大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

われわれはテクノロジーの大きな変曲点にいる――、米IBM ジョン・ケリーSVPが語る“データ”の重要性

Watsonの法則が持つ重要性

――IBMでは、新たに「Watsonの法則」を打ち出しました。これは、ムーアの法則、メトカーフの法則に続く、3つ目の技術の変曲点だと位置付けています。Watsonの法則の波は、過去の法則と比べて、同じ規模の波ととらえていいですか。

 私は、Watsonの法則の波が、もっとも大きな波であると感じています。第1の波となるムーアの法則は、「予測可能」なものであったといえます。素子が小さくなり、どう集積されていくのかといったことは予測できたものです。

 2つ目の波であるメトカーフの法則は、「意外」なものであった考えられます。特にソーシャルネットワークの発展によって、社会をここまで大きく変えたことは、意外だったといえます。

 しかし、3つ目の波となるWatsonの法則は、これを上回る「衝撃的」なものになると考えられます。あまりにも物事が速く進むこと、洞察を速く得られることができるようになり、指数関数的に進化を遂げることになります。

 例えば、データを活用することで、これまでは不可能であったがんの再発を防止するという難しい課題も解決できると考えています。いかにして、想像できないようなことに対して、答えを出すことができるのが、この技術の変曲点がもたらすインパクトであり、その点でも、Watsonの波がもっとも大きなものになるといえます。

技術の変曲点となっている3つの法則

――なぜ、「Watsonの法則」という表現を用いているのでしょうか。Watsonが導き出した法則ではありませんが。

 データ量は、12カ月で2倍になり、そのデータが資産となり、AIの進化などに貢献することになります。そして、AIがデータや知識を価値に変え、ビジネスや社会を変革していくことになります。この法則によって、AIは指数関数的に成長することになるでしょう。そこで、私たちは新たな法則にAIのマシンの名前を用いました。AIが絡むことなので、人の名前よりも、AIの名称を使った方がいいと考え、それを示すのに最適なAIがWatsonだったわけです。

 これまでは人によって定義されてきた法則ですが、今回はマシンが重要な役割を果たすことになります。そして何よりも、私たちはWatsonが大好きであり、子どものようなものだからです(笑)。

――米国政府は先ごろ、世界でもっともパワフルなAIスーパーコンピュータとして「Summit」を発表しました。これもIBMの技術によって構築されたものですが。

 米国オークリッジ国立研究所に構築されたSummitは、人類のコンピュータ史上、重要なマイルストーンとなりました。これは、米国政府のために構築した、人間が作ったもっともパワフルなスーパーコンピュータであり、1秒間に20京回(200PFLOPS)の計算を実行できる、世界最大規模のAIシステムともいえます。

 テニスコート2面分のスペースに、4608のノードが設置されているSummitの構築において、IBMは、まったく新しいヘテロジニアス型アーキテクチャを設計し、IBM POWERプロセッサの持つ、強力なデータ分析の能力と、NVIDIA GPUが提供するディープラーニングの能力を統合することで、極めて重要な計算課題において、未曾有の優れたパフォーマンスを得ることができました。

 Summitは、米国エネルギー省主導のスーパーコンピュータ計画「CORAL」プログラムにおいて、これまで解決が困難だった課題に取り組むために、技術革新と技術の限界領域を広げ続けるプロジェクトです。

 がん研究の進展や、米国でまん延しているオピオイド中毒に関与する遺伝的要因の理解、原子の相互作用のシミュレーションによって、エネルギー効率の高い新材料の開発、宇宙の起源を探るための超新星への理解など、人間が一生かけても導き出せない答えを導き出すことができようになります。

Summit

 また、Summitで採用したものと同じスーパーコンピュータのアーキテクチャは、IBM Power Systems AC922とビジネス用途向けのIBM POWER9プロセッサ搭載サーバー製品群として、企業や研究機関でも商業的に利用できるようになっています。そして、将来は、これをさらに小型化し、手のひらに置くことができるようにしたいと考えています。