大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

他社との連携で進める、東芝のクラウドへの取り組み

 東芝は、2013年10月に、社長直轄組織としてクラウド&ソリューション事業を設置した。同年11月には、神奈川県川崎市に新設したスマートコミュニティセンターに、スマートコミュニティ事業を推進する7800人の人員を集結。データセンター機能とともに、東芝の5つの事業を横ぐしすることになるクラウド&ソリューション事業もここに集約した。

 そして、同社のクラウドビジネスの取り組みにおいては、日本IBMとの連携も見逃せない。このほど、NTTコミュニケーションズとも連携し、グローバルでのクラウド事業体制をさらに強化することも発表された。

 東芝は、クラウドビジネスにどう取り組むのか。「IBMリーダーズ・フォーラム 2013 西日本」の講演を中心に、東芝のクラウドへの取り組みを俯瞰(ふかん)してみる。

社長直轄のクラウド&ソリューション事業を設置

 東芝は、2013年6月に田中久雄氏が社長に就任。同年8月には、2013年度経営方針を発表。2015年度に売上高7兆円、営業利益4000億円、営業利益率で5.7%を目指す一方、「創造的成長の実現」を掲げ、B2B比率を現在の80%から90%へと拡大。海外比率は55%から65%に高めることを明らかにした。

 10月にはそれに向けて組織の再編を発表。従来は、社会インフラ事業、デジタルプロダクツ事業、電子デバイス事業、家庭電器事業の4つの事業体制であったものを、電力・社会インフラ事業、コミュニティ・ソリューション事業、ヘルスケア事業、電子デバイス事業、コンシューマ&ライフスタイル事業の5つの事業体制に再編し、「エネルギー」、「ストレージ」に加えて、「ヘルスケア」を3本目の柱に位置づけた。

 この事業グループ再編における目玉のひとつが、ICTとクラウドによって、事業を横断的に支える組織として、社長直轄のクラウド&ソリューション事業を設置した点だ。

 東芝の田中久雄社長は、「市場や世の中の変化は、日に日にスピードを増している。その変化に応変し、事業を成長させるためにも、ICTおよびクラウドが、すべての事業の基盤になる。東芝が目指すスマートコミュニティの実現においても、ICTおよびクラウドがますます重要な役割を担うことになる」と語る。

2013年10月からの新体制
クラウド&ソリューション事業の位置付け
東芝の事業とは?
スマートコミュニティへのステップ

 また、東芝クラウド&ソリューション社 ICT クラウドサービス推進部クラウドサービス商品企画・技術部の水原徹部長は、「東芝の事業規模を6兆円から、7兆円に拡大するなかでは、新たな事業の創出が必要である。また、海外売上高構成比を65%、60%に高める必要もある。こうしたなかで重要なインフラとなるのが、クラウドである」と位置付ける。

 さらに、「東芝は、乾電池、テレビから、原子力発電まで幅広い事業を行っている。新たな事業を立ち上げるとき、あるいは海外展開をするときに、いちいちサーバーを購入していたのでは、市場の変化に追いつかず、コストもかかる。クラウド&ソリューション事業は、それを解決するための横断的組織であり、東芝グループのさまざまな要求に対応するクラウドサービスを提供する組織になる」と、その意義を説明した。

 11月には、神奈川県川崎市に新設したスマートコミュニティセンターに、スマートコミュニティ事業を推進する7800人の人員を集結。同事業における本社機能を持つともに、データセンター機能を持ち、グローバルに向けたクラウドサービスを提供することになる。

東芝クラウド&ソリューション社 ICT クラウドサービス推進部クラウドサービス商品企画 技術部の水原徹部長

IBMとのパートナーシップを重視

 東芝のクラウドサービスは、日本IBMとの強いパートナーシップによって実現されている。

 東芝のクラウド&ソリューション事業では、パブリッククラウドである「東芝AG(Agility/Agile)クラウド」と、マネージドホステッドクラウド基盤である「東芝MH(Managed Hosted)クラウド」を用意。社内および、スマートコミュニティ事業などのビジネス展開に活用している。

 パブリッククラウドである「東芝AGクラウド」では、いち早く、日本IBMのSoftLayerを採用した点も特徴だ。

 東芝AGクラウドでは、OpenStackに準拠するとともに、東芝グループ共通のサービスメニューや、東芝グループの運用統一化を実現。ひとつの管理画面からクラウドを管理できるようにしている。「これまでは、各事業部門などの裁量によって、Amazon Web Services(AWS)やWindows Azureを直接利用していたが、これを東芝のメニューのなかから選択できるようにした」という。

 AWSやAzureの選択は引き続き可能だが、中核サービスに位置づけるのは、SoftLayerとなりそうだ。同部門では、東芝グループ向けにSoftLayerを幅広く展開する準備を進めており、自動プロビジョニングについても検証を実施中。今後、東芝グループがワールドワイドで活用できるクラウドサービスとして位置づけていく考えだ。

