大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Lenovoデータセンター事業が急成長を遂げた要因は――、ロードリック・ラピンSVPが語る“今と未来”

 Lenovoのデータセンターグループ(DCG)事業が好調だ。最新四半期決算では、5四半期連続での増益を達成。売上高も前年同期比50%増を超える高い成長を遂げている。2017年4月に新たな戦略を打ち出してから、成長戦略を加速。ハイパースケール、HPC、SDIという重点領域において高い成長を達成した。

 かつて、レノボ・ジャパンの社長を務めたLenovo ワールドワイドセールスアンドマーケティング担当のロードリック・ラピン シニアバイスプレジデント(SVP)に、同社データセンター事業の今と未来を聞いた。

Lenovo ワールドワイドセールスアンドマーケティング担当のロードリック・ラピン シニアバイスプレジデント

データセンタービジネスに集中できる体制を構築

――Lenovoのデータセンターグループ(DCG)事業は、2017年4月から新たな戦略を打ち出し、その後、高い売り上げ成長を遂げています。なぜ、これだけ高い成長を達成しているのでしょうか。

 2017年4月から打ち出した新戦略の軸は、DCG事業を分離させ、データセンタービジネスに集中できる体制を構築した点にあります。

 PC事業では地域ごとの戦略を重視する体制としていましたが、DCGでは地域にとらわれない新たな体制で事業を推進することにしました。PC事業は成功したビジネスモデルでしたが、その仕組みをDCGに当てはめると、規模が小さいにもかかわらず、売り方が複雑になり、それが成長の阻害要因のひとつとなっていました。

 そこで2017年4月からは、営業、マーケティングといった包括した組織のもとで、役割に応じた縦割りの組織体制を敷きました。ハイパースケールやHCI、SDI、通信、データセンター、IoTといったように、小規模の縦割り組織をつくり、それぞれのセグメントにゼネラルマネージャーを配置して、P/Lの責任を持つ体制としました。

 同時に、ビジネスパートナーによるエコシステムへの支援体制を強化し、よりお客さまを中心とした仕組みの上で、最適なソリューションを一貫した体制のなかで、提供できる仕組みとしました。これが成長を支えるベースになっています。

 HPC、ハイパースケール、SDIという重要な3つの事業は、土台となる部分の考え方は一緒ですが、その上で展開するカスタマーエンゲージメントの仕方を変えた組織体制としています。

 2017年度は、前年比17%増の成長率でしたが、第4四半期では前年同期比44%増の成長、2018年度第1四半期は68%増、第2四半期は58%増となっています。この結果からも私たちの選択が正しかったことが証明されます。

――データセンターグループの成長率の高さは予想通りであったと。

 細かく見ていくと、一部領域では目標以上の達成をしていますし、一部では成長をしているがもっと成長をさせなくてはいけない領域もあります。ただ、HPC、ハイパースケール、SDIという3つの重点事業は大きな成長を遂げています。

 一方で、既存のデータセンターインフラ分野は、成長はしているが期待しているほどの成長ではありません。もともと、市場全体では成長をしていない分野ですが、ここでは市場シェアが低いため、裏を返せば成長の余地があるともいえます。

 データセンターインフラでは、チャネルパートナーとの連携を増やすことでさらにシェアを拡大していきます。今後もチャネルバートナーに対する投資を行っていくことになりますが、それは日本も同様です。

――HPC、ハイパースケール、SDIという重要な3つの事業において、土台となる共通的な部分とはなんですか。

 世界で最も信頼されるデータセンタープロバイダーであるということです。計画外ダウンタイムは4時間未満であり、99.999%の信頼性を達成しています。また、調査会社のTBRの調べによると、LenovoのDCGは9四半期連続で顧客満足度ナンバーワンの地位を獲得しています。

 さらに、サプライチェーンにおいてトップ25社のうち5位に入っており、ここにおける信頼性の高さも証明されています。信頼されるデータセンタープロバイダーであることを、お客さまや第三者機関が証明しているわけです。

HPC領域での強みは?

