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デルが直販ビジネス主体から大きくかじを切る理由とは?

来年度には法人向けビジネスの50%以上をパートナー販売に

 デルが、日本におけるパートナービジネスを一気に拡大する姿勢を明らかにした。デル GCC統括本部統括本部の成田芳久本部長は、「すでに法人向けビジネスの30%が、パートナーを通じた販売となっている。これを、来年2月から始まる当社2015年度においては、50%以上にまで引き上げたい」とする。

 法人向けビジネスはデル全体の8割を占めると見られ、その主力事業において、過半数を間接販売へとシフトすることになる。これまで直販で成長を遂げてきたデルは、これから1年で、間接販売が半数を超える体制へと大きく変革することになるのだ。デルの成田本部長に、日本におけるパートナービジネスの取り組みについて話を聞いた。

ソリュ-ションビジネスの拡大にはパートナーとの連携が不可欠

デル GCC統括本部統括本部の成田芳久本部長

 デルは、「デルモデル」と称される直販型のビジネスモデルで成長を遂げてきた。現在でも、電話、オンラインのほか、同社直販営業体制が主体となり、デルモデルを進化させながら、直販の強みを生かしたビジネスを展開し続けている。

 だが2007年以降、デルは買収戦略を加速。さらに、従来のハードウェアベンダーから、ソリューションプロバイダーへと転換する方針を打ち出したのに伴い、新たにパートナービジネスへの取り組みも模索してきた。

 かつてのハードウェアベンダーとしての「箱売り」ビジネスでは、デルが持つサプライチェーンの強みを生かし、低コストで流通するダイレクトモデルが優位性を発揮していたものの、新たにデルが目指した「ソリューション」ビジネスでは、顧客と密着してソリューション提案を行うパートナーモデルでの展開が最適だ。

 もちろん、大手企業向けならば直販営業体制も効果的だが、デルが得意とする中堅・中小企業への展開には、自前の直販営業体制だけでは限界があり、パートナーとの連携は避けては通れなかった。ソリューションプロバイダーとしてビジネスを拡充するにはパートナーとの連携が不可避だったといえる。

 デルでは、2007年から、パートナービジネスを担う「デルグローバルコマーシャルチャネル(GCC)」を立ち上げており、同部門を主体として、パートナーを通じた販売を開始していた。

 その成果は着実に出ており、すでに全世界では37%がパートナーを通じた間接販売。日本でも「30%がパートナーを通じた間接販売になっている」とする。

 特に、米本社はこの2年間で19社の企業を買収しており、これらのなかには間接販売を主軸に展開してきたソフトウェア製品やサービスも含まれていた。買収に伴って、パートナー販売の比率が増加する傾向にあったことも、パートナー販売比率の上昇につながることになる。

販売パートナーからの期待感がある

 実は、日本においては、パートナービジネスがすでに成長のドライブとなっている。

 国内の法人向けPC市場は、市場全体を俯瞰(ふかん)すると今年前半までは低迷が続き、ここにきて、Windows XPのサポート終了に伴う需要や、消費増税前の需要喚起などが生まれており、徐々に需要が回復しつつある。

 そうしたなか、調査会社のデータなどを見ると、2013年第2四半期や第3四半期には、デルが一人勝ちという様相が見られている。

 円安になっても、それに追随するような価格引き上げを行わなかったことで、価格的な優位性があったことも見逃せないが、その一方でパートナー販売が着実に成果をあげていることが、もうひとつの隠れた要素になっている。

 同社によると、2014年1月までの売上高見通しで、法人向け販売パートナールートでは、前年比67%増という高い成長が見込まれているという。成田本部長によると、これを上回る、さらに高い成長率を遂げる可能性もあるとする。直接販売ルートでの成長率に比べると圧倒的ともいえる数値をたたき出しているのだ。