 一方、マネージドホステッドクラウド基盤である「東芝MHクラウド」は、OASIS TOSCAへの対応を図り、開発手法および開発環境の共通化、アプリの共通化に取り組んでおり、「統一的な開発環境、利用環境が実現できたことで、アプリケーションのポータビリティ、スピーディーなクラウドサービスの構築などで効果がある」とした。

 同社では、神奈川県川崎市のほか、北米、欧州、アジアにデータセンターを持っており、川崎で開発、運用しているアプリケーションは、ほかのデータセンターでも活用できるようになっているという。

クラウド基盤への要求と戦略
東芝グループ共通基盤で、さまざまなSLAに応える
アプリケーションのポータビリティを向上
IBMとの連携状況

スマートコミュニティでクラウドを活用

スマートコミュニティクラウドの要件

 東芝が、クラウド活用において重要な柱と位置づけているのが、スマートコミュニティ事業への展開である。

 スマートコミュニティ事業は、東芝が持つエネルギー、ヘルスケア、家電、PCなどのあらゆる事業の強みを統合させるとともに、それらのノウハウを利活用できる領域だといえる。

 同社のエネルギーを安定供給するための「エネルギーソリューション」と、快適・効率的な生活・住空間づくりによる「ライフサポートソリューション」との組み合わせにより、ICTおよびクラウドを活用しながら、安全・便利で経済的なレジリエント・インフラの実現につなげるとしている。

 エネルギーソリューションでは、ビル管理者に空調、照明、エレベーター、電源の最適制御システムを提供する「ビルソリューション」、工場管理者に工場のファシリティの管理システムを提供する「工場ソリューション」、居住者に家庭のエネルギー管理を提供する「ホームソリューション」、配電小売り事業者にVPP(バーチャル・パワー・プラント)システムを提供し、系統安定化のために需要化の負荷を調整する「地域エネルギーソリューション」などを提供。

 ライフサポートソリューションは、病院などが保有する検査データを一括保管し、介護施設事業者や高齢者向け施設などに情報システムを提供する「ヘルスケアソリューション」、商業施設に集客力や回遊性を高めるためのリコメンドサービスを提供する「コマースソリューション」、交通事業者にEVバス運用管理システムやEVカーシェア運用システムを提供する「交通ソリューション」、平常時向けインフラを災害時に避難誘導や負傷者援護に活用する「防災ソリューション」などで構成される。

 さらに、エネルギーソリューションと、ライフサポートソリューションとの組み合わせによって、自治体の住民の利便性、安全性向上を実現する支援システムを提供する「都市開発ソリューション」を展開する。

 「エネルギーソリューションにおいては、先進国では、電源の多様化による系統の安定化、新興国では安定したエネルギー供給がテーマになる。これにあわせて、生活を高めるために交通システム、医療システム、店舗システムのほか、PCやスマートフォンなどを駆使して、より快適なライフスタイルを提供していくことになる。東芝が得意とするエネルギーとライフスタイルを組み合わせて、スマートコミュニティを提案していく上で、クラウドは重要なインフラとして活用していくことになる」とする。

NTT Comとも連携

 一方で2月25日には、NTTコミュニケーションとの連携も発表された。

 東芝ではNTT Comがグローバルで展開している、ネットワークに直結したクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」を利用することで、グローバルに事業を展開する顧客企業に対しても、東芝が展開するサービスの利用環境を提供するという。

 東芝によれば、すでにグループ内でサービスの試行導入を開始しており、まずは北米・アジアから社外にも提供していく計画とのことで、さらに今後は、欧州での展開も計画されている。

異なる業界との連携でもメリットを生かせる

 また、クラウドの活用は異なる業界との連携にも活用メリットがあるという。

 現在、東芝では全世界において、35のスマートコミュニティに関するプロジェクトを推進しており、日本では岩手県、宮城県、神奈川県、沖縄県などで実施。太陽光システムや交通システム、水道や道路システム、ライフタイムサポートなど、地域ごとの優先課題に対応したスマートコミュニティの提案を行っている。

 「例えば、日本での実績を横展開するといった場合に、アプリケーションそのものをすばやく展開するする必要がある。システム構築に時間がかかっては競争力を失う。アプリケーションのポータビリティ、迅速な対応という点で、クラウドの活用は不可欠だ」とする。

 さらに、東芝では、11月から稼働している神奈川県川崎市のスマートコミュニティセンターを活用して、地域への貢献も図ろうとしている。ここでもクラウドが活用されることになる。

 同社によると、川崎駅前プロジェクトとして、クラウドを活用したエネルギーソリューションや、災害時の避難経路や医療対応などの情報を提供する防災情報提供ソリューション、Kawasaki Grand City Mallにおける商業活性化ソリューションを展開。さらに、EVバス導入に向けた取り組みも開始しているという。

 「こうした取り組みは、日本IBMのクラウド基盤との連携によって実行しているもの。これらの実績をベースに、全世界の営業網を持つIBMと組むことで、スマートコミュニティ事業を加速させたい」とする。

 新規事業への創出、スマートコミュニティ事業の加速、海外事業の強化といった東芝の中期経営計画の主要課題の達成においては、クラウド基盤の強化は欠かせないものだといえよう。

スマートコミュニティセンター
川崎からグローバルへ

大河原 克行