――重要な3つの事業領域について教えてください。まず、HPCの領域ですが、ここでは、どんな強みを発揮していますか。

 ひとつめは、優れた技能を持ったエンジニアが在籍しているという点です。IBMから移籍してきたエンジニアに加えて、AIなどの新たなテクノロジーに長けたエンジニアが参加し、これによって、さらに強固な開発体制が整っています。

 Lenovoは2020年までに、スーパーコンピューティングの世界においてナンバーワンを獲得することを目標にしてきましたが、2018年6月には首位に立ち、その後も2位との差を広げています。

 また、トップ500のスーパーコンピュータのうち、約4分の1にあたる117システムがLenovoのサーバーを利用し、トップ25の研究機関のうち17の研究機関がLenovoを導入しています。予定よりも2年早くナンバーワンに立ち、さらに、スーパーコンピュータのプロバイダーとして最大手になっています。

 これは先にも触れたように、優れたエンジニアが在籍していることの証しだといえますし、市場が納得する製品を提供できていることの証しでもあります。例えば、独自の液体冷却技術である「ネプチューン」は、LenovoのDirect to Node(DTN)温水冷却、後部ドア熱交換(RDHX)、ハイブリッド熱輸送モジュール(TTM)ソリューションなどによって構成されるもので、空気冷却と液体冷却を組み合わせて、ピーク性能と高性能を改善することができます。

 世界第8位の性能を誇るスーパーコンピュータを利用しているドイツ・ミュンヘンのLeibniz-Rechenzentrum(LRZ)では、将来の自然災害の予測を改善するために地震と津波のシミュレーションを実施していますが、ここでもLenovoのDirect to Node温水冷却技術を活用して高い性能を実現するだけでなく、冷却装置から排出される温水をビル全体の暖房にも応用し、施設のエネルギー消費を約40%も削減しました。環境にも優しい仕組みを実現しています。

 研究機関などを対象とするHPCのお客さまは、トランザクションとパワーを求めています。そして、コスト効率も求めている。速さも大切である。この速さとは、システムのことを言っているのではなく、設計から導入までのエンドトゥエンドにわたる速さを指しています。

 市場が変化しており、AIが重視されるなかで、われわれの設計も変わってきています。そこでも、LenovoのDCGは他社にはない強みを発揮していると自負しています。

世界10社のトップハイパースケーラーのうち6社で採用

――ハイパースケールの領域ではどうですか。

 世界10社のトップハイパースケーラーのうち、6社がLenovoを選択しているという実績があります。

 これはなぜか。Lenovoでは、得意とするサイプライチェーンによる大量調達のメリットを生かすだけでなく、迅速に最新のテクノロジーを活用し、変化に対応した提案を行える点に特徴があります。

 Lenovoでは自らのことを「ODM+」という言い方をしていますが、これは、大手ベンダーと小規模のODMのいいところ取りをした体制だからこそ実現できるものです。Lenovoは、プリント基板の製造拠点を持っており、ハイパースケーラーに対して、独自のデザインを内部の仕組みだけで提供できます。

 大手のハイパースケール企業は、各社が社内で設計していたものを、われわれの仕組みを利用して製造・調達するといった動きが出ており、Lenovoではそれに対応するために、33種類のプリント基板の設計・生産が可能です。

 しかも、サプライチェーンの強みを生かして、コスト削減が可能になり、さらに市場に対して迅速に供給できます。こうした迅速な動きができるのもODM+という体制だからこそ、実現できるのです。

顧客のクラウド戦略に対して何が一番いいのかを提案できる

――3つめの最後は、SDIの領域です。

 最も大きな変化が起きているのがこの市場です。私たちは、お客さまと一緒になって、市場を変えようとしています。HPCやハイパースケールはニッチの市場であり、そこに向けた特有の設計をするのに対して、SDIは、より汎用的な設計が求められる市場であり、それによって、お客さまのクラウドへの移行を支援することになります。

