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2023年は変革の年、目に見える構造改革ができた――、NEC・森田隆之社長

生成AIの開発も加速、2024年度には商用版をリリースへ

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOが合同インタビューに応じ、2025中期経営計画の進捗状況などについて説明した。

 森田社長兼CEOは、「甘いと言われるかもしれないが、折り返し点までは、ぎりぎり及第点をもらえる範囲で進捗していると考えている。赤信号がともっている状況ではない」と、現時点までの2025中期経営計画の成果を総括するとともに、「2023年は変革の年であり、日本語に最適化した軽量生成AIの開発や、社内の基幹システムの刷新といった新たな取り組みに挑み、目に見える構造改革ができた1年であった。今後は、グローバルでの位置づけを明確にすることになる」との考えを示した。

 また、12月15日に報道関係者などを対象に開催する研究開発戦略説明会「NEC Innovation Day 2023」において、業種や業務に適用した生成AIを発表するとコメント。「顧客と共同開発した業種対応の『使える生成AI』となる。また、ファウンデーションモデルの強化も進める。2024年度には、セキュリティソリューションをパッケージングした商用版をリリースする」と明かした。

NEC 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

3つの成長事業の展望

 NECは、成長事業として、コアDX、DGDF(デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス)、グローバル5Gの3つの事業を打ち出しているが、その進捗には温度差があるのが実態だ。「うまくいっているものと、うまくいっていないものがある。だが、変化に対して、スピード感を持って対応できているという点では満点ではないが、及第点ではある」と、森田社長兼CEOは語る。

成長事業

 ひとつめのコアDXについては、「社内のDX、お客さまのDX、社会のDXという、NECが提示しているサイクルが軌道に乗ってきた。この相乗効果をどう出せるかがこれからも重要になる。社内のDXでは、2023年5月に基幹システムを刷新し、クラウドシフトを行い、オペレーションの速度を高めることができた。業務プロセス改革に伴い、現場では苦労しているところもあるのは事実だが、12万人の社員か使いこなせるモデルを構築している。また、データ駆動型経営の姿が見えてきたという手応えがある。セキュリティに関するナレッジも含めて、これらの成果を、自信を持ってお客さまに伝えることができる。また、スマートシティやカーボニュートラルの取り組みをはじめとした社会のDXも順調に進んでいる」と述べた。

 コアDXは、2025年度の売上収益は5700億円、調整後営業利益は750億円、調整後営業利益率は13.2%と当初計画を維持しているが、コアDXの中核に位置づけるNDP(NEC Digital Platform)は目標を上方修正している。

コアDXによる貢献

 またコアDXでは、アビームコンサルティテングとの連携も重要な取り組みに位置づけ、「2024年は、NECとアビームが協働する姿を見せたい。私は、2023年度からアビームコンサルティテングの会長に兼務で就任した。お客さまにも理解してもらいながら、上流からお客さまのトランスフォーメーションを支援し、プロジェクトの成果を紹介したい」と述べた。

アビームコンサルティングとのシナジーによりコンサルティング起点ビジネスとして着実に成長

 2つめのDGDF(デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス)は、「海外3社の買収には間違いはなかった。これまでに約10社のボルトオンM&Aを行ったり、AvaloqとBlackRockの資本提携を含む深い提携を行ったりしたが、これらは一定の成果があがっている。外科手術的な部分は、それなりに進展した。だが、収益性や成長において、効果が出るまでに時間がかかった反省がある」と振り返った。

 DGDFの2025年度見通しは、売上収益では当初計画に比べて100億円増加の3100億円、調整後営業利益は横ばいの360億円、調整後営業利益率は11.6%としている。

 なお、M&Aの考え方についても言及。「これまでの経験から、中途半端な会社を買うとろくなことがない。経営力があり、技術力があり、お客さまをしっかりと握っている会社が対象になる。そうなると、ひとつの投資で1000億円未満のM&Aはない。もちろん、高値づかみはしたくない。いろいろな状況を見ながら重点領域のなかで、機会を見ながら実施していく」と述べた。

