考えている。いまは、クラウドへの移行という状況とは異なり、ハイブリッドクラウドへの移行が中心になっている。将来のアーキテクチャはハイブリッドクラウドであり、顧客の課題をハイブリッドクラウドによって解決することで、IBMは成長することになる。その成長には自信を持っている」とも述べている。
さらにハイブリッドクラウドに対して、IBMでは、Red Hat OpenShiftへの投資、製品ポートフォリオの最適化、サービス機能の強化という3点から投資を進めていると説明。
「他社との大きな違いは、あらゆるクラウドアーキテクチャを、さまざまな場所で稼働させることができる共通のプラットフォームを提供している点。Red Hat OpenShift によって、IBM Cloudだけでなく、AWS(Amazon Web Services)でも、Alibaba Cloudでも、GCP(Google Cloud Platform)でも、オンプレミスのメインフレームでも同じインフラで、共通に動作できるようにしている」との強みを強調した。
加えて、「IBMのソフトウェア製品群はOpenShift上で動作するため、あらゆるハイブリッドクラウド環境において利用できる。そして、クラウドで実行するためのアプリケーションの構築や、移行を支援するための仕組みやサービスを用意している。最先端のハイブリッドクラウドプラットフォームを開発、展開し、そのプラットフォームとの相互運用性を確保した製品を提供し、さらに、そのプラットフォームを世界中の企業に大規模に導入するための支援を行っているのがIBMの強みになる」とも述べている。
ホワイトハースト社長は、Red Hat OpenShiftが、規制要件が厳しい金融分野での活用や、5Gへの移行が加速している通信分野での採用が促進されていること、コンテナ技術が過去のあらゆる技術よりも急速に成長していることなどについても説明。
「企業のCEOの多くがKubernetesを知っていることに驚いている。だがコンテナとは、アプリケーションを仮想化したり、アプリケーションの実行場所を抽象化したりするための手段ではない」と指摘。「コンテナは、アプリケーションの構築とデプロイに最も効率的な方法である。新しいアプリケーションを構築する際には、コンテナ化がデフォルトの方法になりつつあり、OpenShiftはそのための主要なプラットフォームになる。それは、すべての主要なクラウド上でネイティブに動作することができる共通のコンテナプラットフォームであるからだ。IBMの戦略は、最高のコンテナプラットフォームを構築することにある」とした。
またエッジコンピューティングについては、データセンターまでをカバーする共通プラットフォームを提供していること、AIを活用して何百万台ものデバイスを一元的に管理するツールを提供していること、企業向けの完全なソリューションを構築するためのサービス機能を持っていることを強みとして強調した。
最後にホワイトハースト社長は、IBMのイノベーションへの取り組みについて説明した。
「いまは、より速く、イノベーションを起こすことができるかどうかが重要になっている。そして、イノベーションは計画的に行われることはほとんどない。人々が実験を繰り返すことで起こり、それを可能にする文化を持っていることが必要である。IBMでは、人々の実験や新しいことへの挑戦を奨励し、それに報いる文化を構築しており、可能な限り、迅速に創造と革新を行うことができるようにしている。またテクノロジーは、イノベーションを起こすために標準化しなくてはならない。IBMはそのために、年間数10億ドルの研究投資を行い、最高のサイエンティストと技術を有し、製品ポートフォリオに対する意見を幅広く聞いている。IBM自らが、より速くイノベーションを起こすことで、エコシステムや顧客が、より速くイノベーションを起こせるようになると考えている」と述べた。