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生成AIの業務利用にはスキル以上にAIリテラシーが重要――、生成AI活用普及協会・小村亮氏

 生成AIの業界団体である一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)は、2023年5年に設立された。

 生成AIリスクを予防する資格試験「生成AIパスポート」や、AIツール導入時の「IT導入補助金」の申請支援を強化する「GUGA生成AIコンソーシアム」などを提供し、産官学連携も推進している。

 こうしたGUGAの活動や、政府および企業の生成AIに対する動向、また生成AIパスポートなどについて、事務局次長の小村亮氏に話を聞いた。

一般社団法人生成AI活用普及協会 事務局次長 小村亮氏

圧倒的なスピード感で議論が進む政府の生成AIガイドライン整備

――まずは団体の紹介をお願いします。

 生成AI活用普及協会(GUGA)と申します。2023年5月に設立しました。

 GUGAを設立した前年にあたる2022年11月にChatGPTが登場し、個人を中心に使ってみようという動きが一気に広がりました。この生成AIを日本の力に変えるには、企業における導入が重要です。そのための課題として、利便性の裏のリスクに企業が不安を感じているのではないかと考え、安全な活用を普及させるために、人材育成の手段の一つとして「生成AIパスポート」という資格試験を開催しています。

――GUGAの活動の一つとして、産学官連携や政策提言の推進が挙げられています。政府による生成AIへの取り組みの状況について教えてください。

 最初の歩みは、内閣府のAI戦略会議ですね。第1回が、これも2023年5月に開催された後、約2週間後には第2回が開催され、暫定的な論点整理も発表されたというスピード感でした。国の本気度が表れていると思います。

 国際的には、広島AIプロセスを経て、国際的な生成AIのルール作りに対する指針もまとめられています。また予算という観点では、令和6年度(2024年度)のAI関連予算の概算要求金額が、これまでの微増から、頭を抜けたものになっています。

 また、生成AIと向き合うとき、知的財産権の問題は避けて通れません。これについても「AI時代の知的財産権検討会」が設けられ、中間とりまとめが2024年5月に発表されています。

 さらに、2024年4月には経産省と総務省で「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」が発表されました。このガイドラインでは、開発者視点と、サービス提供者視点、利用者視点の3つの視点に分けてまとめられているのが特徴です。このように、AIがすべての人にとって付き合っていく対象になるということが、政府の動きから見てとれると思います。

――生成AIについては、開発者、サービス提供者、利用者のすべてが注目しているため、対応していかないといけないという危機感もあるのでしょうね。

 はい。特に生成AIでは、これまでのAIより多くの人が使う側として関わるようになりました。そのため、網羅的にガイドラインを示さなければ、問題が顕在化する可能性が高まります。例えば、フェイクニュースの怖さだけが印象づけられてネガティブな事象が際立ってしまうようなことを避けようとしているのではないかと思います。

――実際に、模倣した絵を、素人レベルを超えて生成できてしまうじゃないか、といったように、マイナスのイメージも生まれています。生成AIを企業で使うにあたっては、何にどう気をつけて使えばいいとお考えでしょうか。

 大きく分けて、セキュリティの面とコンプライアンスの面があると考えています。セキュリティの面では、これまでも、SNSやSaaSに個人情報などの重要な情報を出してしまい、漏えいするリスクがありました。それと同じように、生成AIでも気をつけましょうということです。

 コンプライアンス面は、特に権利侵害ですね。指摘されたような画像生成などで多く見られます。これは、一概に駄目ともOKともいえず、例えばメディアの記事、特に有料コンテンツの内容が拡散されるようなケースも出てきていますが、互いに利益になっているから、といった理由で黙認されている部分があります。そういう倫理的な部分や、クリエイターの方々へのリスペクトなどは、一定のAIリテラシーを持って気をつけていく必要があると思います。

業務効率化から価値創出まで、企業の生成AI活用の方向

――企業では生成AIについて、今どういう使い方をしているのでしょうか。

 大きく3つの方向があります。1つ目は社内業務の効率化です。この例としては、総合人材サービスのパーソルグループでは、ホールディングスが主導しグループ横断で導入を進めています。単にツール導入で終わるのではなく、人材育成にも取り組んでおり、しかもボトムアップで現場から活用アイデアを吸い上げていたりもします。