 これは2012年8月時点でも、前年同期比2倍以上の成長率を遂げており、1年以上に渡って、継続的な高い成長を続けていることがわかる。

 「販売パートナーからは、デルが変わろうとしていることに対する期待感がある。また、デルが本気でパートナービジネスを推進する考えであることが伝わっているのではないか。パートナーとの協業において、大切なのは、裏切らないメーカーであること、安心して付き合えるメーカーであること。また、パートナーの収益に貢献できるメーカーであることに尽きる。そうした観点で、デルに対する信頼感が高まっている」と、成田本部長は語る。

 デルが打ち出すパートナー向け施策が、パートナー各社の戦略に合致しはじているという点も、パートナービジネス拡大の要素のひとつになっているようだ。

2015年1月には4000社規模に拡大したい

デルの販売パートナープログラム

 デルは、今後、パートナービジネスをさらに加速する姿勢をみせる。

 成田本部長は、「来年2月から始まる当社2015年度においては、パートナービジネスの比率を、50%以上にまで引き上げたい」とする。

 これまで直販が主体だったデルにおいて、売上高の過半数を間接販売が占めることになる、まさに大きな転換期を迎えようとしているのだ。

 米Dellのマイケル・デルCEOも、今後、パートナー販売を拡大する姿勢を打ち出し、継続的に投資する姿勢を明らかにしているという。

 全世界のGCCを統括するDell グローバルコマーシャルチャネル(GCC)部門統括本部長のグレゴリー・デイビス バイスプレジデントも、「今後は、Dellが買収したハードウェア、ソフトウェア、サービスをパートナーに積極的に取り扱ってもらいたい」と異口同音に語る。

 現在、Dellには全世界で14万社の販売パートナーがある。アジア太平洋地域では、2万3000社の販売パートナーが存在する。

 これらの販売パートナーは、最上位のPremierパートナーをはじめ、Preferredパートナー、Registeredパートナーの3段階で構成され、PremierパートナーとPreferredパートナーは全世界で4万4000社にのぼるという。

 日本では、現在、17社の販売パートナーと契約している。グローバルに比べると、数が少なく見えるが、日本では他国と比べて、異なる契約条件になっていること、またディストリビュータを通じた認定販売店を加えると、現在は330社の認定特約店体制になっていることなどを踏まえれば、それなりの体制を整えているといえる。

 だが、成田本部長は、「まだまだ拡大してきたいと考えている。来年1月までに認定販売店を500社にまで増やし、さらに2015年1月までには4000社規模にまで拡大したい」とする。

1次店では「深耕」を図る戦略

 1次販売パートナーについては、現在の17社を一気に拡充する考えはないようだが、認定販売店の拡充には積極的に取り組む姿勢をみせる。

 むしろ、1次販売パートナーに関しては、「深耕」といった戦略の方が当てはまるようだ。

 日本国内での17社の1次販売パートナーは、カテゴリー分けすると、「ディストリビュータパートナー」のダイワボウ情報システム、ソフトバンクBB、「ボリュームパートナー」の富士ゼロックス、リコージャパンのほか、「ストラテジックSIパートナー」として5社、そして、地方都市に本拠を置く「地域販売パートナー」に分類される。

 成田本部長は、「ディストリビュータルートを通じて認定販売店を増加させ、ボリュームパートナーを通じて販路も拡大していく。一方で、ストラテジックSIパートナーは、それぞれが持つ得意分野において力を発揮していただき、地方都市の販売パートナーに関しては、ローカルキングと呼ばれるパートナーや、エンドユーザーと直結したパートナーと連携していくことになる」とする。

 ダイワボウ情報システムは全国に2万社、ソフトバンクBBは全国に9000社の販売代理店を持つことを考えると、この2社を通じても、4000社規模にまで認定代理店を増やすことは可能だ。だが、市場環境の変化などをとらえながら、ディストリビュータルートの新規開拓に乗り出す可能性もありそうだ。

