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東京大学とIBM、日本初のゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」を稼働開始
設置拠点のかわさき新産業創造センターで記念セレモニーを開催
2021年7月28日 11:21
国立大学法人東京大学と日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)は、日本初のゲート型商用量子コンピューティング・システム「IBM Quantum System One」の「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」(以下、KBIC)における稼働開始を、7月27日に発表した。
同日には、稼働開始にともなう記念セレモニーが行われ、「IBM Quantum System One」の実機が披露された。
今回の「IBM Quantum System One」の稼働は、2019年12月にIBMと東京大学で発表した「Japan-IBM Quantum Partnership」に基づくもので、東京大学が同システムの占有使用権を有する。東京大学は、同システムを活用し、企業、公的団体や大学など研究機関と量子コンピュータの利活用に関する協力を進めていく。
また、「新川崎・創造のもり」地区に位置する産学交流によるインキュベーション施設であるKBICは、川崎市の全面的な支援により、電気、冷却水、ガスなどのインフラの安定供給や耐振動環境といった量子コンピュータの常時安定稼働に必要となる最適な環境を実現しており、同システムが安定稼働することで研究活動が加速することが期待されている。
記念セレモニーでは、東京大学 総長の藤井輝夫氏があいさつ。「『IBM Quantum System One』は、川崎市の協力を得て、KBICに設置され、今月から順調に稼働している。東京大学では、量子コンピュータの社会実証を世界に先駆けて実現することを目指し、国の量子技術イノベーションをけん引する関係者からの助言や、量子イノベーションイニシアティブ協議会で共同研究を進めている民間企業、学術機関の協力のもと、『IBM Quantum System One』を最大限に利活用し、その成果を世界に発信していく」と述べた。
「現代社会は、パンデミックや気象変動など人類史的な課題が目の前に突きつけられている。これにより、世界では分断や差別が広がり、社会の閉塞(へいそく)感があらわになってきている。そうした時代こそ、大学の持つ多岐にわたる専門領域の知識と知恵を編み合わせ、“新たな知”を創出し、世界に広がるさまざまな困難を乗り越える一翼を担うべきであると考えている。量子コンピューティングは、まさに“新たな知”に裏打ちされた技術であり、人類未到の問題を解決できる可能性を秘めている。その活用分野と実装を広げていくための重要な礎となりうるのが『IBM Quantum System One』である」との考えを示した。
「東京大学では、幅広い量子研究の人材を有しているが、これに加えて、学部学生にもハイレベルな量子教育を進めている。今回の『IBM Quantum System One』の稼働開始を機に、次世代の量子ネイティブな人材育成に力を注いでいく。また今後、『IBM Quantum System One』を通じて、日本の量子戦略における新しい技術の創出、および量子科学の探求をさらに推し進めるとともに、広く社会実装を見据え、人類共通の歴史的な課題にも積極的に取り組んでいく」と抱負を語った。
続いて、米IBM シニア・バイス・プレジデント IBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏があいさつ。「2019年12月にIBMと東京大学による『Japan-IBM Quantum Partnership』がスタートし、昨年7月には量子イノベーションイニシアティブ協議会が設立された。これにより産学官のコラボレーションを加速させ、日本の量子コンピューティングの教育におけるリーダーシップを強化してきた。今回、『IBM Quantum System One』が日本で稼働したことは、学生や研究者、技術者が未来を形づくるうえで非常に役立つものになると思っている。さらに、アジア地域での量子関係のエコシステムとサプライチェーン構築における日本のリーダーシップにも役立つと考えている。当社は今後も、東京大学と密接に連携して、量子イノベーションイニシアティブ協議会の活動を支援し、サステナブルな世界経済の成長に貢献していく」と述べた。
次に来賓あいさつとして、まず、文部科学大臣の萩生田光一氏が登壇。「量子コンピュータを含む量子技術は、これからの日本および世界の経済や産業、安全保障を大きく転換させる可能性を秘めた革新的な技術だと考えている。特に日本は、同分野において基礎理論や技術基盤に大きな強みを持っている。その中で政府では、昨年1月に初めての国家戦略である『量子技術イノベーション戦略』を策定し、研究開発投資の大幅な強化や量子技術イノベーション拠点の形成、人材育成など幅広い取り組みを強力に展開している。また、量子分野における日米間の連携強化も推進しており、今回の『IBM Quantum System One』の稼働はその象徴であるととらえている。今後、量子イノベーションイニシアティブ協議会を中核に、官民が一体となり、量子技術の社会実装で世界をリードしていくことを期待している」と語った。