 2つ目は、既存のサービスのUX改善です。この例としては、メルカリのAIアシスタントがあります。出品側には商品がより売れやすくなるように改善を提案し、購入する側には欲しいものが探しやすくなるようにアシスタントしてあげるというものですね。

 3つ目に、新しい価値の創出があります。これはまだ目立った事例は出てきていなくて、これからかと思います。例えば、OpenAIがGPT-4oを発表したときのデモ動画で、AIが目の不自由な方をアシストしてくれる可能性を示すような表現がありました。これが実現すると、今までサポートできなかった領域を、AIの力を借りてサポートできるようになります。

――3つの中で、まずは社内業務の効率化かと思います。そのためにはデータの活用が必須になると言われていますが、各企業では今どうされているのでしょうか。

 まずは紙のものをデジタル化していくことですが、この段階で悩みを抱えている企業が多いのではないかと思います。そのデータをAIが検索・学習できるように整え、RAGやファインチューニングといった手法を用いることで、社内データを生成AIで利用できるようになるわけです。

 例えば、日経新聞が40年分の記事を読み込ませて経済情報特化のLLMを開発したと発表しました。そういったステップが考えられると思います。

――RAGなどのように自社データの生成AIによる活用は、まだそれほど多くないのでしょうか。

 まだ多くないと思います。いくつかの調査結果を見ても、企業で生成AIを活用中と回答する割合は多くて40%ぐらいです。推進中や検討中が半数ぐらいにのぼるので、基本的には前向きだと思いますが、活用にまで至っていない企業がほとんどだと思います。

――ただ、前向きということは、今後増えてくることが期待されるでしょうか。

 はい。注目度を見ても間違いないと思います。例えば、これまでSES事業などを展開されていたCLINKSの場合は、AIドリブンカンパニーになるとリブランディングを宣言されていて、RAGなどを取り入れて自社サイトのファーストビューにチャットを表示する、といったユーザー体験の向上に取り組まれています。

 また、コールセンターは生成AIと相性がよいと言われていて、過去の問い合わせ対応に関するデータと生成AIを組み合わせて効率化を図ることへの期待は高いと思います。

――一般のバックヤード業務での利用が進んでいる企業はあるのでしょうか。

 パナソニックコネクトが業務での利用について発表していて、かなり進んでいる印象があります。製造業はマニュアルなど仕事をするための前提情報が多いので、自社データを読み込ませることで、自社固有の質問にもAIが応答してくれる環境を作ったり、経験者に依存しがちなノウハウを伝承しやすくしたりするのは、わかりやすい例ですね。

――以前、保険会社が法律情報について適用のテストをしているという例も聞きました。専門知識が必要な領域を生成AIがカバーしてくれると業務のアシスタントになりますよね。

 これから医療や法律に特化するなど、各産業の特化型AIが多くなるだろうと思っています。特化させるためのデータは、それぞれの業界の人たちが持っているので、それをビジネスに転換していくことも考えられます。

業務利用にはAIのスキル以上にリテラシーが重要

――ただし、現実にはそこまで活用レベルが進んでいないことが多いと思いますが、これを高めていくにはどういうことが考えられるでしょうか。

 基本的には、人を育てることと、仕組みを作ることの2つだと思っています。

 人を育てる方については、プロンプトの書き方やツール選択などのスキルの部分も大事です。しかし、それ以上に、AIの得意不得意の理解や、著作権侵害、機密情報の扱いといった注意点の理解などのAIリテラシーも重要だと実感しています。やはりスキルだけ身に付けていても、本当に生成AIを仕事に使って大丈夫だろうかという漠然とした不安は補えません。

 そのため、私たちが提供している「生成AIパスポート」試験もAIリテラシーに力を入れています。

 仕組みの方は、いろいろありますが、一つは社内向けにプロンプト集を用意することがあります。プロンプトを自分で書くことにハードルを感じる方の障壁を取り除くわけです。例えば、これもパーソルグループの事例ですが、プロンプトギャラリーを社内に設けています。現場の社員が、自分で作って便利だったプロンプトを投稿するSNSのようなものです。業務でAIにどういうアウトプットを求めているかリアルに知っているのは現場の方々なので、その人たちのノウハウが上がってくるのは面白い取り組みだと思います。

 また、最近ではノープロンプトと呼ばれる方法で、あらかじめ裏側に設定されたプロンプトのうち、変動的な箇所の穴埋めを入力するためのフォームを用意し、生成AIのUXを変えるアプローチも出てきています。

