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IBM、新型コロナ対策、そしてコロナ後の“New Normal”を見据えた企業の変革を支援

「Think Digital Event Experience」レポート

 米IBMが5月5日・6日(米国東部時間)に開催したバーチャルイベント「Think Digital Event Experience」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、当初予定していた米国サンフランシスコのモスコーニセンターでのイベントをオンラインで開催したものだ。

 3月4日(同)のIBMの発表では、「IBMのお客さま、従業員、パートナーの健康が第一の関心事である。新型コロナウイルスの世界的な予防策を考慮し、世界保健機関(WHO)の勧告に基づいて、IBMは、主要な顧客・開発者向けカンファレンスであるIBM Think 2020と、ビジネスパートナー向けのPartner Worldという当社の代表的なイベントを、デジタルファーストのグローバルイベントとして5月5日から6日まで開催し、新たなアプローチを取ることになった」と説明されていた。

 そうした経緯のなかで開催された「Think Digital Event Experience」では、IBMの新型コロナウイルスへの対応や、産官学と連携した取り組みなども紹介された。

 米IBM ResearchのDario Gilディレクターは、「まずIBMが取り組んだのが、従業員、パートナー、顧客の安全と健康を守ることだった。そして、顧客が置かれた立場を理解し、新たな現実を理解し、その上で事業の継続を支援することを考えた」と説明。

 「IBMは、社会の根幹を担っている企業であり、金融や通信、小売、ヘルスケア、政府のミッションクリティカルシステムの運用を支えている。そして、IBM Cloudは、柔軟性とセキュリティ技術を合わせ持つサービスであり、これを継続的に利用できるように24時間体制で対応した」と語る。

 さらに「IBM社内では、2万2000の無線アクセスポイント、1万7000のスイッチ、1400のルータ、1500のファイアウォールを有する世界最大級のネットワークを活用している。これにより、初期段階において96%の社員が数日間でリモートワークに移行し、IBMのミッションクリティカルシステムにも影響はなかった。ここ数年、事業継続にフォーカスしながらインフラやリモートアクセスに大規模な投資をしてきたが、この決断がよかった」と振り返った。

米IBM ResearchのDario Gilディレクター

感染拡大防止に向けて3つのポイントから取り組む

 米IBMでは、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、3つのポイントから取り組んできたことを示した。

 ひとつは、「事業継続の回復力を実現」である。Gilディレクターは、「新型コロナウイルスの感染が拡大し始めてから、セキュリティインシデントが40%増加している。新たなサイバーセキュリティから防ぐための取り組みが、ますます重要になっている」とする。

 2つめは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速」である。在宅勤務が世界的に広がるなか、IBMサービスは、リモート体制を構築して企業をサポート。ある保険会社ではわずか2日間で、8000人を一斉にリモートワークに移行することに成功したという。

 「デジタル・リインベンションを加速し、自動化の促進やクラウドへの移行のほか、アクセスが容易なアプリケーションとデータの作成、インテリジェントと柔軟性があるサプライチェーンの実現が、新たな働き方の実現、そして、新たな人との接し方につながる」とした。

 そして3つめが、「人に対するサービスや健康に対するサービスの提供」である。ここでは、まずは、それぞれの地域において適切な判断を下すことができるようにするために、信ぴょう性の高い現地情報を提供する取り組みを挙げた。

 IBMでは、傘下のThe Weather Companyが持つ気象情報を活用して、ハリケーンなどの情報をもとにインシデントマップを生成。15分ごとに更新したハイパーローカルの情報を提供しているという。これは軍レベルで使用しているもので、英語とスペイン語で提供。1億4500万件のアクセスがあり、毎日4万ユーザーが利用しているという。

 さらに、Watson Assistant for Citizensを利用して、米国疾病予防管理センター(CDC)が公開しているデータをもとに、新型コロナウイルスに関する人々からの問い合わせに対応できる体制を構築した。

 「現地の地方政府や医療機関に寄せられている質問に、正確かつタイムリーに回答できていない状況があり、コールセンターの待ち時間が1時間以上になっていた。Watson Assistant for Citizensでは、スピーチ認識技術とチャットボット機能を利用し、質問に対するガイダンスを行い、ダイナミックに動く情勢においても、限られた時間で柔軟に対応できるようにした。共通の質問に対する回答の時間を短縮でき、すでに世界26カ国で利用されている」とした。

 このほか、最も処理能力が高いシステムを活用して、新しい治療法の発見につながる作業を加速するための取り組みも行っているという。

 IBMでは、Microsoft、Google、Amazon、HPEなどともに、ハイパフォーマンスコンピューティングコンソーシアムを設立。6つの米国国立研究所やNASA、大学機関も参加したおり、新型コロナウイルス関連では最大規模の官民連携組織となっている。

 「米科学技術局の提案で、3月17日にスーパーコンピュータを持つ企業が集まり、コンソーシアム設立に向けた話し合いを行った。5月1日に24社のパートナーが参加し、420ペタFLOPSのコンピューティングの力を結集。世界中の研究者がワクチンや治療薬の開発を行うことができるように無償で開放した。現在、30チームが利用している」という。

 そして、スキルと要員を無償で提供している取り組みにも触れた。

 ここでは、臨床試験や薬、病気に関する情報を提供する社会保険管理プログラムの実施や、ハッカソンであるCall for Codeにおいては、気候変動のテーマに加えて、「新型コロナウイルスへの有効なアクション」というテーマを新たに追加したことを紹介した。

 Gilディレクターは、「世界最高性能を発揮するIBMのSummitを使って、8000の分子のなかから、77の化合物を見つけだし、ウイルスの侵入の特性を発見した。分子化合物を絞り込むことで、治療薬の開発につなげることができるようになる。コンピューティングパワーと最先端のAIを利用し、治療法や治療法の発見を支援したい。開発者は命を救うことができる」と述べた。