科学技術政策担当大臣の井上信治氏は、「現在、量子技術は、米国、欧州、中国が研究開発を戦略的かつ積極的に展開しており、将来の世界経済や社会に変革をもたらし、経済安全保障の観点からも極めて重要な基幹技術として位置づけられている。今回稼働した『IBM Quantum System One』は、日本初、アジア初のゲート型商用量子コンピュータであり、量子技術イノベーション拠点の一角であるKBICにおいて運用される。この拠点が、実際の量子コンピュータに触れる貴重な体験を、企業の研究者だけでなく学生にも提供することで、量子技術分野の人材育成に大きく貢献することを願っている」と述べた。
参議院議員 自由民主党量子技術推進議員連盟 会長の林芳正氏は、「量子技術の進化は非常にスピードが速く、あらゆることが予想を上回る速度で進んでいる。今回の『IBM Quantum System One』についても、発表からこれほど早く実機を目の前にすることができるとは思っていなかった。このKBICを拠点として、日本の産業界、大学のあらゆる人々に量子コンピュータを利活用してもらうことで、従来型のコンピュータでは実現できなかった、新しい時代に向けたイノベーションを創出していってほしい」と期待を寄せた。
駐日米国臨時代理大使のレイモンド・グリーン氏は、「現在、日米関係はかつてないほど緊密なものになっている。量子技術分野においても、両国間でさまざまな国際協力やコラボレーションの可能性について協議を進めている。また、量子技術の教育分野でも共同作業を進めており、今後、両国の研究者の育成に向けた協力を行っていく。今回稼働した『IBM Quantum System One』は、この取り組みに大きく貢献するものと考えている。そして、量子イノベーションイニシアティブ協議会を通じて、より良い世界をつくるためのさまざまな努力が行われることに期待している」とコメントした。
量子イノベーションイニシアティブ協議会会長 みずほフィナンシャルグループ 取締役会長の佐藤康博氏は、「量子技術は、あらゆる産業分野で革新的な進歩をもたらし、国際社会に大きな変化をもたらす技術であると考えている。一方で、量子技術の国際競争は熾烈(しれつ)化しており、日本においても、できる限り迅速かつ効率的に量子技術の実装化に向けた施策を打つことが重要となっている。こうした状況の中で今回、『IBM Quantum System One』が稼働したことで、日本の研究者が最新の量子コンピュータを占有して利用することが可能となった。これにより、研究開発のペースが急速に向上するとともに、日本における量子コンピューティングのフラッグシップとして、実機を中心に重要な研究活動の輪が飛躍的に広がっていくことが期待される。量子イノベーションイニシアティブ協議会では、最先端の量子コンピュータを活用して、世界が驚くイノベーションを発信できるよう、今後も量子技術の研究活動を積極的に支援していく」との考えを述べた。
慶應義塾長の伊藤公平氏は、「私が伝えたいのは、IBMの量子コンピュータは世界トップのすごいコンピュータであるということ。慶応義塾大学では、2018年にIBM Qネットワークハブをアジアで初めて設置し、IBMの量子コンピュータを使い倒してきた。当時は、まだ生まれたばかりの赤ちゃんのようだったが、さまざまなインタラクションを経て、現在では幼稚園児のレベルに成長している。このペースで進化すると、10年後には、高校生や大学生レベルにまで達することが見込まれている。そして今回、日本で『IBM Quantum System One』が稼働したことで、今まで以上に量子コンピュータによる計算時間が増え、米国に送れない大規模なデータも国内で計算することが可能になった。これを機に、量子イノベーションイニシアティブ協議会に参画する各社との研究開発もさらに加速させていく」と語った。
川崎市長の福田紀彦氏は、「量子技術分野では、世界で熾烈な開発競争が繰り広げられている。その中で、トップランナーであるIBMから、米国以外では世界で2番目の量子コンピュータの設置場所として選ばれたのがKBICとなる。川崎市には、このほかにもさまざまな研究開発拠点が集積しており、そこに立地する企業や大学などが絶えずイノベーションを創出している。今回の『IBM Quantum System One』の稼働開始により、量子コンピュータを活用して、創薬や新素材、フィンテックなどの分野で、社会を大きく変革させるような成果が川崎から生まれることに期待したい」と述べた。
最後に、日本アイ・ビー・エム 代表取締役社長の山口明夫氏が登壇。「IBMでは、日本は量子戦略に積極的であり、高い技術を持つ大学や企業が多く存在していることを認識している。そのため、日本を特別なパートナーシップの国として位置づけ、徹底して量子に関する投資を継続している。今回、『IBM Quantum System One』が日本に上陸したことで、従来のコンピュータとクラウド、そして量子コンピュータを有機的に活用し、より良い社会の実現と企業の変革に向けた取り組みを加速させていく。また、若い技術者やさまざまな分野の技術者に、もっと量子の世界に入ってきてほしいと考えている。そのために、教育プログラムなども積極的に提供し、量子分野をさらに盛り上げていきたい」と意欲を見せた。