 今から5年前には、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といった大手クラウドプロバイダーの、いずれかのクラウドサービスを活用することが多かったのですが、今では、ハイブリッドクラウドの環境が前提であり、複数のクラウドサービスを組み合わせて利用するケースがほとんどです。

 多種多様なクラウドサービスを活用する環境は、CIOにとっては管理することが難しくなっており、さらにCFOの頭も悩ます結果になっています。複雑化することで、月次の料金が、どこの誰の経費かがわからなくなっているからです。Lenovoは、こうした課題解決のお手伝いができます。

 Lenovoはレガシー技術を持っていないため、何かを守ったり、投資を回収するためにレガシー技術を売らなくてはならなかったりということがありません。特定のものを強制するといった提案はしません。お客さまのクラウド戦略に対して、なにが一番いいのか、どこに行くべきか、どうやって多種多様なクラウドを一元的管理するのかをアドバイスでき、さらに、簡素化する提案もできます。

 LenovoはSDI分野において、MicrosoftやNutanix、VMwareといった業界の代表となるパートナーと組んでおり、DCGが持つSDIの専門的知識と技量を活用し、ニーズを聞き取り、理解し、それに基づいて最適なソリューションを、いくつかの選択肢のなかから提案することができます。

NetAppとの提携が持つ意味

――2018年においては、NetAppとの提携が大きな動きといえます。これはLenovoのDCG事業に、どんなインパクトをもたらしますか。

LenovoとNetAppの提携

 相互に補完できる関係にあるという点が、この提携の鍵になっています。NetAppは、彼らが持つエンドユーザーのニーズをとらえ、それによってビジネスを拡大してきました。それに対してLenovoは、グローバルスケールでビジネスを展開する会社であり、これまでNetAppの存在感がなかった世界において、強みが生かせると考えています。

 例えば、Lenovoはチャネルフレンドリーの領域で長けています。一方、NetAppはエンドユーザーとの連携において長けています。これらの市場に対して、ユニファイド・ストレージ「Lenovo ThinkSystem DMシリーズ」とブロックストレージ「Lenovo ThinkSystem DEシリーズ」を提供できるようになります。

 この提携は、2018年9月13日に発表しましたが、9月14日にはDMシリーズを出荷することができ、DEシリーズも11月9日に出荷しています。これだけ迅速に新たな製品を投入したことも、この提携において見逃せないポイントです。

Lenovo ThinkSystem DMシリーズ
Lenovo ThinkSystem DEシリーズ

 Lenovoにとっても、以前は市場全体の15%しかカバーできなかったものが、NetAppのソリューションを組み合わせることで、市場全体の92%をカバーできるようになり、まったく違う規模の市場に対応できるようになります。さらに、Lenovoの製造拠点を活用でき、Lenovo XClarityによるマネジメントスイートも活用でき、そして、チャネルも活用できる。新たに数十億ドル規模の市場にも対応できることになります。

 LenovoとNetAppはすでに多くの時間をかけて、市場に向けた戦略について議論を重ねてきました。具体的には、4つの領域にわけて、Lenovoがどこに強いのか、どこで弱いのか、NetAppはどこが強いのか、どこが弱いのか。それをとらえて戦略を立てています。例えば、Lenovoが強いが、NetAppが弱い市場の場合には、その領域にNetAppの人材を引き込んで事業を拡大します。逆に、NetAppが強く、Lenovoが弱い領域に対しては、NetAppがLenovoを引き込んで、既存のお客さまを守りながら、新たな市場を開拓していくことになります。そして、LenovoとNetAppがいずれも弱い領域では、2社が組み合わさることで、これまでに不可能だったソリューションを提供し、お互いに新たな市場を開拓していくことになります。