 また、日本の場合は、デルと1次販売パートナーが、ビジネスプランを立案し、深い関係を持ってビジネスに乗り出している点も見逃せない。特に、ストラテジックSIパートナーや地域パートナーとの連携においても、具体的なビジネスプランをもとに協業を図っており、特定領域や地域戦略でも、具体的な「絵」を描いている点が、パートナー戦略を加速させる地盤となっている。

 Dellは、11月6日、7日の2日間、中国・成都で、主要パートナーを対象に、Dell GCC APJ Partner Summitを開催した。これに合わせて、同社は、パートナー向けプログラムとして、「トレーニングイニシアチブ」、「ツール」、「ベストプラクティス」をそれぞれ発表。アジア太平洋地域において、これらを提供することになる。もちろん、このなかには、日本市場も含まれることになる。

ソフトウェアに対する支援体制を強化

 パートナープログラムの強化ポイントのひとつは、ソフトウェアに関する支援体制を強化していることにある。

 パートナー向けに提供する「PartnerDirectプログラム」では、「セキュリティ」、「システム管理」、「データ保護」、「情報管理」の4つのソフトウェアコンピテンシーに注力。これらのソフトウェアコンピテンシーは、PartnerDirectに登録しているすべてのパートナーが利用可能となる。

 また、それらに対するトレーニングも提供する。トレーニングは、まずは11月から英語のみで提供されるが、来年2月には、日本語、韓国語、簡体字中国語によるトレーニングが開始されることになる。

 「コンピテンシートレーニングは、パートナーが最も大きな関心を寄せる分野を掘り下げ、より多くの学習ができるように、豊富なカリキュラムを用意している」とする。

 同トレーニングをはじめとして、すべてのトレーニングを、デルは無償で提供。これも他社に比べて大きな特徴のひとつといえる。

 これらは、基本的には、NetExamと呼ばれる仕組みを活用し、Webを通じてトレーニングを実施することになる。また、ITLといったクラスルーム型の教育制度も用意している。

 さらに、パートナー向けツールとして、「オンライン・ソリューション・コンフィグレーター(OSC)」を提供。販売パートナーが顧客の要望に合わせて、複数のエンタープライズソリューションを組み合わせたり、カスタマイズしたりといったことを可能にする。今年7月から、オーストラリア、ニュージーランド、中国でツールの提供を開始。現時点では、日本、インド、韓国でも利用が可能となっている。OSCは、国ごとにローカライズされており、ビジネス展開している地域の言語と通貨で、OCSを利用することができる。

 加えて、ビッグデータスターターキットを提供。インフラ構築の投資をすることになく、パートナー、顧客、開発者がビックデータを利活用し、コストの最適化を図ることができる。ここでは、ビジネスプランの開発でも連携することになる。

 また、デルは、アジア太平洋地域のパートナーに対して、エンジニアの技術的専門知識の育成支援にも乗り出しており、中国、インド、韓国では「Dell Engineers Club」を開始し、すでに700人以上のエンジニアが登録したという。Dell Engineers Clubは、IT企業、エンジニア、エンドユーザーの三者を結んだ「シンクタンク」的な役割を果たすものであり、業界のトレンドに関するフィードバックを共有し、先進テクノロジーについても討論を行うという。さらに、オーストラリア、中国、インド、ニュージーランドにおいては、パートナー諮問委員会(Partner Advisory Council)を発足。各国の委員会は、ビジネスの優先事項や、セールスおよび地域戦略に関連する課題において、デルの諮問委員として活動することになるという。2014年上半期には、APJパートナー諮問員会が設立される予定だという。

 このように日本をはじめとするアジア太平洋地域においても、パートナー支援は一気に強化されることになる。

今後も鍵を握るのはソフトウェア製品に関する支援

 今後のパートナー戦略において、重要なのはソフトウェア製品群に関する支援策の強化だろう。

 Dellは、過去2年間で19社を買収したが、その多くがソフトウェアやサービスに関するものである。なかには、それぞれにパートナー網を持ち、それぞれのパートナープログラムで運用していたものもある。

