大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

日本IBMのクラウドビジネスの現状を追う

SoftLayerの買収によってAWSへの対抗力を強化

日本IBMの下野雅承 取締役副社長執行役員

 日本IBMは、「IBM SmarterCloud」によるクラウド事業において、5つのクラウドサービスを提供している。それが、「プライベートクラウド」「マネージドプライベートクラウド」「専用プライベートクラウド」「共用プライベートクラウド」「パブリッククラウドサービス」の5つである。

 特に「パブリッククラウドサービス」においては、2013年6月に買収を発表した米SoftLayerのサービスを、戦略的なサービスメニューとして積極的に展開する姿勢をみせる。

 日本IBMの下野雅承 取締役副社長執行役員は、「もはやクラウドは、コンセプトを語る時代から、利用する時代へと入っている。しかし、その筋道をどうしたらいいのかわからないという企業も少なくない」と指摘。「そこに対して、日本IBMはさまざまな支援を行っていきたい」と語る。

 「IBMリーダーズ・フォーラム 2013 西日本」の下野副社長の講演から、日本IBMのクラウド戦略を追った。

“SMAC”の時代が訪れる

SMACの時代が訪れる

 下野副社長は、「クラウドが実用化の時代に入ってきた」ことを強調する。そして、その背景には、SMACと呼ばれる新たな潮流があることを示す。

 SMACとは、「ソーシャル」「モバイル」「アナリティクス」「クラウド」の頭文字を取ったものであり、これらのできごとが一斉に訪れたとする。

 「1983年にPCが登場し、1990年にはクライアント/サーバーによる分散処理が広がり、1997年ごろからインターネットによってビジネスが変わりはじめた。5~7年というスパンで、世界を変える仕組みができ上がっている。」という点をまず指摘。

 その上で、「しかし、これまでのようにひとつの要素だけが訪れているのではなく、一度に4つの要素が訪れている。2000年代後半に、クラウドという言葉が生まれ、スマートフォンが登場し、ここ数年でTwitterやFacebookが定着しはじめた。SMACと呼ばれる要素が、同時期に発生し、お互いに影響を与えているのがいまの時代」との現状認識を示す。

 そして、「新たな製品や新たなサービスを市場に投入するには、これらの技術を活用して、企業の最適化とイノベーションをバランスよく推進しなくてはならない」とし、「これは、産業革命に勝るとも劣らぬ変革であり、速いスピードで生活のなかでデジタル化が進み、新たなビジネス機会を生み出している」とする。

 そのなかでも、特にクラウドが重要な役割を果たすと位置づけているのだ。

クラウドが活用される5つの理由

 下野副社長は、「なぜクラウドが必要なのか」と前置きし、ビジネスでクラウドが利用される理由を5つ挙げた。

 ひとつめは、「よりよい知見や可視化が可能になる」という点だ。

 これはビッグデータの利活用との連動によるもの。IBMの調査によると、CEOやCOOなど、“CxO”と呼ばれる経営層の54%が、「収集したビッグデータから知見を引き出すために広範囲にクラウドを利用する」と回答しているという。

 2つめは、「コラボレーションの推進」だ。58%の経営層が、企業や組織間、あるいはエコシステムを構成する企業との協業が重要であると回答するなかで、「クラウドは、企業間の情報システムの接続を楽にする。コラボレーションの促進には不可欠なものとなる」と位置づける。

 そして、3つめが「さまざまなビジネスニーズをサポートする」という点。すでにメール、メッセージングの18%がクラウドで利用されており、「コンピュートするだけのクラウドから、高度なアプリケーション利用まで、さまざまなニーズに対応している。財務処理や給与計算などの業務処理をクラウドにしていく、といった動きも加速している。やりたいことをクラウドに移行する環境が整っている」とする。

 4つめには、「新しい製品やサービス開発の迅速化」である。「製品やサービスを迅速に開発し、改革するためにクラウドを利用する」といった経営層は52%に達しているという調査結果が出ている。

 「アプリケーション開発のためにサーバーを構築する場合、従来の仕組みでは、メーカーやシステムインテグレータのSEを呼んで、要求を伝え、構成を決め、見積もりを出してもらうという流れがあった。そのため、サーバーを構築するのに数週間が必要だった。だが、いまでは、ネット上から申し込むだけで、30分~1時間でサーバー環境が実現できる」とする。これもクラウドサービスの大きな特徴で、金融機関のユーザーでは、6週間でバックオフィスシステムを構築した実績を持つという。

 そして、最後は「ITコストの削減効果」である。調査ではクラウドを活用することで、「25%のコスト削減が可能になった」という結果が出ていることを示す。

 IBMが提供するIBM SmarterCloudは、エンジニア間コラボレーションシステムの構築において、年間コストを83%削減した実績をIBM自身が持つとともに、小売業のマネージドシステムでは、3年間に20%のコスト削減を達成した実績があるという。

 「同じシステムを安定的に4~5年にわたって活用するのであれば、自前で構築した方が安いケースがあるが、1年間やってみて駄目だったら次に行く、というようなダイナミックな使い方では、クラウドの方がコスト面では得である」とする。

 こうした5つの要素が、クラウドをビジネスで活用する上でのメリットとなる。

(大河原 克行)