欧州3社の収益改善施策

 厳しい状況にあるグローバル5Gについては、「よりオープンになり、仮想化が進み、シームレスな融合が進んでいくという5Gの方向性の見立てには問題はないが、5Gに対する国内外のインフラ投資がかなり遅れている」と指摘。「4Gの投資ペースに比べて3分の1程度になっている。その点で目算は外れたのは確かだ。これだけ投資が遅いと、今度は6Gの投資が数年遅れることになる。4G、5G、6Gの3世代が混在することも考えにくい」と語った。

 その一方で、「だが成果のひとつは、早い段階で戦略のかじを大きく切った点にある。市場変化や技術の進展をとらえながら、2022年度第3四半期に意思決定を行い、ハードウェアをドアノックにして、Open RANによって攻勢をかけるという戦略から転換した」と述べた。

 グローバル5G事業では、ソフトウェア比率を前倒しで高めるほか、DXソリューションに注力した高付加価値事業への転換、費用構造の見直しを図っている。「グローバル5Gという観点では、点数としては落第点だが、今後は防衛分野との親和性も生かせる。ネットワーク事業という点では、経営としては及第点」と自己評価した。

 グローバル5Gは、海外市場の立ち上がりの遅れを反映し、2025年度の売上収益は630億円減少の1270億円へと大幅に下方修正。調整後営業利益は30億円減少の160億円、調整後営業利益率は12.6%とした。新たな計画では、2024年度は、国内事業を黒字化して、5G事業全体を黒字化。2025年度には海外黒字化を図る。さらに、ソフトウェア比率を51%にまで高め、高付加価値事業にシフトする。

 森田社長兼CEOは、「グローバル5Gというネーミングに問題があった」とし、ネットワーク事業全体としては成果をあげていることを強調した。

グローバル5G戦略の見直し

低収益事業への取り組み

 一方、低収益事業への取り組みについては、中期経営計画のスタート時点で16事業あったものを、2023年度期末には10事業に縮小する計画を打ち出している。

 「事業をやっていると、大なり、小なり低収益事業が発生することは覚悟しなくてはならない。低収益事業は継続的な取り組みになる。今回の中期経営計画の期間を3年ではなく5年としたのは、十分な期間のなかで、会社の足を引っ張らない事業にすることを求めたためである。しかも、その方法論は問わないことにした。目標と条件を提示して、できない場合には戦略的オルタナティブを実行することになる。ビジネスユニット長や部門長までが、自分の責任で事業を回していくという意識の定着が相当進んだ」と述べた。

 NECでは、低収益事業への対策として、管理対象となる事業が生まれないように、各事業の予算進捗状況に応じたモニタリングを行い、CFO主導でフォロー。悪化抑制を強化し、2025年度期末には低収益事業をゼロにする計画だ。

低収益事業の改善

社員のエンゲージメントスコアとデータドリブン経営

 そして、2025中期経営計画のなかで、森田社長兼CEOがこだわった指標のひとつが、社員のエンゲージメントスコアだ。

 森田社長兼CEOは、「私が社長に就任したときに、最初の6カ月間を大切にした。この期間に、会社が変わっていくことを一貫性のあるメッセージとして社内外に発信し、それに基づいて行動を示す『言行一致』に力を注いだ。いい反応を感じており、エンゲージメントスコアは順調に高まっているが、目標は高い。継続的に取り組んでいく」と語った。

 NECでは、Kincentricのサーベイによるエンゲージメントスコアで、2025年度に50%にする目標を掲げている。スコア50%は、グローバル上位25%に該当する指標であり、スタート時点では19%だったものが、現時点では、36%まで高まっている。

文化と経営基盤の変革

 また森田社長兼CEOは、2023年の1年を振り返り、「コアDXの領域においては、5月に社内基幹システムを稼働させ、データドリブン型経営を開始した。スマートシティに関するコンソーシアムの立ち上げも行い、具体的な行動を目に見える形で実行した。日本初の自社の生成AIも完成させた」とし、「2023年は変革の年であった。これまでのNECはわかりにくい会社であるとも言われてきたが、組織変革を行い、ITと社会インフラの2つにわけ、ベンチマークする相手を決めて、勝ちパターンについても明確にした」と述べた。