 ソフトウェア製品に関しては、デルソフトウェアに統合されているが、今後は、ばらばらだったパートナープログラムに関しても一本化されることになりそうだ。

 すでに欧米ではその方向性を打ち出していることから、日本でもそれほど遠くない時期に一本化が進む可能性が高い。

 これにより、これまでデルのハードウェア製品を扱うことがなかったソフトウェアパートナーが、デルのサーバーやストレージ、PCなどの幅広いハードウェア製品群の取り扱いを開始できるようになるほか、デルのハードウェアパートナーも、ひとつのパートナープログラムにおいて、デルのソフトウェア製品群を扱えるようになる。

 デルでは、「デルは、市場をリードするソフトウェア企業を買収しており、ソフトウェア分野において、パートナーの競争力を高めていきたいと考えている」とする。

 中でも、「セキュリティ」、「システム管理」、「データ保護」、「情報管理」におけるパートナー支援策強化に乗り出すことで、「ソフトウェアとハードウェアに特化したパートナーはもちろん、ソリューションを販売するパートナーも含み、一体化したチャネルパートナーコミュニティのニーズに応えることができるようになる」としている。

 デルのパートナーが、ソリューション提案を本格化できる体制が、いよいよ整うといっていいだろう。

ハードウェアでは在庫型ビジネスモデルを展開

 一方で、ハードウェアに関するパートナー支援強化にも乗り出す。

 デルはPCやサーバー、ストレージの国内生産を行っていないことから、納期に関しては、競合他社に比べて不利な点があったともいえる。

 だが、ここにきて、「NDBM(ニューデルビジネスモデル)」と呼ぶ在庫型のビジネスモデルを展開。現在は、Vostro、Latitude、OptiPlexといった一部機種を対象に、2日間で納品できる体制を整えている。これを来年には、すべての法人向けPCに展開していく考えだ。

 さらに、パートナービジネスの拡大に伴い、ディストリビュータが独自に在庫を持ち、それを短期間で納品する仕組みの構築にも乗り出す考えだ。これが実現すれば、朝注文すればその日のうちに納品されるという仕組みの構築も可能になるという。

 「企業が求める仕様が、かなり絞られている。ニーズに合致した製品を用意することで、短納期が可能になる」としている。

 一方で、デルでは、パートナー向け専用モデルの投入も開始している。現時点では、ミニタワーサーバーである「PowerEdge T20」を用意。デルが得意とする中堅・中小企業向けに展開していく予定だ。

 PowerEdge T20の販売は、米国などに限定されており、日本での投入については現時点では未定。だが、今後、日本にも展開する可能性も高いといえるだろう。

 デルがパートナー向け専用サーバーを投入するのは初めてのこと。これも、デルのパートナービジネスへの本気ぶりを示すものだといっていいだろう。

 Dellのデイビス バイスプレジデントは、「Dellは、PartnerDirectプログラムを通じて、パートナーとともに、成長を遂げていきたい」と語る。

 それは日本でも同じであり、デルは、今後、日本においても、パートナービジネスを拡大することになる。

 「既存パートナーへの継続的な投資だけでなく、認定販売店に対してもデルが直接情報を提供する仕組みを構築する。そして、販売認定店やローカルキングと呼ばれるパートナーとの提携により、全国を細かくカバーする体制を整えたい」とする。

 直販主体のデルが、主力となる法人向けビジネスにおいて、半分以上を間接販売へとシフトする大きな節目を迎えようとしている。

 そして、それはソリューショプロバイダーとしての成長を掲げる同社にとっては不可欠なものだ。

 パートナービジネスの拡大なしには、ソリューションプロバイターとしての成功はない。そのための地盤がいよいよ整うことになる。

大河原 克行