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日立とハピネスプラネット、600種類のAIエージェントが自律的に議論し解決策を提案する「Happiness Planet FIRA」

 株式会社日立製作所(以下、日立)と、同社のグループ会社である株式会社ハピネスプラネットは、自己成長型AI サービス「Happiness Planet FIRA(フィーラ)」を共同で開発し、8月26日から提供を開始した。専門分野に特化した600種類のAIエージェントが自律的に議論し、深い洞察や創造的な視点での解決策を提案するとともに、議論の経験をもとに自己成長していくという。

 ハピネスプラネットの矢野和男CEOは、「従来の生成AIは、質問をして、情報を得るという使い方であったが、FIRAでは、テーマを与えると、課題に対して、多様な視点から俯瞰(ふかん)し、思考の枠組みをリフレーミングして、新たな経営の選択肢を得ることができる。社内の狭い体験に縛られたり、短期的な成功にとらわれたり、上司に忖度(そんたく)したりといったことがなく、意思決定の質を変える役割も果たすことができる」と位置づけた。

ハピネスプラネット 代表取締役CEO兼日立 フェローの矢野和男氏

 2025年5月から、製造業、銀行、建設業などの先行ユーザーが導入。経営計画の策定、株主対応、企画、新規事業、投資判断、事前検討などに活用しているという。また日立では、2025年4月から德永俊昭社長兼CEOの体制に移行し、それに伴い新経営計画「Inspire 2027」を開始しているが、同経営計画の策定においてもFIRAを活用したとのこと。

 FIRAの開発の背景について、ハピネスプラネットの矢野CEOは、「日本の企業は効率化には取り組んできたが、創造性では世界に後れをとっている。経営や新規事業、現場の変革には創造性が必要であるが、いまは、これが日本の企業競争力のボトルネックになっている。AIを使い、創造性の問題を解決できないかと考えた」と振り返る。

 そして、「だが、生成AIの回答は、創造的とはいえないものばかりである。物知りではあるが、賢いとはいえない。AIに創造性を持たせるには、AIが試行錯誤によって賢くなり、自ら成長しなくてはならない。しかも、枠組みがあいまいで、流動的で、複雑なビジネスの課題解決においては、AIをどう自己成長させるかが不明だった。FIRAでは、原子分子の現象理解に使われてきた物理モデルである量子確率論を応用し、創造性を定式化し、AIエージェントに実装することで、創造的に自己成長する『異能』を作り上げた。『異能』は、それぞれがとがった視点を持っており、平均化を避けながら、議論を掛け合わせることができる」と説明した。

 また、「会社の固有事情に沿った深い洞察や創造的な選択肢を、その場で生成する。従来の生成AIとは異なり、一般論や常識的な回答を超え、さまざまな経営課題に対応することが可能となった」という。

 FIRAの名称は、多様な人々の相互作用によって、ルネサンスが発生したことに着目。フィレンツェ(Firenze)で起きた原理(Arche)にちなんだものとしている。

FIRA

 FIRAの具体的な使い方はこうだ。

 テーマを与えると、それに応じて、専門知識を持ったスーパーCEOやスーパーCFO、スーパーCMO、Dr.競争戦略、Dr.革新発想。もの言うアクティビスト、もの言う社員など、必要とされるAIエージェントを自動的に召喚し、議論を開始する。

 スーパーCFOは、専門的な財務・ファイナンス知識を持っており、Dr.革新発想は革新的な発想が得意だという。また、経営学、経済学、心理学、IR、財務、人財、データサイエンス、コンセプトづくり、ウェルビーイング、歴史、科学、思想、哲学などの専門性を持った独立したAIエージェントを用意。さらに、実在のエキスパートの専門知識もAIエージェントとして活用しており、メンタルトレーナーの久瑠あさ美氏、ウェルビーイングシンキングに精通した高橋ゆき氏、世界陸上の金メダリストである為末大氏、著述家の山口周氏、ハピネスプラネットの矢野和男氏の思考を組み込んだBunshin(分身)も用意している。

 「当初は30種類のAIエージェントで議論させたが、より深い洞察のためには、専門性を持った600種類のAIエージェントが必要だと判断した。知識を増やすのではなく、多様な見方を持ったAIエージェントにより、それぞれが情報を引き出し、お互いの議論によって、創造的な課題解決策を導き出すことになる」という。FIRAの議論に参加するAIエージェントは今後増やしていくという。

異能たちを召喚
600種類の異能群
FIRAで召喚されるAIエージェント

 テーマを与えると、約30秒で召喚されたAIエージェント同士が議論を開始し、その様子を音声やテキストで見ることができ、議論の結果は報告書にまとめて提出される。

 「専門的な視点や独自の思考パターンを持つ異能たちが、利用者が入力したテーマや課題に沿って、自律的に意見や提案を出し合って議論する。議論の司令塔となるAIファシリテーターが、議論の方向性や場の盛り上がり、感情や表現などをとらえながら、発言者を指名したり、発言の順序や長さを調整したりする。テーマを与えるだけで、こうした議論が進展する。異能たちは、時に刺激し合い、時には対立し、時には協調し合うことで、思考をブラッシュアップしながら、創造的に自己成長することができる」という。

 多様な異能を、AIがファシリテーションして熟議させることで、従来のAIでは得られなかった新たな発想や幅広い思考を得られ、経営の可能性を拡大することができるとしている。

さまざまな専門性を持ったAIエージェントが議論を繰り広げる
金メダリストの為末大氏の分身である「サイバー為末大」が議論に参加

 「経営支援スコア」による指標を用いた検証も行っている。13種類の主要生成AIモデルと比較した結果、リスク、財務、投資、人事、技術、営業、変革などの10種類の経営テーマに対するAIの回答を、驚きや奥深さ、メタ認知などの7個の評価項目を対象に、生成AIによって客観的に8段階で評価した結果、FIRAは主要生成AIに比べて大きく上回るスコアを獲得したという。

 具体的には、主要生成AIが「やや低い」から「やや高い」という近い評価が多かったのに対して、FIRAは「とても高い」に迫る評価を得ており、偏差値で27ポイント上回ったという。「FIRAが、経営での意思決定の質向上や、新たな価値創出に大きく貢献できることが示唆されている」と自己評価した。

経営課題において、グローバルな主要AIを大幅にリードする能力を実証したという

 また、ハピネスプラネットの矢野CEOは、「創造性を再現可能にするAIが、企業の競争力を変える。人間の創造性を奪うものではなく、人間の創造性を拡張するものであり、創造性の民主化が図れる」と述べ、「ハピネスプラネットは、幸せを科学的に追求することを目指してきたが、新たに創造性の科学に取り組むことになる。幸せの中核となる創造性という人間的価値を科学することが、次の社会をつくる力になる」と語った。

 価格については未定としたが、「経営イノベーションを行うためにコンサルティングを依頼すると月額300~1000万円かかるが、それよりはるかに低価格で導入でき、24時間365日利用できる」とした。