特集

営業生産性向上:中小企業の未来を切り開く営業DX(前編)

2024年5月に実施された中小企業DX道場というイベントにて、筆者が今後の日本企業に必要なDX推進の方法について語りました。本記事は、その講演内容を一部抜粋してまとめたものです。

日本の営業生産性の現状:なぜ世界の最下位なのか?

 日本の営業生産性は、先進国の中でも最低水準にあります。主要7カ国と比較すると、日本は生産性の面で大きく後れを取っており、特に欧米のマーケティング先進国との差が顕著です。近年では、韓国にも抜かれてしまうという状況に陥っています。このような現状は、日本企業の営業活動における効率性の低さが一因と考えられます。

 マッキンゼー社が発表したレポートでは、「日本企業の営業効率性の7つの根本課題」が指摘されています。これらの課題には、重要なことに時間をかけられず、無駄なことに時間を費やしてしまうという問題や、役割分担やデータ管理が不十分で、専門性を高める取り組みが不足していることが挙げられます。これらの要因が、日本全体の生産性を低下させているのです。

【日本企業の営業効率性の7つの根本課題】
①組織全体の調和と協調を志向するがゆえの不明瞭な責任分担
②「お客様第一主義」文化に起因した非効率性
③顧客との取引関係が固定化することによる、新規成長領域へのリソース振り向け不足
④前線営業マンが直接の顧客対応以外に時間をかけ過ぎている
⑤ITシステムの過剰なカスタマイズとデジタル化の遅れ
⑥「ベンチマーク」を嫌う企業での、営業経費削減の「相対評価」による負のインセンティブ構造
⑦子会社・海外拠点へのガバナンス不足による経費削減の遅れ

営業活動の生産性を左右する6つの要素

 「営業生産性」を構成する要素は大きく分けて「売上を伸ばす」と「コストを下げる」の2つに分類できます。まず「売上を伸ばす」ための構成要素としては、「商談数」「成約率」「単価」「商談工数」の4つが挙げられます。これらの項目における理想的な状態を設定することが非常に重要です。

 一方、「コストを下げる」要素としては、「人的コスト(人数・かける時間・給与)」と「物的コスト(原価・経費)」の2つに細分化できます。これらの要素をバランスよく最適化することが、営業生産性を向上させる鍵となります。多くの企業では、これらの項目における自社の状況を正確に把握できていないという課題があります。まずは自社の現状を把握し、どこにボトルネックがあり、成長の余地があるのかを理解しましょう。

営業DX戦略の基本:デジタル化の進め方とその効果

 営業DXの基本戦略は、単にツールを導入するだけではなく、企業の価値や提供サービスの仕組みそのものを、デジタル技術を活用して変革することです。最新の定義では、ビジネス目標やビジョンの達成にむかって企業全体の戦略や組織行動、文化、組織構造などのあらゆる要素を変革することを重視した形になっています。これにより、顧客により高い価値を提供し、企業全体の競争力を向上させることが可能となります。デジタル化することが目的ではないですが、ツールを使って業務自体を効率化するだけでなく、データを活用する文化が生まれることで意思決定や改善活動の質を上げていけることが本質的な価値ではないかと考えています。

営業生産性を劇的に向上させる3つのDXツール

 営業生産性を向上させるためには、MA(マーケティング・オートメーション)、SFA(セールス・フォース・オートメーション)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の3つの主要ツールを効果的に活用することが重要です。これらのツールは、それぞれ商談数の増加や成約率の向上、顧客関係の強化に寄与します。

 例えば、MAツールは見込み顧客の管理やアプローチの効率化に役立ち、商談数を増やすために効果的です。SFAツールは、営業活動の管理・効率化を図り、成約率を一定以上に保つために使用されます。CRMツールは、顧客情報や顧客との関係を綿密に管理し、リピートビジネスを促進するための重要な手段です。

受注により近い「アツい商談」を増やすための具体的施策

 営業生産性を向上させるために最も効果的な方法の一つが、「アツい商談」を増やすことです。アツい商談とは、成約の可能性が高く、顧客がすでに製品やサービスに対して強い関心を持っている状態を指します。顧客の製品やサービスに対する興味度をWebサイトの閲覧やメールへの反応といった行動ログから把握し、検討度を可視化できるのがMAツールです。アツい商談を増やすためには、顧客のポテンシャル(顧客条件)とステータス(見込み度)の両方を考慮し、適切なターゲティングを行うことが重要です。

 商談数の増加には、マーケと営業の連携が欠かせません。例えば、適切なMAツールの導入により、見込み顧客を効率的にナーチャリングし、成約に至る確率を高めることができます。また、営業チームは、ポテンシャルの高い顧客に対して集中してアプローチすることで、商談数を効果的に増やすことができます。

B2B企業における営業活動の変遷:育成型営業の重要性

 B2B企業における営業活動は、これまでのアナログ型や集客型から、現在の育成型へと進化してきました。育成型営業とは、潜在顧客を長期的に育成し、信頼関係を築いた上で商談へとつなげる手法です。この手法により、商談の質を高め、成約率を向上させることが可能です。特に、インサイドセールスの導入は、育成型営業の成功に不可欠です。インサイドセールスは、マーケティング部門が獲得したリードを育成し、営業部門にパスする役割を担います。これにより、営業活動の効率化と商談の質の向上が実現します。

 このような育成型営業の導入により、多くの企業が成功を収めており、今後もこの手法が主流となることが予想されます。営業生産性を高めるためには、この変遷を理解し、育成型営業を効果的に導入することが求められます。

 前編では、日本の営業生産性の現状と改善のための基本的なDXを解説しました。後編では、営業DX化の成功事例や具体的な実行ステップ、そしてそのために必要な変革推進者の育成方法について詳しく探ります。

クラウドサーカス株式会社 執行役員 兼 MA事業部長 田中 次郎
2008年に新卒入社し、テレアポを中心とした新規営業チームのプレイヤーを経て営業マネージャーや拠点長として活動。その後、自社のマーケティング部門、IS部門、CS部門の立ち上げを担当し、現在はマーケティング・オートメーションツール『BowNow』の事業責任者として活動中。現在14,000社以上の導入を突破し、国内シェアNo.1サービスになっている。自社と顧客のDXを進める中で、マーケティングやDXの魅力に取り憑かれ、国内中小企業にまで広めるべく奔走中。