 Lenovoは、ストレージに長けた専門家を世界中で採用しており、NetAppと連携できる体制を強化しています。また、同様に、NetAppはサーバーに関する専門知識を持った人材を採用しており、お互いの相乗効果を最大限に高める努力をしています。さらに、中国でのジョイントベンチャーを設立し、中国に専用の研究開発拠点を設置し、2019年第1四半期から事業を開始します。

 進捗は予定通りに進んでいます。ただ、この計画の中身は、ともとは積極的な計画ですから、予定通りということは、進捗には大きな手応えを感じていることを意味します。

日本でも“うまく波に乗りはじめた”

――日本市場に対する今後の投資はどう考えていますか。

 残念ながら、これまでの日本市場における取り組みは最適な戦略が立てられているとは言えない状況でした。しかし、この2四半期は期待を上回る成長を遂げており、うまく波に乗りはじめたと感じていますし、ほかの国から遅れている、という状況からも脱しています。

 私が日本びいきであることはみなさんよくご存じかと思いますが(笑)、私自身、これからも日本にもっと頻繁に訪れたいと思っています。これから新たな指導力と技能を持った人材が入ってきます。それによって、新たな道のりをたどっていくことになります。

――ちなみに、今は、日本法人であるレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの社長を、Lenovo データセンターグループ アジア・パシフィック担当プレジデントのスミア・バティア氏が兼務で務めています。日本法人の社長はどうなりますか。

 新年以降、新たな社長の就任を予定しています。近々発表できると思います。

2019年のキーワードは「Transformational」

――2019年のLenovoのデータセンターグループは、どんなところに注目をしておけばいいでしょうか。

 私は、2019年のDCGの成長戦略に対して、とてもエキサイトしています。ハイパースケールやSDI、HPCは、引き続き高い成長が期待できますし、さらに、これからはクラウド以上に大きなトレンドになると見られるIoTをはじめ、エッジコンピューティングやエッジサーバー、5Gも注目されますし、「Hardware as a Service」といったものも出てくるでしょう。

 こうしたトレンドに対してLenovoがどんなことを行うかを、これから楽しみにしていてください。

 2019年は「Transformational」がキーワードになりそうです。

 いまや企業のCEOには多くの圧力がかかっています。さまざまなコンサルティング会社の声に耳を傾けて、AIや機械学習が世界中を覆すことになる、今AIを取り入れないと乗り遅れる、といった話に関心を寄せています。

 そこでCEOは、「当社のAIの戦略はなにか」と役員に聞くが、そこでも明確な答えは出てきません。プレッシャーばかりがかかり、恐怖さえも感じているのではないでしょうか。そうした課題に対して、解決するための支援をすることができる会社がLenovoです。

 LenovoのDCGでは、「Transform 2.0」を打ち出しています。

 Transform 1.0では、われわれがなにを変えるのか、その意図はなにか、ということをお客さまに理解してもらうことが目的でした。

 Transform 2.0では、それまでの成果をもとに、今後、どの方向へ向かうのかを示しました。ここでは、われわれ自身が変わったことで、新たなソリューションが提供できることを訴えました。それにより、私たちも大きな成長を遂げることができました。

 今後は、パートナーやお客さまのニーズに対して、どう対応できるかを示すことが大切になります。これが、これからの5年間、10年間に向けてやらなくてはならないことです。

 2019年には、Transform 3.0を発表することになるでしょう。この10年~15年間は、過去最大の技術的進化を遂げてきた時期でもあります。クラウドに対する要求が高まり、インフラも変わろうとしています。

 しかし、その動きは、まだ緒についたばかりであり、そこに対して、われわれは新たな技術とソリューションを提供していくことになります。Lenovoは「最も信頼されるデータセンターパートナー」として、お客さまのインテリジェントな変革に貢献することで、人類最大の課題を解決していきます。その姿勢は当面変わりません。

Transform 2.0