データドリブン経営

世界トップクラスの日本語性能を有する生成AIをリリース

 生成AIの取り組みについても言及した。

 NECでは、130億パラメーターという軽量化した独自の大規模言語モデルを開発し、2023年7月に発表。世界トップクラスの日本語性能を有するのが特徴だ。現在、15を超える大学および企業が先行利用している。今後、金融、保険、自動車などの業種特化型日本語LLMとして進化させることを目指している。

 森田社長兼CEOは、「一番の差別化は、すでにビジネスに使ってもらっているAIであるという点。これから使えるようになるAIとは異なる」と自信を見せる。

NECのLLMは高い性能とコンパクトさを両立

 今回の説明では、生成AIの開発に向けた投資のエピソードについて触れた。

 「研究所から、研究開発を加速させるためにはHPCが必要であると言われ、100億円強を投資した。いまのままでは答えを出すのに、何十時間も何百時間もかかってしまうが、100億円投資してくれれば数分で答えが出ると言われた。研究者の切なる声であり、これを聞いて投資を即断した。NECはテクノロジーの会社であり、R&Dを強みにしていくことを決めている。それを考えれば、研究者に負担がかかる環境にはしておけない。だから投資を決めた。これが結果として、生成AIをいち早く開発することにつながった」とする。

 NECでは、年間研究開発投資を売上収益比率3.8%から4.2%に引き上げており、これによって、研究開発費が年間120億円ほど増えている。ちょうどHPCへの投資額にあたる規模であり、これが生成AIの開発につながったともいえる。「長期的に見た場合、研究開発費として5%を出せる会社にしたい」と語った。

LLM構築を支えるAI研究用スーパーコンピュータ

 また、「私が、軽量な生成AIが完成できそうだという話を聞いたのが2023年のはじめであり、使えるものができたら一気に発表しようということで、2023年7月に正式発表した。すでに使えるものを提供しているのが我々の強みである」と語り、「NECの生成AIは、日本語を中心にした学習をしており、高い安全性を持つほか、業種別や企業別、組織別、さらにはパーソナライズした部分での利用にも大きな勝機を持った技術である。事業会社ごとに生成AIをビルトインして使うことで、全体として効率を高めるような仕掛けも作れる。その点では、いまは主流になっているパブリッククラウドベースで提供するGAFAMなどの生成AIとは違う生成AIとなる。コンパクトであるため、オンプレミスでも利用でき、フロントからエンドまでのソリューションを用意し、セキュリティを担保した上で、生成AIを提供できる。経済安全保障の観点からも重要なものになる」と述べた。

 NECでは、2023年12月15日に、報道関係者やITアナリストを対象にした研究開発戦略説明会「NEC Innovation Day 2023」を開催する予定であり、その場において、最新の生成AIについて発表するという。

 森田社長兼CEOは、「業種や業務に適用した生成AIを発表することになる。すでに15社以上のお客さまに利用してもらっているなかから、共同開発をしたり、お客さまに使ってもらったりした『使える生成AI』の業務適用モデルを見せることができる。また、ファウンデーションモデルの強化も進めており、その上でお客さまごとの用途を提示できる。業界のリーダーとユースケースを作れるところにNECの生成AIの強みがある。さらに、セキュリティを心配する声が高まっているが、2024年度には、セキュリティソリューションをパッケージングし、一般利用できる商用版生成AIをリリースする。NECの特長を生かした商品を次々と投入したい」と意欲を見せた。

 人材獲得や人件費についても説明。「NECは2024年度から含めて、全社員がジョブ型に移行する。これを前提に、それぞれの仕事の市場価格に合わせた処遇ができる。総人件費の向上は、3%以上の水準になると見ており、世の中の期待に十分沿える。AI人材やプロンプトエンジニア、セキュリティ人材は、自分たちの事業を進める上でも対応が必要である」としたほか、研究所では、成果次第で役員クラスに近い報酬を得られる主幹研究員のポストに、30歳代の数人が就いていることを明かし、「研修者にとってNECはいい会社だと思う」と述べた。

 なお、2023年には、富士通やNTTデータによるシステム障害が相次いだが。森田社長兼CEOは、「システムに対する品質や信頼性については、我々も努力していく必要がある。業界全体が活性化しており、仕事は潤沢にある。リソースがひっ迫しており、その対応は努力しなくてはならない課題」などとした。