国内でも新型コロナウイルス対策のための支援を提供

 一方IBMは、日本でも新型コロナウイルスへの対応において、具体的な提案活動を開始している。

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM) パートナー グローバル・ビジネス・サービス事業コグニティブプロセスリエンジニアリング担当の鹿内一郎氏は、「短いサイクルのなかで、企業の考え方が変化している。当初は、社員の安全や衛生管理、業務継続性といったことが課題の中心だった。今は三密を避ける形で業務を継続する一方、コスト削減、収益改善が課題となっている。そして、すでに次のNew Normalに向けた話し合いが始まっており、新しい働き方や、フェーストゥフェースを前提としない新しい商習慣、新たな業務態勢が検討されている。プロセスやシステムの在り方、制度や文化の検討も始まっている」と、日本の企業が持つ課題の変化を指摘した。

日本IBM パートナー グローバル・ビジネス・サービス事業 コグニティブプロセスリエンジニアリング担当の鹿内一郎氏
今後想定される社会の変化

 それに対応するように、日本IBMでは、新型コロナウイルスの影響で生まれたニーズをもとに、「ITレジリエンシーと事業継続性の強化」「新たなサイバーセキュリティリスクへの対処」「クラウドを活用した機敏性と効率化の促進」「運用コスト削減とサプライチェーン継続性の確保」「リモートワークの促進」「Watsonによる顧客とのバーチャルな関わり」「医療や行政サービスの支援」という7つの取り組みを発表。「日本IBMとしても、これらをきっかけに顧客を支援する各種のオファリングを用意している」とした。

7つの主要なニーズへの対応を支援する

 さらに鹿内氏は、「企業は、New Normalを見据えたときに、コア顧客との関係強化、省人化の加速、リスク態勢の強化、コスト削減という4つの実現目標に向けた施策を、これまで以上に進めていく必要がある。そこに日本IBMは支援ができる」と語った。

 コア顧客との関係強化という点では、新たな顧客を獲得するよりも、既存顧客との関係強化や新たな顧客接点の手法を模索するといった検討を支援。省人化の加速では、これまでの少子高齢化対策の延長線上での取り組みに加えて、人が動けないという環境下において人への依存度をいかに引き下げるかといった取り組みを開始している。

 またコスト削減では、キャッシュフローや固定費削減への取り組み、リスク態勢の強化では、リスクに対する未然防止や迅速な対処に向けた体制づくりに取り組むことを提案していくという。

4つの実現目標に向けた施策

 これを前提に、日本IBMでは、7つの戦略テーマを打ち出してみせる。

 内容は以下の通りだ。

(中期)お客さまの次世代戦略テーマ
1)コア顧客の保持・ロイヤリティ強化
2)コスト削減・適正化の加速
3)業務での省人化、自動化の徹底
4)リスク管理強化
5)バーチャル・機動的なワークスタイル

(短期)業務継続基盤の強化テーマ
6)在宅態勢整備・インフラ・ルール/制度・運用
7)BCP態勢再整備

7つの戦略テーマ

 「『コア顧客の保持・ロイヤリティ強化』では、既存顧客との緊密な関係構築をベースに、チャネルの在り方やコミュニケーションの在り方を見直す必要がある。その際に、これまでのように物理店舗とデジタル店舗を併存環境でとらえるのではなく、デジタル店舗を主軸に考えるといったバランスの変化が生まれるだろう。そのため、顧客理解の手法を変えたり、デジタルであればリアルタイムでオファーをしていくような正確性や迅速性が求められたりするようになる。アナリティクスを活用して嗜好(しこう)にあわせた提案も必要になる」などと提案した。

 「コスト削減・適正化の加速」では、短期的なコスト削減機会を特定したり、ガバナンスやオペレーション、リソースの観点でコストの適正化を実現したり、といった支援を行う。

 「業務での省人化自動化の徹底」では、電子認証やペーパーレス化などによるデジタル化のほか、インテリジェントワークフローによる人依存の最小化、業務の可視化、アナリティクスによる示唆の提示による業務プロセスの改革などを支援するとした。さらには、受発注領域におけるブロックチェーン技術の活用や、業界全体での効率化への取り組みも重要だとしている。

 また「リスク管理強化」では、アセットやリソースを可視化することや、ソーシャル情報の活用などにより、リスクの未然防止やリスク発生時の迅速な対応を図る提案を進めるほか、「バーチャル・機動的なワークスタイル」では、社員へのタスクの割り振りやアサインメントの仕方、人材評価、モニタリング、遠隔コーチングなどにも対応する必要があると指摘。さらに、社員がリモートワークをしていても、自律的にスキル強化を行うための仕組みづくりも重要だとした。

 「在宅態勢整備・インフラ・ルール/制度・運用」や「BCP態勢再整備」では、VPNの環境はあるが、一斉在宅勤務の規模で運用したことがないために接続面で課題が生まれたり、未就学児を抱える家庭での仕事の仕方といった課題解決が必要であったりすることに触れながら、「そこに日本IBMが培ってきたノウハウが生きる」としている。

 日本IBMの鹿内氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大によって、『バーチャル・機動的なワークスタイル』、『在宅態勢整備・インフラ・ルール/制度・運用』といった点では、これまで想定していなかった環境への対応が求められている。それに対して企業はどう取り組むかが、いま最も重要なテーマになっている」とした。

 同社では、これらのテーマについて新たにディスカションペーパーを用意し、同社営業部門やコンサルタントが顧客と話し合いを進めており、新たな時代をとらえたソリューションを提案している段階にあるとのことだ。