 AIリテラシーについては、インターネットサービス大手が社内テストを実施していて、一定のリテラシーレベルに達していないと生成AIを使えないといった話も聞きました。政府の「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」でも、教育という項目の中で、AIリテラシーについて言及しています。政府や企業においてAIリテラシーに対する注目度がさらに高まってきているように感じます。

 私たちはAIリテラシーのたとえとして、よく自動車の運転免許の話をしています。自動車は便利な技術ですが、いまだに事故はなくなっていない。しかし、免許証をとるというプロセスによって、一定のルールを認知し、ドライバーとしての心構えを備え、基礎的なスキルを学ぶことで、事故は大きく軽減されているはずです。そうしたアプローチがAIの分野でも重要だろうと思います。

――そうした中で、「生成AIパスポート」試験を提供している理由は何なのでしょうか?

 生成AIパスポートについて、一言では「生成AIリスクを予防する資格試験」と言っています。基礎知識や動向トレンドを抑えつつ、メール作成やアンケート分析での利用など基礎的な活用方法まで網羅しています。その中でも一番注力しているのがリスクの観点で、情報漏えいや権利侵害、あるいは不正競争防止法などまで扱っています。それらを網羅的に学習していただく手段としてお勧めしています。

 メリットとしては、体系的に学べることがあります。インターネットで情報は収集できますが、それで網羅できているかは自分では判断しにくいので、体系的に学ぶメリットを感じていただいていると思います。また、リスクについて漠然と不安を持っている方も多くいるので、それを払拭できるということもあります。

 PRにご活用いただくケースも出ています。試験結果を発表すると、個人の方がけっこう多くSNSで投稿されていて。それをきっかけに次の受験者が増えるという影響もあります。

 また、企業の中で推奨資格化されるケースも増えてきており、特別な報酬やキャリアチェンジ、昇給など、資格を取得された方々の人事評価にプラスの影響があることも期待できます。

 そうした面では、フリーランスマッチングプラットフォームの「Lancers」との提携も2024年5月に発表し、Lancersの自己紹介プロフィールに「生成AIパスポート」の認証バッジを表示できるようになりました。これによって、発注側の企業さんに対して安全に生成AIを活用するリテラシーを持っていることを証明できるため、個人で案件受注を目指す武器の一つとして使っていただけると思います。

――企業での団体受験と、個人での受験ができるようですが、個人で受験する方は、学習の仕上げのためでしょうか。

 いろいろありますが、ざっくり3つのパターンがあるかと思います。1つ目はおっしゃるように、すでに詳しい方が、仕上げや客観的な評価を確認するために受けるケースです。

 2つ目はAIの初心者の方です。例えば経営者の方は経営のプロフェッショナルですが、AIのプロフェッショナルではない。そこで、ちゃんと自分の会社においてAIを役立てられるかどうか知るために、一歩を踏み出そうというパターンです。

 3つ目は、1つ目の応用的な内容ですが、生成AI活用レベルを証明するためのバッジ的な役割にする目的で受験する場合です。例えば広告のクリエイティブなどは生成AIと相性がいいと言われていますが、発注する側からすると、権利侵害していないか不安があります。このような場合に、リスクを把握した上でビジネスに活用していることを示す目的で受験するケースです。

――先日、直近の2024年第2回の受験者数が、約3000人と発表されていました。広まってきているんですね。

 はい。今後の成長については、万単位に乗せることを目標に掲げています。やはり多くの受験者、有資格者を増やしていくことが、日本社会全体のAIリテラシーの底上げにつながると思いますし、「生成AIパスポート」を持っていることでその人のAIリテラシーを判断する共通言語になりうると思うので、そこを目指したいと思います。

 今後の展望としては、生成AIの活用スキルやAIリテラシーを持つ、「生成AI人材」であることを証明するカードを作ろうとしています。NFCのカードをスマホにかざすとプロフィールが表示されて、生成AIパスポートや、GUGAが認定した講座の受講完了バッジなどが表示されるというものです。これによって、学歴や職歴と同じように、学習歴を証明できるようになる。そうすると、例えば、マーケティングにおいてChatGPTではなくMicrosoft Copilotでの生成AI利用を学んでいる人を選ぶ、といった判断に寄与できるんじゃないかと思います。