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欧州AI主権は守れるか? オランダASMLが13億ユーロでMistralを支援

 オランダの半導体製造装置大手ASMLが、フランスのAI企業Mistral AIに13億ユーロ(約15億ドル)を出資すると発表した。Mistralの企業価値は117億ユーロ(約135億ドル)と、欧州で最も評価の高いAI企業となる。狙いは、AIの米中のリードに対抗すること。だが、そこには欧州の構造的な課題も見え隠れする。

半導体装置メーカーとAIスタートアップが手を組む

 Mistral AIとASMLの取引は、連日のように米国のAIスタートアップの資金調達の話題が報じられる中、9月9日に発表された。

 内容は、ASMLがMistralのシリーズC投資ラウンドでリードインベスターとなり、13億ユーロを投じるというものだ。ASMLはMistralの最大株主となり、ASMLにとっても史上最大規模の投資案件になるという。ASMLはまた、製品ポートフォリオ全体での研究開発や運営においてMistralのモデルを採用する。非常に戦略的なものだ。

 「両社は協業を通じて共に迅速にイノベーションを起こすことができると確信している。半導体装置メーカーとAI企業というパートナーシップは初であり、それぞれの能力を結集させるものだ」とプレスリリースでは説明している。

 Mistralは2023年にMeta、Google DeepMindの元研究者らが創設したAIスタートアップだ。オープンウェイトのLLM(大規模言語モデル)や、AIチャットボット「Le Chat」などを提供しており、NVIDIA、Andreessen Horowitz(a16z)などから出資を受けている。

 ASMLがそのMistralに大型出資する背景には、まずAIの覇権争いがある。

 欧州には、資金力のある米中のリードを座して見ているわけにはいかないという焦りがある。前欧州中央銀行総裁のMario Draghi氏が作成した報告書「ドラギレポート」(2024年)は、欧州が米中に後れを取っていると警告し、多額の追加投資を行うべきだと提言している。

 もう1つが地政学上のリスクだ。ASMLは、半導体の微細化に不可欠なEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の世界唯一のサプライヤーで、半導体業界で「ほぼ難攻不落の地位」(Financial Times)にある。しかし、地政学の影響から逃れることはできず、米国政府から中国向け輸出を制限するよう要請されている。

 「ASMLのMistral AIへの出資は欧州にとってゲームチェンジャーだ」と欧州連合(EU)議員のStephanie Yon-Courtin氏はReutersにコメントしている。「われわれのデジタル主権を強化し、イノベーションを後押しし、世界のビッグテックに対して、『欧州は従うのではなく、リードする準備ができている』という明確なシグナルを送るものだ」という。