大河原克行のキーマンウォッチ
まずは信頼されなければ挑戦もできない――、山口明夫社長が目指す“日本IBM”の姿
2020年1月28日 06:00
Red Hatの技術や製品をビジネスの中核に据え、新たな提案を推進
――2019年7月に(米本社による)Red Hatの買収が完了しました。日本IBMにとって、どんな効果が期待できますか。
コンテナ化が推進できますし、一度作ればどこでも動くという環境が整います。コンテナ化することは手段であり、目的ではありませんが、システムの多様性が求められたり、社会のなかに毛細血管のようにシステムが入り込んだりするなかで、これは重要な技術であり、ソリューションとなります。
これまでのメッセージを通じて、これらの技術やソリューションを日本IBMの中心に据えてやっていくということを、社内外に打ち出すことができ、それを多くの方々に理解をしていただいているのではないでしょうか。
パブリッククラウドがあり、その上にOpen Shiftがあり、IBM Cloud Paksがあり、さらにその上にコンテナ化されたアプリケーションがあり、アーキテクチャはマイクロサービス化していくことになります。
ただ、すべてがこうなるわけではなく、オンプレミスも活用されますし、マイクロサービス化は先の話だと判断するお客さまもいるでしょう。コンテナ化とひとくちに言っても、お客さまごとに置かれた立場や事情があり、総論は賛成だが、まだ踏み出せないというケースも少なくありません。
コンテナ化によってどんなメリットがあるのかということをまだまだ訴求しなくてはなりませんし、このときに他社のパブリッククラウドを組み合わせたいというのであれば、それもご提案をすることも大切だと思っています。
お客さまの業務やミッションクリティカル度にあわせて、ステップを踏んで前に進めたいと思っていますし、そのためには、テクノロジーの話だけでなく、企業のカルチャーをどう変えていくのかということにも踏み込まなくてはなりません。
スピードは重要ですが、そればかりを優先するというわけにはいきません。また、世界の動きのなかで、どう手を打っていくのかという考え方も重要です。
Red Hatの技術や製品を日本IBMのビジネスの中核に据えることで、こうした新たな提案を加速できると考えています。
――2020年には、東京大学と協業しながら、「IBM Q System One」を日本国内に設置することを発表しました。日本においても、いよいよ量子コンピュータの時代が本格化しそうですね。
私も、予想以上に早く量子コンピュータの世界がやってきたと感じています。以前のコンピューティングの世界は、完成してから外に出すということが一般的でしたが、量子コンピュータは研究・開発段階から、パートナーと情報を共有していく点が大きく異なります。IBM自らも、この技術が社会の課題解決に大きな役割を果たすと判断していますから、こうした仕組みを採用してきたわけです。
すでに、金融サービスにおけるリスク管理のほか、医療分野での応用や素材研究などでも実証実験が進んでおり、2020年は量子コンピュータが活用できる領域が明確になり、それらの事例が出てくることを期待しています。
量子コンピュータとAI、ブロックチェーンといった技術がますます注目されるでしょうし、これらの技術が組み合わさることで、社会の課題解決などに役に立つ時代になってくると思っています。
――2020年は日本IBMにとってどんな1年になりますか。
日本IBMにとって、2020年は、まさに「信頼に基づく挑戦」の1年になります。社会やお客さまからの信頼を得ることはもちろん、IBMが扱うテクノロジーやデータも信頼されなくてはならない。そして、私自身も信頼されなくてはなりません。こうした信頼に基づいて、新たな挑戦を加速する年にしたいですね。
日本IBMの事業も、徐々に成長フェーズに入っていくことになります。DXに関する事業は2けた成長を遂げています。そして、この分野に対する投資も積極化しています。ただ、従来型のサービス事業の構成比がまだ大きいですし、新たな領域に対しては投資のフェーズでもあります。
重視しているのは、伸びるべきところはちゃんと伸び、利益を確保しながらトランスフォーメーションするところは、しっかりとトランスフォーメーションする。投資をしなくてはならないところは投資を加速する。これはしっかりとやっていき、しっかりとポートフォリオの変革を行い、ビジネスの結果につなげたい。魔法のつえはありません。
日本IBMでは、製品やサービス、技術に関するプレスリリースのほか、事例に関するプレスリリースも出しています。これらを見ていただくと、日本IBMが何をしようとしているのか、どこに投資をしているのか、そして、3+1への取り組みの成果などを理解してもらえると思います。
2020年は、どんなニュースリースが発信されるかにも注目してください(笑)。